休職後に同じ部署へ戻るべきなのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「体調は良くなってきた。でも、あの部署に戻ると思うと眠れない」

「会社からは、まず元の部署に戻るのが決まりだと言われた」

「異動したいけれど、それは逃げなのだろうか」

休職後の復職では、「いつ戻るか」と同じくらい、「どこへ戻るか」が大切な問題になります。

最初に結論を述べると、慣れた部署へ戻ることにはメリットがあります。しかし、休職につながった負担が残っているなら、同じ部署への復帰にこだわるべきとは限りません。

大切なのは、部署の名前ではなく、復帰後に実際にどのような仕事を、誰の指示で、どのくらいの負担で続けることになるのかです。

この記事では、元の部署への復帰が原則とされる理由、配置転換を検討したい条件、そして医学的な回復と職場環境をどう結びつけて考えるかについて解説します。

なぜ「まず元の部署へ戻る」と言われるのか

厚生労働省の職場復帰支援の手引きでは、元の慣れた職場への復帰が原則とされています。一方、異動などをきっかけに発症した場合には、配置転換や異動が望ましいこともあると示されています。原則と例外は、両方を読む必要があります。mhlw.go.jp

慣れた部署には、仕事の進め方が分かる、必要な知識がある、人間関係を一からつくり直さずに済む、といった利点があります。

復職直後は、体力だけでなく、集中力や判断力にも余裕が少ない場合があります。その時期に、新しい業務、新しい上司、新しい職場のルールを同時に覚えることは、追加の負担になります。

つまり、元の部署に戻るという考え方には、「変化による負担を減らす」という合理性があります。

ただし、その慣れた環境自体が、本人にとって強い負担だった場合は話が変わります。

慣れていることと、安心して働けることは、同じではありません。

「同じ部署」と「同じ環境」は違う

復職先を考えるとき、「元の部署か、別の部署か」という二択になりがちです。

しかし、同じ部署でも、仕事の条件は変えられる場合があります。

例えば、所属部署は変わらなくても、直属の上司を変更する、担当顧客を外す、夜勤をなくす、突発対応を減らす、といった調整ができれば、実際の負担は変わります。

反対に、部署名だけ変わっても、問題となった上司から引き続き指示を受ける、同じ顧客を担当する、以前より通勤時間が長くなるのであれば、十分な改善にならないことがあります。

復職先の検討では、組織図だけで判断せず、仕事の中身を具体的に確認します。

確認する点元の部署での復帰を考えやすい条件配置転換も検討したい条件
業務量担当件数や締め切りを実際に減らせる慢性的な人手不足で負担軽減が難しい
対人関係相談できる上司や同僚がいる特定の相手との接触が強い負担になり、調整も難しい
仕事内容経験を生かせる業務から始められる業務の中心的な要求と本人の状態が合わない
勤務時間残業・夜勤などを制限できる負担となった勤務形態を避けられない
これまでの経過負荷調整によって安定した経験がある同じ条件への復帰後に不調を繰り返している
異動先の条件新しい仕事を覚える負担が大きい業務内容と支援体制が具体的に確認できている

これは復職先を機械的に決める判定表ではありません。何を変えれば働き続けられそうかを整理するための視点です。

上司との関係は、単なる「気持ちの問題」ではない

「仕事なのだから、苦手な人くらいいる」

確かに、すべての対人ストレスをなくすことはできません。しかし、上司との関係を、本人の受け止め方だけで片づけるのも適切ではありません。

うつ病、不安症、適応障害などによる休業から復帰した158人を追跡した研究では、上司との葛藤は、その後の再休業と関連していました。調整後オッズ比は2.21でした。これは「再休業の確率がそのまま2.21倍」という意味ではなく、観察研究なので因果関係の断定もできません。それでも、上司との関係を復職支援で確認する意義を示す知見です。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

上司は、仕事量、優先順位、評価、休暇、相談のしやすさに関わる存在です。

そのため、同じ仕事でも、「困ったら相談できる」「依頼の優先順位を整理してもらえる」環境と、「相談すると責められる」「指示が頻繁に変わる」環境では、負担が異なります。

