結局どの片頭痛の予防薬が良いのか

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「片頭痛の予防薬は、結局どれが一番効きますか?」
これはもっともな疑問です。
ロメリジン、プロプラノロール、バルプロ酸、アミトリプチリン。さらにCGRP関連抗体薬や、飲み薬の「ゲパント」も登場し、片頭痛の予防治療は選択肢が増えました。
先に結論をお伝えすると、効果と続けやすさの両方を考えた場合、CGRPを標的とする薬は有力な選択肢です。一方、費用や併存症まで含めて考えると、従来の内服薬が適している方もいます。
そして、「全員に一番良い薬」が決まっているわけではありません。
この記事では、薬の特徴だけでなく、比較試験から何が分かり、何が分からないのかまで解説します。
目次
- どのくらい頭痛があれば予防薬を考えるのか?
- 主な予防薬を比較すると?
- CGRP関連薬は、なぜ注目されているのか?
- 「効く薬」と「続けられる薬」は、どこまで違うのか?
- 注射薬のほうが、飲み薬より強いのか?
- 2026年の変化――CGRPを標的とする飲み薬が使えるようになった
- 医学的に面白い点――脳に入りにくくても、片頭痛を予防できる
- 不眠や緊張型頭痛もあるなら、アミトリプチリンが候補になる
- バルプロ酸は有効だが、「使いやすさ」は患者さんによって大きく変わる
- トピラマートの弱点は、頭痛日数だけでは見えない
- 高血圧もあるなら、カンデサルタンは興味深い候補
- 「50%の人に効く」と「平均で2日減る」は、違う情報
- 効かなかったと判断する前に、何を確認するか?
- 結局、どの薬から考えるのがよいのか?
- 参考文献・情報源
どのくらい頭痛があれば予防薬を考えるのか?
片頭痛の予防薬は、毎日頭痛がある方だけの薬ではありません。
発作が月に2回以上ある場合や、回数が少なくても仕事・家事・学業への支障が大きい場合、発作時の薬が十分に効かない場合などに検討します。
「月に何回」という数字だけで決めるのではなく、寝込む時間、予定をキャンセルする頻度、急性期治療薬を使う日数も判断材料になります。
また、「発作回数」と「頭痛日数」は別です。1回の発作が3日続けば、発作は1回でも、頭痛のある日は3日になります。治療を評価する際には、この区別が大切です。
主な予防薬を比較すると?
以下は、成人の片頭痛予防で検討される代表的な薬です。国内の承認適応と、研究で有効性が示されていることは分けて考える必要があります。
| 薬剤・分類 | 特徴・選択を考える場面 | 主な注意点 | 国内での位置づけ |
|---|---|---|---|
| ロメリジン〔ミグシスなど〕 | 国内で使われてきた予防薬。費用を抑えて内服治療を始めたい場合の候補 | 眠気、めまいなど。十分な効果が得られない場合は見直す | 片頭痛の予防に承認 |
| プロプラノロール〔インデラル〕 | 予防効果のエビデンスがあるβ遮断薬。血圧や脈拍も踏まえて選択 | 喘息、徐脈、低血圧、倦怠感など | 片頭痛発作の発症抑制に承認 |
| バルプロ酸〔デパケンなど〕 | 予防効果が確認されている。併存疾患も考慮して選択 | 体重増加、振戦、肝障害、生殖・胎児へのリスクなど | 片頭痛発作の発症抑制に承認。妊婦・妊娠の可能性がある女性には、この目的では禁忌 |
| アミトリプチリン〔トリプタノール〕 | 不眠や緊張型頭痛の併存などが選択の参考になる | 眠気、口渇、便秘、体重増加、起立性低血圧、心伝導への影響など | 片頭痛予防としては適応外 |
| トピラマート〔トピナ〕 | 海外では標準的な予防薬の一つ。体重減少を伴うことがある | しびれ、認知・言語機能への影響、尿路結石、胎児へのリスクなど | 国内では片頭痛予防は適応外 |
| カンデサルタン〔ブロプレスなど〕 | 高血圧を伴う方などで検討される。近年も比較試験が報告されている | 低血圧、めまい、高カリウム血症、腎機能への影響。妊娠中は使用できない | 国内では片頭痛予防は適応外 |
| CGRP関連抗体薬〔エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ〕 | 片頭痛の病態を標的とする注射薬。毎日の内服を減らせる | 注射部位反応、過敏症など。薬剤ごとの注意点、費用、使用要件を確認 | 片頭痛発作の発症抑制に承認 |
| リメゲパント〔ナルティーク〕 | 経口CGRP受容体拮抗薬。予防では隔日服用 | 薬物相互作用、過敏症、肝・腎機能などを確認 | 急性期治療と発症抑制の両方に承認 |
| アトゲパント〔アクイプタ〕 | 経口CGRP受容体拮抗薬。予防目的で毎日服用 | 便秘、悪心、薬物相互作用など。条件により用量調整 | 片頭痛発作の発症抑制に承認 |
従来薬については国内ガイドラインと各薬剤の情報、新しい経口薬については電子添文をもとに整理しています。適応外使用は、承認薬と同じ条件で処方・保険給付できるという意味ではありません。
CGRP関連薬は、なぜ注目されているのか?
