パニック障害


パニック障害

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「突然、心臓が激しく鳴り、息ができなくなった」
「このまま死んでしまうのではないかと思った」
「検査では異常がないと言われたけれど、また発作が起きるのが怖い」

このような症状がある場合、パニック障害が関係していることがあります。

パニック障害では、発作そのものに加えて、「また起きたらどうしよう」という不安によって、外出や通勤などの生活が制限されることがあります。治療では、発作を減らすことと、安心して生活できる範囲を取り戻すことの両方を目指します。

パニック発作とパニック障害は違う

まず知っていただきたいのは、パニック発作が起きたからといって、必ずしもパニック障害とは限らないということです。

パニック発作は、強い恐怖や不快感が突然高まり、動悸や息苦しさなどの症状が数分以内にピークに達する状態です。パニック障害以外の不安症や、身体の病気、薬物などの影響でも起こります。

一方、パニック障害では、予期しないパニック発作を繰り返し、その後も発作への心配や、発作を避けるための行動の変化が続きます。診断では、こうした変化が少なくとも1か月続いているかを確認します。

「予期しない発作」とは、本人にとって明確なきっかけがないのに起きる発作のことです。自宅でくつろいでいるときや、睡眠中に起こることもあります。

ただし、パニック障害の方に起きる発作が、すべて予期しないものとは限りません。発作を経験した後に、「以前発作が起きた場所」で不安が高まり、発作が起こるようになることもあります。

どのような症状が出るのか?

パニック発作では、次のような症状が現れます。

症状の種類具体例
心臓・胸の症状動悸、心拍数の増加、胸の痛みや圧迫感
呼吸の症状息苦しさ、息が十分に吸えない感じ、喉が詰まる感じ
自律神経の症状発汗、震え、寒気、ほてり
胃腸の症状吐き気、お腹の不快感
めまい・感覚の変化ふらつき、気が遠くなる感じ、しびれ、ピリピリする感じ
現実感の変化周囲が現実ではない感じ、自分が自分ではない感じ
強い恐怖死んでしまう、気がおかしくなる、自分を制御できなくなるという恐怖

診断基準では、こうした13項目の症状のうち、4項目以上が同時に現れることがパニック発作の目安になります。ただし、症状が少なくても強い苦痛や生活への支障があれば、相談して構いません。

「また起きたらどうしよう」という予期不安

パニック障害では、発作が起きていない時間にも苦痛が続くことがあります。

「また動悸がしたらどうしよう」
「今度は本当に倒れるのではないか」
「外出先で発作が起きたら助けてもらえない」

こうした心配を、予期不安と呼びます。

予期不安が強くなると、脈拍や呼吸のわずかな変化にも注意が向きやすくなります。その変化を危険な兆候と受け取ることで不安が高まり、さらに動悸や息苦しさが強くなる、という悪循環が生じます。

これは気の持ちようだけの問題ではありません。身体の感覚に対して、危険を知らせる反応が過敏になっている状態として理解するとわかりやすいかもしれません。

電車や人混みを避ける「広場恐怖」

発作を繰り返すうちに、電車、地下鉄、人混み、映画館、行列、一人での外出などが怖くなることがあります。

共通しているのは、「具合が悪くなっても逃げにくい」「助けを得られないかもしれない」という不安です。こうした状態は広場恐怖と呼ばれます。

名前から「広い場所が怖い病気」を想像しがちですが、実際には閉じた空間や公共交通機関も対象になります。パニック障害と併存することがありますが、それぞれ別の診断です。

発作の回数が減っても、外出できない状態が残ることがあります。そのため、治療の経過は発作の有無だけで判断せず、生活の自由度が戻っているかも確認します。

診断では身体の病気も確認する

動悸や息苦しさを、最初からパニック障害と決めつけることはできません。

不整脈、甲状腺機能亢進症、喘息、低血糖などでも似た症状が起こります。カフェインや薬の影響、アルコールなどの離脱症状が関係することもあります。診察では、症状の出方や持病、服薬状況を確認し、必要に応じて身体的な検査や他科への受診を検討します。

