精神科の薬で手が震えることがあるのはなぜか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「薬を飲み始めてから、コップを持つ手が震える」
「人前で字を書くときに震えて、余計に緊張してしまう」
「副作用なのか、別の病気なのか心配」

精神科の薬を服用していると、このような症状が出ることがあります。

結論からいうと、抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定薬などで手の震えが起こることはあります。ただし、仕組みは薬によって異なり、すべてが「パーキンソン病のような副作用」というわけではありません。

もともと誰にでもある細かな震えが目立つ場合もあれば、運動を調節する脳の回路への作用が関係する場合もあります。まれですが、血中濃度の上昇や、緊急の対応が必要な副作用のサインになっていることもあります。

今回は、薬で手が震える理由と、診察でどのように原因を考えるのかを解説します。

そもそも、人間の手は完全には止まっていません

手を前に伸ばして、指先をじっと見てみてください。

普段は気づかなくても、ごく細かく動いていることがあります。人間の身体には、健康な状態でも「生理的振戦」と呼ばれる小さな震えがあります。振戦とは、自分の意思とは関係なく起こる、ある程度規則的な揺れのことです。

この震えは、筋肉や反射の働き、身体の物理的な性質、神経活動などが組み合わさって生じています。

緊張したとき、寝不足のとき、疲れているとき、カフェインを多く取ったときなどには、この揺れが目立ちやすくなります。

薬による震えにも、この「もともとある揺れが増幅される」タイプがあります。手が震えたからといって、直ちに神経が傷ついたことを意味するわけではありません。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

同じ「手の震え」でも、出る場面が違います

診察では、震えの強さだけでなく、「何をしているときに震えるか」を確認します。

震えの種類気づきやすい場面原因を考える手がかり
安静時振戦手を膝に置いて、力を抜いているときパーキンソン病や薬剤性パーキンソニズムなどを検討
姿勢時振戦両手を前に伸ばす、コップを持って静止するとき生理的振戦の増強、薬剤性振戦、本態性振戦など
運動時振戦字を書く、箸を使う、水を注ぐとき薬剤性振戦、本態性振戦など
企図振戦指を目標物に近づけるほど揺れが強くなるとき小脳の機能に関わる病気なども検討

ただし、この表だけで原因を決めることはできません。一人の方に複数のタイプが重なることもあります。

薬の名前だけでなく、震え方そのものを観察することが、原因を考えるうえで大切です。PMC

抗うつ薬では、神経伝達の変化が震えに関係します

SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬などでは、手の震えが起こることがあります。

典型的には、両手を前に出したり、物を持ったりしたときの、比較的細かな震えです。

抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達に作用しますが、これらは気分だけでなく、運動の調節にも関係しています。薬によって神経回路の活動が変化し、生理的振戦が目立つようになることなどが考えられています。ただし、詳しい機序がすべて解明されているわけではありません。

ここで少しややこしいのは、不安そのものでも震えることです。

不安が改善して震えが減る方もいれば、気分は改善したのに薬の影響で震えが出る方もいます。「まだ震えるから不安の治療が足りない」と考えて増量すると、かえって震えが強くなる場合もあるため、症状と副作用を分けて評価する必要があります。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

抗精神病薬では「運動を調節するドパミン」の働きが関係します

抗精神病薬の一部は、ドパミンD₂受容体を遮断することで作用します。

ドパミンは精神症状だけでなく、動作を滑らかに行うためにも必要な物質です。運動に関わる「黒質線条体系」という回路でドパミンの働きが抑えられると、震え、筋肉のこわばり、動作の遅さなどが出ることがあります。

これを「薬剤性パーキンソニズム」と呼びます。

手の震えに加えて、次のような変化がないかも確認します。

  • 歩幅が小さくなった
  • 歩くときの腕の振りが減った
  • 着替えや細かい作業に時間がかかる
  • 表情や身体の動きが少なくなった
  • 筋肉がこわばる

「パーキンソニズム」は症状のまとまりを示す言葉で、「パーキンソン病」と同じ意味ではありません。

また、比較的新しい抗精神病薬でも起こることがあり、薬ごとの性質、用量、併用薬、年齢などによって起こりやすさが変わります。thejcn.com

「左右同じなら薬、片側だけならパーキンソン病」とは言い切れません

薬剤性パーキンソニズムは、左右対称に症状が出るのが典型とされます。しかし、左右差や安静時の震えがみられる例もあります。

さらに、もともと潜在していたパーキンソン病の症状が、薬をきっかけに表面化する場合もあります。

薬を調整しても症状が続く、進行するなどの場合には、脳神経内科での評価を検討します。必要に応じて、ドパミン神経終末の機能を調べるDAT-SPECTなどが鑑別の助けになることがありますが、震えがある方全員に必要な検査ではありません。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

