境界性パーソナリティ障害

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「パーソナリティ」という言葉から、性格だから変わらないと思われることがあります。しかし、境界性パーソナリティ障害は、治療や支援によって改善が期待できる病気です。 症状を和らげるだけでなく、安心できる人間関係や、自分に合った生活を取り戻すことを目指します。
目次
境界性パーソナリティ障害の症状

境界性パーソナリティ障害では、感情の調整、自分自身の捉え方、人との関わり方に持続的な困難がみられます。症状の組み合わせや程度には個人差があります。
例えば、次のような体験があります。
| 主な特徴 | 日常生活での現れ方の例 |
|---|---|
| 見捨てられることへの強い不安 | 返信が来ないと、嫌われた、関係が終わったと感じて強い不安になる |
| 不安定で激しい対人関係 | 相手をとても信頼していたのに、失望した出来事をきっかけに評価が大きく変わる |
| 自己像の不安定さ | 自分の価値、目標、やりたいことが大きく揺れ動く |
| 衝動的な行動 | 浪費、過量の飲酒、危険な行動などを繰り返し、後から苦しくなる |
| 自傷や自殺に関連する行動 | 耐え難い苦痛のなかで自分を傷つけたり、死にたい気持ちが強くなったりする |
| 急激な感情の変化 | 不安、怒り、落ち込みなどが短時間に強くなる |
| 慢性的な空虚感 | 心に穴があいたように感じる、何をしても満たされない |
| 怒りの調整の難しさ | 怒りが強くなり、言い過ぎたり、その後で深く後悔したりする |
| 強いストレス下での疑い深さや解離 | 相手が自分を傷つけようとしていると感じる、現実感や自分の感覚が薄れる |
「大切な人に見捨てられるのが怖い」「ちょっとした出来事で感情が大きく揺れる」「自分がどんな人間なのか分からなくなる」。こうした苦しさが続き、人間関係や日常生活に支障が生じる病気の一つが、境界性パーソナリティ障害です。
これらは診断の手がかりですが、いくつか当てはまるだけで診断が決まるわけではありません。また、すべての方に自傷や激しい怒りがみられるわけでもありません。

診断はどのように行うのか
診断では、症状の有無だけでなく、いつから、どのような場面で、どの程度続き、生活にどんな影響を与えているかを確認します。
DSM-5-TRでは、対人関係・自己像・感情の不安定さや衝動性について、9つの特徴のうち5つ以上に該当することなどが診断の目安になります。ただし、項目数を数えるだけの自己診断は適切ではありません。
一時的な失恋や強いストレスで感情が乱れている状態と、長年にわたりさまざまな場面で続くパターンとでは、評価が異なります。ほかの精神疾患や飲酒・薬物の影響についても確認し、必要に応じて診察を重ねながら判断します。
服装や容姿、SNSでの振る舞いだけで診断できる病気ではありません。診断名を、他人を批判するための言葉として使わないことも大切です。
双極性障害との違い
境界性パーソナリティ障害と双極性障害は、気分の変化や衝動的な行動という共通点があり、区別が難しいことがあります。
境界性パーソナリティ障害では、人間関係などの出来事に反応して、感情が比較的短時間で大きく変わることがあります。一方、双極性障害では、気分だけでなく、睡眠、活動性、話す量、考えの速さなども変化する躁・軽躁・うつのエピソードを評価します。
ただし、「数時間なら境界性、数日なら双極性」と単純に分けられるものではありません。両者が併存する場合もあり、経過全体を確認する必要があります。

原因は「育て方」や「本人の努力不足」なのか
原因は一つではありません。生まれ持った気質や遺伝的な要因、感情を調整する働き、これまでの体験や生活環境などが複雑に関わると考えられています。
虐待やネグレクトなどのつらい体験を持つ方もいますが、すべての方にそのような経験があるわけではありません。特定の体験があれば必ず発症するわけでもありません。
本人や家族のどちらかに原因を決めつけるよりも、現在の苦しさがどのように生じ、何が改善に役立つかを一緒に考えることが治療につながります。

