精神科の診断名が医師によって違うのはなぜか

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「前の病院ではうつ病と言われたのに、こちらでは適応障害と言われました」
「先生が変わったら、双極性障害かもしれないと言われて戸惑っています」
「診断名が変わるということは、前の診断が間違っていたのでしょうか」
精神科で医師によって違う病名を伝えられると、どちらを信じればよいのか、不安になると思います。
最初に結論を述べると、精神科の診断名が違う背景には、得られた情報の違い、診察した時期の違い、症状の重なり、診断基準の解釈の違いなどがあります。診断が変わること自体で、どちらかが誤診だったとは決まりません。
一方で、医師による見落としや思い込みが起こることもあります。「精神科は難しいから」で、すべての違いを片づけてよいわけでもありません。
大切なのは、病名だけを比べることに加えて、「何を根拠にそう考えたのか」「どこまで確かで、何がまだ分からないのか」「治療はどう変わるのか」を確認することです。
今回は、診断の一致度を調べた研究や、病名と症状の関係についての知見を交えながら説明します。
精神科の診断は、何を根拠にしているのか
精神科にも診断基準があります。代表的なのが、米国精神医学会のDSMと、世界保健機関のICDです。
ただし、多くの精神疾患では、血液検査や画像検査の一つの値で病名が確定するわけではありません。症状の内容、持続期間、生活への影響、発症前からの特徴、身体疾患や薬物の影響などを組み合わせて判断します。www.who.int
例えば「集中できない」という症状も、それだけでは病名は決まりません。
うつ病で頭が働かなくなっているのか。不安で別のことを考え続けているのか。睡眠不足の影響なのか。幼少期から続くADHDの特徴なのか。
同じ訴えでも、その前後にある情報によって意味が変わります。
なお、検査で確定しにくいことと、検査をする意味がないことは別です。必要に応じて、甲状腺疾患など、精神症状に似た変化を起こす身体疾患や、薬剤の影響を確認します。www.nimh.nih.gov
同じ人を診ても、「得られる情報」が同じとは限らない
診察では、医師の質問の仕方によって、出てくる情報が変わることがあります。
「気分が上がったことはありますか」と聞かれても、思い当たらない方がいます。一方、「普段よりかなり短い睡眠でも平気で、話す量や活動が増え、周囲からいつもと違うと言われた時期はありますか」と聞かれると、過去の出来事を思い出すかもしれません。
最初の受診では話せなかったことが、安心して通えるようになってから話せる場合もあります。ご本人には普通だったことが、ご家族から見ると大きな変化だったという場合もあります。
この「情報の違い」の重要性を示す、興味深い研究があります。
Chmielewskiらの2015年の研究では、面接方法によって、診断の一致度に違いが認められました。
| 評価の方法 | 診断の一致度を表すκ係数の平均 |
|---|---|
| 同じ面接の録音を別の評価者が判定する | 0.80 |
| 別の面接者が改めて面接する | 0.47 |
κ係数は、偶然の一致を考慮して評価する指標です。「0.47だから診断の正答率が47%」という意味ではありません。
また、二つの方法では評価対象数などが異なるため、差のすべてを一つの原因で説明することはできません。それでも、同じ話をどう解釈するかだけでなく、面接でどのような話が得られるかも、診断の再現性に関わることが分かります。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
診断の違いは、必ずしも「同じ材料を見た二人が違う結論を出した」という状況だけではないのです。
精神科では「時間がたって初めて分かる情報」がある
代表的なのが、うつ病と双極性障害の区別です。
気分が落ち込み、眠れず、意欲が出ない状態で初めて受診したとき、その時点では抑うつ症状しか確認できないことがあります。その後、過去の軽躁状態が明らかになったり、経過中に躁状態や軽躁状態が現れたりすると、診断を見直します。
ここには、二つの異なる状況があります。
一つは、過去に起きていたことが、後から分かった場合です。
もう一つは、初診後に新しいエピソードが起きた場合です。
前者では情報が増え、後者では病気の経過そのものが新たな判断材料になります。どちらも、単に医師の意見が変わったというだけではありません。
英国NICEの双極性障害のガイドラインでも、現在の気分だけでなく、過去の活動性の亢進、行動の抑制が利きにくかった時期、エピソードの間の状態、家族歴などを詳しく評価することが勧められています。www.nice.org.uk
