うつ病②


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。


うつ病と自殺リスク

うつ病の診療において、特に注意しなければならないのが自殺リスクです。

うつ病では、抑うつ気分や意欲低下だけでなく、強い絶望感、無価値感、罪責感などが出現することがあります。

症状が重くなると「自分には生きている価値がない」「周囲に迷惑をかけている」「いなくなったほうがよい」といった考えが生じる場合もあります。

こうした考えがさらに強くなると、自殺念慮や自殺企図につながることがあります。

ただし、自殺リスクは抑うつ症状の重症度だけで決まるわけではありません。

過去の自殺企図歴、現在の自殺念慮の強さ、具体的な計画の有無、衝動性、アルコール使用、精神病症状、社会的孤立、経済的問題など、さまざまな要因が関係します。

また、自殺念慮がある患者さんが、必ずしも診察の際に自発的にそのことを話してくれるとは限りません。

そのため、うつ病の診療では、必要に応じて死についての考えや自殺念慮について直接確認することが重要です。

自殺念慮の有無を質問することによって、自殺の考えを新たに植え付けてしまうのではないかと心配されることがありますが、適切に質問すること自体が自殺リスクを高めるという根拠はありません。

また、自殺リスクを正確に予測できる単一の検査や評価尺度は存在しません。

診察で把握した情報をもとに、現在の切迫性や安全確保の必要性を総合的に評価することになります。

自殺念慮がある場合にはどうするか?

自殺念慮が認められるからといって、すべての患者さんに入院治療が必要となるわけではありません。

一方で、具体的な自殺計画が存在する場合、自殺の意図が強い場合、安全を確保することが難しい場合などには、緊急の精神科的評価や入院治療を検討する必要があります。

外来治療を継続する場合にも、診察間隔の調整、家族など周囲の方との協力、安全確保のための具体的な計画が重要となります。

例えば、危険な状態になったときの連絡先を事前に決めておくことや、過量服薬などを防ぐために薬剤の管理方法を調整することがあります。

また、自殺リスクが高い患者さんでは、一度に処方する薬剤の量を必要最小限にすることも検討します。

患者さん自身が「死にたい」「消えてしまいたい」と感じている場合には、診察時にそのことを伝えていただくことが重要です。

差し迫った危険がある場合や、自分自身の安全を確保できない場合には、通常の予約日を待たずに救急医療機関への受診や119番への連絡など、緊急の対応が必要になります。

抗うつ薬の治療開始時に注意すること

抗うつ薬は、うつ病に対する有効性が確立された治療手段ですが、治療を開始した直後にはいくつか注意すべき点があります。

抗うつ薬の効果が十分に現れるまでには数週間を要することが多い一方、副作用は治療開始直後から出現する場合があります。

例えば、SSRIやSNRIでは、悪心、下痢、不眠、焦燥感などが認められることがあります。

また、薬剤によっては眠気や食欲増加、体重増加などが問題になることもあります。

こうした副作用の多くは時間とともに軽減しますが、症状が強い場合には用量調整や薬剤変更が必要になることがあります。

抗うつ薬を飲み始めると自殺リスクが高まる?

抗うつ薬と自殺関連事象の関係については、以前から議論が行われています。

抗うつ薬による治療開始後、一部の患者さんで不安、焦燥、興奮、不眠、衝動性の増大などが出現する場合があります。

こうした症状は賦活症候群(activation syndrome)などと呼ばれることがあります。

また、アカシジアと呼ばれる、じっとしていられないような強い落ち着かなさが出現することもあります。

これらの症状は患者さんにとって非常につらいものであり、症状によっては自殺念慮や衝動的な行動の悪化につながる可能性があります。

ただし、抗うつ薬によって自殺関連事象が増加するかどうかは、年齢などによっても異なります。

抗うつ薬の臨床試験を統合した解析では、小児・青年や若年成人では、プラセボと比較して自殺念慮・自殺行動が増加する可能性が示されています。

一方、成人全体について、抗うつ薬が一律に自殺リスクを増加させると考えるのは適切ではありません。

また、うつ病そのものが自殺リスクを伴う疾患であることにも注意が必要です。

したがって、自殺関連事象の懸念だけを理由に、必要な抗うつ薬治療を避けるべきではありません。

重要なのは、患者さんの状態を評価したうえで治療を開始し、その後の変化を慎重に確認することです。

治療開始後はいつ受診する?

