障害年金はどうすれば通るのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「うつ病と診断されたら、障害年金はもらえますか?」
「働いていたら通りませんか?」
「先生に重く書いてもらえば通るのでしょうか?」

精神科の障害年金については、いろいろな情報が出回っています。

先に結論を書くと、重要なのは「通りやすい言い方」を覚えることではありません。

初診日や保険料などの条件を満たしていること。そのうえで、病気によって生活や仕事にどのような制限が生じているのかが、具体的な事実として伝わることです。

「うつ病です」という病名だけでも、「とてもつらいです」という訴えだけでも、審査に必要な情報はそろいません。

一方で、本当は相当な支援を受けているのに、その支援が書類に表れていなければ、生活上の困難が十分に伝わらないこともあります。

今回は、精神疾患による障害年金について、「審査では何を見ているのか」という視点から説明します。

まず「病気が重い」と「年金の条件を満たす」は別の話

障害年金は、病気の重さだけで決まる制度ではありません。

主に確認するのは、障害の原因となった病気の初診日、その時点の年金加入状況、保険料の納付状況、そして一定以上の障害の状態にあるかどうかです。

障害基礎年金は1級・2級、障害厚生年金は1級・2級・3級が対象です。障害基礎年金には3級がありません。

そのため、同じように仕事が難しい状態でも、初診日時点で加入していた制度によって、受給に結びつくかどうかが異なる場合があります。現在の職業や保険証だけで判断することはできません。

納付要件については、原則として、初診日の前日時点で、初診月の前々月までの加入期間のうち、納付済期間と免除期間を合わせて3分の2以上あることが必要です。

また、初診日が2036年3月31日までで、初診日に65歳未満であれば、対象となる直近1年間に未納がない場合の特例があります。20歳前の年金未加入期間に初診日がある場合には、納付要件はありません。

「免除」と「未納」は違います。ここは自己判断せず、年金事務所で確認しましょう。

「初診日」は、今の病名がついた日とは限らない

例えば、うつ病と診断される前に、不眠や食欲低下で内科を受診していた方がいるとします。

その内科受診が、現在の障害の原因となった病気についての最初の受診と判断されれば、そこが初診日になることがあります。

現在のクリニックに初めて来た日や、正式な診断名がついた日と一致するとは限りません。

初診日の証明では、古い医療機関の記録が問題になることもあります。ただし、廃院やカルテの廃棄で証明を取れないからといって、その時点で必ず断念するわけではありません。参考資料や第三者証明などを用いて確認する取り扱いもあります。利用できる資料と要件を、窓口で確認する必要があります。

このように、診断書の内容を考える前に整理しておくべきことがあります。

精神科の障害年金は、診断名だけでなく「暮らし」を見ている

診療では、気分の落ち込み、幻聴、不安、不眠などの症状を確認します。

しかし障害年金では、それらの症状が、実際の生活にどのような制限を生じさせているかが重要になります。

例えば、「意欲が低下しています」だけでは、生活への影響が分かりません。

食事を用意できないのか。入浴を何日も先延ばしにしてしまうのか。請求書を開封できず、支払いが滞っているのか。薬を飲んだか判断できず、家族の管理が必要なのか。

同じ「意欲低下」でも、必要な支援は異なります。

日本年金機構も、適切な等級判定のためには、診断書をできる限り詳細かつ具体的に記載することが重要だと説明しています。

医師側から見ても、ここは大切な点です。

症状の名前を並べることと、その人の機能障害を説明することは、同じではありません。

診断書の「日常生活能力」は、何を評価しているのか

精神の障害用の診断書では、日常生活能力を7つの項目で評価します。

以下は、それぞれについて診察で共有すると役立つ情報の例です。記載した困りごとがあれば、直ちに特定の等級になるという意味ではありません。

評価項目具体的に確認したいこと
適切な食事食事を抜く頻度、準備や片づけの可否、家族による用意や声かけ
身辺の清潔保持入浴・洗面・着替え・掃除を、どの程度続けられるか
金銭管理と買い物必要な買い物、支払い、予算管理に援助が必要か
通院と服薬予約管理、受診、服薬の継続に、付き添いや管理が必要か
他人との意思伝達・対人関係必要な連絡や相談ができるか、対人トラブルに援助が必要か
身辺の安全保持・危機対応危険を避け、体調悪化や事故の際に助けを求められるか
社会性行政手続き、公共施設の利用などを、どの程度行えるか

