ラツーダ(一般名:ルラシドン)について


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「抗精神病薬なのに、うつ状態に使うのはなぜ?」

「眠気や体重増加は少ないと聞いたけれど、副作用は?」

「量を増やせば、もっとよく効くのでしょうか?」

ラツーダは、統合失調症と、双極性障害におけるうつ症状の改善に使用する薬です。

この薬を理解するうえでは、セロトニン受容体への特徴的な作用に加え、「増量と効果の関係」「食事による吸収の変化」「認知機能への影響」などが重要になります。

今回は、基本的な使い方とともに、臨床研究から見えてきた特徴や、まだ十分に分かっていない点を解説します。

ラツーダとは?―国内での適応と用量

ラツーダの有効成分はルラシドン塩酸塩で、非定型抗精神病薬に分類されます。日本では2020年に発売されました。

項目国内での位置づけ
統合失調症通常、成人に40mgを1日1回食後。症状などに応じて増減し、上限80mg/日
双極性障害におけるうつ症状の改善成人では20mg/日から開始。通常20~60mgを1日1回食後、上限60mg/日
通常のうつ病国内では承認適応ではない
躁状態の治療国内では承認適応ではない
双極性障害の維持療法・再発予防有効性は確立していない

腎機能・肝機能や併用薬により、開始量・増量方法・上限量を調整する場合があります。

また、国内の適応名は「双極性障害」ですが、主要な抗うつ効果の比較試験は双極Ⅰ型障害を対象としています。承認された病名と、研究に参加した集団を分けて読むことも大切です。

作用機序の特徴―D₂受容体だけでは説明しきれない薬

ラツーダは、ドパミンD₂受容体とセロトニン5-HT₂A受容体を遮断する作用に加え、5-HT₇受容体遮断作用、5-HT₁A受容体部分作動作用を持っています。

Ishibashiらの基礎研究では、5-HT₇受容体への高い親和性が示されました。一方、眠気や食欲増加などとの関係が知られるヒスタミンH₁受容体、抗コリン作用に関わるムスカリンM₁受容体への親和性は非常に低いことが特徴です。

この受容体への作用の違いが、ラツーダの効果や副作用を考える手掛かりになります。

5-HT₇受容体を遮断すると、なぜうつ症状に効くのか?

5-HT₇受容体への作用は、ラツーダの抗うつ作用や認知機能への影響を考えるうえで注目されています。

ただし、「5-HT₇を遮断するから、うつ症状が改善する」と人で因果関係まで証明されたわけではありません。動物実験や受容体の研究から得られた仮説と、患者さんを対象とした比較試験で確認された効果は、区別する必要があります。

ラツーダの抗うつ効果は、受容体の理論だけでなく、実際のランダム化比較試験によって評価されています。

双極性障害のうつ症状には、どのくらい効くのか?

代表的な単剤治療の試験として、Loebelらの2014年の研究と、日本人を含むKatoらの2020年の研究があります。

いずれも双極Ⅰ型障害のうつ状態を対象に、6週間の治療を行いました。

研究ラツーダ20~60mg/日群:MADRS変化量ラツーダ80~120mg/日群:MADRS変化量プラセボ群:MADRS変化量主な結果
Loebelら、2014年−15.4点−15.4点−10.7点両用量群でプラセボより有意に改善
Katoら、2020年−13.6点−12.6点−10.6点20~60mg群では有意差あり。80~120mg群では有意差なし

MADRSは、うつ症状を評価する尺度です。マイナスの値は症状が軽くなったことを示し、「何%の人が治ったか」を示す数値ではありません。

Loebelらの試験におけるプラセボとの効果量は両用量群とも0.51、Katoらの20~60mg群では0.33でした。

これらの結果から、双極Ⅰ型障害のうつ症状に対する効果は支持されています。一方、試験ごとに効果の大きさが異なるため、一つの研究の数字だけで個人の改善幅を予測することはできません。

