お酒を飲むと本性が出るのか

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「普段は優しいのに、お酒を飲むと怒りっぽくなる」
「酔ったときに言った言葉こそ、本音なのではないか」
「お酒を飲んでいる自分と、普段の自分。どちらが本当の自分なのでしょうか」
最初に結論を述べると、お酒によって普段は抑えている感情や衝動が表れやすくなることはあります。しかし、酔った言動がその人の「本当の姿」を、そのまま映しているとは限りません。
アルコールは、行動を抑える力だけでなく、注意の向け方、相手の言動の受け取り方、判断力、記憶にも影響します。酔った姿を理解するには、「隠していたものが出た」という説明に加えて、「酔うことで考え方そのものが変わった」という視点が必要です。
今回は、お酒と性格の関係を、心理学の実験や脳機能の研究から考えてみます。
「本性が出る」は、科学的には確かめにくい
そもそも、「本性」は精神医学や心理学で明確に定義された測定項目ではありません。
研究で調べられるのは、外向性、協調性、衝動性、攻撃的な行動などです。「酔った状態の方が、本当の人格に近い」と直接判定できる検査があるわけではありません。
ここで考えておきたいのが、衝動を抑える力も、その人の一部だということです。
例えば、腹が立っても相手の事情を考える。言いたいことがあっても、傷つけない表現を選ぶ。その場の欲求より、長期的な約束を大切にする。
こうした働きを、すべて「本性を隠すための仮面」と考えるのは無理があります。
怒りや欲求だけでなく、それをどう扱うかという価値観や自己調整も含めて、その人らしさと考える方が自然でしょう。
お酒で「心のブレーキ」が弱くなるのは本当か
アルコールによって、衝動的な反応を抑えたり、状況に合わせて行動を調整したりする働きが低下することは、実験研究でも示されています。
このように、普段は抑えられている言動が出やすくなることを「脱抑制」と呼びます。ただし、影響の程度は課題や個人によって異なり、あらゆる自己制御が一律に失われるわけではありません。
日常の例で考えると、普段なら「今は言わない方がよい」と判断している不満を口にしたり、ためらっていた相手に話しかけたりすることがあります。
この意味では、「普段は表に出していない気持ちが出る」という説明には、当てはまる部分があります。
しかし、ブレーキが弱まったからといって、口から出る言葉の正確さまで高まるわけではありません。
アルコールは、記憶や判断を担う脳の働きにも影響します。言いやすくなることと、正しく判断できることは別なのです。
酔うと「目の前のこと」しか見えにくくなる
お酒による行動変化を説明する代表的な考え方に、「アルコール・マイオピア理論」があります。
マイオピアとは「近視」という意味ですが、ここでは視力の話ではありません。注意や情報処理が限られ、その場で目立つ情報に反応しやすくなるという考え方です。
例えば、相手から嫌なことを言われた場面を想像してください。
普段なら、「今日は相手も疲れているのかもしれない」「ここで言い返すと関係が悪くなる」といった情報も考慮できます。しかし酔っていると、目の前の不快な一言が大きく感じられ、背景や先の結果を十分に考えにくくなる、という説明です。
興味深いことに、2007年の実験では、酔った参加者に適度な負荷の記憶課題を行わせ、挑発から注意をそらすと、実験課題上の攻撃行動が減りました。注意をそらす課題の負荷が大きすぎても小さすぎても、同じ効果は得られませんでした。
これは、実際の暴力場面で記憶問題を出せばよい、という意味ではありません。
研究が示唆するのは、酔った人の行動が、その人の内面だけで決まるわけではないということです。そのとき何に注意が向いているかも、行動を左右します。
怒りが出るだけでなく、「怒る理由」が作られることもある
「酔うと怒るのは、もともと怒りをため込んでいたからだ」と説明されることがあります。
そうした場合もあるでしょう。しかし、飲酒前にはなかった受け取り方が、酔うことで生じる可能性もあります。
2010年の研究では、アルコールを摂取した人は、他人の曖昧な行動を「わざと行った」と判断しやすくなりました。
この研究では、実際にアルコールを飲んだかどうかと、本人がお酒を飲んだと思っているかどうかを分けて検討しています。その結果、飲酒によって他人の行動を意図的とみなす傾向が強まりました。
例えば、人混みで肩がぶつかったときに、「混んでいるから仕方ない」よりも「わざとぶつかってきた」と受け取りやすくなる、ということです。
この知見から考えると、酔ったときの怒りを、すべて「以前から隠していた敵意」と解釈するのは適切ではありません。
