人は第一印象だけで人を判断しているのか

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「人は第一印象で決まる」
「最初に嫌われたら、もう取り返せない」
「自分は人を見る目があるから、会えばだいたいわかる」
このような言葉を聞くことがあります。
実際、人は驚くほど短い時間で相手の印象をつくります。しかし、「すぐに印象ができること」と「その人の本質を正しく見抜けること」は別です。また、第一印象がその後の評価を左右することはあっても、一生変わらないわけではありません。
今回は、第一印象が生まれる速さ、その印象を信じてしまう理由、そして印象が変わる条件について、心理学と脳科学の研究から解説します。
人は、わずか0.1秒でも相手の印象をつくる
第一印象の研究としてよく知られているのが、WillisとTodorovが2006年に発表した実験です。
参加者に見知らぬ人の顔写真を見せ、「信頼できそうか」「有能そうか」「好ましいか」といった評価を求めました。
すると、顔をわずか100ミリ秒、つまり0.1秒だけ見た場合でも、時間制限なしで見た場合とよく似た評価が生まれました。少なくとも顔写真からの印象については、じっくり考える前に、かなりの部分が形づくられていたのです。
ただし、この研究は「0.1秒で本当の性格を見抜ける」と示したものではありません。
比較しているのは、短時間で生じた印象と、時間をかけて生じた印象です。写真の人物が実際に誠実だったか、仕事ができたかを確かめた研究ではないのです。
さらに、一部の評価では、見る時間が増えても判断はあまり変わらない一方、判断への自信は高まりました。長く見たから正確になったとは限らず、「やっぱり自分の見立ては正しい」という確信だけが強まる場合があるわけです。
顔から読み取っているのは、本当に「性格」なのか
私たちは顔を見ると、単なる目や鼻の形だけでなく、「優しそう」「怖そう」「頼れそう」といった社会的な意味を感じ取ります。
OosterhofとTodorovの研究では、感情を表していない顔に対するさまざまな評価が、主に「信頼できそうか」と「支配的・強そうか」に近い二つの軸で整理できることが示されました。
日常の言葉に置き換えれば、「この人に近づいても大丈夫そうか」「この人は自分に強い影響を与えそうか」という評価に近いでしょう。
研究者たちは、表情から感情や意図を推測する仕組みが、顔立ちの評価にまで広がっている可能性を指摘しています。例えば、怒りの表情に似た特徴を持つ顔が、実際には怒っていなくても、近づきにくく感じられるという考え方です。
つまり、「怖そうに見えた」という自分の反応は確かにあっても、そこから直ちに「怖い性格の人だ」と結論づけることはできません。
見た目から生まれた印象と、その人について確認できた事実を分ける必要があります。
同じ人でも、写真が違えば「別の性格」に見えてしまう
顔写真から人柄を判断することの危うさを示す、興味深い研究があります。
TodorovとPorterは、同じ人物の異なる顔写真を用いて、人々がどのような印象を抱くかを調べました。
その結果、さまざまな対人評価において、同じ人物の写真間で生じる印象の違いが、別人同士の違いに匹敵したり、それを上回ったりすることがありました。
本人の性格が変わったわけではありません。変わったのは、見せられた写真です。
また、好まれる写真は、恋愛相手を探す場面と政治家の選挙活動という場面でも異なりました。どの写真が「良い印象」になるかは、見る目的にも左右されていたのです。
SNSのプロフィール写真を見て「この人は冷たそう」「この人なら信用できそう」と感じることはあるでしょう。
しかし、そのとき私たちが評価しているのは、その人全体というより、ある一枚の写真がつくる印象かもしれません。
第一印象は、その後の情報の「意味」まで変える
第一印象が重要なのは、最初の評価が記憶に残るからだけではありません。その後に入ってくる情報の解釈まで変えることがあるからです。
心理学者Aschの古典的な研究では、同じ性格特性の並びでも、提示する順番によって、人物全体の印象が変わりました。
例えば、「知的」「勤勉」といった特徴から紹介される場合と、「嫉妬深い」「頑固」といった特徴から紹介される場合では、同じ情報でも受け取られ方が異なったのです。これは、印象形成における「初頭効果」の代表的な研究です。
日常でも、最初に「頼りになる人」と思った相手が強く意見を述べれば、「信念がある」と感じるかもしれません。
反対に、「感じの悪い人」と思った相手が同じように意見を述べれば、「また自分の考えを押しつけている」と感じることがあります。
