機能性ディスペプシア


機能性ディスペプシア

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。


食事のあとに胃がもたれる。少し食べただけでお腹がいっぱいになる。みぞおちが痛む。

このような症状が続くものの、症状を十分に説明できる病気が見つからない状態を、機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)と呼びます。

「検査で異常がない」と言われても、ご本人の苦痛が軽いとは限りません。食事を楽しめなくなったり、仕事中も胃の不快感が気になったりと、生活に影響することがあります。

現在は、胃と脳の情報のやり取りに関わる「脳腸相関の異常」という観点から理解されています。胃の動きだけでなく、胃からの刺激の感じ方も関係するためです。(Black et al., 2022)

機能性ディスペプシアの診断

中心となる症状は次の4つです。

症状具体的な感じ方
食後の胃もたれ食後に胃が重く、食べ物が残っているように感じる
早期飽満感食べ始めてすぐに満腹になり、普段の量を食べきれない
心窩部痛みぞおちが痛む
心窩部灼熱感みぞおちが焼けるように感じる

Rome FoundationのRome V基準では、これらの生活に支障を来す症状があり、症状を説明する器質的・全身性・代謝性の病気がないことが診断の基本になります。

食後の胃もたれや早期飽満感を中心とする「食後愁訴症候群(PDS)」と、みぞおちの痛みや灼熱感を中心とする「心窩部痛症候群(EPS)」に分類されます。Rome VではPDSは週2日以上、EPSは週1日以上が目安で、EPSの分類ではPDSの基準を満たさないことも条件となっています。

期間については、症状の出現が診断の6か月以上前で、直近3か月に基準を満たすことが求められます。なお、古い論文ではRome IVなど、異なる基準が使われています。

ただし、これは「6か月の経過後まで受診や治療を待つ」という意味ではありません。

実際の診療では、症状の経過、年齢、服薬、ピロリ菌感染、これまでの検査などを確認します。胃カメラは全員に必須ではありませんが、別の病気が疑われる場合には必要です。

特に、意図しない体重減少、繰り返す嘔吐、飲み込みにくさ、出血、貧血、高齢になって初めて出現した症状などがある場合は、消化器内科での評価を優先します。吐血や黒い便がある場合は、速やかな受診が必要です。

最初の治療で改善しない場合も、「一度FDと言われたから」と決めつけず、診断を見直すことが大切です。(Miwa et al., 2022)

機能性ディスペプシアの治療

胃酸や胃の運動に対する治療

日本の診療ガイドラインでは、胃酸を抑える薬、アコチアミド、六君子湯などが初期治療の選択肢に挙げられています。ピロリ菌感染がある場合は、除菌の必要性も検討します。(Miwa et al., 2022)

ここでは、個々の薬について、実際にどのような研究結果があるのかを紹介します。

アコチアミド

アコチアミド(アコファイド®)は、食後の胃もたれや早期飽満感などに対して使われる薬です。

日本で行われたプラセボ対照試験では、4週間の治療後に全体的な症状の改善が認められた割合は、アコチアミド群52.2%、プラセボ群34.8%でした。(Matsueda et al., 2012)

差は17.4ポイントあります。この試験の条件では、およそ6人を治療すると、プラセボと比べて追加で1人に改善が得られる計算です。

一方で、服用すれば全員がよくなるわけではありません。また、この「改善」は完全に症状が消えたという意味でもありません。

食事に伴う症状が中心の患者さんを対象とした研究なので、あらゆる胃痛に同じ効果を期待できる、と読むのも少し違います。

六君子湯

六君子湯も、機能性ディスペプシアで研究されている漢方薬です。

ただし、「漢方だから効く」「漢方だから根拠がない」のどちらも、少し大ざっぱだと思います。

247人を対象とした2014年の試験では、8週時点の全体的な改善率は六君子湯群33.6%、プラセボ群23.8%でしたが、主要評価項目では統計学的な有意差に達しませんでした。一方、個別の症状には改善が報告されています。(Suzuki et al., 2014)

その後のDREAM試験でも、胃もたれや早期飽満感などへの改善が報告されました。(Tominaga et al., 2018)

したがって、「選択肢にはなるが、どの研究でも一貫して強い効果が出ているわけではない」という説明が適切かと思われます。

なぜ胃の病気に抗うつ薬を使うのか

胃薬で十分によくならない場合、抗うつ薬が検討されることがあります。

ここで、「胃の症状はうつ病だったということですか」と疑問に思われるかもしれません。

しかし、機能性ディスペプシアに抗うつ薬を使う目的は、うつ病の治療だけではありません。胃の不快感や痛みを伝える神経の働きを調整する、という狙いがあります。

ただし、抗うつ薬なら何でも同じように効くわけではありません。

292人を対象とした研究では、十分な症状の軽減が得られた割合は以下の通りでした。

治療群十分な症状軽減が得られた割合
アミトリプチリン53%
エスシタロプラム38%
プラセボ40%

アミトリプチリンでは効果が示唆され、特に痛みを中心とする患者さんで有効性が示されました。一方、エスシタロプラムはプラセボを上回りませんでした。(Talley et al., 2015)