この7項目の評価と、生活全体の援助の必要度を示す「日常生活能力の程度」を組み合わせて、等級の目安が示されます。

ただし、目安は自動判定ではありません。病状、療養状況、生活環境、就労状況などを含めて総合的に判断されます。

ネットで平均点だけ計算して「この数字なら絶対に2級」と結論づけるのは、制度の読み方として不十分です。

家族が頑張っているほど、障害が見えにくくなることがある

ここは、かなり重要です。

毎日食事を取っている。薬も飲んでいる。部屋も清潔で、通院もできている。

これだけ聞くと、生活は自立しているように見えます。

しかし、実際には家族が食事を用意し、薬を分け、毎朝声をかけ、掃除をして、車で受診に連れてきているかもしれません。

その場合、「生活が整っている」という結果だけでは、その人自身の生活能力は分かりません。

診断書では、単身で生活するとしたら可能かどうか、という視点で日常生活能力を判断します。また、ガイドラインでも、家族との同居などで支援が常態化している場合には、単身生活に必要となる支援を考慮するとされています。

もちろん、実際に一人暮らしをして困ってみる必要はありません。

伝えてほしいのは、「できていることの裏で、誰が何を支えているか」です。

家族が行う支援は、暮らしの中で当たり前になりやすいものです。しかし、当たり前になっていることと、援助が不要であることは違います。

「働いているから受給は無理」は本当か?

就労しているという理由だけで、直ちに障害年金の対象外になるわけではありません。

ガイドラインでは、仕事の内容、勤務状況、職場で受けている援助、意思疎通などを確認して、日常生活能力を判断するとしています。

例えば、同じ週5日の勤務でも、その中身は異なります。

業務を一つに限定してもらっている。毎回、手順の確認を受けている。欠勤や遅刻が多くても雇用が維持されている。家族が起床から出勤まで支えている。

こうした事情は、「就労中」の一言では伝わりません。

また、仕事に力を使い切り、帰宅後は食事や入浴ができなくなるような場合もあります。ガイドラインには、就労の影響で日常生活能力が著しく低下していないかを考慮する視点があります。

ただし、「働いていても絶対に問題ない」という意味でもありません。

支援の少ない環境で、安定して仕事と生活を維持できているのであれば、その事実も審査に関係します。雇用形態の名前だけでなく、実態を確認することが大切です。

診察室で普通に話せることと、生活が自立していることは別

受診のために身なりを整え、短い時間なら落ち着いて話せる方もいます。

しかし、それだけで日々の食事、金銭管理、服薬、対人関係まで問題ないと判断することはできません。

これは診察室での評価の限界でもあります。

反対に、診察中に強く落ち込んでいることだけで、生活全体の障害の程度が決まるわけでもありません。

医師としては、その場の印象を、普段の生活や経過と照らし合わせる必要があります。

特に気分障害では、認定基準そのものが、現在の症状だけによる認定では不十分であり、症状の経過と、それによる日常生活活動の状態を考慮するよう求めています。

「今日は少し調子がいい」と「ここ数か月、生活を安定して維持できている」は、違う情報です。

一番悪い日だけを書けばよい、というものでもない

困難を伝えようとして、最も調子が悪かった一日の状態だけで、生活全体を説明してしまうことがあります。

しかし、それでは普段の状態や変動が分からなくなります。

大切なのは、いつ、どのくらいの頻度で、どの程度困り、そのとき何の援助が必要なのかを伝えることです。

例えば、次のような説明です。

「外出できません」だけでなく、「近所の店には一人で行けるが、通院は家族の付き添いが必要」。

「家事ができません」だけでなく、「洗濯機は回せるが、干すところまで進められず、家族が引き継いでいる」。

「何もできません」だけでなく、「調子のよい日は簡単な食事を用意するが、週の半分ほどは家族が準備している」。

これは模範解答ではありません。実際に該当する場合の説明例です。

できることも、できないことも、その条件も伝える。その方が、医師は状態を具体的に把握できます。

薬が多ければ通る? 入院歴があれば有利?