多く飲むほど効く?―増量に比例しない抗うつ効果

ラツーダの興味深い点は、双極性障害のうつ症状に対して、高用量が必ずしも大きな上乗せ効果を示していないことです。

前述の二つの試験では、80~120mg/日群が20~60mg/日群を明確に上回る結果にはなっていません。

2024年に報告された用量反応メタ解析でも、5件のランダム化比較試験、計2,032人のデータから、抗うつ効果と忍容性のバランスが良好な用量として40~60mg/日付近が示唆されました。一方、用量が増えるとアカシジアなどのリスクが高まる傾向がありました。

ただし、これは集団データを統合した推定です。「20mgで改善している人も40mgまで増やすべき」という意味ではありません。

また、低用量群と高用量群の結果だけから「高用量の方が効かない」と断定することもできません。用量群同士の優劣と、各群のプラセボに対する有意差は、別の問題です。

臨床では、症状が残る理由を確認し、増量で期待する利益と副作用を比較して判断します。

なお、上記の80~120mg/日は海外を含む研究の用量で、日本での双極性障害のうつ症状に対する上限は60mg/日です。

「食後」は胃を守るためだけではない―食事が薬の効き方を変える

ラツーダは、食事により吸収が大きく変わる薬です。

Preskornらは、統合失調症・統合失調感情障害の安定した成人を対象に、二つのクロスオーバー試験を行いました。試験用量は120mg/日で、さまざまな食事条件を比較しています。

その結果、350~1,000kcalの食事では薬物曝露量がおおむね同等となり、脂肪の割合による大きな違いは認められませんでした。一方、100~200kcalの食事では、十分な食事と比べて曝露量が低くなりました。

350kcalの食事後では、空腹時と比べて最高血中濃度が約3倍、AUCが約2倍でした。AUCは、体が一定時間にどのくらい薬にさらされるかを示す指標です。

同じ量を飲んでいても、食事の条件で効き方が変わり得る

この研究から実務的に考えられるのは、「毎日同じ錠数を飲んでいる」ことと、「毎日同じ程度の薬が体に入る」ことは、必ずしも同じではないという点です。

食欲がなくほとんど食べない日と、十分に食べる日が混在している場合は、服薬時の食事状況も確認する価値があります。効果不十分に見えるとき、増量前に見直したい項目の一つです。

ただし、350kcalは海外の薬物動態研究に基づく目安で、日本の用法は「食後」です。追加の夜食を一律に勧めるのではなく、普段の食事に合わせて継続できる方法を相談します。

落ち込んでいるのに活動性も高い―混合性の特徴がある場合の研究

双極性障害のうつ状態では、気分の落ち込みと同時に、考えが次々と浮かぶ、話す量が増える、活動性が高まるなどの症状が重なることがあります。

McIntyreらは、双極Ⅰ型障害のうつ状態を対象とした試験を事後解析し、軽い躁的症状を伴う群でもラツーダの抗うつ効果が認められるかを調べました。

この解析では、開始時の躁症状評価尺度YMRSが4点以上の人を「混合性の特徴あり」と定義しています。その群のMADRS改善幅は、ラツーダ群15.7点、プラセボ群10.9点でした。

ここで大切なのは、次の二点です。

  • 研究で用いた「YMRS 4点以上」は、DSM-5の「混合性の特徴」の定義と同一ではありません。
  • 混合性の特徴がある群とない群で効果量はともに0.48であり、「混合性の特徴がある人に特に強く効く」と示した結果ではありません。

また、事後解析であるため、この特徴を持つ患者さんだけを最初から集めた検証試験とは証拠の強さが異なります。

「イライラするからラツーダが合う」と単純に判断するのではなく、経過全体を評価するための知見として捉えることが大切です。

通常のうつ病にも使えるのか?

