適応障害


札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

<適応障害の概要>
適応障害は「単一もしくは複数のストレス因に対する反応(情動面または行動面の症状の出現)」と定義されます。

本疾患は精神科・心療内科において最も頻繁に遭遇する疾患です
※統計学的なデータにおいて適応障害が1位です。言い換えれば、精神的に何らかの症状を呈している場合、その原因である疾患が適応障害である可能性が最も高いです。これは人種や文化、社会的背景を問いません。

症状としては抑うつ気分、イライラ、パニック発作、不安、不眠等がみられます。

素行の問題が生じることもあります。危険な運転、喧嘩、仕事などの責任放棄に及ぶこともございます。

<診断>
まず前提として、他の精神疾患の基準を満たしていないことが条件になります。
また既に存在している精神疾患の単なる悪化でもないことも条件です。

「ストレス因の始まりから3か月以内にうつ、不安、行動異常といった症状が出現し、ストレス因が取り除かれても症状は持続しうるが 通常6か月を超えない」
以上はDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)上の診断基準の一部ですが、実際は6か月以上持続する方が相当数いらっしゃいます。

洪水、火災、飢饉といったストレス因として容易に想像がつくもののみならず、結婚、離婚、引越し、仕事、学業といった比較的ありきたりな出来事でも十分ストレス因となりえます。

その症状は通常の死別反応を示すものではない事も条件です。
※ただし死別反応の強度や質もしくは持続性が通常予測されるものを超えた場合には診断される可能性がございます。

例えば「上気道感染を起こすと極度に不安になる」は不安を伴う適応障害という診断よりも、他の医学的疾患に影響する心理的要因、つまりは「心因反応」といった診断が適合します。

以上を加味したうえで、主に除外診断(うつ病などの可能性を排除)として適応障害が診断されます

<その他の補足事項>
有病率はおおよそ3%と考えられています。そのうち臨床的に重度と判断される割合は1%弱と報告されております。

うつ病の方よりは精神的な生活の質は高いですが、当然ながら何も精神的な疾患を抱えていない方よりは精神的な生活の質は低いです。

適応障害と診断されている人の37%は、少なくとも1つの向精神薬の処方を受けています。逆に言えば、向精神薬の処方が不要なケースも多いと捉えていただいてもいいかもしれません。

適応障害の方の約70%強は、実際に診断される6-24ヵ月前には既に発症していたという研究報告があります。

適応障害の主な原因としては、住所の移動、深刻な病気、仕事でのストレス、友人や隣人とのトラブルなどが挙げられます。

適応障害は様々な精神疾患を併存しうるのですが、中でも最も併存する頻度が高いのはパーソナリティ障害です。15-73%で併存すると報告されています。
※パーソナリティ障害はかつては人格障害と呼ばれていました。境界性パーソナリティ障害が恐らく最も有名かと思います。

また長期化した適応障害は、情動障害(例えばうつ病)や各種の不安障害との鑑別が極めて困難と考えられており、明確にする手段も現状ございません。
例えば不仲な家族と暮らしているような場合では、ストレス因が取り除かれず適応障害は慢性化する可能性がございます。この場合は持続性の抑うつ障害ではないとは完全には言い切れず、診断に迷うケースとなりえます。

<治療>
自助的なアプローチ(例えば瞑想やヨガなど)、リラクゼーション法、精神分析や認知行動療法などの心理療法が広く行われていますが、2020年の時点でエビデンスレベルの高い心理療法はない、つまり「科学的に間違いなく効果があると言い切れるような心理療法はない」と考えていただいて差支えございません。

とはいえ心理療法はやはり効果的であるという研究報告は少なからずありますし、それ自体が害になる心理療法は多くはないので、何もしないよりはいいのではないかと個人的には思います。

個人を対象とした認知行動療法と、マインドフルネスに基づいた集団療法においての効果の差はほとんど見られなかったという研究報告もありますので、例えばデイケアを利用するという手もなしではないかと思います。
※マインドフルネスとは、「今の気持ちや身体状況をあるがままに受け入れる習慣を身に着けること」と定義される昨今流行の心理療法です。

とはいえ治療に関してはまだまだデータが足りていないというのが現状です。

適応障害は最も頻度の高い精神疾患でありながら、研究報告は多くはないというのが現状です。本疾患に関しての大規模な研究や、エビデンスレベルの高いレポートを探してみたのですが、見つけることができませんでした。一番見つけたかった治療薬に関しての文献もほぼ見当たりませんでした。

以上から、従来から行われている対症的な薬物療法(例えば不眠が強ければ睡眠薬の処方)と休養、補助的に心理療法を行うのが、現状のベストなのではないかと考えます

<参考文献>
DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き
原著 American Psychiatric Association
日本語版用語監修 日本精神神経学会
監訳 高橋 三郎/大野 裕
訳 染矢 俊幸/神庭 重信/尾崎 紀夫/三村 將/村井 俊哉
147-148p

Adjustment disorders in primary care: prevalence, recognition and use of services
https://www.cambridge.org/core/journals/the-british-journal-of-psychiatry/article/adjustment-disorders-in-primary-care-prevalence-recognition-and-use-of-services/FCFF31580B65EEDE575FC2B689DC731E

Psychotherapy of adjustment disorders: Current state and future directions
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15622975.2018.1467041

Reducing long term sickness absence by an activating intervention in adjustment disorders: a cluster randomised controlled design
https://oem.bmj.com/content/60/6/429.full

Psychosomatic characterization of adjustment disorders in the medical setting: Some suggestions for DSM-V
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165032706004897

Adjustment disorders: prevalence in a representative nationwide survey in Germany
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00127-012-0493-x

Adjustment disorders–nosological state and treatment options
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18683285/

Mindfulness group therapy in primary care patients with depression, anxiety and stress and adjustment disorders: Randomised controlled trial
https://www.cambridge.org/core/journals/the-british-journal-of-psychiatry/article/mindfulness-group-therapy-in-primary-care-patients-with-depression-anxiety-and-stress-and-adjustment-disorders-randomised-controlled-trial/B63AB3C420FDE0D6C86034839B0CA426