CGRPは、三叉神経系を介した片頭痛の痛みの伝達などに関与する神経ペプチドです。
従来の予防薬の多くは、高血圧、てんかん、うつ病などに使われる薬のなかから、片頭痛への有効性が見いだされてきました。
一方、CGRP関連薬は、片頭痛の病態に関与する分子を標的として開発されています。
日本頭痛学会は2025年のポジションステートメントで、CGRP関連抗体薬を、ほかの国内既承認予防薬と同様に、成人の予防療法の第一選択薬に含めることを推奨しました。
ただし、学会が示す医学的な位置づけと、国内で実際に保険診療として使う際の要件は別です。抗体薬では、既存予防薬の効果不十分・忍容性不良などの前治療要件や、施設・医師に関する要件の確認が必要です。
「効く薬」と「続けられる薬」は、どこまで違うのか?
この問題を考えるうえで興味深いのが、エレヌマブとトピラマートを直接比較したHER-MES試験です。
成人777人を対象とする24週間の二重盲検試験で、副作用による治療中止は、エレヌマブ群10.6%、トピラマート群38.9%でした。
また、治療後半の3か月間で月間片頭痛日数が50%以上減った方は、それぞれ55.4%と31.2%でした。
ここで大切なのは、「脳や神経に対する作用の強さ」だけを比較しているわけではないことです。
副作用で中止する方が多い薬では、治療を継続して効果を得られる方も減ります。この結果は、処方した患者さん全体での治療成績に、忍容性が大きく影響することを示しています。
一方、この試験だけで「すべてのCGRP関連薬が、すべての従来薬より優れている」とは言えません。比較した薬、用量、対象患者、観察期間の範囲で読む必要があります。
注射薬のほうが、飲み薬より強いのか?
