社交不安障害


札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

<社交不安障害の概要>
本疾患を一行で表すと、「注視される状況下において恐怖や不安を経験する群」です。注視されるような場面を回避するか、あるいは強い不安を感じながら耐え忍ぶといった状態が典型的です。

実は社交不安障害にはいくつかのタイプが存在する
とされています。大きく分けて2つに分類されます。
「社会的なあらゆる状況に対して恐れる、一般的に考えられている社交不安障害」と②「人前で何らかの行為をすることを恐れるタイプ(以下パフォーマンス限局型と表現)」です。
※文献によっては3つとされていることもありますが、2つと捉えるほうが分かりやすいと私は考えているので、ここでは2つと表現いたします。

後者のパフォーマンス限局型をもう少し具体的に表現しますと「演説・音楽・またはクラスや会議でのプレゼンテーションといった何らかの行為(パフォーマンス)をすることをひどく恐れるタイプ」です。

症状としては、どちらのタイプも赤面、声のかすれ、ふるえ、発汗などの顕著な自律神経症状を呈します。これは性別を問いません。

<診断>
DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)上の診断基準では、10ある項目すべてを満たすことが診断の条件とされています。「10項目も満たさなければ診断できないとは結構厳しめだな」と思われるかもしれませんが、いずれも上記の「注視される状況下において恐怖や不安を経験する群」を言い換えたようなものばかりなので、診断のハードル自体は高くはありません。

一般的な社交不安障害の発症は平均で約10歳(早ければ7-8歳頃)、パフォーマンス限局型の発症は平均で約17歳であることから、比較的遅めでの発症はパフォーマンス限局型の可能性が高くなります

また強い遺伝的な素因が存在するとの研究報告があります。つなわち社交不安障害の方は、血縁の方にも似たような症状を呈している方がいる可能性が高いのです。家族歴の詳細な聴取が本疾患における診断のポイントです。

しかしながら、パフォーマンス限局型は遺伝的な素因が弱いとの報告があり、一概に家族歴を当てにするわけにもいかないのが現状です。

細かいことを抜きにしても、社会的に著しく有害な影響がある場合には「ただ内気なだけ」と安易に判断せず社交不安障害と診断することが、少なくとも無診断としてしまうよりは無難かと思います。

各種薬剤の効きの度合い
Social anxiety disorder in review: Two decades of progress(292p)より
プラセボ群と比較した各種薬剤の効果の度合いのグラフ
BZ(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)の効果が高く、次いでSSRI、AC(抗てんかん薬)、Others(β遮断薬を含む)と続く
※2020年現在、リスク・ベネフィットの問題からMAOIやRIMAが使われることは稀

<治療>
社交不安障害は心理療法及び薬物療法のいずれにも反応します。データ上それらの治療効果は同等程度ですが、初期治療に関しては薬物療法が優れているようです。
未治療のままにしておくと、併存疾患(例えばうつ病など)が発症し、さらに障害が悪化しやすくなることが知られています。

(薬物療法)
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)による薬物療法は、短期的・長期的に有効であることが大規模研究により示されています。社交不安障害そのものの症状、抑うつ症状、関連する障害いずれも軽減し、治療の維持効果もあり、更には再発予防においてもその価値が実証されています。

社交不安障害における、プラセボ(偽薬)と比較した各薬剤の効果の度合いは、ざっくりと以下のように捉えていただいて差支えないかと思います(上の図も参照してください)(2001年時点のデータです)。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬>MAOI>SSRI>抗てんかん薬>>その他(β遮断薬等)
リスク・ベネフィットの関係からMAOIが使われることは最近ではほぼないです。
一般的な治療戦略は、SSRIをベースで投薬し、頓服的にベンゾジアゼピン系抗不安薬を使用していただき、ときに応じて抗てんかん薬も併用するかどうか?といったところでしょうか。

特にベンゾジアゼピン系抗不安薬は症状自体の緩和に大きく寄与します。依存性を恐れて使用を逡巡するのは、やや緩い手かと思います。
※ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用を極端に嫌気するドクターが一定数いらっしゃるのですが、こと社交不安障害に関しては使わないのはむしろもったいないのでは?と私は思います。

(心理療法)
心理療法のうち、暴露療法は一定の効果があるようです(社交不安障害における暴露療法は比較的研究が進んでいるようで、文献は多かったです)。暴露療法を行った方の54%は社交不安障害の診断基準を満たさなくなったとの報告があります。更にそこにソーシャルスキルトレーニングを付加することで67%にまで上昇させることができたそうです。左記のは小規模な研究でしたが、暴露療法の有用性は古くから指摘されており、コストを度外視すれば治療に取り入れる価値はありそうです。

しかしながらそのコストが度外視できず、「社交不安障害の治療はSSRIの内服治療のみ」というケースが日本では大半を占めるのが現状です。

VR(バーチャルリアリティ)で暴露療法を行うか、リアルで暴露療法を行うかを比較した研究報告があり、結果はVRを利用した方が治療者側の負担が減り、被治療者の治療効果も有意に高かったとのことでした。
そう遠くない未来においてVRを利用した暴露療法が行われるようになるかもしれません。

