なぜ新患を断るメンタルクリニックが多いのか?

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「勇気を出してメンタルクリニックに連絡したのに、新患は受け付けていないと言われた」
「初診の予約が取れたのは、1か月も先だった」
「クリニックはたくさんあるのに、なぜ受診できないのでしょうか?」
困っているときに受診先が見つからないのは、つらいことです。何件も断られると、自分まで拒絶されたように感じてしまうかもしれません。
最初に結論を述べると、精神科では初診に時間がかかることに加え、受け入れた後の継続診療の枠まで必要になるため、新患を無制限には受け入れにくいという事情があります。
また、予約が埋まっている場合と、その医療機関の診療体制では対応が難しい場合では、事情が異なります。
今回は、患者さんからは見えにくい精神科外来の仕組みと、そこにある課題について説明します。
目次
初診では、現在の症状だけを聞いているわけではない
精神科の初診では、「眠れません」「気分が落ち込みます」という現在の症状に加え、その症状がどのように生じてきたかを確認します。
例えば、同じ「眠れない」という訴えでも、眠りたいのに眠れず疲れている方と、ほとんど眠っていないのに元気で活動が増えている方では、考える病態が変わります。
「うつ状態」に見える場合も、過去に気分が高揚した時期がなかったか、飲酒や薬剤の影響はないか、身体疾患が関係していないか、といった検討が必要です。
英国NICEの双極性障害のガイドラインでも、現在の気分だけでなく、過去の活動性や行動の変化、再発のパターン、家族歴、治療歴などを含めた評価が推奨されています。NICE
精神科の診断では、「今日どう見えるか」と「これまでどう経過してきたか」の両方が重要です。
初診は、単に話を長く聞く時間ではありません。症状の背景を整理し、治療の方向性と安全性を検討する時間でもあります。
ただし、長時間なら必ず質が高いという意味でもありません。紹介状や事前問診が充実している場合もあれば、一度にすべてを聞くより、複数回に分けたほうがよい場合もあります。
本当に難しいのは、「今日の初診枠」より「その後の再診枠」
新患の受け入れを考える際、見落とされやすいのがこの点です。
初診を受けた方は、その1回で診療が完結するとは限りません。薬を開始した場合には、効果や副作用を確認する必要がありますし、休職や生活環境の調整を含めて、経過を追うこともあります。
つまり、新患を1人受け入れることは、その方の今後の診療も引き受けることにつながります。
単純な仮定で考えてみましょう。
毎月20人の新患を受け入れ、その全員が1年間、月1回の通院を続けるとします。転院や終診がなく、通院頻度も変わらないと仮定すると、12か月目には、その年に受け入れた方だけで月240回の診療が必要になります。
これは実際の患者数を予測したものではなく、仕組みを説明するための計算です。
| 項目 | 仮定・計算 |
|---|---|
| 毎月受け入れる新患 | 20人 |
| 1年間に受け入れる人数 | 20人×12か月=240人 |
| その全員が月1回通院する場合 | 12か月目に月240回の診療 |
| さらに必要になる枠 | もともと通院している方の診療、臨時受診など |
初診枠を増やせても、その後の再診枠を確保できなければ、治療を始めた後に受診しにくくなってしまいます。
「今日なら何とか診察できる」と「今後も責任を持って診療を続けられる」は、別の問題なのです。
治療がうまくいっていても、外来は混む
「患者さんが良くなれば、通院が終わって空きができるのでは?」と思われるかもしれません。
もちろん、症状が改善し、治療を終了する方もいます。一方で、改善後も再発予防や減薬のために通院を続ける方、生活の変化に合わせて治療を調整する方もいます。
そのため、通院が続いていることだけで「治っていない」と判断することはできません。
医療提供体制を考える際には、毎月何人を受け入れるかだけでなく、平均してどれくらい通院が続くかも重要になります。
流入と流出が釣り合った単純なモデルでは、継続通院する人数は、おおよそ次の関係で考えられます。
継続通院する人数 ≒ 毎月の新患数 × 平均通院月数