英国のNICEガイドラインでは、抗うつ薬の開始後、通常は2週間以内に症状や副作用などを確認することが推奨されています。

さらに、18~25歳の患者さんや自殺リスクが高い患者さんでは、抗うつ薬の開始または増量から1週間後に、自殺念慮などを再評価することが推奨されています。

これは、抗うつ薬を処方したら数週間から1か月程度は何も確認しなくてよい、というものではないことを示しています。

実際の診療では、年齢、症状の重症度、自殺念慮の有無、薬剤の忍容性、家族などの支援体制を考慮して、診察間隔を決めることになります。

また、抗うつ薬による治療では、効果が十分に現れるまで一定の期間が必要です。

治療開始後すぐに改善しないからといって、必ずしも薬剤が無効であるとは限りません。

反対に、強い焦燥感、急激な不眠、異常な興奮、衝動性の増大、自殺念慮の悪化などが認められた場合には、次回の診察日を待たずに医療機関へ相談することが重要です。

また、睡眠時間が短くても疲れない、普段よりも著しく活動的になる、気分が異常に高揚するなどの変化が認められた場合には、躁転・軽躁転の可能性も考慮する必要があります。

抗うつ薬を開始した患者さんだけでなく、ご家族など周囲の方にも、このような変化に注意していただくことが望ましいと考えます。

抗うつ薬が効かない場合の増強療法

抗うつ薬を十分な用量と期間で使用しても、期待した治療効果が得られないことがあります。

そのような場合に検討されるのが、抗うつ薬の変更、別の薬剤の追加、心理療法の導入などです。

薬剤を追加して抗うつ効果を高める治療方法は、増強療法(augmentation therapy)と呼ばれます。

代表的な増強療法として、アリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬の追加や、リチウム増強療法があります。

ただし、抗うつ薬の効果が不十分だからといって、直ちに薬剤を追加すればよいというわけではありません。

その前に、診断が適切であるか、治療用量や期間が十分であるか、服薬を継続できているか、双極性障害や身体疾患などが隠れていないかを再評価することが重要です。

アリピプラゾールによる増強療法は有効なのか?

アリピプラゾールは、もともと統合失調症や双極性障害などに使用される非定型抗精神病薬です。

ドパミンD2受容体などに対する部分作動作用を有し、セロトニン受容体にも作用します。

日本では、既存治療で十分な効果が得られないうつ病・うつ状態に対して、抗うつ薬と併用する使用方法が承認されています。

その有効性については、海外だけでなく、日本人を対象としたランダム化比較試験も行われています。

2013年にJournal of Affective Disorders誌に掲載されたADMIRE試験では、抗うつ薬による治療で十分な効果が得られなかった日本人のうつ病患者さんを対象として、アリピプラゾール増強療法の有効性が検討されました。

この研究では、8週間の抗うつ薬治療で十分な改善が得られなかった患者586人が、以下の3群に無作為に割り付けられました。

  • 抗うつ薬+プラセボ:195人
  • 抗うつ薬+アリピプラゾール3mg固定用量:197人
  • 抗うつ薬+アリピプラゾール3~15mg可変用量:194人

治療期間は6週間で、主要評価項目にはMADRS(Montgomery–Åsberg Depression Rating Scale)という、うつ病の重症度を評価する尺度が用いられました。

その結果、MADRSの平均改善量は以下のようになりました。

治療群MADRSの平均変化量
プラセボ追加−7.4点
アリピプラゾール3mg追加−10.5点
アリピプラゾール3~15mg追加−9.6点

アリピプラゾールを追加した両群では、プラセボ追加群と比較して統計学的に有意な改善が認められました。

この研究の興味深い点は、3mg固定用量でも有効性が確認されたことです。

また、可変用量群が固定用量群より優れた結果を示したわけではありません。

ただし、この試験は固定用量と可変用量の優劣を確定するための試験ではないため、「3mgのほうが高用量より有効である」とまでは結論できません。

一方、アリピプラゾールではアカシジアが重要な副作用となります。

特に可変用量群でのアカシジア発現が問題となっており、研究者らは日本人を含むアジア人に比較的多いCYP2D6の遺伝子多型が関与している可能性にも言及しています。

アリピプラゾール増強療法には有効性が認められますが、用量を増やせば必ずしも効果が高まるわけではなく、副作用にも注意する必要があるということです。

抗うつ薬を切り替えるのと、アリピプラゾールを追加するのでは、どちらが有効か?

