双子の片方がうつ病なら、もう片方もうつ病になるのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「一卵性の双子なら、同じ病気になりやすいのでしょうか」
「双子のきょうだいがうつ病になりました。自分もいずれ発症するのでしょうか」
「遺伝子が同じなのに、片方だけがうつ病になるのはなぜですか」

最初に結論を述べると、双子の片方がうつ病の場合、もう片方も発症する可能性は高くなります。しかし、一卵性双生児であっても、必ず同じように発症するわけではありません。

双子研究の面白いところは、うつ病に遺伝が関係することと、遺伝だけでは決まらないことを、同時に示している点です。

今回は、双子の研究から、うつ病の「なりやすさ」と「発症すること」の違いを考えます。

一卵性と二卵性を比べると、何がわかるのか?

一卵性双生児は、一つの受精卵から生まれるため、受け継いだDNAの配列がほぼ同じです。

一方、二卵性双生児は別々の受精卵から生まれ、遺伝的な類似度は、一般のきょうだいと基本的に同じです。個人差のある遺伝的変異について、平均すると約半分を共有します。

もし、うつ病へのなりやすさに遺伝が関係するなら、二卵性より一卵性の双子で、両方がうつ病になる割合が高いはずです。

実際に、双子研究では、そのような傾向が繰り返し確認されてきました。うつ病の家族内での集まりやすさは、一緒に暮らしていることだけでは説明しきれないと考えられています。

ただし、双子研究も完全な実験ではありません。

一卵性の双子のほうが似た接し方をされやすいなど、環境の似方にも違いがあります。病気に関係する環境がどの程度同じか、診断をどのように確認したかといった前提を踏まえて読む必要があります。

実際に、もう片方も発症する割合はどれくらいか?

よく引用されるのが、McGuffinらが1996年に報告した、病院を通じて集められた双子の研究です。

大うつ病性障害のある177人を起点に、その双子のきょうだいを調べたところ、発端者法による一致率は次のように報告されました。

双子の種類対象となった組数うつ病の一致率
一卵性双生児68組46%
二卵性双生児109組20%

発端者法による一致率とは、病気のある人を起点として、もう片方も同じ病気を経験している割合を評価する指標です。単純に「両方が発症した組数を、全組数で割ったもの」とは計算方法が異なります。

この結果からは、二つのことが読み取れます。

一つは、一卵性のほうが一致率が高く、遺伝的な影響が示唆されることです。

もう一つは、一卵性でも100%には遠いことです。遺伝的背景がほぼ同じでも、病気の経験は一致していません。

ただし、「双子のきょうだいがうつ病なら、自分も46%の確率で発症する」と、そのまま受け取ることはできません。

これは病院を通じて集められた対象者の結果です。地域住民全体から集めた研究とは、重症度や再発の多さなどが異なる可能性があります。また、調査時点で発症していない人が、その後も発症しないとは限りません。

一致率は、対象者の集め方、年齢、診断基準、観察期間によって変わります。一つの数字を、その人個人の将来の確率に置き換えることはできないのです。

「遺伝率37%」は、発症確率37%という意味ではない

うつ病について調べると、「遺伝率は約37%」という数字も出てきます。

Sullivanらによる2000年のメタアナリシスでは、双子研究を統合した結果、大うつ病へのなりやすさの遺伝率は37%、95%信頼区間は31〜42%と推定されました。

しかし、これは「うつ病の親から生まれた子どもが37%の確率で発症する」という意味ではありません。双子のもう片方が発症する割合でもありません。

遺伝率は、ある集団の中で見られる「病気へのなりやすさの個人差」を、遺伝的な違いがどの程度説明するかという統計上の指標です。

したがって、一人の患者さんについて「あなたのうつ病の37%は遺伝で、63%は環境です」と分解することもできません。

また、遺伝率は、どのような集団を、どのような方法で調べるかによって変わります。

スウェーデンの42,161人の双子を対象にした2006年の研究では、生涯の大うつ病へのなりやすさの遺伝率は、女性42%、男性29%と推定されました。これは、その研究集団と分析方法で得られた結果であり、男女それぞれに固定された普遍的な数字ではありません。

同じ家で育っても、同じ経験をしているわけではない

「遺伝子もほぼ同じで、同じ家庭で育ったのに、どうして片方だけがうつ病になるのでしょうか」

ここで考えたいのが、同じ家庭にいることと、同じ環境を経験することの違いです。

たとえば、同じ学校に通っていても、友人関係や教師との関係は違います。片方だけがいじめを受けることもあれば、片方だけが安心して話せる友人に出会うこともあります。

大人になれば、職場、勤務時間、パートナーとの関係、身体の病気、経済的な負担なども変わります。

同じ家庭の出来事でも、経験の仕方が同じとは限りません。親の病気に直面したとき、片方が介護を主に担い、もう片方は遠方で暮らしているという場合もあるでしょう。

双子研究では、二人を似せる方向に働く環境を「共有環境」、二人を異ならせる方向に働く環境を「非共有環境」と呼びます。

この分類は、単に「家庭の内側か、外側か」で決まるものではありません。同じ家庭の中にも、二人が共有していない経験はあります。

「共有環境の影響が小さい」は、家庭が無関係という意味ではない

古典的な双子研究のメタアナリシスでは、成人の大うつ病について、共有環境の寄与は小さく、個人ごとに異なる環境などの寄与が大きいと推定されました。

ここから、「育ち方や家庭環境は、うつ病に関係しない」と結論づけるのは早計です。

双子研究でいう共有環境は、「同じ家庭で起きたすべての出来事」を意味しません。家庭内の経験であっても、二人に違う影響を与えるものは、非共有環境として表れる可能性があります。