必ずしもそうではありません。
ガルカネズマブとリメゲパントを直接比較した試験では、月間片頭痛日数が50%以上減った方の割合は、ガルカネズマブ群62.0%、リメゲパント群61.0%でした。
主要評価項目において、ガルカネズマブの優越性は示されませんでした。
ただし、「有意差がなかった」ことと、「完全に同じ効果だと証明された」ことも違います。この試験は、両者の同等性を証明するための試験ではありません。
それでも、「注射だから必ず強い」「飲み薬だから効果が弱い」という選び方に根拠が乏しいことは分かります。
投与方法への好み、飲み忘れ、注射への抵抗感、相互作用、費用なども含めて選択することになります。
2026年の変化――CGRPを標的とする飲み薬が使えるようになった
日本では、ナルティーク(一般名:リメゲパント)が2025年12月、アクイプタ(一般名:アトゲパント)が2026年4月に発売されました。
CGRPを標的とする治療が、注射薬だけではなくなったという変化です。
リメゲパントは、急性期治療と予防で使い方が違う
リメゲパントは、国内では急性期治療と発症抑制の両方に承認されています。
成人の通常用量は、急性期治療では発作時に75mg、予防では75mgの隔日投与です。いずれの目的でも、1日の総量は75mgを超えません。
同じ薬が両方の目的に使えるため、予防として服用する日と、発作時の対応をあらかじめ整理する必要があります。「効かないから同じ日にもう1錠」という使い方はできません。
アトゲパントは、予防を目的に毎日服用する
アトゲパントの国内通常用量は、成人で60mgを1日1回です。
反復性片頭痛に加え、慢性片頭痛でも臨床試験が行われています。一方、便秘や悪心は選択時に確認したい副作用です。
また、重度の腎機能障害、強いCYP3A阻害薬、OATP阻害薬との併用などでは用量調整が必要です。「新しい片頭痛薬だから飲み合わせを気にしなくてよい」というわけではありません。
医学的に面白い点――脳に入りにくくても、片頭痛を予防できる
片頭痛は脳・神経系の病気ですが、有効な薬が必ずしも大量に脳内へ移行する必要はありません。
CGRP関連抗体薬は大きな分子であり、血液脳関門を通過しにくい薬です。リメゲパントやアトゲパントも中枢への移行は限定的で、主に末梢で作用すると考えられています。
これは、硬膜や三叉神経節など、血液脳関門の外側にある部位への作用でも、片頭痛の発作を減らせることと整合します。
ただし、「末梢で薬が効く」ことから、「片頭痛は末梢だけの病気だ」と結論づけることはできません。病気が成立する仕組みと、治療で介入できる場所は、必ずしも一致しないからです。
不眠や緊張型頭痛もあるなら、アミトリプチリンが候補になる
アミトリプチリンは三環系抗うつ薬ですが、片頭痛予防で検討されるのは、うつ病のある方だけではありません。
不眠や緊張型頭痛を伴う場合には、複数の症状を考慮した選択肢になります。
一方、眠気、口渇、便秘、体重増加などが問題になり得ます。心伝導障害、排尿障害、緑内障の病型などにも注意が必要です。
臨床上は、「眠れるようになったが、日中の眠気で仕事がつらい」という結果では、総合的な利益が小さくなります。
また、頭痛目的の少量投与で、うつ病まで十分に治療できるとは限りません。頭痛、不眠、抑うつをそれぞれ評価する必要があります。
バルプロ酸は有効だが、「使いやすさ」は患者さんによって大きく変わる
バルプロ酸は、片頭痛予防の有効性が確認されている薬です。
ただし、妊娠との関係は薬剤選択を大きく左右します。国内では、片頭痛発作の発症抑制を目的とする場合、妊婦または妊娠している可能性のある女性には禁忌です。
妊娠可能年齢の方に処方する際には、現在の妊娠希望だけでなく、今後の計画まで含めた検討が必要になります。
「有効性がある」という評価と、「その方に最初に選びやすい」という評価は同じではありません。片頭痛のように複数の選択肢がある疾患では、この違いが特に重要です。
トピラマートの弱点は、頭痛日数だけでは見えない
トピラマートは、海外では代表的な片頭痛予防薬の一つです。
一方、しびれに加え、注意力や記憶、言葉の出にくさなどが問題になることがあります。国内では片頭痛予防としては適応外です。
例えば、頭痛が減っても、診療、文章作成、会議、試験勉強などに支障が出れば、本人にとっての治療成績は良好とは言えません。
研究で使われる「月間片頭痛日数」は重要な指標ですが、それだけで患者さんの利益を表しきれるわけではありません。
予防薬の評価では、頭痛のある日と同じくらい、「頭痛のない日にどれだけ普段どおり動けるか」を確認する必要があります。
高血圧もあるなら、カンデサルタンは興味深い候補
カンデサルタンは降圧薬ですが、片頭痛予防についても研究されています。
2025年のランダム化比較試験では、成人457人を対象に、カンデサルタン16mg、8mg、プラセボを比較しました。