抗うつ薬の効果が不十分な場合、臨床的には「別の抗うつ薬に変更するべきか、それとも現在の抗うつ薬に別の薬剤を追加するべきか」という問題があります。

この疑問について検討した研究の一つが、2017年にJAMA誌に掲載されたVAST-D試験です。

この研究では、抗うつ薬による治療で十分な改善が得られなかった大うつ病性障害の患者1,522人が対象となりました。

患者さんは以下の3群に無作為に割り付けられ、12週間の治療を受けました。

  1. 現在の抗うつ薬をブプロピオンに変更する群
  2. 現在の抗うつ薬にブプロピオンを追加する群
  3. 現在の抗うつ薬にアリピプラゾールを追加する群

ブプロピオンはノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害作用を有する薬剤で、日本ではうつ病治療薬として承認されていません。

VAST-D試験で得られた12週間の寛解率は以下のようになりました。

治療群寛解率
ブプロピオンへの変更22.3%
ブプロピオンの追加26.9%
アリピプラゾールの追加28.9%

アリピプラゾール追加群は、ブプロピオンへの変更群と比較して、有意に高い寛解率を示しました。

相対リスクは1.30(95%信頼区間1.05~1.60)であり、絶対差は6.6ポイントでした。

一方、アリピプラゾール追加群とブプロピオン追加群の寛解率の差は統計学的に有意ではありませんでした。

また、ブプロピオン追加群とブプロピオン変更群の比較でも、寛解率に有意差は認められませんでした。

この結果から、アリピプラゾールを追加する方法は、少なくともブプロピオンに切り替える方法よりも、寛解が得られやすい可能性があります。

ただし、その差は比較的小さいものでした。

また、この研究では対象患者の約85%が男性であり、米国の退役軍人医療制度を利用している患者さんが中心でした。

そのため、結果を日本の一般的な精神科外来患者さんすべてに適用するには注意が必要です。

さらに、アリピプラゾール追加群では、眠気、アカシジア、体重増加などの副作用が多く認められました。

つまり、寛解率が少し高くなるという利点があっても、副作用まで含めた総合的な利益が、すべての患者さんで上回るとは限りません。

高齢者では増強療法と薬剤変更のどちらが有効か?

2023年にNew England Journal of Medicine誌に掲載されたOPTIMUM試験でも、薬剤の変更と増強療法が比較されています。

この研究では、治療抵抗性うつ病を有する60歳以上の患者さんが対象となりました。

第1段階には619人が参加し、アリピプラゾール追加、ブプロピオン追加、ブプロピオンへの変更という3種類の治療方法が比較されました。

約10週間の治療で得られた寛解率は以下のようになりました。

治療群寛解率
ブプロピオンへの変更19.3%
ブプロピオンの追加28.2%
アリピプラゾールの追加28.9%

VAST-D試験とよく似た結果が得られています。

また、この研究では、うつ症状の改善だけでなく、心理的ウェルビーイングの変化も主要評価項目として検討されました。

アリピプラゾール追加群は、ブプロピオン変更群よりも有意に大きなウェルビーイングの改善を示しました。

一方、アリピプラゾール追加群とブプロピオン追加群の間には、有意な差は認められませんでした。

OPTIMUM試験も、アリピプラゾール増強療法の有効性を支持する研究といえます。

ただし、非盲検試験であることや、対象が60歳以上の患者さんであることなど、結果の解釈には一定の限界があります。

また、高齢者に抗精神病薬を追加する場合には、転倒、錐体外路症状、代謝系への影響などについても慎重な評価が必要です。

増強療法と薬剤変更、どちらを選択するべき?