この例は説明のためのものですが、ポイントは、私たちが情報を一つずつ独立に採点しているとは限らないことです。
先にできた人物像が、後から起きた出来事を読むための枠組みになってしまうのです。
「感じがいい」だけで、ほかの部分まで良く見える
ある特徴や全体的な好印象が、別の特徴の評価にまで影響することを「ハロー効果」と呼びます。
NisbettとWilsonの実験では、同じ大学教員が、温かく親しみやすく振る舞う映像と、冷たくよそよそしく振る舞う映像を用意しました。
温かい教員を見た参加者は、その人の外見やしぐさ、アクセントも好意的に評価しました。一方、冷たい教員を見た参加者は、それらの特徴も否定的に評価しやすくなりました。
さらに興味深いのは、参加者自身が、この影響に十分気づいていなかったことです。
「なんとなく好きだから、話し方も魅力的に感じた」のに、本人としては「話し方が魅力的だったから好きになった」と理解していることもあります。
私たちは、自分の判断の理由をいつも正確に説明できるわけではありません。「きちんと理由がある判断だ」という感覚そのものも、過信しない方がよいのでしょう。
第一印象を覆すのは、単に「良い情報を増やすこと」とは限らない
では、一度できた印象は変えられないのでしょうか。
MannとFergusonが2015年に発表した研究は、この問いに興味深い答えを示しています。
研究では、ある人物の行動について学習させた後、それまでの行動の意味を読み替えさせる情報を提示しました。すると、本人が言葉で答える評価だけでなく、反応課題で測定する潜在的な評価も反転することが示されました。
重要なのは、新しい情報が単なる追加の長所ではなく、「以前の出来事をどう理解するか」を変えたことです。
日常の例で考えてみましょう。
最初に「挨拶を無視された」と感じた相手について、後から「仕事ができる」「趣味が多い」と知っても、無視されたという印象は残るかもしれません。
一方、「実はそのとき、こちらの声が聞こえていなかった」とわかれば、最初の出来事自体の意味が変わります。
この日常例そのものを実験したわけではありませんが、印象の修正には、長所の足し算だけでなく、最初の解釈を見直すことが役立つ可能性を示しています。
もちろん、これは架空の人物を用いた実験です。長年の対人関係でも、説明を一度聞けば必ず印象が変わる、とまでは言えません。
「人柄」と「能力」では、印象が変わる情報が違う
印象の修正には、もう一つ面白い特徴があります。
人柄を評価するときと、能力を評価するときでは、重視される情報が同じではないのです。
Mende-Siedleckiらの研究では、道徳性の評価では否定的な行動が、能力の評価では肯定的な行動が、印象の更新に強く影響しました。
例えば、説明のために考えると、「普段は親切な人が、意図的に人をだました」という情報は、誠実さへの評価を大きく変えそうです。
一方、「苦手そうに見えた人が、難しい問題を見事に解いた」という情報は、能力への評価を大きく変えるでしょう。
研究者たちは、この違いを、その行動が「どれほど珍しく、その人の特徴を見極める手がかりになると感じられるか」という観点から説明しています。
単純に「人は悪い情報ばかり重視する」という話ではありません。
何を評価しているのかによって、印象を動かす証拠の種類が変わるのです。
脳にも、印象を「更新する」働きがある
脳科学の研究でも、人物の印象は固定されたものとして扱われていません。
顔写真と行動の説明を組み合わせたfMRI研究では、行動情報から人物の印象を形成するときに背内側前頭前野が関わり、それまでの評価と食い違う行動を受けて印象を更新するときには、前頭前野の別の領域や上側頭溝、後部帯状皮質などを含むネットワークが関わることが報告されています。
これは、「第一印象をつくったら、脳はそれを変更できない」という説明とは合いません。
ただし、ある領域の活動が増えたことから、「その人を正しく理解できた」と判断することもできません。fMRIが示すのは課題に伴う脳活動の変化であり、人物評価の正しさそのものではないからです。
第一印象の形成と、その後の修正を分けて研究できるという点が、医学的にも興味深いところです。
精神科の診療でも、「見えたこと」と「解釈」を分ける
こうした研究を診療に引き寄せると、初診時の印象をどう扱うかという問題につながります。
例えば、「視線が合いにくい」という観察から、「人に関心がない」と判断することはできません。強い緊張があるのかもしれませんし、相手の顔を見ながら話すことに負担があるのかもしれません。
