パニック障害


パニック障害

札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

パニック障害の概要

パニック障害は数ある不安障害の中の一種です。短時間の強い不安や恐怖の発作が繰り返し起ります。

医学的疾患が存在しない中で(基本的には)予期しないパニック発作が出現するという特徴があります。

言い換えると、パニック障害とはパニック発作が存在し、その出現が(基本的には)予期されず、他の障害でも説明されない場合にのみ診断されるものなのです。

更に言い換えると、パニック発作が存在し、パニック発作が出現しうる他の疾患や障害(例えば限局性恐怖症や適応障害など)を除外し、いずれでもなかった場合に診断されるのがパニック障害なのです。

突然の"予期しない"パニック発作の存在が認められなければパニック障害ではないのか?というとそんなこともなく、状況依存的に発作が起こることもあります。


なんかややこしいですかね…。予期されるとか予期しないとか、発作とか障害とか。


まず前提としてパニック発作とパニック障害は別物であるということを知っていないと理解しづらいかもしれません。

以下にパニック発作の説明を記載します。

パニック障害の診断

まずパニック発作の定義です。
激しい恐怖または強烈な不快感の突然の高まりが数分以内にピークに到達し 以下の症状のうち4つ以上が起こります

(1)動悸 心悸亢進 または心拍数の増加
(2)発汗
(3)身震いまたは震え
(4)息切れ感または息苦しさ
(5)窒息感
(6)胸痛または胸部不快感
(7)嘔気または腹部不快感
(8)めまい ふらつき 頭が軽くなる感じ 気が遠くなる感じ
(9)寒気
(10)異常感覚(例えば口の中に金属があるような感じ、など)
(11)現実感の消失または離人感(自分が自分でない感じ、幽体離脱っぽっさ?)
(12)抑制力を失うまたは「どうにかなってしまう」ことに対する恐怖
(13)死ぬことに対する恐怖

パニック障害は、前提としてパニック発作が存在し、それが物質の生理的作用や他の医学疾患によるものではなく、他の精神障害によってもうまく説明されない場合に診断されます

パニック障害の治療

パニック障害における治療は他の不安障害のそれと方針は変わらないと思っておいていただければと思います。

パニック障害は心理療法及び薬物療法のいずれにも反応します。

2023年現在、最も治療効果が高い治療法は薬物療法と心理療法(主に認知行動療法)の併用と考えられています。ですが必ずしもそれを支持しないような面白いデータもあります(後述)。

薬物療法

パニック障害の治療において有効性が報告されている薬物は、三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、選択セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、その他の薬物(抗精神病薬等)です。

SSRI及びSNRIはパニック障害の治療において第一選択とされています
これらの薬物は、依存や過剰摂取の合併症のリスクが低いため、三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピンよりも忍容性が高い(副作用等が許容されやすい)とされています。

SSRI及びSNRIはパニック障害に有用ですが、これのみを投与する場合、治療効果の発現が数週間遅れ、治療課程の早期段階で不安やパニック発作を悪化させるといった可能性がいくつかの研究で示唆されています。
ざっくり言ってしまうと初期ではSSRI or SNRIとベンゾジアゼピン系抗不安薬との併用が効果的です

とあるメタアナリシス

また、不安障害(パニック障害、全般性不安障害、社交不安障害)に対しての治療効果を調べたメタアナリシス(複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること)では、以下のようなデータが得られています。
(Bandelow et al., 2015)

数字は治療効果の高さの度合いで、大きい順に並べています。

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)2.25
ベンゾジアゼピン抗不安薬2.25
認知行動療法と薬物療法の組み合わせ2.12
選択セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)2.09
三環系抗うつ薬1.83
マインドフルネス認知療法1.56
リラクゼーション1.56
個々の認知行動療法(曝露療法)1.30
フラセボ(偽薬)1.29
運動1.23
グループでの認知行動療法1.22
インターネットでの治療(?)1.11
眼球運動脱感作再処理法(EMDR)1.03
心理的偽薬(効かない心理療法)0.83
対人関係療法0.78
何もしない0.20

SNRIがSSRIよりも治療効果が高いようです。これは不安障害にはノルアドレナリン系も関わっているのではないか?という近年指摘されている仮説を支持しているように思われます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の効果も高いです。その依存性の高さ等で何かとSNSで叩かれがちのベンゾジアゼピン系ですが、実臨床ではこれ単剤の頓服等で治療できている方も多く、納得の結果です。
ちなみにこのデータでは薬物の組み合わせや依存性、耐性、忍容性等は考慮されていないので、そこはまた考える必要があるかと思われます。
個人的には抗精神病薬の単剤も気になるところです(このデータにはありませんが…)。
運動も結構効くようです。
認知行動療法は実施にそれなりのコストがかかるので、SNRI等の内服加療+運動で良いような気がしてしまいます…(私個人の感想です)
マインドフルネス認知療法に関しては効果が高いので、せっかくですので後述します。