この研究から読み取れるのは、「抗うつ薬を処方するか」だけでなく、「どの薬を、どの症状に対して使うか」が大切だということです。

エスシタロプラムが併存するうつ病や不安症に役立つことと、FDそのものに効くことは分けて考える必要があります。

アミトリプチリンのような三環系抗うつ薬には、眠気、口渇、便秘などがあるため、効果と副作用を見ながら調整します。FDに対する抗うつ薬の使用は国内では適応外となるため、その点も含めて医師と相談する治療です。

食べられず、体重が減っている場合のミルタザピン

ミルタザピンも研究されていますが、対象となった患者さんの特徴に注意が必要です。

Tackらは、もとの体重から10%を超える体重減少があり、うつ病や不安症のないFD患者34人を対象に、8週間の小規模な試験を行いました。

ミルタザピン群では、早期飽満感、食事の摂取許容量、体重、生活の質などに改善が認められました。一方、消化不良症状全体のスコアの変化は、8週時点ではプラセボ群との有意差がありませんでした。(Tack et al., 2016)

「FD全般によく効く薬」とするには、この結果だけでは不十分です。

むしろ、「少し食べると満腹になり、食事量が落ちて体重も減っている」という患者さんに、検討の余地がある薬と捉えるほうが自然です。眠気や体重増加なども考慮します。こちらもFDに対しては適応外使用です。

心理療法・生活面への対応

認知行動療法などの心理療法にも、症状を改善する可能性が示されています。ただし、研究の規模や治療内容にばらつきがあり、効果の確実性には限界があります。

生活面では、症状が出やすい食べ方や食品を確認し、必要に応じて調整します。ただ、食べられるものを次々と減らすような制限は、栄養不足や食事への不安につながることがあります。(Black et al., 2022)

症状が出たときの状況を振り返ることは役立ちますが、毎食を厳密に監視するようになってしまうと、それ自体が負担になります。無理なく続けられる工夫を探すことが大切です。

機能性ディスペプシアのその他の補足事項

「ストレスがあるからFD」とは診断しない

仕事や人間関係で強いストレスがあっても、それだけで胃の症状の原因を決めることはできません。

先に確認すべき病気や薬の影響を評価し、そのうえで心身の両面から治療を考えます。

心療内科を受診する意味

胃の症状がある方全員に、精神科や心療内科の受診が必要なわけではありません。

ただ、消化器内科での評価や治療を受けても症状が続いている場合、食事への不安が強くなっている場合、不眠や気分の落ち込みも重なっている場合には、心療内科で検討できることがあります。

胃の治療と、不安や睡眠などの治療を別々に考えすぎず、食事や外出、仕事がどの程度できるようになったかも確認しながら治療を進めます。

参考文献

  1. Rome Foundation. Rome V Criteria.
    https://theromefoundation.org/rome-v-criteria/
  2. Miwa H, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for functional dyspepsia 2021.
    J Gastroenterol. 2022;57:47–61.
    https://doi.org/10.1007/s00535-021-01843-7
  3. Black CJ, et al. British Society of Gastroenterology guidelines on the management of functional dyspepsia.
    Gut. 2022;71:1697–1723.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9380508/
  4. Matsueda K, et al. A placebo-controlled trial of acotiamide for meal-related symptoms of functional dyspepsia.
    Gut. 2012;61:821–828.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22157329/
  5. Suzuki H, et al. Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia—a multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study.
    Neurogastroenterol Motil. 2014;26:950–961.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24766295/
  6. Tominaga K, et al. Rikkunshito simultaneously improves dyspepsia correlated with anxiety in patients with functional dyspepsia: A randomized clinical trial (the DREAM study).
    Neurogastroenterol Motil. 2018;30:e13319.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29498457/
  7. Talley NJ, et al. Effect of Amitriptyline and Escitalopram on Functional Dyspepsia: A Multicenter, Randomized Controlled Study.
    Gastroenterology. 2015;149:340–349.e2.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25921377/
  8. Tack J, et al. Efficacy of Mirtazapine in Patients With Functional Dyspepsia and Weight Loss.
    Clin Gastroenterol Hepatol. 2016;14:385–392.e4.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26538208/

情報確認日:2026年10月17日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)