身体症状症

札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
痛みやだるさ、動悸、胃腸の不調が続く。検査を受けても安心できず、体のことが頭から離れない。症状が気になって、仕事や外出が難しくなっている。
こうした身体症状と、それに伴う強い不安や生活への支障を理解するための診断のひとつが、**身体症状症(somatic symptom disorder:SSD)**です。
最初にお伝えしたいのは、身体症状症は「気のせい」「仮病」という意味ではない、ということです。ご本人が感じている痛みや不快感は、実際の苦痛です。
また、「検査で異常が見つからなかった」という理由だけで診断する病気でもありません。身体の病気の有無に加え、症状への不安や対処の仕方、日常生活への影響を丁寧に確認します。What is Somatic Symptom Disorder?
目次
身体症状症の診断
どのような状態を指すのか
DSM-5-TRに基づく診断では、主に次の点を確認します。
| 診断で確認する点 | 内容 |
|---|---|
| 身体症状 | 苦痛を伴う、または日常生活に支障を来す身体症状がひとつ以上ある |
| 症状に関連する考え・不安・行動 | 症状の深刻さについての持続的で釣り合わない考え、健康や症状についての持続的で強い不安、症状への過剰な時間・労力の投入のうち、ひとつ以上がある |
| 持続期間 | 症状のある状態が持続しており、通常は6か月を超えている |
同じ症状が毎日続く必要はなく、症状の種類や強さが変わることもあります。また、この期間は「6か月経つまで受診や治療を待つ」という意味ではありません。
ここでいう「過剰」は、患者さんを責める言葉ではありません。身体の状態やこれまでの経過、置かれている状況を踏まえて、症状への反応が生活をどれほど圧迫しているかを医学的に評価します。What is Somatic Symptom Disorder?
身体の病気があっても診断されることがある
身体症状症は、原因不明の症状だけを対象にした診断ではありません。身体疾患があっても、症状への強い不安や対処行動が生活に大きな支障をもたらしている場合には、併存することがあります。
ただし、重い病気になれば不安を感じるのは自然です。「不安が強い」「何度も受診した」という事実だけで、身体症状症と判断することはできません。Somatic Symptom Disorder
過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアなどとも、診断の観点が異なります。これらの病気があるからといって、自動的に身体症状症になるわけではありません。
身体疾患の評価と、その後の見直し
診療では、症状の始まり方や変化、これまでの検査、治療中の病気、薬の影響などを確認します。必要に応じて、内科や各専門科と連携します。
一度身体症状症と診断されても、新しい症状や明らかな悪化を、すべて同じ原因として扱うことはできません。
突然の強い胸痛や呼吸困難、片側の麻痺、吐血・下血などは、救急での評価が必要になる症状です。持続する発熱や意図しない体重減少なども、身体面から改めて調べる必要があります。
大切なのは、必要な身体診療を続けながら、重複する検査や負担の大きい治療をどう減らすかを相談することです。Expert Q&A: Somatic Symptom Disorder
身体症状が続く仕組み
身体症状が続く背景は、ひとつとは限りません。身体の病気や体調変化に加え、睡眠、不安、症状への注意の向き方、活動の変化などが関わることがあります。
例えば、動悸に気づいて「心臓に重大な異常があるのでは」と考えると、緊張が強まり、さらに鼓動を意識しやすくなることがあります。安心するために脈を何度も確かめても、しばらくするとまた不安になる、という循環です。
これは症状を意図的に作っているという意味ではありません。実際の体の感覚と、不安や注意の働きが互いに影響している、という理解です。
2024年のLancetの総説でも、持続する身体症状は、身体・心理・社会的な要因が重なって生じるものとして整理されています。ただし、持続する身体症状のある方全員が、身体症状症に該当するわけではありません。(Löwe et al., 2024)The Lancet
身体症状症の治療
継続して相談できる医師と、治療方針を共有する
治療では、「何が確認できているか」「どのような変化があれば追加の検査をするか」を医師と共有します。受診先が複数ある場合は、検査結果や処方内容をまとめておくことも役立ちます。
症状が強いときだけ受診する形に加え、定期的に経過を確認する機会を設ける方法があります。困りごとを相談しながら、その都度の症状だけでなく、生活全体の変化を見ていくためです。
「これ以上検査をしません」と一方的に区切るのではなく、必要な診療と、負担を増やす検査・治療を一緒に整理していきます。JAMA Network
認知行動療法
認知行動療法(CBT)では、症状の受け止め方や、その後の行動を整理します。症状を否定するためではなく、苦痛を強める循環を減らすための治療です。
例えば、体の確認や病気の検索を繰り返していないか、症状への不安から活動を避け続けていないかを振り返り、無理のない対処方法を考えます。
Allenらは、従来の診断である「身体化障害」の患者84人を対象に、医師への診療上の助言を組み込んだ標準的診療と、それに10回の個人CBTを追加した治療を比較しました。
開始から15か月後に、評価者から「かなり改善」または「非常に改善」と判断された割合は、**CBT追加群40%、比較群5%**でした。身体機能や身体症状にも、CBT追加群でより大きな改善がみられました。(Allen et al., 2006)
