概日リズム睡眠・覚醒障害(睡眠相後退など)


札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。


「夜中まで眠気が来ず、朝はどうしても起きられない」
「早く寝ようとすると眠れないのに、明け方なら自然に眠れる」
「休日に好きな時間まで眠ると調子がよいが、学校や仕事の時間には合わない」

このような状態の背景には、体内時計と生活で求められる時間帯がずれる「概日リズム睡眠・覚醒障害」が関係していることがあります。

単なる夜更かしや、意志の弱さだけで説明できるものではありません。この記事では、とくに睡眠・覚醒相後退障害を中心に、特徴、診断、治療について解説します。

概日リズム睡眠・覚醒障害の概要

本疾患を一行で表すと、**「体内時計がつくる睡眠・覚醒のリズムと、学校・仕事などで必要とされる時間帯が合わず、不眠や眠気、生活上の支障が生じる睡眠障害」**です。

「概日」とは、およそ1日という意味です。私たちの体には、眠気や覚醒、体温、ホルモン分泌などを約24時間の周期で調節する仕組みがあります。体内時計は、光や暗さ、食事、活動などの情報を受けながら、外の時間に合わせて調整されています。NHLBI, NIH

睡眠相後退とは

睡眠・覚醒相後退障害(Delayed Sleep-Wake Phase Disorder:DSWPD)は、眠り始める時刻と目が覚める時刻が、必要な時刻より持続的に遅れる状態です。「睡眠相後退症候群」という呼び方もあります。

例えば、午前3〜4時にならないと眠れず、自然に起きると昼前になる方が、午前7時に起きて出勤しようとすると、寝つけなさと起床困難の両方に悩むことがあります。

これはあくまで一例で、「何時以降に眠ったら病気」という決まりではありません。本人の苦痛や、学校・仕事・日常生活への影響を確認します。

特徴の一つは、自分に合った遅い時間帯で十分に眠れる場合、睡眠の長さや質が比較的保たれることです。ただし、不眠症などが併存する場合もあります。NHLBI, NIH

夜型の体質との違い

夜型であること自体は、病気ではありません。

遅い時間帯に眠る生活でも、必要な睡眠がとれ、本人に苦痛がなく、生活に支障がなければ、必ずしも治療は必要ありません。一方、早寝早起きを試みても難しく、遅刻、欠席、慢性的な睡眠不足などが続く場合には、治療の対象になります。

思春期には睡眠の時間帯が遅くなりやすい傾向がありますが、「若いから夜更かしするだけ」と決めつけず、経過と支障の程度をみることが大切です。aasm.org

主な種類

種類主な特徴
睡眠・覚醒相後退障害眠る時刻と起きる時刻が遅れ、必要な時刻に眠れない・起きられない
睡眠・覚醒相前進障害夕方から強い眠気が出て、早朝に目が覚める。早寝早起きによる支障がある
非24時間睡眠・覚醒リズム障害睡眠の時間帯が日ごとに少しずつずれていく。全盲の方に多いが、視覚のある方にも生じる
不規則睡眠・覚醒リズム障害まとまった睡眠の時間帯が定まりにくく、昼夜に複数回の睡眠が分散する
交代勤務睡眠障害夜勤や交代勤務に関連して、不眠や勤務中の強い眠気が生じる
時差障害時差のある地域への移動後、現地の時間に体内時計が合わず、睡眠や日中の活動に影響する

原因やずれ方によって対応が異なり、すべてに同じ「早寝早起き」を勧めるわけではありません。NHLBI, NIH

概日リズム睡眠・覚醒障害の診断

平日と休日の両方を確認する

診察では、寝床に入る時刻だけでなく、実際に眠れる時刻、自然に目が覚める時刻、必要な起床時刻との違いを確認します。

学校や仕事のある日と休みの日で、睡眠がどう変わるかは重要な情報です。目覚まし時計を使わずに眠れる日の様子も、診断の手がかりになります。

併せて、昼寝、夜間の光、勤務時間、カフェインや飲酒、服薬、気分の変化などを確認します。

睡眠・覚醒相後退障害では、症状が3か月以上続いていることなどが診断の目安になります。ただし、生活への支障があれば、3か月を待たずに相談して構いません。NHLBI, NIH