治療の中心は、継続的な精神療法・心理療法
境界性パーソナリティ障害の治療では、安心して相談できる関係を築き、治療の目標や進め方を共有します。
そのうえで、感情が強くなったときの対処、人との距離の取り方、衝動的な行動を減らす方法などを少しずつ身につけていきます。米国精神医学会の2024年のガイドラインでも、病気の中心的な特徴を対象とした、構造化された心理療法が推奨されています。
弁証法的行動療法(DBT)
DBTは、現在の苦しさを受け止めることと、生活をよくするために行動を変えることを両立させる治療です。
具体的には、感情や衝動に気づく、危機的な時間を安全にやり過ごす、気持ちを調整する、相手に希望を伝えるといったスキルを練習します。
Linehanらの2006年のランダム化比較試験では、自殺・自傷に関連する行動がある女性101人を対象に、DBTと専門家による治療を比較しました。1年間の治療とその後1年間の追跡で、DBT群では自殺企図や精神科の入院、救急受診などが少ないという結果でした。
対象が特定の患者集団である点には注意が必要ですが、自傷や自殺企図を減らすことは、治療によって取り組める重要な目標であることを示した研究です。
DBT以外の治療にも選択肢がある
メンタライゼーションに基づく治療、スキーマ療法、転移焦点化精神療法など、複数の心理療法が研究されています。これらはすべて同じ理論に基づく治療ではなく、精神力動的な考え方を取り入れたものもあります。
現時点では、すべての患者さんに対して一つの治療法が最も優れているとは言い切れません。本人の困りごとや希望、継続のしやすさ、受けられる医療体制を踏まえて選びます。
専門的なプログラムが受けられない場合は?
専門的な心理療法にアクセスできない場合でも、一般の精神科診療で取り組めることはあります。
McMainらの2009年の研究では、患者180人を対象にDBTと、病気の説明、生活・対人関係への支援、必要に応じた薬物療法などを組み合わせた一般精神科的マネジメントを比較しました。両群で自殺・自傷行動や症状などが改善し、主要な評価項目で明確な群間差は認められませんでした。
これは「話を聞くだけで十分」という意味ではありません。病気を理解し、一貫した治療方針を共有し、現実の生活課題にも取り組む診療には価値があるということです。