増強療法

別の薬剤を組み合わせて効果を高める治療方法があり、増強療法(augmentation)と呼ばれています。不安障害の一種であるパニック障害においては、一般的に抗精神病薬を追加することで効果を増強させます
増強療法のエビデンスは難治性のうつ病において豊富です。不安障害における増強療法の論文を探したのですが、近年発表されためぼしいものはないようでした。
不安障害はうつ病と合併しやすいため、恐らくですがうつ病における増強療法と同じか、もしくは似たようなことを行うことで概ね問題ないと思われますが、例えば難治性うつ病で有効とされる甲状腺ホルモン増強療法が果たして不安障害で有効かというと(?)といったところです。

実臨床での印象ですが、抑うつ症状を合併しない不安障害の場合に増強療法を行うことは稀です。
多くはSNRI or SSRIの単剤、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の単剤、SNRI or SSRI+ベンゾジアゼピン系抗不安薬のいずれかで概ねコントロール可能です。

※ちなみに難治性うつ病における増強療法の有効性は
ノルトリプチリン>甲状腺ホルモン(T3)>>アリピプラゾール>ブレクスピプラゾール>>クエチアピン>モダフィニル>炭酸リチウム>オランザピン>カリプラジン(日本未承認)>リスデキサンフェタミン
(Nuñez et al., 2022)

マインドフルネス認知療法

認知行動療法の一種でありマインドフルネスという迷走的な状態を活用した心理療法です。スティーブ・ジョブズが活用していたことで有名です。
自分自身を客観的に観察し、思考パターンや感情に注意を向けることでネガティブな思考や感情にとらわれることなく自己認識を深め、自己回復力を高めることを目的としています。

具体的には
「あんなこと言わなければよかった…」「また失敗したらどうしよう…」→「今、自分は『あんなこと言わなければよかった…』『また失敗したらどうしよう…』と考えているな」
というように思考や感情を俯瞰できるようになることを目指します。

こういった思考訓練をすることで否定的な思考や感情にも冷静に対処し行動できるようになる、というのがマインドフルネスの根幹です。

パニック障害のその他の補足事項


研究によると、パニック障害の生涯有病率は1-4%程度と考えられています

パニック障害の病態生理学を理解するには、セロトニン神経系、ノルアドレナリン神経系、およびGABA経路を知るのがいいかもしれません。これはパニック障害に限らず他の不安障害も同様です。
具体的には、セロトニン系を調整することで、不安をはじめとした情動を抑制することができます。SSRIが主に担当します
また、ノルアドレナリン系を調整することで、身体的な緊張や不安を軽減することができます。SNRIや抗精神病薬、場合によってはβブロッカーが担当します
さらに、GABA受容体周りを調整することで、神経細胞の興奮性を調整することができます。ベンゾジアゼピン系抗不安薬が主にこのあたりを担当します

薬の辞め時は?

世界的な基準として、調子のいい時期が6か月続いた場合に徐々に減らしていくというものがあります。だからといって必ずしも断薬or減薬ができるとは限らないので、断薬に関しては過度な期待(と言ったらおかしいかもしれませんが)は禁物かなと個人的には思っています。

(ちなみにアイキャッチの画像はなつかしのワニワニパニックです)

参考

DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き
原著 American Psychiatric Association
日本語版用語監修 日本精神神経学会
監訳 高橋 三郎/大野 裕
訳 染矢 俊幸/神庭 重信/尾崎 紀夫/三村 將/村井 俊哉
115-117p

精神科研修ノート
シリーズ総監修:永井 良三(監修),笠井 清登(編集),三村 將(編集),村井 俊哉(編集),岡本 泰昌(編集),&2その他
327-330p

Increased Anxiogenic Effects of Caffeine in Panic Disorders
https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/493529

Risks and benefits of medications for panic disorder: a comparison of SSRIs and benzodiazepines
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/14740338.2018.1429403

Efficacy of treatments for anxiety disorders: a meta-analysis
https://www.ingentaconnect.com/content/wk/incps/2015/00000030/00000004/art00002

Pharmacotherapy augmentation strategies in treatment‐resistant anxiety disorders
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD005473.pub2/abstract

Augmentation strategies for treatment resistant major depression: A systematic review and network meta-analysis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34986373/