初めての強い胸痛、失神、持続する強い呼吸困難、いつもの発作と明らかに違う症状がある場合は、パニック発作と思い込まず、救急受診を含めて身体の評価を優先してください。

一度検査で異常がなかった場合でも、その後に起こるすべての症状をパニック障害で説明できるとは限りません。

パニック障害の治療

治療の中心は、薬物療法と認知行動療法です。

症状の強さ、広場恐怖の程度、併存するうつ病、これまでの治療歴、ご本人の希望などを踏まえて選びます。必要に応じて併用しますが、すべての方に最初から両方が必要というわけではありません。

薬物療法

薬物療法では、SSRIと呼ばれる抗うつ薬が主な選択肢になります。抗うつ薬という名前ですが、うつ病だけでなく、パニック障害にも使われます。

国内でパニック障害の適応がある薬には、セルトラリンなどがあります。海外の研究で有効性が示されていることと、日本でその病気への適応があることは、分けて考える必要があります。

SSRIは、飲んですぐに発作を止める薬ではありません。効果の評価には数週間以上かかり、開始直後には吐き気や、不安・落ち着かなさの一時的な増加がみられることがあります。そのため、少量から開始して調整することが大切です。

治療開始後に強い焦燥感、不眠、著しい気分の変化などが現れた場合は、早めに処方医へ相談してください。

抗不安薬はどのように使うか?

ベンゾジアゼピン系抗不安薬には、比較的速く不安を和らげる作用があります。一方で、眠気やふらつき、依存、減量・中止時の離脱症状などに注意が必要です。

使用する場合は、目的や期間、減量の方針を確認しながら判断します。特に長期治療の中心として漫然と続けることには慎重さが求められます。英国NICEのガイドラインは、長期的な転帰への懸念から、パニック障害へのベンゾジアゼピン処方を推奨していません。

現在服用している方が、この記事を読んで急に中止する必要はありません。連用している場合の急な中止は、かえって症状を悪化させることがあります。

認知行動療法

認知行動療法では、身体の感覚の受け取り方や、恐怖を避ける行動に働きかけます。

例えば、動悸がしたときに「心臓が止まる前触れだ」と考えると、不安が強まり、さらに動悸が増すことがあります。治療では、こうした解釈を検討し、身体の感覚に対する恐怖を少しずつ和らげていきます。

重要な方法の一つが、曝露療法です。専門家と相談しながら、避けていた状況や、恐れている身体の感覚に段階的に向き合います。

「一駅だけ地下鉄に乗る」「比較的空いている時間帯に買い物をする」など、取り組める課題から進めます。身体感覚への曝露は、持病などの確認が必要なため、自己判断で強い症状を誘発する方法を試すことは勧めません。

目標は、不安を完全になくしてから行動することではなく、不安があっても対処できる経験を積み、生活を取り戻していくことです。

研究からわかること

薬の「効きやすさ」だけでは治療を選べない

2022年の『BMJ』に掲載されたネットワークメタ解析では、パニック障害に対する薬物療法が比較されました。SSRI、三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系などで、プラセボを上回る寛解への効果が示されています。

有効性と有害事象の両方を考慮した解析では、SSRIはバランスのよい選択肢と評価されました。ただし、研究の多くは短期間であり、長期服用時の問題や中止のしやすさまで十分に評価できるわけではありません。

目先の症状を抑える力と、長く安心して使えるかは、別の評価軸です。治療ではその両方を考えます。

治療効果の数字を、そのまま順位にしない

Bandelowらの2015年のメタ解析では、パニック障害、全般性不安障害、社交不安障害を対象に、薬物療法や心理療法の効果が検討されました。

ただし、治療前後の改善の大きさを並べただけでは、治療同士の優劣は決められません。対象の病気や重症度、比較対象、研究方法などが異なるためです。

したがって、この研究から「SNRIはSSRIより優れている」「認知行動療法より薬がよい」と単純に結論づけることはできません。研究の数字は、何と何を、どのように比較した数字なのかを確認して読む必要があります。

