片頭痛


片頭痛

札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

片頭痛の概要

片頭痛とは、頭の片側または両側に襲いかかる、非常に強烈な頭痛のことを指します。

片頭痛の症状としては、激しい頭痛、吐き気、光や音に対する過敏、または嘔吐といったものが主にみられます

片頭痛の原因は、頭蓋骨内外の血管拡張や縮小に関連する脳の神経化学物質の変化に起因すると考えられています(まだ完全には解明されていません)。

片頭痛の誘因(トリガー)としては、飲酒、ストレス、ホルモン変動(月経周期)、食べ物、睡眠不足(もしくは睡眠過多)、天候の変化、強い光や音などが挙げられます。

片頭痛の治療は、痛み止めの薬(NSAIDs)やトリプタンと呼ばれる薬剤、予防薬、生活習慣の改善などがあります。これらに関しては後述します。

片頭痛の診断

CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)といった画像診断や脳波は診断において当てになりません。病歴聴取から診断します

診断にはPOUNDing criteriaというものを用います。
以下の5つの質問のうち4つ以上を満たせは片頭痛と診断してOKとされています。
・拍動性である(Pulsatile quality) 
・持続時間が4-72時間である(duration) 
・片側性である(Unilateral location) 
・嘔気や嘔吐を伴う(Nausea and vomitting) 
・日常生活に支障を来たしている(Disabling intensity)
※50%は非拍動性、40%は両側性と非典型例も多いので注意

片頭痛の発症年齢は10-20代が多く約90%が40歳までに発症します。そのため40歳以降で発症した場合は別の頭痛を主に考えます。

約30%の方に前兆(閃輝暗点、視覚消失、片麻痺、失語など)を認めます。また前兆のうち90%は視覚の症状が出現します。
※閃輝暗点とは、視野の中にギザギザした光の輪が出現し、四方に拡大し、その場所が暗くはっきり見えなくなる現象です。以下参考動画です。
https://www.youtube.com/watch?v=qVFIcF9lyk8
https://www.youtube.com/watch?v=OaMvHalPaFg

嘔気や嘔吐を伴う頭痛の場合、片頭痛を強く疑います。鑑別しなくてはならない緊張型頭痛は嘔気や嘔吐を伴うことはかなりまれだからです。

片頭痛の治療

発症頻度の減少、重症度の軽減、持続時間の短縮、起こった際の対処、生活機能の向上と生活への支障の軽減を目指します。

片頭痛の予防治療

まずは予防治療を行います。
効果が立証されている治療薬を使います。具体的には
①抗てんかん薬(バルプロ酸、トピラマート)
②β遮断薬(メトプロロール、プロプラノロール、チモロール)
③カルシウム拮抗薬(ロメリジン、ベラパミル)
④抗うつ薬(アミトリプチリン、その他各種抗うつ薬)
⑤ACE阻害薬やARB(カンデサルタン、リシノプリル)
これらを使用します。
少なくとも効果判定に2~3ヵ月を要します。発作の頻度や日数が50%以上減少させることが目標です。副作用の兼ね合いから、完全な予防は無理には目指さないのが臨床的なポイントです。

これを使うべきである!という薬は存在せずケースバイケースで使い分けます
例1)肥満傾向の方→トピラマート(体重減少の副作用があるため)
例2)痩せている方→バルプロ酸(体重増加の副作用があるため)
例3)副作用を気にされる方→ロメリジン(商品名ミグシス、末梢血管に対する作用が少なく、めまいなどの副作用の頻度がまれ)
例4)高血圧の方→カンデルサルタンやリシノプリル(血圧降下作用あり)

とはいえ海外の多くのガイドラインではトピラマートが第一選択薬として推奨されています
メンタルクリニックレベルでは副作用の少ないロメリジンや、精神安定作用のあるバルプロ酸少量投与あたりがおすすめかなと思っています(これはあくまで私個人の意見です)。
※妊娠中のバルプロ酸の使用は禁忌のため、若年女性ではバルプロ酸はやや使いづらいという弱点はあります。

主な予防薬の推奨容量も以下に記載します
バルプロ酸 400‐600㎎
トピラマート 50-200㎎
アミトリプチリン 10-60㎎
プロプラノロール 20-60㎎
メトプロロール 40-120㎎
ロメリジン 10-20㎎
ベラパミル 80-240㎎
カンデサルタン 8-12㎎
リシノプリル 5-20㎎

私個人の臨床的な印象ですが、バルプロ酸200‐400㎎の投与で、多くの方に満足な予防効果を実感していただけているなと思っております。

アミトリプチリンもかなり使いやすい薬なのですが、2023年4月の時点で出荷調整がかかっており、大変困っております。
うつ病の治療においても、非常に有用であり替えの効かない薬なのでなんとか販売を継続していただけると助かります;;

ちなみにマグネシウムやビタミンB2、コエンザイムQ10やナツシロギクも予防効果があるのではないかと研究がなされています。

片頭痛の急性期治療

薬物療法が中心です。以下は主な治療薬です。
①アセトアミノフェン
②NSAIDs(イブプロフェン、ジクロフェナク、ロキソプロフェンなど)
③トリプタン(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタン)
④エルゴタミン(商品名クリアミン、エルゴタミン・カフェイン・ピリン系配合剤)
⑤制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)