相手の行動の意味づけが変わり、その場で怒りが生まれたり、強まったりしている可能性があります。
「酔うと別人になる」は、本人と周囲で見え方が違う
飲酒と性格の関係を直接調べた研究もあります。
2017年に発表された実験では、156人が友人同士のグループで参加し、半数がアルコールを摂取しました。参加者自身による性格評価に加えて、録画された行動を複数の評価者が判定しました。
その結果、本人は飲酒によって性格のさまざまな面が変わると感じていましたが、周囲の評価で一貫して確認されやすかったのは、外向性の変化でした。
つまり、「自分ではすっかり別人になったつもりでも、周囲にはそこまで大きな変化として見えていない」という食い違いがありました。
ただし、この研究は友人との実験場面で行われたものです。泥酔時や、激しい対立がある場面まで同じ結果になるとは限りません。
また、この結果は「酒癖の問題は気のせい」という意味でもありません。本人が感じる内面の変化と、外から観察できる行動の変化は、必ずしも一致しないということです。
お酒を飲んだ「つもり」でも、自分への評価は変わる
アルコールの研究では、薬理作用に加えて「お酒を飲んだから、こうなるはずだ」という期待も検討されています。
少し面白いのが、自分の魅力に関する研究です。
2013年に掲載された研究の一つでは、94人にアルコール入り、またはアルコールなしの飲み物を提供し、それぞれの中で「お酒を飲んだ」と信じる条件と、そうでない条件を設けました。
その後、参加者にスピーチをしてもらい、自分がどれほど魅力的で、機知に富み、面白かったかなどを評価してもらいました。
結果は、「お酒を飲んだ」と思っていた人ほど、自分を好意的に評価するというものでした。しかし、その自己評価の上昇は、第三者が評価した実際の出来栄えとは対応していませんでした。
「今日は妙に話がうまい気がする」と思っても、周囲の評価まで上がっているとは限らないようです。
この研究だけで酔った行動全体を説明することはできませんが、飲酒時の自己像には、アルコールそのもの以外の要素も関わることが分かります。
酔ったときの「本音」は、どこまで信じてよいのか
「本当はずっと嫌いだった」
「絶対に別れたくない」
「来年は必ず独立する」
酔った勢いで出た言葉は、印象に残ります。
ただ、その発言が以前から一貫していた考えなのか、その場で強まった感情なのか、判断が変化した結果なのかは、言葉だけでは区別できません。
実際、2009年の研究では、飲酒した人は目標の実現可能性が低い場合でも、強い決意を示しやすくなりました。しかし、酔ったときの決意は、その後の目標に向けた行動と結びつきませんでした。
この結果から考えても、酔ったときの熱意を、そのまま持続的な意思として扱うのは慎重であるべきでしょう。
一方で、「酔っていたから、あの言葉には一切意味がない」と片づける必要もありません。
気になる発言があったときには、しらふのときに改めて確かめる。その後の言動と一致しているかを見る。相手を理解するには、その方が確かな材料になります。
酔うと、失敗した後の「立て直し」も難しくなる
アルコールは、行動を始める前のブレーキだけでなく、失敗した後の修正にも影響します。
2012年の研究では、自己制御を必要とする課題の最中に脳波を測定しました。その結果、飲酒によって、誤反応の後に生じる事象関連電位の成分であるERNやPeが小さくなり、通常みられる失敗後の行動調整も損なわれました。
ERNは「エラー関連陰性電位」と呼ばれ、誤反応のモニタリングなどに関わる指標です。この研究では、アルコールによる不快感情の減少が、ERNや行動調整の変化を統計的に媒介していました。
日常場面への解釈としては、単に余計な一言が出るだけでなく、その後に「今のはまずかった。言い方を変えよう」と立て直す過程まで、うまく働きにくくなる可能性があります。
ただし、実験課題の脳波から、個人の反省や罪悪感の有無まで判断できるわけではありません。
「覚えていない」は、本当に起こるのか
飲酒後に「昨日のことを覚えていない」と言う人がいます。
これは、実際に起こり得ます。アルコールによって、出来事を長期記憶として保存する過程が障害される「ブラックアウト」です。
重要なのは、ブラックアウトと意識消失は違うという点です。起きて会話をしていても、その間の出来事が後から思い出せないことがあります。海馬での記憶形成が妨げられるためです。
空腹での飲酒や短時間の大量飲酒など、血中アルコール濃度が急速に上がる飲み方で起こりやすくなります。
したがって、「普通に話していたのだから、覚えていないはずがない」とは言えません。