復職面談では、「人間関係が悪い」という表現から、もう一歩具体的にすることが役立ちます。

例えば、「指示が複数の人から同時に来る」「質問すると長時間叱責される」「業務量を相談する窓口がない」といった事実です。

何が起きているかが分かれば、指示系統の一本化、相談窓口の変更、接触機会の調整など、対策を検討しやすくなります。

「戻ると思うと具合が悪くなる」は、どう解釈するのか

会社から連絡が来ると動悸がする。

職場の近くに行くと吐き気がする。

以前の上司の名前を見るだけで眠れなくなる。

このような反応があると、「まだ治っていないのだから、もっと休めばよい」と考えたくなるかもしれません。しかし、休養期間だけでは解決しない場合があります。

臨床では、少なくとも次のような可能性を整理します。

一つは、抑うつや不安がまだ強く、職場に限らずさまざまな活動が難しい状態です。

もう一つは、過去のつらい経験と結びついた場所や人物に対し、強い反応が起きている状態です。

さらに、現在も叱責や過重労働などが続いており、戻った後の危険を現実的に心配している場合もあります。

これらは重なることもあり、「職場を考えると症状が出る」という一点だけで見分けられるわけではありません。

大切なのは、反応の強さだけでなく、何に反応しているのか、現在の職場に何が残っているのか、どのような調整なら反応が変わるのかを確認することです。

「逃げると悪化するから戻るべき」は、いつでも正しいわけではない

不安の治療では、避け続けることが不安を維持する場合があり、安全な状況に段階的に取り組む方法が用いられます。

ただし、この考え方を、そのまま職場復帰に当てはめることはできません。

例えば、職場環境は改善されているものの、「また失敗するのでは」という予測が強く、面談や通勤の準備を進められない場合には、回復段階に合わせて小さく試すことが役立つ可能性があります。

一方、現在も威圧的な対応や過重な業務が続いているなら、必要なのは環境の改善です。

有害な状況に戻ることを、「不安に慣れる練習」と呼び替えてはいけません。

復職先の検討では、不安への治療と、現実の負担への対策を並行して考えます。異動を希望することだけで「回避だからよくない」と決めつけることはできません。

元の部署への復帰がうまくいきやすいのは、どのような場合か

元の部署への復帰は、休職前の条件をそのまま再現することとは限りません。

例えば、繁忙期に一時的に業務が集中したが、現在は人員が補充されている。担当業務は得意で、上司も負荷調整に協力的である。このような場合には、慣れた部署で再開するメリットを生かしやすいと考えられます。

また、異動した直後から不調になった場合には、新しい部署への適応負担や業務の不適合を評価し、以前の部署に戻ることを検討する場合もあります。

判断の中心になるのは、「元の部署だから安心」という印象ではなく、休職につながった条件に対策が取られているかです。

「今度は無理をしないように」という本人の決意だけでは、仕事の構造は変わりません。

担当件数、指示の出し方、勤務時間、相談先などに、実際の変更があるかを確認します。

配置転換を検討したいのは、どのような場合か

配置転換を考えたいのは、主に、元の部署では必要な調整を実現しにくい場合です。

例えば、部署の中心業務が夜勤や緊急対応であり、それを継続的に外すことが難しい場合。特定の相手との関係が大きな負担になっているものの、指示系統を変えられない場合。十分な治療や負荷調整を行っても、同じ条件への復帰後に不調を繰り返している場合などです。

ただし、異動すれば必ず解決するわけではありません。

新しい部署の業務内容が分からない、教育担当者がいない、配慮の内容が引き継がれないといった状況では、別の負担が加わります。

「今の部署から離れる」だけでなく、「次の部署では何を担当し、どのような支援を受けられるか」まで確認することが必要です。

また、ここで紹介する研究は、元の部署への復帰と配置転換の優劣を直接証明するものではありません。個人にとって適切な復帰先は、病状、業務内容、職場で実現できる調整を照らし合わせて判断します。

気分が改善しても、新しい仕事を覚える余力が戻っているとは限らない

うつ病では、落ち込みの改善と、注意力・記憶力・段取りを組む力の回復が、必ずしも一致しません。

認知機能を扱ったメタ解析でも、うつ病では注意、記憶、実行機能などの低下が認められ、寛解後にも一部の問題が残ることが示されています。もちろん、すべての方に同じ程度の問題が残るという意味ではありません。Cambridge Core