さらに、非共有環境の推定には、診断や記憶の誤差も含まれます。「遺伝以外の部分」は、すべて具体的な生活上の原因として特定できているわけではありません。

研究で得られた割合は、原因をきれいに仕分けした一覧表ではないのです。

双子を比べると、「ストレスは原因なのか」にも近づける

双子研究は、遺伝率を計算するためだけのものではありません。

一卵性の双子のうち、片方だけが強いストレスを経験した場合、その後のうつ病の発症を比べることで、遺伝的背景の違いを抑えながら、ストレスの影響を検討できます。

Kendlerらの1999年の研究では、ストレスとなる出来事があった月の大うつ病の発症オッズ比は、対象者全体では5.64でした。一卵性双生児のペア内で比較しても、3.58という関連が残りました。

比較の条件を厳しくすると関連は小さくなりましたが、消えなかったわけです。

この結果は、ストレスとうつ病の結びつきの一部が、共通する遺伝的背景などだけでは説明できず、ストレスそのものの影響を含むという解釈を支持します。

ただし、無作為化された実験ではありません。出来事以前の症状や、双子それぞれに固有の要因まで、すべて取り除けるわけではありません。

また、オッズ比3.58は、「3.58倍の人が必ず発症する」という意味ではなく、発症確率そのものの比とも異なります。

遺伝の影響を調べるための双子研究が、環境の重要性を理解するためにも役立つ。この点は、双子研究の興味深いところです。

同じDNAでも、遺伝子の働き方は変わるのか?

もう一つの研究分野が、エピジェネティクスです。

これは、DNAの文字の並びそのものを変えずに、遺伝子の働き方を調節する仕組みを扱います。代表的なものに、DNAメチル化があります。

うつ病の有無が異なる一卵性双生児を調べ、DNAメチル化などの違いを探索する研究も行われています。2019年には、生涯の大うつ病歴が異なる79組の一卵性双生児について、末梢血の単球のDNAメチル化と遺伝子発現を調べた研究が報告されました。

ただし、「片方だけ発症するのは、エピジェネティクスのせい」と説明できる段階ではありません。

観察された違いが発症の原因なのか、病気や生活の変化、治療の結果なのかを区別する必要があります。血液で見つかった違いが、そのまま脳の変化を表すとも限りません。発症前からの追跡や、別の集団での再現が重要になります。

「DNAがほぼ同じでも、生物学的な状態まで同じとは限らない」という視点は重要ですが、それだけで発症の違いを説明しきれるわけではないのです。

「うつ病になる遺伝子」が一つ見つかるわけではない

うつ病の遺伝研究は、双子の比較から、実際のDNAの違いを大規模に調べる研究へと広がっています。

2025年に発表された国際研究では、うつ病のある688,808人と対照群4,364,225人のデータが解析され、635か所のゲノム領域で、697の関連が報告されました。

これは「うつ病の原因遺伝子が697個見つかった」という意味ではありません。関連する領域や統計的なシグナルと、原因となる遺伝子や仕組みは、区別する必要があります。

このような研究が示しているのは、うつ病へのなりやすさには、多数の遺伝的な違いが少しずつ関わるという姿です。

同じ研究では、多数の遺伝的変異をまとめたポリジェニックスコアによって、欧州系集団のうつ病へのなりやすさの分散を最大5.8%説明できました。しかし、これは発症を正確に言い当てられるという意味ではありません。双子研究の遺伝率とも、直接同じものを測った数字ではありません。

研究が大きく進んでも、「あなたは将来必ずうつ病になる」と判定する検査にはなっていないのです。

もう片方が元気だからといって、本人の努力不足ではない

双子の片方だけがうつ病になると、周囲が二人を比べてしまうことがあります。

「同じように育ったのに、なぜあなたはできないのか」
「きょうだいは頑張っているのだから、あなたも頑張れるはず」

しかし、遺伝的背景が似ていても、経験してきた負担や、現在置かれている状況まで同じではありません。

発症していない人の生活を、そのまま発症した人への処方箋にすることもできません。

双子の片方が元気であることは、もう片方の病気が気の持ちようである証拠にはなりません。逆に、片方が発症したことは、もう片方の将来が決まったことも意味しません。

双子研究の数字を、本人や家族を責める材料にしないことが大切です。

双子のきょうだいがうつ病なら、何に気をつければよいのか?

家族歴は、診察で役立つ情報です。しかし、それだけでうつ病と診断したり、症状のない人に薬物治療が必要だと決めたりすることはできません。

気をつけたいのは、きょうだいとの比較よりも、自分自身の普段からの変化です。

眠れない、あるいは寝すぎる。以前は楽しめたことが楽しめない。疲れが取れず、仕事や家事が回らない。食欲が変わったり、自分を責める考えが強まったりする。

こうした変化が続く場合は、家族歴も含めて相談してください。診察では、症状の数だけでなく、続いている期間、生活への影響、これまでの経過、身体疾患などを合わせて確認します。

また、一卵性であっても、きょうだいに効いた薬が自分にも同じように効くとは決められません。治療は、その人自身の症状や副作用、併存する病気などに応じて選ぶ必要があります。

双子の片方がうつ病なら、もう片方の発症リスクも高くなります。それでも、二人の経過は同じではありません。

家族歴を知ることは、将来を悲観するためではなく、自分の変化に気づき、必要なときに相談するために役立てられます。

参考文献・資料

  1. McGuffin P, Katz R, Watkins S, Rutherford J. A hospital-based twin register of the heritability of DSM-IV unipolar depression. Archives of General Psychiatry. 1996;53(2):129–136.
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  8. NICE. Depression in adults: treatment and management. NG222.
    ガイドライン

情報確認日:2026年10月23日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)