躁的症状を2~3個伴う大うつ病性障害を対象にした海外の6週間試験では、ラツーダ20~60mg/日群でMADRSが20.5点、プラセボ群で13.0点改善し、有意差が認められました。

ただし、対象は特定の躁的症状を伴う集団です。この結果を通常のうつ病全般に広げることはできず、国内ではうつ病に対する使用は承認適応ではありません。

統合失調症では、強く眠らせなくても症状を改善できる?

ラツーダの抗精神病作用を示す研究の一つが、日本人を含むJEWEL試験です。

6週間のラツーダ40mg/日とプラセボを比較し、主要解析集団478人で、統合失調症の症状評価尺度PANSSの平均改善幅は、それぞれ19.3点と12.7点でした。群間差は統計学的に有意で、効果量は0.41でした。

ラツーダはH₁受容体への親和性が非常に低い薬ですが、それでも抗精神病作用が確認されています。

このことは、薬で強く眠くなることと、幻覚・妄想などが改善することを、分けて考える重要性を示しています。

ただし、ラツーダでも眠気は起こります。また、不眠や興奮が強い場合には、それらへの対応も含めて治療全体を検討します。

認知機能にもよい?―有望な結果と、見落としたくない限界

ラツーダでは、統合失調症に伴う認知機能への影響も研究されています。

Harveyらは、ラツーダ、クエチアピン徐放製剤、プラセボを比較し、コンピューターを用いた認知機能検査などを行いました。

この研究を読む際には、解析対象によって結果が異なる点が重要です。

6週間時点の全体解析では、認知機能の総合スコア変化に有意な群間差はありませんでした。一方、事前に定めた検査の妥当性基準を満たした267人の解析では、ラツーダ160mg/日群がプラセボ群、クエチアピン群を上回りました。

その後の6か月間の延長試験でも、ラツーダ群はクエチアピン群より良好な認知機能成績を示しました。

「認知機能改善の可能性がある」という紹介はできますが、肯定的な部分だけを抜き出して「頭の働きをよくする薬」と断定するのは適切ではありません。

特に、6週間の肯定的な結果は解析集団が限定され、160mg/日は日本の承認上限を超える用量です。双極性障害の患者さんに、国内用量で同じ効果が得られるとまではいえません。

副作用の特徴―代謝への負担と、運動症状は別に考える

ラツーダを「副作用の少ない薬」と一括りにすると、特徴を見失うことがあります。

H₁・M₁受容体への親和性が低いという薬理学的特徴があっても、D₂受容体遮断に関連する運動症状やプロラクチン上昇がなくなるわけではありません。

アカシジアは「不安の悪化」に見えることがある

アカシジアは、じっと座っていられない、足を動かさずにはいられない、体の内側から落ち着かない、といった症状です。

Katoらの試験では、発現率は20~60mg/日群13.0%、80~120mg/日群23.7%、プラセボ群6.4%でした。

この副作用を病気の悪化と受け取り、さらに増量すると、つらさが強まる可能性があります。

診察では、開始・増量と症状の時間的な関係、服薬後に強まるか、動かずにいることがつらいかなどを確認します。焦燥感を訴えていても、目立つ歩き回りがないという理由だけで、副作用の可能性を除外しないことが大切です。

対応は、重症度に応じた減量や薬の変更などを含めて検討します。

体重増加が目立ちにくくても、血糖確認は必要

短期の双極性障害の試験では、体重・脂質・血糖への平均的な影響は小さいものでした。

ただし、平均値の変化が小さいことと、個々の患者さんで問題が起こらないことは同じではありません。高血糖や体重増加のほか、月経異常や乳汁分泌などに関係するプロラクチン上昇にも注意します。

治療中は、体重、血糖・HbA1c、脂質などを、身体状況に応じて確認します。

薬の相互作用―CYP3A4が重要になる

ラツーダは主にCYP3A4という酵素で代謝されるため、この酵素を阻害・誘導する薬の影響を受けます。

強い阻害薬であるクラリスロマイシン、リトナビルを含む製剤、エンシトレルビルなどは併用禁忌です。強い誘導薬であるリファンピシンなども併用できません。

一方、ジルチアゼムなどは併用注意で、添付文書では患者さんの状態に応じてラツーダを通常の半量に減じるなど、慎重な対応が求められます。グレープフルーツ含有食品も避けてください。

「精神科の薬同士」だけでなく、感染症治療薬や循環器の薬、健康食品まで確認することが重要です。

うつ状態が改善すれば、そのまま再発も防げるのか?