認知行動療法には、治療終了後の効果も期待される

Barlowらが2000年に発表した無作為化比較試験では、312人を解析対象として、認知行動療法、イミプラミン、両者の併用などが比較されました。

急性期のパニック障害重症度尺度による治療反応率は、認知行動療法で48.7%、イミプラミンで45.8%、プラセボで21.7%でした。併用療法には維持期での利点がみられ、認知行動療法には治療終了後も効果が持続する傾向が示されました。

古い研究であり、現在よく使われるSSRIを直接評価したものではありません。それでも、治療中の改善だけでなく、終了後にどうなるかを考えるうえで参考になる研究です。

治療しても十分によくならない場合

改善が乏しい場合は、薬を追加する前に、診断、服用期間・用量、副作用、広場恐怖や回避行動、うつ病などの併存を再評価します。そのうえで、薬の変更や認知行動療法の導入などを検討します。

うつ病では抗精神病薬による増強療法が行われますが、その知見をパニック障害にそのまま当てはめることはできません。

実際、SSRIで十分に改善しなかったパニック障害にクエチアピン徐放製剤を追加した小規模な無作為化比較試験では、プラセボ追加に対する明確な優越性は示されませんでした。抗精神病薬の追加を、パニック障害の一般的な標準治療として説明するだけの根拠は十分ではありません。

発作が起きたときは

身体疾患が評価され、いつものパニック発作だと判断できる場合は、まず転倒などの危険がない場所で姿勢を安定させます。

呼吸を何度も大きく吸おうとするより、無理のない大きさで、ゆっくり吐くことを意識してみてください。「今は発作の波が来ている。時間とともに下がっていく」と確認することが助けになる場合もあります。

紙袋を口に当てて呼吸する方法は、酸素不足を招く危険があるため行わないでください。

頓服薬が処方されている場合は、あらかじめ相談した使い方に従います。発作時の対応は、症状が落ち着いているときに主治医と確認しておくと安心です。

薬はいつまで続けるのか?

発作が減った直後に中止すると、症状が再び強まることがあります。予期不安や回避行動も含めて改善が安定してから、減量を検討します。

NICEでは、抗うつ薬が有効な場合、最適な用量に到達してから少なくとも6か月継続し、その後の減量を検討することを勧めています。ただし、再発歴や残っている症状によっては、より長い継続が必要です。

抗うつ薬にも中止時の症状があるため、自己判断で急にやめず、段階的に減量します。「一生飲み続ける」「半年たてば必ずやめる」と最初から決める必要はありません。

日常生活で心がけたいこと

睡眠や食事のリズムを整え、無理のない範囲で身体を動かすことは、治療を支える土台になります。

カフェインで動悸や不安が強くなる方は、コーヒーだけでなく、エナジードリンクなどの摂取量も確認してみましょう。不安を抑えるための飲酒は、習慣化や睡眠の悪化につながるため避けたい対処法です。

一方で、「発作を絶対に起こさないように」と生活を制限しすぎると、行動範囲が狭くなることがあります。休養を取りながら、回復に合わせて少しずつ活動を戻していくことが大切です。

受診を考える目安

発作を繰り返す、発作への心配が続く、電車や外出を避けるようになった、仕事や学校に支障が出ている場合は、ご相談ください。

パニック障害は、気合いや我慢で乗り切らなければならない病気ではありません。症状の仕組みを理解し、ご本人に合った治療を選びながら、生活の自由度を取り戻していきます。

参考文献・資料

  1. National Institute of Mental Health. Panic Disorder: What You Need to Know.
  2. NICE. Generalised anxiety disorder and panic disorder in adults: management. CG113.
  3. Chawla N, et al. Drug treatment for panic disorder with or without agoraphobia: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2022;376:e066084.
  4. Bandelow B, et al. Efficacy of treatments for anxiety disorders: a meta-analysis. Int Clin Psychopharmacol. 2015;30:183–192.
  5. Barlow DH, et al. Cognitive-behavioral therapy, imipramine, or their combination for panic disorder: a randomized controlled trial. JAMA. 2000;283:2529–2536.
  6. A controlled trial of quetiapine XR coadministration treatment of SSRI-resistant panic disorder. Ann Gen Psychiatry. 2015;14:26.
  7. PMDA:セルトラリン製剤の電子添文。

情報確認日:2026年10月17日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)