一般的な戦略としては以下です。
・軽度から中等度の頭痛にはNSAIDsやアセトアミノフェンを使用します。
・中等度から重度の頭痛にはトリプタンが推奨されます。
・NSAIDsで効果のない頭痛にはトリプタンが推奨されます。
・効果不十分の場合はNSAIDsもしくはアセトアミノフェン+トリプタンの併用が考慮されます。
・いずれの場合でも制吐薬の併用は推奨されます。
・効果判定は服用2時間後の頭痛の消失や軽減で判断します。
患者さんの嗜好に十分配慮します
※薬物乱用頭痛を恐れるあまり、適切な治療が行われておらず苦しんでいる方にぼちぼち出会います。
※ことのはメンタルクリニックの患者さんは、他のクリニックと比較すると若めの方が多く、心血管系の既往を持たない方が多いため、トリプタンの使用をためらうことはまれです。

トリプタンは片頭痛発生早期(発症より1時間くらい)の服用が効果的です

ちなみに研究では
頭痛消失については トリプタン>NSAIDs
有害事象に関しても トリプタン>NSAIDs
24時間後の再発予防効果も トリプタン>NSAIDs
でした。

急性期、つまり片頭痛が起こった際の薬物療法以外の対策としては
①片頭痛は光や音で痛みが増強するため、暗く静かなところで安静にすること
②血管を収縮させると痛みが和らぐため、冷却したり圧迫すること。冷却ジェルシートはほぼ無意味なので注意です。
③睡眠不足での場合は睡眠をとること
④血管収縮作用のあるカフェインを摂取すること
などがあります。

片頭痛のその他の補足事項

日本における片頭痛の年間有病率は8.4%、前兆のない片頭痛は5.8%、前兆のある片頭痛は2.6%です。凡そ片頭痛持ちの方の2/3は前兆がありません
※有病率とはある時点である疾患を持っている人の割合を示す指標です。難しく考えず「日本人の8.4%は片頭痛持ちなんだ」と思っていただいて差し支えないです。

1207人の片頭痛患者さんを検討した調査では、75.9%の患者で何らかの誘因を有していたと報告されています。
誘因としてストレス(79.7%)が最も多く、続いて女性ホルモン(65.1%)、絶食(57.3%)、天候(53.2%)、睡眠障害(49.8%)、香水や臭い(43.7%)、首らへんの痛み(38.4%)、光(38.1%)、アルコール(37.8%)、煙(35.7%)、夜更かし(32.0%)、暑さ(30.3%)、食品(26.9%)、運動(22.1%)、性的活動(5.2%)の順でした。
また各患者さんが有する誘因の平均は6.7個でした。

45歳未満の若年女性における前兆のある片頭痛では、脳梗塞のリスクが増加します(約2倍)。
経口避妊薬を使用している場合は7-8倍増加、喫煙者は9倍増加します。

エビデンスは豊富ではないですが、ガバペンチン(商品名ガバペン)、プレガバリン(商品名リリカ)、アテノロール(テノーミン)、チザニジン(テルネリン)も片頭痛の予防薬として有効性が報告されています。

前兆を有する片頭痛患者さんへの経口避妊薬は禁忌です(片頭痛の悪化や脳梗塞発症の可能性アップのため)。

参考

頭痛の診療ガイドライン2021
https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf

The American Headache Society Position Statement On Integrating New Migraine Treatments Into Clinical Practice
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30536394/

National Institute for Health and Clinical Excellence:Headaches overview.

BASH GUIDELINES 2019
https://www.bash.org.uk/guidelines/

The comorbidity of migraine
https://www.cambridge.org/core/journals/cns-spectrums/article/abs/comorbidity-of-migraine/F229C29DD07E379951D3E5851A913227

Risk of ischaemic stroke in people with migraine: systematic review and meta-analysis of observational studies
https://www.bmj.com/content/330/7482/63?query=rft.jtitle%25253DHeadache%2526rft.stitle%25253DHeadache%2526rft.aulast%25253DSchwaag%2526rft.auinit1%25253DS.%2526rft.volume%25253D43%2526rft.issue%25253D2%2526rft.spage%25253D90%2526rft.epage%25253D95%2526rft.atitle%25253DThe%252Bassociation%252Bbetween%252Bmigraine%252Band%252Bjuvenile%252Bstroke%25253A%252Ba%252Bcase-control%252Bstudy.%2526rft_id%25253Dinfo%25253Adoi%25252F10.1046%25252Fj.1526-4610.2003.03023.x%2526rft_id%25253Dinfo%25253Apmid%25252F12558760%2526rft.genre%25253Darticle%2526rft_val_fmt%25253Dinfo%25253Aofi%25252Ffmt%25253Akev%25253Amtx%25253Ajournal%2526ctx_ver%25253DZ39.88-2004%2526url_ver%25253DZ39.88-2004%2526url_ctx_fmt%25253Dinfo%25253Aofi%25252Ffmt%25253Akev%25253Amtx%25253Actx

Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1046/j.1468-2982.1997.1701015.x

The triggers or precipitants of the acute migraine attack
https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1111/j.1468-2982.2007.01303.x