ただし、個々の場面で本当に記憶がないかどうかを、この説明だけで確認することもできません。そして、記憶がないことによって、周囲が受けた被害が消えるわけでもありません。
「本性かどうか」より、繰り返す問題への対応が大切
飲酒中に暴言や暴力、望まない性的な言動などが起きたとき、「これが本性なのか」という問いに、すぐ答えを出す必要はありません。
その人の人格の本質を確定できなくても、問題行動があったことや、安全を確保する必要性は判断できます。
「普段は優しい」「酔っていただけ」「翌日は反省している」という事情があっても、繰り返される被害を受け入れる必要はありません。
本人にとっても、「自分は根が悪い」と考え続けるだけでは、再発を防ぐ具体策につながりません。
どのような飲み方で問題が起きるのか。飲酒をやめる必要があるのか。周囲から指摘されても飲み続けていないか。実際の行動を見直すことが必要です。
ブラックアウトは、それだけでアルコール使用障害を意味するわけではありませんが、一度でも起きたら飲酒について医療者に相談する理由になります。
最後に
お酒によって、普段は口にしない気持ちが表れることはあります。
しかし、酔った言動には、脱抑制だけでなく、注意の狭まり、相手への解釈の変化、自己評価の変化、行動修正の難しさも関わっています。
そのため、「酔ったときこそ本当の自分」と考えると、人間の複雑さを見落としてしまいます。感情が湧くことも、それを調整して相手に向き合うことも、その人の一部です。
誰かを理解するときには、酔った一言だけで結論を出さず、しらふのときの説明や、日頃の行動、その後の対応も含めて見ることが大切でしょう。
参考文献・資料
- Winograd RP, Steinley D, Lane SP, Sher KJ. An Experimental Investigation of Drunk Personality Using Self and Observer Reports. Clinical Psychological Science. 2017;5(3):439–456.
論文・DOI - Giancola PR, Corman MD. Alcohol and aggression: a test of the attention-allocation model. Psychological Science. 2007;18(7):649–655.
論文・DOI - Bègue L, Bushman BJ, Giancola PR, Subra B, Rosset E. “There is no such thing as an accident,” especially when people are drunk. Personality and Social Psychology Bulletin. 2010;36(10):1301–1304.
論文・DOI - Bègue L, et al. “Beauty is in the eye of the beer holder”: people who think they are drunk also think they are attractive. British Journal of Psychology. 2013;104(2):225–234.
論文・DOI - Bartholow BD, Henry EA, Lust SA, Saults JS, Wood PK. Alcohol effects on performance monitoring and adjustment: affect modulation and impairment of evaluative cognitive control. Journal of Abnormal Psychology. 2012;121(1):173–186.
論文・DOI - Sevincer AT, Oettingen G. Alcohol breeds empty goal commitments. Journal of Abnormal Psychology. 2009;118(3):623–633.
PubMed - National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism(NIAAA). Interrupted Memories: Alcohol-Induced Blackouts.
解説資料
情報確認日:2026年10月23日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)