なぜ人は同じ失敗を何度も繰り返すのか

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「もう夜更かしはしないと決めたのに、またスマートフォンを見続けてしまった」
「言いすぎると後悔すると分かっているのに、また感情的になってしまった」
「次こそ早めに取りかかろうと思ったのに、結局また締め切り直前になった」
同じ失敗を繰り返すと、「自分は学習能力がないのではないか」と感じることがあります。
しかし、失敗を覚えていることと、次の場面で行動を変えられることは、同じではありません。人の行動は、知識だけでなく、習慣、その場で得られる安心や楽しさ、周囲の環境にも左右されるからです。
今回は、「分かっているのに、またやってしまう」という身近な現象を、学習と行動の研究から考えます。
「分かっている」と「できる」は、なぜ違うのか?
私たちは普段、すべての行動について、毎回そのメリットとデメリットを計算しているわけではありません。
歯を磨く、靴を履く、いつもの道を歩く。慣れた行動は、あまり考えなくても実行できます。この仕組みがなければ、日常生活は判断だけで疲れ切ってしまいます。
行動科学では、結果の価値を考えて選ぶ「目標指向的な行動」と、特定の状況をきっかけに起こる「習慣的な行動」を区別します。
例えば、「明日の体調のために早く寝よう」と考えるのは、結果を見据えた選択です。一方、布団に入った瞬間にスマートフォンへ手が伸びるのは、状況と行動の結びつきで説明できる部分があります。
習慣が関わっている場合、「夜更かしはよくない」という知識があっても、それだけで行動が止まるとは限りません。
ただし、繰り返している行動がすべて習慣というわけでもありません。楽しさや安心を求めて、その都度選んでいる行動もあります。同じ「またやってしまった」でも、その仕組みは一つではないのです。
後では失敗でも、その瞬間には「役に立っている」ことがある
繰り返す行動を理解するうえで大切なのが、その行動の直後に何が起きているかです。
例えば、面倒な仕事を後回しにすると、後で困ります。しかし、後回しにした瞬間には、目の前の不安や負担から少し離れられます。
その短い安心が、先延ばしを繰り返す理由になることがあります。
行動の結果、不快な状態が取り除かれ、その行動が起こりやすくなることを「負の強化」と呼びます。「負」という言葉がつきますが、罰という意味ではありません。
| 繰り返してしまう行動 | 直後に得られるもの | 後になって生じる問題 |
|---|---|---|
| 面倒な作業を先延ばしする | 不安や負担が一時的に軽くなる | 締め切りが迫り、負担が増える |
| 気になることを何度も確認する | 一時的に安心する | 確認に時間を取られ、生活に支障が出る |
| 腹を立てて強い言葉を返す | 一時的に気が晴れる、会話が終わる | 関係が悪化し、後悔する |
| 寝る前に動画を見続ける | 楽しさや気晴らしが得られる | 睡眠不足になる |
これらは、必ずこの理由で起きるという分類ではありません。その行動が続く理由を探るための例です。
本人にとっては「また失敗した」という出来事でも、直前から直後までを見ると、「つらさを一時的に減らせた」という経験になっていることがあります。
この場合、必要なのは失敗の深刻さを繰り返し説明することだけではありません。その行動が担っていた気晴らしや安心を、別の方法で得られるようにすることも必要になります。
脳は「後悔の大きさ」だけで学習するわけではない
学習には、「予想していた結果と、実際の結果がどれくらい違ったか」が重要です。これを予測誤差と呼びます。
ドパミン神経の活動に関する代表的な研究では、予想外の報酬が得られたときや、期待した報酬が得られなかったときの反応が、報酬予測誤差という考え方と対応することが示されました。ドパミンは、単なる「快楽物質」という説明では捉えきれません。
ただし、この基礎研究から、人の複雑な失敗をすべて説明できるわけではありません。
日常で問題になるのは、一つの行動に、異なるタイミングの結果がついてくることです。
夜更かしの楽しさは、その場で得られます。翌日の眠気は、数時間後に起こります。先延ばしの安心は今すぐ得られますが、締め切り前の苦痛は後からやってきます。
本人が長期的な不利益を理解していても、行動の直後に得られる利益が、その行動を支え続けることがあるのです。
「十分に後悔したのだから、次は自然にやめられるはず」とは限りません。
ストレスがあると、いつもの行動に戻りやすくなるのか?