※ここでいう暴露療法とは、あえて社交不安障害を引き起こす状況に直面させるという治療法です。
※ソーシャルスキルトレーニングとは、ロールプレイを行ったり、ありえそうな場面を想定し、あらかじめやるべき行動を決めておくといった実践的なトレーニング方法です(例えば会話相手が怒っていると察知したら、悪いことをしたかどうかわからなくてもとりあえず謝る、など)

<その他の補足事項>
研究によると、生涯有病率は最大で16%程度です。
※12.1%というデータもあります。概ね10%よりは高いと捉えていただいて良いかと思います。
※生涯有病率とは「一生のうちに少なくとも1度はこの疾患を有する人の割合」です。

第一親等(両親、兄弟、子供)に社交不安障害の既往がある人がいる場合の生涯有病率は25%、いない場合は5%という報告があります。

その症状特性から医療機関への受診率は高くはありません。生涯受診率はわずか4.0%と考えられています。しかしそこに気分障害が併存した場合には30%程度に上昇するという報告があります。

日本では「ただ内気なだけ」と解釈されやすい文化的な背景があることから、恐らくですが受診率はさらに下がるのではないかと考えます。

これはシビアな数字なのですが、社交不安障害の方は健常者と比較して大学卒業率が10%低く、また就労においては要職に就く割合が14%低く、給料が約10%低いという報告があります。

50-80%の方に少なくとも1つの精神障害が併存します。割合としては大うつ病性の障害、物質使用障害(アルコール依存症や薬物乱用など)、他の不安障害などが多いとされています。

発症に男女差は無いと断言している文献がありますが、実際の発症は女性にやや多いです。しかし外来受診をする割合は男性の方が多いとされています。

「パフォーマス限局型は遺伝的な素因が弱く、かつβ遮断薬といった薬が効きやすい」という特徴を有しています。これは一般的に考えられている社交不安障害とは異なる特性なので、社交不安障害として適格と言えるのか?社交不安障害というよりも全く別物なのではないか?と疑問に感じるのですが、この点に関してはまだデータが足りないというか、2020年の時点でもまだ不明な点が多いようです。

ちなみにパフォーマンス限局型に対してのβ遮断薬の有効性を示唆するエビデンスは足りていないと結論づけている報告もありました。パフォーマンス限局型に対してのβ遮断薬投与は慎重に行うのが無難かもしれません。
実際問題としてβ遮断薬は喘息の方には禁忌であったりと注意事項が多く、なかなか精神科医が処方しづらい薬ではあるかと思います。
※β遮断薬が社交不安障害に有効と最初に報告されたのは1982年、その後も報告はされ続けているようなので、不足というかそもそもそこまで効果が期待できないのかもしれません。

社交不安障害とうつ病の関係を調査した研究は軽く調べただけでもかなり見つかりました。いくつか確認しましたが、いずれも「社交不安障害はうつ病の発症リスクを増加させ、悪化、持続、再発のリスクを上昇させる」と結論づけておりました。

遺伝的要因だけではなく、環境的な要因に関しての調査もされているようですが、少なくとも家族環境が原因で社交不安障害が発症するという明確なエビデンスは現時点では見つかってはいないようです。

数千人を対象としたコホート研究によると、社交不安障害発症患者の15.1%は完全寛解にまで至るようです。逆に言えば多くは寛解しないか部分寛解に留まります
そして早期発症、より多くの不安認知、重度の回避行動と障害、同時に発生するパニック発作、及びその他の脆弱性(血縁者が社交不安障害であること)、うつ病を併存すること、行動抑制や回避行為があることは、社交不安障害を長期化させうるとのことでした。
※ざっくりとコホート研究について説明すると、ある集団を長期間観察し追跡を続けるというお金と手間と時間がかかる大がかりな研究のことです。

<参考>
DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き
原著 American Psychiatric Association
日本語版用語監修 日本精神神経学会
監訳 高橋 三郎/大野 裕
訳 染矢 俊幸/神庭 重信/尾崎 紀夫/三村 將/村井 俊哉
114-115p

精神科研修ノート
シリーズ総監修:永井 良三(監修),笠井 清登(編集),三村 將(編集),村井 俊哉(編集),岡本 泰昌(編集),&2その他
322-326p

Social Anxiety Disorder and the Risk of DepressionA Prospective Community Study of Adolescents and Young Adults
https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/481732

Family and high‐risk studies of social anxiety disorder
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1034/j.1600-0447.108.s417.5.x

The natural course of social anxiety disorder among adolescents and young adults
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1600-0447.2012.01886.x

The impact of social skills training for social anxiety disorder: A randomized controlled trial
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0887618514001406

Virtual reality compared with in vivo exposure in the treatment of social anxiety disorder: A three-arm randomised controlled trial
https://www.cambridge.org/core/journals/the-british-journal-of-psychiatry/article/virtual-reality-compared-with-in-vivo-exposure-in-the-treatment-of-social-anxiety-disorder-a-threearm-randomised-controlled-trial/D541B09E2FF234FA82A7001AB44E3989

Pharmacotherapy for social anxiety disorder
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD001206.pub2/abstract

Pharmacotherapy for social anxiety disorder: a systematic review
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1586/14737175.8.2.235?scroll=top&needAccess=true

Social anxiety disorder: questions and answers for the DSM‐V
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/da.20670

Social anxiety disorder in review: Two decades of progress
https://www.researchgate.net/publication/11748501_Social_anxiety_disorder_in_review_Two_decades_of_progress