結局どの眠剤が良いのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「睡眠薬は、結局どれが一番良いのでしょうか」
「新しい薬のほうが安全なのでしょうか」
「眠れるようになったのに、朝の調子がよくならないのはなぜでしょうか」

睡眠薬には多くの種類があり、選ぶ基準も一つではありません。

先に結論を述べると、慢性不眠症で新しく薬物療法を始める場合、オレキシン受容体拮抗薬は有力な選択肢です。一方、寝つきへの効果を重視する場面では、エスゾピクロンやゾルピデムなどが候補になります。依存や離脱の問題を避けることを重視する場合には、ラメルテオンが適することもあります。

ただし、これは全員に共通する順位ではありません。薬の効果だけでなく、翌日の状態、年齢、併存疾患、併用薬、そして中止するときのことまで含めて選ぶ必要があります。

この記事では、成人の不眠症を中心に、代表的な睡眠薬の違いと、比較研究から見えてくる興味深い知見を紹介します。

最初に押さえたいこと―慢性不眠症の第一選択は薬だけではない

慢性不眠症では、不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が治療の中心に位置づけられています。

CBT-Iは、「夜はスマートフォンを控えましょう」といった生活指導だけではありません。床で過ごす時間の調整、寝床と覚醒の結びつきを弱める刺激制御、眠りに関する考え方の修正などを組み合わせる治療です。

2025年の米国VA/DoDガイドラインでも、慢性不眠症の初期治療では薬物療法よりCBT-Iを優先することが提案されています。薬が必要な場合には、オレキシン受容体拮抗薬や一部の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬などが候補となります。

つまり、「どの薬が一番よいか」を考えるときにも、薬で支えながら何を改善していくのか、という視点が欠かせません。

睡眠薬の違いを一覧で比較すると

代表的な薬を整理すると、次のようになります。効果の強さを順位づけした表ではなく、それぞれの使いどころと注意点をまとめたものです。

分類主な薬選択時に注目する特徴主な注意点
オレキシン受容体拮抗薬デエビゴ/レンボレキサント入眠と睡眠維持の両方に関する試験があり、実薬との比較データもある翌日の眠気、悪夢、睡眠麻痺、相互作用
オレキシン受容体拮抗薬クービビック/ダリドレキサント入眠・睡眠維持に加え、日中の症状への効果も検討されている翌日の眠気や運転能力への影響、相互作用
オレキシン受容体拮抗薬ベルソムラ/スボレキサント入眠・睡眠維持への効果があり、使用経験が蓄積している翌日の眠気、悪夢、相互作用
オレキシン受容体拮抗薬ボルズィ/ボルノレキサント比較的短い消失半減期を持ち、入眠・睡眠維持の両方が検討されている半減期が短くても翌日への影響はあり得る。相互作用にも注意
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)ルネスタ/エスゾピクロン入眠・睡眠維持への効果があり、長期試験もある苦味、健忘、睡眠随伴症状、依存・離脱
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z薬)マイスリー/ゾルピデム特に入眠困難への効果を考えて選ばれる健忘、睡眠随伴症状、依存・離脱
ベンゾジアゼピン系睡眠薬レンドルミン/ブロチゾラム、ハルシオン/トリアゾラムなど短期的な催眠効果があり、薬ごとに作用時間が異なる耐性、依存、反跳性不眠、健忘、ふらつきなど
メラトニン受容体作動薬ロゼレム/ラメルテオン入眠困難が主な対象。依存・離脱の問題を避けたい場合に検討する効果の実感には個人差がある。フルボキサミンとの併用は禁忌

オレキシン受容体拮抗薬同士にも違いはありますが、この4剤を一つの順位に並べられるだけの直接比較データは十分ではありません。各薬の添付文書と研究結果を照らし合わせて判断します。

オレキシン受容体拮抗薬が有力な候補になる理由

従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬やZ薬は、GABAによる抑制性の神経伝達を強めて作用します。

これに対し、オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒を維持するオレキシンの信号を遮断します。睡眠を促す仕組みが異なるため、副作用や中止時の問題も同じではありません。

この系統を選ぶ理由の一つは、入眠と睡眠維持への効果に加えて、臨床試験では中止時の明確な離脱症状や反跳性不眠が目立ちにくいことです。

ただし、「依存性がゼロ」という意味ではありません。また、眠気、悪夢、金縛りのような睡眠麻痺などが現れることがあります。ナルコレプシーやカタプレキシーのある方にも注意が必要です。

新しい作用機序には利点がありますが、実際に続けられるかどうかは、本人の眠りと翌日の状態を確認して判断します。

デエビゴ―比較試験があることの意味

デエビゴのSUNRISE 1試験では、55歳以上の不眠症患者を対象に、プラセボだけでなくゾルピデム徐放製剤との比較が行われました。

治療約1か月後、夜間後半の中途覚醒時間は、ゾルピデム徐放製剤と比べてデエビゴ5mgで約6.7分、10mgで約8.0分短くなりました。

ここで注意したいのは、比較相手が日本で一般的に用いられる通常のゾルピデム錠とは異なる徐放製剤だったことです。この結果だけで「すべての場面でマイスリーより優れる」とは言えません。