この知見は、復帰先を選ぶときにも関わります。

対人関係への不安から異動を希望していても、新しい業務を一度に覚える負担には配慮が必要かもしれません。

反対に、慣れた業務であっても、同時進行、頻繁な割り込み、厳しい締め切りが続けば、回復途中の状態には合わない場合があります。

そのため、「新しい部署かどうか」だけでなく、新しく覚える量、仕事の切り替えの多さ、判断の複雑さなども評価します。

例えば、異動する場合でも、業務を一つずつ教える、手順を書面にする、教育担当者を決めるといった工夫が考えられます。

治療と仕事の調整を組み合わせる意味

復職支援の研究で興味深いのは、症状への治療だけでは、仕事上の問題が十分に解決しない場合があることです。

2020年のCochraneレビューでは、医療的な介入と仕事に焦点を当てた介入の組み合わせは、通常のケアに比べ、1年間の病気による休業日数を平均約25日減らすと推定されました。これは集団の結果を年間に換算した値であり、個人の復職が25日早まるという意味ではありません。また、配置転換そのものの効果を示した結果でもありません。PubMed

この結果から実務上考えたいのは、薬や心理療法で症状を改善することと、仕事の条件を整えることを、別々に放置しないという点です。

本人の側では、「どのような場面で無理を重ねたか」「早めに相談できなかった理由は何か」を整理する。

職場の側では、「業務量を誰が調整するか」「依頼が重なったときの優先順位を誰が決めるか」を明確にする。

本人の対処と職場の仕組みの両方に取り組むことで、復職後の計画が具体的になります。

診断書に「異動が必要」と書けば、異動できるのか

主治医は、病状や再燃リスクを踏まえて、配置転換を含む就業上の配慮について医学的な意見を示せます。

ただし、診断書だけで希望する部署への異動が確定するわけではありません。主治医の意見と実際の仕事内容を照らし合わせ、産業医等の評価や人事上の調整を経て、事業者が復職先や就業措置を判断します。mhlw.go.jp

診断書や意見書では、「環境調整が望ましい」という言葉だけでなく、どの負担を避ける必要があるかが伝わると、検討しやすくなります。

例えば、残業・夜勤の制限、業務量の段階的な調整、特定の対人場面の負担軽減、指示系統の変更などです。

「別の部署なら働ける」という場合も、そこで予定される業務を確認したうえで、医学的な見通しを考える必要があります。

なお、ハラスメントの事実認定や、人事措置の法的な妥当性は、診断書による医学的評価とは別の問題です。

復職後の「見直し」まで決めておく

復職先を慎重に選んでも、始めてみなければ分からないことがあります。

そのため、最初の計画を固定せず、何を見て、誰が、いつ見直すかを決めておきます。

出勤できているかだけでなく、睡眠、帰宅後の疲労、休日の過ごし方、ミスや自責感の増加なども確認します。

「定時までは働けるが、帰宅後は食事も取れない」

「週の後半になるほど眠れなくなる」

「相談するのが怖くなり、仕事を抱え始めている」

こうした変化が続く場合には、業務負荷や支援方法を見直す材料になります。

復職後の問題を整理し、解決策を考え、職場と行動計画をつくる介入を検討したランダム化比較試験でも、12か月間の再休業を減らす結果が報告されています。一つの研究ですべての職場に当てはめることはできませんが、復職後も支援を続ける意義を示しています。PubMed

元の部署へ戻る場合も、異動する場合も、「戻れたから終了」にしないことが大切です。

診察では「戻りたくない」の中身を教えてください

「同じ部署には戻りたくありません」

その気持ちを、そのまま伝えていただいて構いません。そこから、何が負担なのかを一緒に整理します。

仕事内容そのものがつらいのか。

特定の上司との関係が怖いのか。

また迷惑をかけるのではないかという罪悪感なのか。

業務量が変わらないと分かっているため、不安なのか。

同じ「戻りたくない」でも、必要な対応は異なります。

可能であれば、休職前に負担だった場面、会社から提示されている復職条件、利用できる配慮、異動先の業務内容などを伝えてください。

元の部署への復帰は、一つの有力な選択肢です。しかし、それを守ること自体が治療の目的ではありません。

目指したいのは、本人の回復と仕事の条件が合い、治療と生活を保ちながら働き続けられることです。

参考文献・資料

  1. 厚生労働省.心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き.
  2. Arends I, et al. Predictors of recurrent sickness absence among workers having returned to work after sickness absence due to common mental disorders. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 2014.
  3. Rock PL, et al. Cognitive impairment in depression: a systematic review and meta-analysis. Psychological Medicine. 2014;44:2029–2040.
  4. Nieuwenhuijsen K, et al. Interventions to improve return to work in depressed people. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2020.
  5. Arends I, et al. Prevention of recurrent sickness absence in workers with common mental disorders: results of a cluster-randomised controlled trial. Occupational and Environmental Medicine. 2014;71:21–29.

情報確認日:2026年10月18日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)