リチウムの震えは「よくある副作用」と「中毒のサイン」を区別します

炭酸リチウムでは、手を前に伸ばしたり、物を持ったりするときに、細かな震えが出ることがあります。

ここで大切なのは、震えが出たからといって、必ずしもリチウム中毒ではないことです。治療に用いる血中濃度の範囲でも、震えは起こり得ます。

一方、これまでの震えが急に大きくなり、次の症状を伴う場合は注意が必要です。

  • 歩くとふらつく
  • ろれつが回りにくい
  • 嘔吐や下痢がある
  • 強い眠気や、ぼんやりする感じがある
  • 手足がうまく動かせない

リチウムは主に腎臓から排泄されます。脱水、腎機能の低下、併用薬の影響などによって、服用量が同じでも血中濃度が上がることがあります。

そのため、「何年も同じ量だから大丈夫」とは限りません。また、中毒を疑う症状があるときは、血中濃度の数値だけで安全とは判断できません。

中毒が疑われる場合は、次のリチウムの服用を控え、直ちに医療機関へ連絡してください。意識の異常や強い歩行障害がある場合は、救急受診が必要です。sps.nhs.uk

バルプロ酸でも震えが起こることがあります

バルプロ酸は、てんかん、躁状態、片頭痛の予防などに使われる薬ですが、震えは知られている副作用の一つです。

2020年のシステマティックレビュー・メタ解析では、29のランダム化比較試験をまとめ、バルプロ酸を使用した方の震えの発生割合は約14%と推定されました。

ただし、対象疾患や用量、観察期間が異なる研究をまとめた数値です。「精神科で処方された人の14%に必ず起こる」という意味ではありません。

多くは姿勢を保つときや動作中の震えですが、安静時の震えがみられる場合もあります。治療域の血中濃度でも起こり得るため、「採血の数値が範囲内だから、薬の副作用ではない」とは言い切れません。

発生機序には複数の仮説がありますが、まだ十分には分かっていません。PMC

「震えに見える別の動き」もあります

患者さんが「震える」と表現する症状が、医学的な振戦とは限らないこともあります。

例えば、身体の内側から落ち着かず、じっと座っていられない場合には「アカシジア」を考えます。不安の悪化と間違われることもあります。

一瞬、電気が走るように手足がピクッと動く場合は「ミオクローヌス」、口をもぐもぐさせたり舌が勝手に動いたりする場合は「ジスキネジア」など、別の不随意運動を検討します。

これらは原因も対処も異なります。「震え止めを出せばよい」と一括りにはできません。PMC

精神科の薬以外にも、原因が隠れていることがあります

薬を飲んでいると、ついすべての症状を副作用と考えたくなります。しかし、甲状腺機能亢進症、本態性振戦、低血糖など、別の原因が重なっていることもあります。

また、確認する薬は精神科の処方だけではありません。

例えば、一部の吐き気止めはドパミン受容体に作用し、パーキンソニズムの原因になります。喘息の治療薬などが震えに関わる場合もあります。

診察では、処方薬に加えて、市販薬、サプリメント、カフェインの摂取量なども確認します。Australian Prescriber

震えが出たら、薬はどう調整するのでしょうか

基本になるのは、原因と生活への影響を確認しながら、治療効果とのバランスを取ることです。

状況に応じて、原因として疑わしい薬の減量、別の薬への変更、併用薬の整理などを検討します。軽く、生活に支障がない場合には、経過をみることもあります。

原因の薬を続ける必要がある場合には、震えを抑える薬を検討することもあります。例えば、プロプラノロールなどのβ遮断薬が使われる場合がありますが、喘息、徐脈、低血圧などに注意が必要です。使用にあたっては、適応や保険上の扱いも含めて個別に判断します。

なお、薬剤性振戦に対する治療研究は、小規模なものが多いのが現状です。2022年のシステマティックレビューでも、治療効果を示唆する報告はある一方、研究の質には限界があるとされています。

「この震えには必ずこの薬が効く」というほど、単純ではありません。Wiley Online Library

発熱や意識の変化を伴う震えは、早急な受診が必要です

手の震えの多くが緊急事態というわけではありません。

ただし、急に震えが強くなり、発熱、大量の発汗、強い興奮、意識の変化、筋肉の強いこわばりなどを伴う場合には、セロトニン症候群や悪性症候群といった重い副作用も考える必要があります。

セロトニン症候群では、腱反射の亢進や、筋肉が反復して動くクローヌスなどが診断の手がかりになります。震えだけで判断するのではなく、全身の状態を確認することが重要です。

こうした症状がある場合は、次の予約日まで待たずに医療機関へ連絡してください。意識がおかしい、高熱と強いこわばりがあるなどの場合は、救急受診が必要です。info.pmda.go.jp

診察では、短い動画が役立つこともあります

震えは、診察室では出ないことがあります。

受診時には、次のような情報があると原因を考えやすくなります。

  • いつから始まったか
  • 薬の開始・増量・減量との関係
  • 何もしていないときと、物を持つときのどちらで目立つか
  • 左右差があるか
  • こわばり、動作の遅さ、ふらつきなどがあるか
  • 食事、筆記、仕事などで、どの程度困っているか

症状が出ているときの短い動画や、震えたときに書いた文字が、診察の参考になることもあります。

「副作用かもしれないけれど、薬が効いているから言いづらい」と遠慮する必要はありません。箸が使いにくい、字が書きづらい、人前でコップを持つのがつらいといった困りごとも、治療を調整する大切な情報です。

軽い震えだけで自己判断の中断をすることは避け、まずは処方医に相談してください。薬の効果を保ちながら、負担を減らせる方法を一緒に考えていきます。

参考文献・資料

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    https://australianprescriber.tg.org.au/articles/drug-induced-movement-disorders.html
  6. NHS Specialist Pharmacy Service. Lithium monitoring.
    https://sps.nhs.uk/monitorings/lithium-monitoring/
  7. 厚生労働省.重篤副作用疾患別対応マニュアル「セロトニン症候群」「悪性症候群」.医薬品医療機器総合機構(PMDA)掲載.
    https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm1003003.pdf
    https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0804001.pdf

情報確認日:2026年10月23日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)