主要評価項目である9〜12週の片頭痛日数の減少は、16mg群で4週間あたり2.04日、プラセボ群で0.82日で、群間差は1.22日でした。一方、めまいは16mg群30%、プラセボ群13%でした。
この研究は、従来からある安価な薬にも、検証を重ねる価値があることを示しています。
ただし、国内では片頭痛予防は適応外です。また、海外試験の16mgという用量を、日本の高血圧に対する通常の処方へそのまま当てはめることもできません。
低血圧や立ちくらみがある方では、頭痛への利益と循環器系の副作用との釣り合いが問題になります。
「50%の人に効く」と「平均で2日減る」は、違う情報
薬の比較では、数字の意味にも注意が必要です。
「月間片頭痛日数が平均2日減った」という結果には、大きく改善した方も、ほとんど変わらなかった方も含まれています。
一方、「50%以上改善した方の割合」は、ある基準を超えて改善した方がどのくらいいたかを示します。
さらに、薬の投与前後だけで比べるのか、プラセボとの差で比べるのかでも、見えてくる効果は違います。
例えば、前述のカンデサルタン試験では、実薬群の減少は2.04日ですが、プラセボ群でも0.82日減少しています。「薬によって2.04日分の効果が上乗せされた」と読むのは正確ではありません。
また、HER-MES試験のエレヌマブ55.4%と、別試験のガルカネズマブ62.0%を並べて、「ガルカネズマブのほうが強い」とも言えません。対象患者や試験方法が異なるためです。
薬の順位を決める際には、見栄えのよい数字より、直接比較した試験かどうかが重要になります。
効かなかったと判断する前に、何を確認するか?
予防薬は、数日飲んで変化がなければ無効、という薬ばかりではありません。
従来の内服薬では、副作用を確認しながら増量する期間も含めて評価します。CGRP関連薬でも、初回だけで最終判断するとは限りません。
国内のリメゲパント、アトゲパントの電子添文では、開始後3か月を目安に治療上の有益性を評価することになっています。
ただし、副作用がつらいのに、評価期間を満たすためだけに無理をして続ける必要はありません。
診察では、頭痛日数だけでなく、次のような変化も確認します。
- 寝込むほどの発作が減ったか
- 発作時の薬が効きやすくなったか
- 急性期治療薬を使う日が減ったか
- 仕事や家事を中断する時間が減ったか
- 眠気や便秘などで、別の支障が出ていないか
頭痛ダイアリーは、こうした変化を見える形にするために役立ちます。
結局、どの薬から考えるのがよいのか?
効果と忍容性を重視し、費用や国内の使用要件が許せば、CGRP関連抗体薬やゲパントは有力です。従来薬を長く使い続けて生活への支障が残っている場合には、治療の見直しを検討する価値があります。
一方、不眠や緊張型頭痛を伴うならアミトリプチリン、血圧・脈拍の条件が合えばプロプラノロールなど、併存症を踏まえた選び方にも合理性があります。
大切なのは、「一番強い薬」を探すことだけではありません。
頭痛を減らせること、副作用が許容できること、費用や投与方法が生活に合うこと。この条件がそろって初めて、その方にとって良い予防薬になります。
なお、突然ピークに達する激しい頭痛、麻痺や言語障害、発熱を伴う頭痛などは、予防薬の調整より先に別の病気の評価が必要です。
※本記事は成人の片頭痛予防を中心とした一般的な解説です。妊娠・授乳中、小児、重い併存疾患のある方では、薬の選択を個別に検討します。
参考文献・情報源
- 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修.頭痛の診療ガイドライン2021
- 日本頭痛学会.成人の片頭痛予防療法におけるCGRP関連抗体薬の使用に関するポジションステートメント.2025年.
- Reuter U, et al. Erenumab versus topiramate for the prevention of migraine: HER-MES. Cephalalgia. 2022.
- Comparing the Efficacy and Safety of Galcanezumab Versus Rimegepant for Prevention of Episodic Migraine. Neurol Ther. 2024.
- Øie LR, et al. Candesartan versus placebo for migraine prevention in patients with episodic migraine. Lancet Neurol. 2025;24:817–827.
- 日本頭痛学会.CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン〈暫定版〉
- PMDA.ナルティークOD錠75mg 電子添文
- PMDA.アクイプタ錠 電子添文
情報確認日:2026年10月17日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)