落ち着いているときにはできることが、追い込まれるとできなくなる。こうした経験がある方も多いでしょう。
2009年の実験では、急性ストレスを受けた参加者は、食べ物の価値を満腹によって下げた後も、それを得るために学習した行動を続けやすくなりました。結果の価値に合わせて行動を修正する働きより、習慣的な反応が優位になった可能性が示されました。
ただし、「ストレスがかかれば必ず習慣に支配される」とまでは言えません。
2023年には、事前登録を行った二つの追試が報告されましたが、元の結果は再現されませんでした。一方で、ストレスを受けていない群でも、比較の前提となる目標指向的な行動が明確に確認できず、ストレスの効果を適切に検証するうえで課題が残りました。単純に元の説が否定された、とも言い切れない結果です。
こうした研究を日常に当てはめる際には、ストレスの種類や強さ、課題、個人差を考える必要があります。
実生活では、「普段ならできるのに、どんな状態のときに失敗するのか」を確認することが役立ちます。忙しい日の夕方、強い不安があるとき、飲酒した後など、条件が分かれば、対策を置く場所も見えてきます。
「失敗すれば学べる」という常識にも、検討の余地がある
「失敗は成功のもと」と言いますが、失敗を経験しただけで、自動的に教訓が手に入るわけではありません。
2019年には、自分の失敗に関するフィードバックからは、成功に関するフィードバックほど学習できないという実験結果が報告されました。他人の失敗については同様の差が見られなかったことなどから、失敗によって自尊心が脅かされ、情報から目をそらす可能性が論じられました。
ところが、この研究には、その後、興味深い批判が出ています。
2025年の論文では、主要な実験課題の採点方法に、同じ考え方で答え続ける傾向が、成功後には正解、失敗後には不正解として現れやすいという問題が指摘されました。つまり、成績の差が、そのまま学習量の差を意味するとは限らないのです。
したがって、「人間は失敗から学べないことが科学的に証明された」と紹介するのは不正確です。
一方で、失敗したという情報だけでは、「次にどうすればよいか」が十分に分からないことはあります。
料理が焦げたとき、「失敗だった」と分かっても、火が強すぎたのか、時間が長すぎたのか、途中で目を離したのかを区別しなければ、次の改善につながりません。
仕事や人間関係でも、同じです。「悪かった」という評価を、変更できる具体的な情報に変える必要があります。
一度やめられた行動が、また出てくるのはなぜか?
「しばらく直っていたのに、また元に戻った」という場合もあります。
ここで参考になるのが、学習心理学でいう「消去」と「更新効果」です。
消去とは、以前は報酬につながっていた行動などが、その結果を伴わなくなることで減っていく現象です。しかし、行動が減ったからといって、元の学習が完全に消えたとは限りません。
ラットを用いた研究では、餌を得るために覚えたレバー押しを、別の環境で消去した後、環境を変えると、その行動が再び現れることが示されています。これが更新効果です。
動物実験の結果を、人の日常行動へそのまま当てはめることはできません。それでも、「ある場所でできるようになったことが、別の場所でも自動的にできるとは限らない」という視点は、行動変容を考える手がかりになります。
例えば、自宅では飲酒量を抑えられても、以前の飲み仲間と会うと元の飲み方に戻ってしまう。このような場合、家での対策に加え、会食の場での対策も必要になります。
一度できたことが崩れたときには、「努力が全部無駄だった」と判断する前に、場所、人、時間帯など、何が変わったかを確かめてみるとよいでしょう。
同じ失敗を減らすには、反省をどう変えればよいのか?
振り返るときには、人格の評価より、出来事の順番を具体的にします。
「自分はだらしない」では、何を変えるかが分かりません。
例えば、夜更かしであれば、「帰宅が遅く、気晴らしが足りないと感じていた」「布団の中で動画を開いた」「自動再生で見続けた」と分けていきます。
そのうえで、次の行動を決めます。
役立つ方法の一つが、「もしこの状況になったら、この行動をする」という計画です。心理学では「実行意図」と呼ばれます。代表的な研究では、目標を持つだけでなく、いつ、どこで、何を始めるかを決めることが、行動の開始や目標達成を助けました。
日常への応用例は、次のようなものです。
| 繰り返しやすい失敗 | 事前に決めておく行動・環境の例 |
|---|---|
| 布団で動画を見続ける | 寝る準備を始めたら、スマートフォンを寝室の外で充電する |
| 腹が立つと強い文章を送る | 怒りを感じたら、返信を下書きに保存して、時間を置いて読み返す |
| 面倒な作業を先延ばしする | 始業後に席についたら、最初の5分だけその作業を開く |
| 同じ入力ミスをする | 送信前に確認する項目を、画面の近くに短く表示しておく |
| 外出時に忘れ物をする | 帰宅して鍵を置いたら、翌日必要な物も同じ場所にまとめる |
これらの例が、すべての人に有効とは限りません。実際に試し、うまくいかなければ条件や手順を修正します。
特に大切なのは、「その場で思い出して頑張る」ことへの依存を減らすことです。通知を切る、必要な物を先に用意する、確認を手順に組み込む。こうした環境の変更も、行動を変えるための立派な対策です。
精神科への相談が役立つのは、どのようなときか?
同じ失敗を繰り返すことだけで、精神疾患や発達障害と判断することはできません。
ただし、忘れ物や遅刻、衝動的な行動などが長期間続き、仕事や生活に大きな支障がある場合には、注意や実行機能の特徴を含めた評価が役立つことがあります。また、不安や抑うつ、睡眠の問題などが重なって、以前できていたことが難しくなる場合もあります。
相談する際には、「何回失敗したか」に加えて、いつから始まったか、どんな場面で起きるか、その直前と直後に何があるかを伝えると、状況を整理しやすくなります。
同じ失敗を減らすために必要なのは、反省の強さだけではありません。その行動が起きる条件と、続いてしまう理由を見つけ、次の場面で実行できる方法を用意することです。
参考文献・資料
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論文全文・PDF
情報確認日:2026年10月23日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)