以上の研究を総合すると、抗うつ薬に十分な反応が得られない場合、アリピプラゾールを追加する増強療法には一定の有効性が認められると考えられます。

しかし、すべての患者さんにアリピプラゾールを追加することが最善とは限りません。

例えば、現在の抗うつ薬で部分的な改善が認められており、副作用も少ない場合には、その薬剤を継続しながら増強療法を行うことが合理的な選択肢となります。

一方、現在の抗うつ薬でほとんど改善が得られていない場合や、副作用が問題となっている場合には、薬剤変更のほうが適切なこともあります。

また、体重増加やアカシジアなどが問題となりやすい患者さんでは、アリピプラゾールの追加による不利益が大きくなる可能性があります。

ここで強調したいのは、増強療法は有効な治療方法の一つですが、単純に薬剤を追加することが目的ではないという点です。

治療抵抗性うつ病では薬剤数が増えやすくなりますが、多剤併用によって副作用や薬物相互作用も増加します。

そのため、増強療法を行う場合にも、改善が得られているかどうかを定期的に評価し、十分な利益が得られない場合には治療方針を再検討する必要があります。

また、アリピプラゾール増強療法の有効性は、海外での比較試験に加えて、日本人を対象としたプラセボ対照試験でも確認されています。

一方、薬剤変更と増強療法を比較した海外研究で用いられたブプロピオンは、日本のうつ病診療では承認されていません。

したがって、海外研究の結果を日本の診療に応用する場合には、国内の承認状況や治療環境の違いも考慮する必要があります。

なお、日本でアリピプラゾールをうつ病・うつ状態に使用する場合、添付文書では既存治療で十分な効果が得られない場合に限られ、抗うつ薬との併用が前提とされています。

通常の開始用量は1日3mgであり、その後は患者さんの症状や副作用を確認しながら用量を調整します。

治療効果だけでなく、アカシジア、不眠、体重増加、代謝系への影響なども慎重に評価する必要があります。

リチウム増強療法

アリピプラゾール以外の増強療法としては、リチウムを使用する方法もあります。

リチウム増強療法は以前から研究されている治療方法ですが、腎機能、甲状腺機能、血中濃度などのモニタリングが必要になります。

先ほど紹介したOPTIMUM試験では、第2段階として、リチウム増強療法とノルトリプチリンへの変更が比較されました。

第2段階には248人が参加し、寛解率はリチウム追加群で18.9%、ノルトリプチリン変更群で21.5%でした。

両群の間に有意な差は認められませんでした。

ただし、この段階に参加した患者さんは、すでに複数の治療で十分な改善が得られていない患者さんなどが中心です。

したがって、この結果だけでリチウム増強療法が無効であるとはいえません。

また、リチウム増強療法については、海外の研究結果と日本国内での承認・保険適用を区別する必要があります。

治療抵抗性うつ病の治療では、薬剤変更、増強療法、心理療法、ECT、rTMSなど、複数の選択肢について総合的に検討することが重要です。

追加参考文献

  1. Kamijima K, et al. Aripiprazole augmentation to antidepressant therapy in Japanese patients with major depressive disorder: a randomized, double-blind, placebo-controlled study (ADMIRE study). Journal of Affective Disorders. 2013;151:899–905.
    https://doi.org/10.1016/j.jad.2013.07.035
  2. Mohamed S, et al. Effect of Antidepressant Switching vs Augmentation on Remission Among Patients With Major Depressive Disorder Unresponsive to Antidepressant Treatment: The VAST-D Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;318:132–145.
    https://doi.org/10.1001/jama.2017.8036
  3. Lenze EJ, et al. Antidepressant Augmentation versus Switch in Treatment-Resistant Geriatric Depression. New England Journal of Medicine. 2023;388:1067–1079.
    https://doi.org/10.1056/NEJMoa2204462
  4. National Institute for Health and Care Excellence. Depression in adults: treatment and management. NICE Guideline NG222. 2022.
    https://www.nice.org.uk/guidance/ng222
  5. 医薬品医療機器総合機構(PMDA).エビリファイ錠・散 添付文書.2025年12月改訂.
    https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/180078_1179045B1021_1_39
  6. 厚生労働省.まもろうよ こころ:相談窓口.
    https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/