「笑顔で受け答えしている」という観察も、それだけで苦痛の軽さを保証しません。
ここは第一印象研究から直接証明された診断手順というより、臨床への応用として考えられる点です。
「返答までに間があった」は観察ですが、「非協力的だった」は解釈です。
「話す量が多かった」は観察ですが、「元気だから問題ない」は、さらに踏み込んだ判断です。
診察では表情や話し方も大切な情報になります。ただ、その情報を症状の経過、生活上の支障、普段との違いなどと照らし合わせていく必要があります。
患者さんを見る医療者にも、医療者を見る患者さんにも、第一印象の影響はあり得ます。
第一印象とうまく付き合うには
第一印象が自然に生まれる以上、「印象を一切持たない」と考えるのは現実的ではありません。
取り入れやすいのは、最初の印象を、まだ修正できる仮の見立てとして扱うことです。
例えば、次のような工夫が考えられます。
- 「冷たい人だ」ではなく、「今日は反応が少なかった」と表現する
- 自分の印象と合わない行動にも目を向ける
- 一枚の写真、一度の会話だけで性格全体を決めない
- 親しみやすさ、誠実さ、能力をそれぞれ別に考える
- 重要な判断では、複数の場面での具体的な行動を確認する
これらは第一印象を完全に消す方法ではありませんが、印象と事実を混同しないための工夫です。
また、初対面で緊張してうまく話せなかった人も、「これですべてが決まった」と考える必要はありません。最初の会話のぎこちなさだけで、その後の関係まで確定するわけではないからです。
人は確かに、相手を知る前から印象を持ちます。しかし、相手を知っていく過程まで、第一印象だけで決まっているわけではありません。
「自分はこの人をこう感じた」と「この人はこういう人だ」の間に、少し余白を残しておく。その姿勢が、相手をより丁寧に理解することにつながります。
参考文献
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- Todorov A, Porter JM. Misleading first impressions: Different for different facial images of the same person. Psychological Science. 2014;25(7):1404–1417. https://doi.org/10.1177/0956797614532474
- Asch SE. Forming impressions of personality. Journal of Abnormal and Social Psychology. 1946;41:258–290. https://doi.org/10.1037/h0055756
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- Mann TC, Ferguson MJ. Can we undo our first impressions? The role of reinterpretation in reversing implicit evaluations. Journal of Personality and Social Psychology. 2015;108(6):823–849. https://doi.org/10.1037/pspa0000021
- Mende-Siedlecki P, Baron SG, Todorov A. Diagnostic value underlies asymmetric updating of impressions in the morality and ability domains. Journal of Neuroscience. 2013;33(50):19406–19415. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.2334-13.2013
- Mende-Siedlecki P, Cai Y, Todorov A. The neural dynamics of updating person impressions. Social Cognitive and Affective Neuroscience. 2013;8(6):623–631. https://doi.org/10.1093/scan/nss040
情報確認日:2026年10月23日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)