睡眠日誌と必要に応じた検査

睡眠日誌では、就床・入眠・起床時刻、昼寝、日中の眠気などを記録します。平日と休日を含め、できれば2週間程度の記録があると、リズムを把握しやすくなります。

必要に応じて、腕時計型の機器で活動を記録するアクチグラフィや、専門施設でのメラトニン分泌の測定などを検討します。すべての方にこれらの検査が必要なわけではありません。NHLBI, NIH

不眠症やほかの疾患との区別

不眠症では、自分に合った時間帯に十分な睡眠の機会を設けても、寝つけなさや途中で目が覚める問題が続くことがあります。一方、睡眠相後退では、**「早い時刻には眠れないが、遅い時刻ならまとまって眠れる」**という時間帯との関係が手がかりになります。

睡眠時間そのものが不足している状態、睡眠時無呼吸症候群、過眠症、うつ病などの可能性も確認します。

とくに「睡眠が短くても眠くならず、普段より活動的・多弁になる」場合は、双極症の躁状態・軽躁状態などの評価も必要です。朝の起きにくさだけで、睡眠相後退と決めつけることはできません。ことのはメンタルクリニック

概日リズム睡眠・覚醒障害の治療

治療の目標は、必要な睡眠を確保しながら、生活に合うリズムへ近づけ、日中の支障を減らすことです。

ここからは、主に睡眠・覚醒相後退障害の治療を説明します。光や薬の適切な時間帯は障害の種類によって異なるため、ほかのタイプにはそのまま当てはまりません。

起床時刻と生活の予定を段階的に整える

最初から理想の時刻に合わせようとせず、現在の睡眠を確認し、継続できる起床時刻や日中の予定を相談します。休日も起きる時刻を大きくずらさないことが基本ですが、慢性的な睡眠不足を無視して早起きだけを強制しないことも大切です。

起床後の食事、日中の活動、夜間の過ごし方を含め、毎日のリズムを整えます。長い昼寝や夕方以降の昼寝は、夜の睡眠を妨げることがあるため調整します。NHLBI, NIH

光を浴びる時刻を調整する

光は体内時計を調整する大切な手がかりです。一般に、起床後の朝の光は睡眠の時間帯を早める方向に、夜の強い光は遅らせる方向に働きます。

睡眠相後退では、起床後に自然光を取り入れ、夜は照明や画面の明るさを抑える工夫をします。スマートフォンだけでなく、部屋全体の明るさや、使い続ける時間も見直します。NHLBI, NIH

必要に応じて高照度光療法を検討しますが、光を当てる時刻によって効果の方向が変わります。 大きくリズムが遅れている方に、一律の早朝照射を自己判断で勧めることは適切ではありません。

双極症のある方では気分の高まりに注意し、眼の病気や光への感受性を高める薬がある方では、安全性を確認して行います。aasm.org

メラトニンに関係する薬物療法

メラトニンは、夜になったことを体に伝える働きをもつホルモンです。海外では、睡眠相後退に対して、適切な時刻にメラトニンを使用する治療が検討されています。

ここでは、眠気を促す作用と、体内時計の時間帯を動かす作用を区別して考える必要があります。「眠れなかったら深夜に追加する」「量を増やせば早く治る」といった使い方ではなく、目的に応じて服用時刻を設定します。aasm.org

国内では、メラトニン受容体作動薬のラメルテオンが処方されることがあります。ただし、承認効能は「不眠症における入眠困難の改善」であり、睡眠相後退障害そのものの承認治療薬ではありません。海外のメラトニンの研究結果を、ラメルテオンにそのまま置き換えることもできません。pmda.go.jp