薬はどのくらい役立つのか
薬物療法は、境界性パーソナリティ障害の治療を補う位置づけです。病気全体を薬だけで改善させる効果は確立していません。
一方、うつ病などが併存している場合には、その病気への薬物療法が必要になることがあります。症状によっては補助的な処方を検討しますが、「何の症状を、どのくらい改善させたいのか」を明確にし、効果と副作用を確認することが大切です。
ラモトリギンの研究から分かること
ラモトリギンは、境界性パーソナリティ障害の感情の不安定さなどに対して研究されてきた薬です。
しかし、Crawfordらが2018年に報告した276人のランダム化比較試験では、52週時点の症状に、プラセボとの明確な差は認められませんでした。
この結果は、双極性障害などに対するラモトリギンの有用性を否定するものではありません。境界性パーソナリティ障害そのものへの効果と、併存する別の病気への効果を分けて考える必要があるということです。
薬が増え続けている場合は、処方の目的と実際の効果を見直します。米国精神医学会のガイドラインでも、薬は特定の標的症状に対して期間を意識して使用し、少なくとも6か月ごとに薬物療法を点検することが提案されています。自己判断で中止せず、主治医と相談してください。
自傷や「死にたい」という気持ちへの対応
自傷には、死ぬことを目的とする場合と、耐え難い感情を和らげようとする場合があります。しかし、目的が異なっていても、重いけがや死亡につながる危険があります。
自傷を繰り返しているから、いつものことだからと、安全だと判断することはできません。 その時点の苦痛、死にたい気持ち、具体的な計画、飲酒や薬の使用、周囲の支援などを確認します。
落ち着いている時期に、危機の前兆、試せる対処、連絡できる人、受診先などをまとめた安全計画を作っておくことも役立ちます。薬や危険物へのアクセスをどう減らすかも、本人と相談して考えます。
すでに過量服薬をした、重いけががある、今すぐ自分を傷つけそうな場合は、通常の診療予約を待たず、119番などの緊急医療につながってください。
入院が必要になることはあるのか
入院するかどうかは、診断名だけでは決まりません。
外来や地域の支援では安全を確保できないほど自傷・自殺の危険が高い場合などには、入院を検討します。一方、入院を繰り返すことで生活や治療の継続に支障が出ることもあるため、期待できる利益と負担を考える必要があります。
入院する場合も、何を目的とするのか、どの程度の期間を想定するのか、退院後をどう支えるのかを、可能な範囲で事前に共有します。
過去のトラウマは治療で扱わないほうがよいのか
トラウマに関する治療を一律に避ける必要はありません。ただし、本人の準備や安全への配慮なく、つらい記憶を詳しく話してもらえばよいわけでもありません。
Bohusらの2020年の研究では、児童期の虐待に関連するPTSDがあり、境界性パーソナリティ障害の特徴も持つ女性193人を対象に、DBT-PTSDと認知処理療法を比較しました。両群でPTSD症状が改善し、DBT-PTSDでより大きな改善がみられました。
これはすべての境界性パーソナリティ障害にそのまま当てはまる研究ではありませんが、適切な対象に、専門的な枠組みで行うトラウマ治療には効果が期待できることを示しています。
ご家族やパートナーにできること
身近な人が強い感情や自傷に悩んでいると、支える側も不安や疲労を抱えます。家族やパートナーだけですべてを解決しようとせず、医療者と対応を共有することが大切です。
日常では、次のような関わり方を意識します。
- まず苦痛や不安を受け止め、正しいか間違いかの議論を急がない。
- できることと難しいことを、落ち着いているときに具体的に伝える。
- 連絡や金銭などの約束は、無理なく続けられる内容にする。
- 自傷や自殺の危険を感じたときの対応を、事前に確認しておく。
- 支える側も休息を取り、必要なら自分の相談先を持つ。
例えば「返信がなくて、とても不安になったんだね」と気持ちを受け止めることと、いつでも即座に返信すると約束することは別です。本人の苦しさへの理解と、支える人の生活を守ることを両立させていきます。
家族の治療への参加は、原則として本人の希望や同意、プライバシーにも配慮して進めます。
境界性パーソナリティ障害はよくなるのか
長期的には、多くの方で症状の改善がみられます。ただし、症状が落ち着くことと、仕事や対人関係まで十分に回復することは同じではありません。
Zanariniらの2010年の10年間の追跡研究では、研究開始時に入院していた患者集団のうち、93%が少なくとも2年間続く症状の寛解を経験しました。一方、症状の寛解に加えて、良好な社会・職業機能も含む「回復」に到達した割合は50%でした。
この93%という数字は、「10年後に93%が完全に治っていた」という意味ではありません。また、治療を受けながらの観察研究なので、時間経過だけの効果を示したものでもありません。
大切なのは、改善の可能性を伝えながら、その間の安全と生活を支えることです。「自傷を減らす」「通院を続ける」「生活リズムを整える」「負担の少ない形で仕事や学業に関わる」など、本人にとって意味のある目標を少しずつ積み重ねていきます。
受診を考えている方へ
感情の波や人間関係の苦しさがあっても、自分だけで診断名を決める必要はありません。「どんな場面でつらくなるのか」「何に困っているのか」から相談してください。
境界性パーソナリティ障害の診療では、安全の確保、併存する病気の評価、生活への支援、精神療法・心理療法を組み合わせて考えます。必要な治療を受けられるよう、状態や地域の医療体制に応じて、専門的な支援への紹介を検討することもあります。
参考文献・資料
- American Psychiatric Association. The American Psychiatric Association Practice Guideline for the Treatment of Patients With Borderline Personality Disorder. 2024.
- Linehan MM, et al. Two-year randomized controlled trial and follow-up of dialectical behavior therapy vs therapy by experts for suicidal behaviors and borderline personality disorder. Arch Gen Psychiatry. 2006;63:757–766.
- McMain SF, et al. A randomized trial of dialectical behavior therapy versus general psychiatric management for borderline personality disorder. Am J Psychiatry. 2009;166:1365–1374.
- Crawford MJ, et al. The clinical effectiveness and cost-effectiveness of lamotrigine in borderline personality disorder: a randomized placebo-controlled trial. Am J Psychiatry. 2018;175:756–764.
- Bohus M, et al. Dialectical behavior therapy for posttraumatic stress disorder compared with cognitive processing therapy in complex presentations of PTSD in women survivors of childhood abuse: a randomized clinical trial. JAMA Psychiatry. 2020;77:1235–1245.
- Zanarini MC, et al. Time to attainment of recovery from borderline personality disorder and stability of recovery: a 10-year prospective follow-up study. Am J Psychiatry. 2010;167:663–667.
- NICE. Borderline personality disorder: recognition and management. CG78.
- NICE. Self-harm: assessment, management and preventing recurrence. NG225.
情報確認日:2026年10月17日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)