それでも、夜の後半に眠りが途切れやすい患者さんについて、実薬との比較データがあることは、処方を考えるうえで参考になります。

クービビック―夜だけでなく翌日も評価した薬

ダリドレキサントの海外第Ⅲ相試験では、50mgで夜間の睡眠指標に加えて、日中の眠気に関する患者報告指標にも改善が示されました。

睡眠薬なのに日中の眠気を改善する、という点は一見不思議に思えるかもしれません。しかし、夜間の不眠が改善すれば、日中の状態がよくなる可能性があります。

ただし、質問票で日中症状が改善することと、運転能力や認知機能が保証されることは別です。日本の添付文書では、翌朝以後の眠気や注意力低下に注意し、自動車の運転など危険を伴う機械操作に従事させないよう記載されています。

ボルズィ―半減期が短ければ一番よいのか

ボルズィは、比較的短い消失半減期が特徴のオレキシン受容体拮抗薬です。

翌朝への持ち越しを考えるうえで、薬物動態は重要です。しかし、半減期は「効果がなくなるまでの時間」ではありません。血中濃度が低下しても受容体への作用が残る場合があり、睡眠への影響は投与量や服用時刻、食事、併用薬によっても変化します。

ボルズィでも、入眠と睡眠維持の両方への効果が検討されています。「作用が短いから中途覚醒には使えない」とも、「短いから翌朝は必ず安全」とも判断できません。

研究ではルネスタとデエビゴの評価が高い―ただし順位には落とし穴がある

2022年にLancetに掲載された大規模なネットワークメタ解析では、エスゾピクロンとレンボレキサントが、急性期と長期治療の両面で有望な薬として挙げられました。

ただし、長期有効性については、エビデンスの確実性が「非常に低い」と評価されています。研究結果があることと、結論に高い確信を持てることは同じではありません。

ネットワークメタ解析は、直接比較されていない薬同士も、共通の比較相手を介して推定できる方法です。一方で、患者層、試験期間、投与量、評価方法などの違いによる影響を受けます。

たとえば、睡眠日誌で評価した寝つきと、睡眠ポリグラフで測定した寝つきは、同じ数字として扱えません。

さらに、この解析より後に登場した薬を含めた「現在の全睡眠薬ランキング」として読むこともできません。

実際の診療では、順位よりも「どの患者を対象に、何を、どれくらいの期間改善したか」を確認するほうが役立ちます。

Z薬は今でも有用―ただし「非ベンゾだから依存しない」わけではない

エスゾピクロンやゾルピデムは、現在も有用な選択肢です。

一方、「非ベンゾジアゼピン系」という名称は、化学構造上の分類です。ベンゾジアゼピン系とはまったく別の安全性を持つ、という意味ではありません。

たとえばエスゾピクロンの添付文書には、依存性、急な減量・中止に伴う離脱症状、前向性健忘、十分に覚醒しないまま行動する睡眠随伴症状などが記載されています。独特の苦味が継続を妨げることもあります。

薬を選ぶときには、初回の効き方とともに、数週間後にどう評価するか、長引いた場合にどう見直すかまで考えます。

ベンゾジアゼピン系は「効く」が、長期治療では別の問題がある

ベンゾジアゼピン系睡眠薬には、短期的な催眠効果があります。「古い薬だから効かない」という理解は正しくありません。

一方、慢性不眠症では、長期使用に伴う依存や離脱、ふらつきなどを考える必要があります。2025年のVA/DoDガイドラインでは、慢性不眠症に対する使用を勧めない方向の提案になっています。

ただし、すでに長期間服用している方に、この情報だけを伝えて急に中止してもらうことは適切ではありません。

減量した直後に眠れなくなった場合には、もとの不眠が残っているのか、離脱や反跳性不眠なのかを区別する必要があります。

「やめると眠れない」という経験だけから、今後も同じ薬が必要だと結論づけることはできません。反対に、それだけで薬物依存だと決めつけることもできません。

ロゼレムは「弱い薬」なのか

ラメルテオンは、メラトニン受容体に作用して入眠を促す薬です。

強い鎮静感を期待すると、「効いた感じがしない」と評価されることがあります。しかし、薬を飲んだ実感と、治療上の利益は必ずしも一致しません。

一方で、有効性を過大評価することも避けたいところです。2025年のVA/DoDガイドラインでは、慢性不眠症に対するラメルテオンについて、推奨するにも反対するにもエビデンスが不十分とされています。