薬の選択や使用時刻は、承認範囲、併用薬、眠気などの副作用を確認して判断します。海外のサプリメントを自己判断で使い始める前に、ご相談ください。

研究紹介:メラトニンで、どの程度早く眠れるようになるのか

Slettenらが2018年に報告したランダム化比較試験では、睡眠相後退があり、希望する就寝時刻に対してメラトニン分泌のタイミングも遅れていた116人を対象に、4週間の治療を比較しました。

両群で睡眠スケジュールを調整し、一方には希望就寝時刻の1時間前に速放性メラトニン0.5mg、もう一方にはプラセボを使用しました。

メラトニン群では、プラセボ群に比べ、活動記録から推定した入眠時刻が平均34分早まり、睡眠に関連する日中の支障も改善しました。

ただし、この試験で体内時計そのものの前進が群間で明確に示されたわけではなく、研究者らは眠りを促す作用の寄与を重視しています。長期の効果・安全性も評価していません。

この研究は、生活リズムの調整と薬を組み合わせる意義を示しますが、「誰でも同じ量を同じ時刻に飲めばよい」とする根拠ではありません。PLOS Medicine

睡眠薬だけで解決するとは限らない

睡眠薬で寝つきが改善しても、体内時計のずれが十分に調整されないことがあります。翌朝の眠気や起床困難が強くなる場合もあるため、眠れない時刻だけを見て薬を増やさず、睡眠全体のパターンを評価します。

不眠への不安が重なっている場合には、認知行動療法の考え方を取り入れるなど、併存する不眠にも対応します。aasm.org

概日リズム睡眠・覚醒障害のその他の補足事項

徹夜して一気に直そうとしてもよいのか

徹夜の後に早く眠れても、体内時計の調整が維持されるとは限りません。睡眠不足による事故や気分の不安定化にも注意が必要です。

就寝時刻を毎日遅らせて一周させる「時間療法」もありますが、十分な根拠が確立した一般的な自己対処法ではなく、非24時間型のリズムに移行した報告もあります。自己判断で行わず、専門的な管理のもとで検討します。aasm.org

学校や職場の調整が必要なことも

治療中に、始業時刻や登校時刻などの調整が必要になる場合があります。

「通常の時間に来られるか」だけでなく、十分な睡眠を確保できているか、欠席や欠勤が減っているか、日中に活動できるかを見ながら、現実的な目標を立てます。

ご家族も、起きられないことを責めるだけでなく、本人がどの時刻なら眠れているかを一緒に確認してみてください。

受診を考えていただきたい状態

夜に眠れない、朝に起きられない状態が続き、遅刻・欠席・欠勤などが増えている場合は、ご相談ください。睡眠日誌があれば参考になりますが、記録を完成させてから受診する必要はありません。

運転中に眠り込みそうになるほどの眠気がある場合は、運転を控え、早めの評価が必要です。強い気分の落ち込みや、睡眠が少なくても活動性が著しく高まる状態がある場合には、睡眠リズム以外の問題も含めて確認します。

必要な検査や専門的な治療がある場合には、睡眠を専門とする医療機関との連携を検討します。

参考文献・資料

  1. NHLBI. Circadian Rhythm Disorders.
  2. NHLBI. Circadian Rhythm Disorders: Types.
  3. NHLBI. Circadian Rhythm Disorders: Diagnosis.
  4. NHLBI. Circadian Rhythm Disorders: Treatment.
  5. Auger RR, et al. Clinical Practice Guideline for the Treatment of Intrinsic Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders. J Clin Sleep Med. 2015;11(10):1199–1236. doi:10.5664/jcsm.5100
  6. Sletten TL, et al. Efficacy of melatonin with behavioural sleep-wake scheduling for delayed sleep-wake phase disorder: A double-blind, randomised clinical trial. PLoS Med. 2018;15(6):e1002587. doi:10.1371/journal.pmed.1002587
  7. 厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド2023.
  8. PMDA.ロゼレム錠8mg 電子添文.

情報確認日:2026年10月17日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)