急性期の症状改善と、将来の再発予防は、別々に検証する必要があります。

Calabreseらの維持療法試験では、リチウムまたはバルプロ酸とラツーダで安定した双極Ⅰ型障害の患者496人を、ラツーダ継続群とプラセボへの切り替え群に分け、28週間比較しました。

主要評価項目である気分エピソード再発のハザード比は0.71でしたが、統計学的有意差には達しませんでした。

これは「再発予防効果が絶対にない」と証明した結果ではありません。一方、良好だった部分集団の解析や、対照群のない長期試験だけで、維持療法の有効性が確立したと判断することもできません。

国内の電子添文にも、双極性障害の維持療法における有効性は確立していないと記載されています。

うつ症状が改善した後には、過去の躁・うつエピソード、再発頻度、副作用、併用薬などを踏まえ、その後の治療方針を改めて相談します。

安全に服用するために

ラツーダ服用中は、自動車の運転や危険を伴う機械の操作を避けてください。

また、高熱と強い筋肉のこわばり、意識の変化、急な胸痛・呼吸困難などがある場合は、速やかな受診が必要です。強い口渇・多飲・多尿が現れた場合は、服用を中断して直ちに医師の診察を受けてください。

強い焦燥感や希死念慮の悪化も、次の予約日を待たずに相談してください。妊娠・授乳についても、自己判断で中止せず、事前に相談しましょう。

最後に

ラツーダには、双極性障害のうつ症状に対する比較試験の裏付けがあり、特徴的なセロトニン受容体作用や、食事によって大きく変わる吸収など、治療を考えるうえで興味深い点があります。

一方、認知機能への効果、混合性の特徴を伴う状態への効果、長期の再発予防については、それぞれ研究の対象や限界を踏まえて判断する必要があります。

薬の名前や分類だけで選ぶのではなく、何を改善したいのか、食事に合わせて続けられるか、アカシジアなどの負担がないかを確認しながら、ご本人に合った治療を考えていきます。

参考文献・資料

  1. PMDA. ラツーダ電子添文(2026年8月改訂、第11版).
  2. PMDA. ラツーダ患者向医薬品ガイド・医薬品インタビューフォーム.
  3. Ishibashi T, et al. Pharmacological profile of lurasidone, a novel antipsychotic agent with potent 5-HT7 and 5-HT1A receptor activity. J Pharmacol Exp Ther. 2010. PubMed
  4. Loebel A, et al. Lurasidone monotherapy in the treatment of bipolar I depression: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Am J Psychiatry. 2014. PubMed
  5. Kato T, et al. Double-blind, placebo-controlled study of lurasidone monotherapy for the treatment of bipolar I depression. Psychiatry Clin Neurosci. 2020. PubMed
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  7. Preskorn S, et al. Effect of food on the pharmacokinetics of lurasidone: results of two randomized, open-label, crossover studies. Hum Psychopharmacol. 2013. PubMed
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  11. Harvey PD, et al. Effect of lurasidone on neurocognitive performance in patients with schizophrenia: a short-term placebo- and active-controlled study followed by a 6-month double-blind extension. Eur Neuropsychopharmacol. 2013. PubMed
  12. Calabrese JR, et al. Lurasidone in combination with lithium or valproate for the maintenance treatment of bipolar I disorder. Eur Neuropsychopharmacol. 2017. PubMed

情報確認日:2026年10月17日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)