ただし、現在の身体症状症とは診断基準が異なります。この結果を、そのまま身体症状症全体の「治癒率」として示すことはできません。JAMA Network
健康への不安を対象にした研究
Newbyらは、病気不安症、または健康不安を伴う身体症状症の成人86人を対象に、医療者の支援を伴うインターネットCBTと、心理教育・支援・経過観察を比較しました。
12週間の治療後、健康不安の尺度で測定誤差を超える改善を示した割合は、**CBT群84%、比較群34%**でした。(Newby et al., 2018)
ここで測定しているのは「健康への不安」の改善です。「身体症状が84%の人で消えた」という意味ではありません。また、対象は健康不安を伴う方々であり、身体症状症のすべての患者さんに同じ効果があるとまでは言えません。
研究を読む際には、何を対象に治療し、何が改善したのかを分けて考える必要があります。PubMed
薬物療法
薬は、併存するうつ病や不安症、痛みなど、治療の対象を明確にしたうえで検討します。身体症状症と診断された方全員に、同じ薬を処方するわけではありません。
抗うつ薬を使う場合も、「うつ病への効果」と「痛みなどへの効果」は分けて評価します。薬や治療対象によって保険適用が異なり、適応外使用となる場合には、その点も含めた説明が必要です。
副作用による体調変化が負担になることもあるため、効果と副作用を確認しながら調整します。薬を増やす前に、現在の処方の目的や重複を見直すことも大切です。Mayo Clinic
生活の回復を、具体的な目標にする
治療では症状の軽減を目指すとともに、「どのくらい眠れたか」「外出できたか」「仕事や家事の負担が減ったか」も確認します。
症状が完全になくなるのを待つだけでは、生活が長く制限されてしまうことがあります。体の状態に合った範囲で、できることを少しずつ取り戻していきます。
ただし、無理に運動や仕事の量を増やすことを一律に勧めるものではありません。活動後に強く悪化する場合などは、その反応を医師と共有し、身体疾患の評価も含めて調整します。Mayo Clinic
身体症状症のその他の補足事項
病気不安症との違い
身体症状症では、実際の身体症状と、それに伴う不安や生活上の支障が問題になります。一方、病気不安症では、身体症状がないか軽いにもかかわらず、重大な病気にかかっている、またはかかるのではないかという不安が中心になります。
両者は似た部分がありますが、診断では何が苦痛の中心なのかを確認します。NCBI Bookshelf
ご家族ができること
「気にしすぎ」「検査で問題なかったのだから大丈夫」と伝えても、本人のつらさが軽くなるとは限りません。
まずは症状で困っていることを受け止めたうえで、必要な受診や、生活上の工夫を一緒に考えることが支えになります。
その一方で、家族が一日中病気の検索や体調確認を手伝い続けると、双方が疲弊することもあります。どのような変化があれば受診するのかを主治医と相談し、症状以外の会話や活動の時間も保てるようにします。Expert Q&A: Somatic Symptom Disorder
心療内科・精神科で相談する意味
心療内科・精神科では、身体症状とともに、不安、睡眠、気分、日常生活への影響を整理します。
「体に異常がないことを納得してもらう」ためではなく、今ある苦痛を軽くし、生活を取り戻す方法を考えるための相談です。身体の診療を担当する医師と連携しながら、治療を進めることもあります。
参考文献
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision(DSM-5-TR). 2022. 診断の概要は学会公開解説も参照。
- American Psychiatric Association. Expert Q&A: Somatic Symptom Disorder.
- Löwe B, et al. Persistent physical symptoms: definition, genesis, and management. Lancet. 2024;403:2649–2662. doi:10.1016/S0140-6736(24)00623-8
- Allen LA, et al. Cognitive-Behavioral Therapy for Somatization Disorder: A Randomized Controlled Trial. Arch Intern Med. 2006;166:1512–1518. doi:10.1001/archinte.166.14.1512
- Newby JM, et al. Internet-based cognitive behavioral therapy versus psychoeducation control for illness anxiety disorder and somatic symptom disorder: A randomized controlled trial. J Consult Clin Psychol. 2018;86:89–98. doi:10.1037/ccp0000248
- Mayo Clinic. Somatic symptom disorder: Diagnosis and treatment. 2026年1月3日更新。
情報確認日:2026年10月17日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)