依存や離脱の問題を避けたい患者さんでは検討する価値がありますが、強い中途覚醒など、困っている症状を十分に改善できているかを確認します。

また、精神科診療で見落とせないのが、フルボキサミンとの併用禁忌です。作用機序の印象だけで「相互作用も少ない薬」と考えることはできません。

医学的に面白い知見―中途覚醒は「回数」だけでは評価できない

患者さんが「まだ夜中に目が覚めます」と話したとき、それだけで薬が効いていないとは限りません。

ダリドレキサントの試験データを用いた解析では、6分を超える長い覚醒の回数や累積時間が減少しました。一方、短い覚醒の累積時間は増加する場合がありました。

長い覚醒の減少は、日中機能の改善と関連していました。

これは、「夜中に起きなくなったか」だけでなく、「起きたあと、どれくらいで眠り直せたか」を尋ねる意味を示しています。

一度目が覚めて1時間眠れない夜と、数回目が覚めてもすぐ眠り直せる夜では、体験も翌日の負担も異なります。

ただし、この解析は薬同士の総合的な優劣を決めるものではなく、覚醒時間の変化と日中機能との関連も、そのまま因果関係を証明するわけではありません。

抗うつ薬や抗精神病薬を「眠剤」として使うのはどうなのか

ミルタザピン、トラゾドン、ミアンセリン、クエチアピンなどは、鎮静作用を利用して処方されることがあります。

ただし、眠気が生じることと、不眠症の治療薬として利益と不利益の釣り合いがよいことは別です。併存する精神疾患を治療するために選ぶ場合と、不眠だけを目的に選ぶ場合を分けて考えます。

2025年のDREAMING試験からわかること

この試験では、睡眠維持の問題があり、非薬物療法だけでは不十分だった成人80人を対象に、低用量ミルタザピン、低用量アミトリプチリン、プラセボを比較しました。

ミルタザピンは6週時点で不眠重症度を臨床的にも意味のある程度改善しましたが、12週以降はプラセボとの差が有意ではありませんでした。アミトリプチリンは6週時点で統計学的な改善を示したものの、臨床的に意味のある改善とは評価されませんでした。

短期に眠れるようになることと、数か月にわたって使用する根拠があることの違いを考えさせる研究です。

なお、これは不眠症を対象とした試験であり、うつ病を併存する患者さんにおける抗うつ薬の価値を否定する結果ではありません。

また、これらの薬の不眠目的での使用には、国内では適応外となるものがあります。

オレキシン受容体拮抗薬で認知症を予防できるのか

オレキシン受容体拮抗薬には、アルツハイマー病との関連でも関心が集まっています。

ヒトを対象とした短期の無作為化比較試験では、スボレキサント投与後に、中枢神経系のアミロイドβや一部のリン酸化タウの低下が報告されました。

薬が睡眠と神経変性の接点に作用し得ることを示す、興味深い研究です。

しかし、バイオマーカーの短期的な変化と、認知症の発症予防や進行抑制は別の評価項目です。この研究を根拠に、「認知症予防のためにベルソムラを飲む」とまでは言えません。

薬が増える前に見直したいこと

眠れない状態が続くと、薬を追加したくなることがあります。

その前に、睡眠時無呼吸、むずむず脚症候群、睡眠・覚醒リズムのずれ、うつ病や躁状態、痛み、飲酒、カフェイン、ほかの薬の影響などを確認します。

特に、「望む時刻には眠れないが、遅い時刻なら十分眠れる」という状態は、通常の不眠症とは治療の組み立てが異なります。

また、朝のだるさが残るときには、不眠が改善していない可能性と、薬が翌朝まで影響している可能性の両方を考えます。

睡眠時間が延びても日中の状態が悪化しているなら、増量以外の見直しが必要です。

相互作用と飲み方で薬の評価は変わる

オレキシン受容体拮抗薬では、CYP3Aを介した相互作用が重要です。ただし、併用禁忌となる薬や減量の必要性は製剤ごとに異なります。

食事によって吸収や効果の現れ方が変わる薬もあります。同じ薬でも、服用条件が違えば「効き方」の印象は変わります。

飲酒との併用や、眠れないからと自己判断で追加することは避け、処方された服用方法を確認しましょう。

「よい眠剤」は中止するときまで含めて考える

睡眠薬の価値は、服用した夜に眠れたかだけでは決まりません。

慢性不眠症患者160人を対象とした研究では、CBT-Iとゾルピデムを併用して治療を始め、その後は薬を中止してCBT-Iを継続した群で、良好な長期転帰が得られました。6か月の追跡時点の寛解率は、薬を中止した群で約68%、延長治療中にゾルピデムの間欠使用を続けた群で約42%でした。

一つの研究から全員に同じ方法を当てはめることはできませんが、薬で睡眠を支えながら、薬を減らせる条件も整えるという治療方針には意味があります。

結局のところ、よい睡眠薬とは、強い眠気を起こす薬とは限りません。

困っている睡眠症状を改善し、翌日の生活を損なわず、必要な期間に使えて、改善したあとには減量や中止も検討できる薬です。

診察では「何時間眠れたか」に加えて、「朝はどうだったか」「日中は何ができたか」「薬がなくなることへの不安はどうか」も伝えていただくと、治療を調整しやすくなります。

参考文献・資料

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  9. PMDA:デエビゴ、クービビック、ベルソムラ、ボルズィ、ルネスタ、ロゼレムの電子添文。

情報確認日:2026年10月17日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)