薬の数や入院歴だけで、等級が決まるわけではありません。

ガイドラインでは、薬物治療の状況だけをもって障害の程度を判断せず、症状や生活状況などを含めて評価することが示されています。

したがって、年金のために薬を増やす、治療を中断して悪い状態を保つ、といった考え方には医学的な意味がありません。

治療では改善を目指し、その時点で残っている困難と必要な支援を評価します。

薬の処方内容は、生活能力の代わりになる点数表ではないのです。

病名は何でも同じ、というわけではない

ここまで生活能力の話をしましたが、病名や病態が無関係ということではありません。

認定基準では、統合失調症、気分障害、器質性精神障害、てんかん、知的障害、発達障害などについて、それぞれ取り扱いが示されています。

一方、神経症やパーソナリティ障害は原則として認定の対象とされていません。神経症には、精神病の病態を示す場合の例外規定がありますが、「長期間つらい」「生活への影響が大きい」だけで、その例外に該当するわけではありません。

この点は、臨床上の重症度と制度上の対象範囲が、完全には一致しない部分です。

ただし、だからといって、年金のために診断名だけを変えればよいわけではありません。

医師が確認するべきなのは、実際の症状と経過、併存する疾患、そして診断の妥当性です。

診断書をお願いする前に、何を準備すればよいか

まず、年金事務所などで、初診日・納付要件・請求方法・必要書類を確認してください。

そのうえで主治医には、病歴や現在の生活について、次のような情報を共有すると役立ちます。

  • これまでの受診先と、おおよその受診時期
  • 食事、入浴、掃除、金銭管理、通院などで困っていること
  • 家族や支援者が、どのような援助を、どれくらい行っているか
  • 仕事の内容、勤務時間、欠勤、職場の配慮
  • 良い時期と悪い時期が、どのくらい続くか

長い作文である必要はありません。普段の暮らしを振り返ったメモでも十分に役立ちます。

本人だけでは説明しにくい場合は、ご本人の同意のもとで家族や支援者から情報を補ってもらう方法もあります。

医師に伝えたいのは、希望する等級よりも、その判断の根拠になる事実です。

「先生が書けば通る」わけではない

主治医は診断書を作成しますが、支給の可否や等級を決定するのは主治医ではありません。

医師の役割は、治療経過と現在の状態を医学的に評価し、生活や就労への影響を、根拠とともに説明することです。

患者さんの希望だけで、重い評価を記載できるわけではありません。一方で、普段の診察だけでは把握しきれていない生活上の支援があれば、それを確認することも必要です。

正確な診断書には、医師の評価と、本人・家族・支援者からの具体的な情報の両方が必要になります。

申請を先延ばしにすると、受け取れる時期に影響することがある

障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を経過した日です。例外や20歳前傷病の取り扱いもあります。

障害認定日時点で要件を満たしていた場合の請求と、その後に状態が重くなった場合の「事後重症による請求」では、支給開始の考え方が異なります。

特に事後重症では、基本的に請求した日の翌月分からの支給です。「もっと前から具合が悪かった」としても、自動的にその時点まで遡るわけではありません。

障害認定日による請求でも、遡って受け取れる年金には、時効による最大5年分という限度があります。当時の障害状態を確認できる資料も必要です。

そのため、対象になる可能性がある場合は、必要な準備を早めに確認する意味があります。

不支給だったら何を確認するべきか

不支給になった場合は、まず理由を確認します。

障害の程度が基準に達していないと判断されたのか。初診日の確認に問題があったのか。納付要件を満たしていなかったのか。

理由によって、確認すべき資料や対応は異なります。

決定に不服がある場合には審査請求の制度があり、原則として、決定を知った日の翌日から起算して3か月以内という期限があります。通知を受け取ったら、放置せず内容を確認してください。

年金事務所への相談は、自分で行うこともできます。手続きが難しい場合や、初診日の証明、不服申立てなどで整理が必要な場合には、社会保険労務士などの専門家に相談する選択肢もあります。依頼する際は、業務範囲と費用を事前に確認しましょう。

当院でのご相談について

障害年金についてご相談がある方は、診察時にお申し出ください。

当院では、診療経過や現在の状態を確認したうえで、診断書の作成についてご相談をお受けしています。診断書の作成によって、認定や支給を保証するものではありません。

また、精神障害者保健福祉手帳と障害年金は別の制度です。手帳の等級が、そのまま年金の等級になるわけではありません。

障害年金の相談で大切なのは、「どれほど重く見せるか」ではなく、「普段、何に困り、どんな支援を必要としているか」を共有することです。

食事ができているなら、誰が用意しているのか。
通院できているなら、誰が支えているのか。
働いているなら、どんな配慮があって続けられているのか。

そこまで含めて、今の生活です。

※個別の受給要件や必要書類は、年金事務所などでご確認ください。

参考資料

情報確認日:2026年10月17日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)