さらに、1人が月に何回受診するかによって、必要な診療枠が決まります。
これは個々の患者さんの治療期間を決める式ではありません。外来が埋まっていく構造を理解するための考え方です。
新患の受け入れを増やす施策には、その後の治療を支える仕組みも必要になります。
診察室の外でも、診療は続いている
診療時間は、患者さんと向き合っている時間だけではありません。
診療録の記載、紹介状や診断書の作成、他の医療機関との連絡、福祉制度に関する書類など、診察室の外で行う仕事もあります。
例えば、休職をめぐる診療では、病名をつけて薬を処方すればすべてが終わるわけではありません。仕事を続けられる状態か、どのような配慮が必要か、復職をどう進めるかといった判断が伴います。
こうした仕事のすべてが、受付から見えるわけではありません。
待合室が空いていても、医師が自由に使える時間まで余っているとは限らないのです。
予定をぎっしり埋めると、急な変化に対応できなくなる
精神科外来では、予定していた診察時間を超えて対応が必要になることがあります。
病状が急に悪化した場合、家族から重要な情報が得られた場合、入院の相談や他院との調整が必要になった場合などです。
診療時間には、こうした変動があります。
予約を平均的な診察時間だけでぎりぎりまで埋めると、一件の長い診察をきっかけに、その後の予定全体が遅れやすくなります。
これは、待ち行列の考え方で理解できます。処理する量が能力の上限に近づくほど、ばらつきを吸収する余裕が減るからです。
余白のある予約表は、一見すると非効率に見えるかもしれません。しかし、急変や予定外の相談を受け止めるための余力になっている場合があります。
もちろん、余力をどの程度確保するかには工夫の余地があります。「余裕が必要だから」という説明だけで、受診しにくさの問題が解決するわけではありません。
「予約がいっぱい」と「専門的に対応できない」は異なる
同じ精神科・心療内科でも、医療機関によって対応できる範囲は異なります。
児童思春期の診療、依存症の専門治療、重い身体合併症の管理、入院治療などは、必要な人員や設備、連携体制が違います。
例えば、医学的な入院管理が必要な状態に対して、入院設備のない診療所だけで治療を完結させることはできません。
こうした場合は、診療能力や設備に合った医療機関につなぐ必要があります。
ただし、病名だけで機械的に受け入れの可否を決められるわけでもありません。同じ診断でも、重症度や生活状況、必要な治療は人によって異なります。
医療機関としては、何に対応でき、どのような場合に専門施設を勧めるのかを、できるだけ分かりやすく示すことが大切です。
実際、初診までにはどれくらい待つのか?
2025年に厚生労働省の検討会へ提出された「精神科診療所の機能に関する調査」の速報では、初診待機日数は平均20.9日、中央値14日でした。
ただし、これは2024年12月の診療状況を尋ねた調査で、待機日数の集計対象は784施設です。全国のすべての診療所を網羅した結果でも、現在の札幌の空き状況でもありません。mhlw.go.jp
また、検討会では、待機日数には都道府県ごとのばらつきがあり、個々の診療所の機能だけでなく、地域の人口構成や医療の需給なども影響している可能性が指摘されています。mhlw.go.jp
ここで注意したいのは、「初診までの日数」と「新患を断っている割合」は別の指標だという点です。
待機日数のデータだけから、全国の何割のクリニックが新患を断っているかまでは分かりません。
「初診を長くすれば、受診までの待ち時間も長くなる」と言い切れるのか?
先ほどの調査では、60分以上の初診の割合が高い診療所ほど、待機日数が長い傾向が示されました。ただし、p値は0.066で、一般的な5%水準では統計学的に有意ではありませんでした。mhlw.go.jp
したがって、この結果から「丁寧に診療するほど予約が取れなくなる」と断定することはできません。
背景が複雑な患者さんを多く診ているために、初診時間も待機日数も長くなっている可能性なども考える必要があります。
また、初診を短くした結果、再診で何度も追加確認が必要になれば、診療全体の負担が減るとも限りません。
考えるべきなのは初診の長さだけでなく、治療全体を通じて、必要な評価とフォローをどう確保するかという点です。
新患を断るのは、再診のほうが儲かるからなか?
診療報酬や経営上の事情を、無関係とすることはできません。
保険診療の収入は、診療に費やした時間や、判断の難しさに単純比例するわけではありません。人件費や設備費をまかないながら、初診と再診をどう組み合わせるかは、診療所運営上の課題です。
ただし、個々の医療機関の事情を確認せずに、「儲けたいから新患を断っている」と決めつけることもできません。
逆に、受付停止をしているだけで「患者さんを大切にする良いクリニック」と評価することもできません。
受け入れ人数を抑えることには、安全な継続診療を守る意味があり得ます。一方で、地域で受診できない方が増えているなら、予約方法や人員配置、連携体制を見直す必要もあります。
医療機関の事情と、患者さんが受診できずに困っている事実は、両方とも考える必要があります。
そもそも、医師は診療を断ってよいのか?
医師法には、正当な事由がなければ診療の求めを拒んではならないという、いわゆる応招義務があります。
厚生労働省の2019年の通知では、緊急性を特に重視し、診療時間、専門性、診療能力、設備、他の医療機関での対応可能性などを踏まえて判断する考え方が整理されています。ajha.or.jp
そのため、「予約制なら、どのような状況でも断ってよい」という理解は適切ではありません。
一方で、すべての医療機関が、あらゆる病状に、その場で完全に対応できるわけでもありません。
予約日の調整、専門施設への紹介、緊急時に必要な対応を行うことは、それぞれ区別して考える必要があります。個別の対応が適切だったかどうかは、そのときの具体的な状況によって変わります。
予約が取れないときは、どうすればよいのか?
予約を探す際には、「最短でいつ受診できるか」に加えて、「現在の状態で、その日まで待ってよいか」を考えることが大切です。
| 状況 | 考えたい対応 |
|---|---|
| 予約枠が埋まっている | キャンセル待ちや、新しい予約枠が公開される時期を確認する |
| 症状や年齢が診療対象に合わない | 対応可能な診療科や専門施設を確認する |
| すでに他院へ通院しており、薬が切れそう | 現在の主治医へ早めに相談し、診療情報や処方内容を整理する |
| 身体症状も強く、精神科の予約まで待てない | かかりつけ医や内科で、身体疾患の評価を含めて相談する |
| 受診先がどうしても見つからない | 保健所や精神保健福祉センターなどに、受診先について相談する |
| 過量服薬、意識障害、差し迫った自傷他害のおそれなどがある | 通常の初診予約を待たず、救急医療につながる |
相談するときは、症状が始まった時期、睡眠や食事の状態、生活への影響、服用中の薬などを簡単にまとめておくと、状況が伝わりやすくなります。
そして、受付を断られたこと自体は、「受診するほどではない」「あなたに問題がある」という判断を意味しません。
診察前の受付段階では、病状について十分な評価ができていないこともあります。受診できなかった理由と、ご自身のつらさの程度を結びつけすぎないでください。
医療機関側にできることもある
新患を受け入れにくい構造があるとしても、それを説明するだけでは十分ではありません。
初診専用枠や緊急枠の確保、事前問診の活用、多職種による情報整理、病院と診療所の役割分担など、受診につなげるための工夫が必要です。こうした取り組みは、厚生労働省の検討会でも報告されています。mhlw.go.jp
また、「現在は新患を受け付けていません」という案内だけでは、患者さんは次にどうすればよいか分かりません。
受付再開の見込み、対応できる診療の範囲、急ぐ場合の相談先などを示すことも、医療への入口を支える仕事です。
新患を断るメンタルクリニックがある背景には、初診の時間だけでなく、その後の治療を支える診療枠や、医療機関ごとの対応能力の違いがあります。
それでも、ようやく相談しようと思った方が、受診先を見つけられずにいる状況は、改善していかなければなりません。受け入れた方の治療を続けることと、これから受診する方の入口を確保すること。その両方が、精神科医療に求められています。
参考文献・資料
- 国立精神・神経医療研究センター.精神科診療所の機能に関する調査(速報値).厚生労働省「精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会」提出資料.
- 厚生労働省.第6回精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会 議事録.
- NICE.Bipolar disorder: assessment and management.CG185.
- 厚生労働省.応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について.令和元年12月25日、医政発1225第4号.
情報確認日:2026年10月17日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)