ただし、「元気な日がある」「気分に波がある」だけで双極性障害と診断できるわけではありません。普段からの変化、続いた期間、症状の組み合わせ、生活への影響を確認する必要があります。
精神科では、その日の状態を詳しく見ることと、これまでの経過をたどることの両方が重要です。
違う病気でも症状が重なり、複数の病気が併存する
不眠、不安、意欲低下、集中困難などは、多くの精神疾患で見られます。症状と病名は、一対一には対応していません。
また、一人に一つだけ病名をつけなければならないわけでもありません。例えば、ADHDがある方に、うつ病や不安症が併存することがあります。
この場合、ある医師は現在いちばん生活を妨げている抑うつ症状を中心に説明し、別の医師は長年の困りごとの背景にあるADHDを中心に説明するかもしれません。
ただし、併存が可能な病気がある一方で、診断基準上、他の疾患で十分に説明される場合には、その診断を用いないものもあります。病名を増やせば全体像が正確になるわけではありません。www.who.int
「前の診断を否定しているのか」「別の問題が加わったのか」「今はどれを主な治療対象にしているのか」を分けると、説明が整理しやすくなります。
同じ「うつ病」でも、症状の組み合わせは大きく違う
ここで、反対側から考えてみます。
医師が同じ病名をつけていれば、患者さんの状態も同じなのでしょうか。
実際には、そうとは限りません。うつ病には、不眠が中心の方も、眠りすぎる方もいます。食欲が落ちる方も、増える方もいます。落ち着かず動き回る方も、動作や思考が遅くなる方もいます。
FriedとNesseが2015年に報告した研究では、STAR*Dといううつ病治療研究の外来患者3,703人について、症状の組み合わせを調べたところ、1,030通りのパターンが認められました。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
これは「うつ病には1,030種類の別々の原因がある」と証明した研究ではありません。症状の分け方や測り方にも左右されます。
それでも、同じ診断名の中に、非常に多様な状態が含まれることを示しています。
つまり、「違う病名なら全く違う状態」とも、「同じ病名なら同じ状態」とも言い切れません。
病名に加えて、不安、睡眠、意欲、認知機能、対人関係、生活機能などを具体的に評価する必要があるのは、このためです。
「今の状態」と「もともとの特徴」を区別するのが難しいこともある
精神科では、現在の不調による変化と、発症前から続く特徴を区別することがあります。専門的には、状態をstate、比較的持続する特性をtraitと呼びます。
例えば、最近ミスが増えた、片づけができなくなった、予定を忘れるようになった、という訴えがあったとします。
それがうつ病の発症後に始まったのであれば、現在の病状による影響を考えます。一方、幼少期から複数の場面で同じような困難が続いていたなら、ADHDなどの評価が必要になる場合があります。
NICEのADHDのガイドラインでも、発達歴や精神医学的な経過、複数の場面での症状・支障を含めた評価が重視され、質問票の結果だけで診断しないよう勧められています。www.nice.org.uk
調子が悪い時期の一回の検査だけでは、長年の特徴なのか、一時的な変化なのかを十分に区別できないことがあります。
診察で「子どもの頃はどうでしたか」「調子がよかった頃にもありましたか」と聞くのは、現在の苦痛を軽く見ているからではありません。どこから変化したのかを確かめるためです。
「うつ状態」と「うつ病」は、同じ種類の言葉ではない
病名が変わったように見えて、実際には説明している範囲や確かさが違う場合もあります。
例えば、次の表現は同じ意味ではありません。
| 表現 | 主に意味していること |
|---|---|
| うつ状態 | 落ち込みや意欲低下などがある状態 |
| うつ病 | 症状、期間、支障、除外すべき原因などを評価して判断する診断 |
| 双極性障害の疑い | 双極性障害を検討しているが、確定には至っていないこと |
「うつ状態」と説明した医師が、その背景に双極性障害や適応障害の可能性を考えていることもあります。
また、DSMとICDでは、名称や診断要件が完全に同じではありません。「双極性障害」と「双極症」のように、名称の違いだけで、異なる病気を意味していない場合もあります。
診断書に書かれた名称と、診察で聞いた言葉が違って気になる場合には、「これは症状の説明ですか、確定した診断名ですか」と確認して構いません。
「薬が効いたから、その病気」とは限らない
診断を考えるとき、治療への反応は大切な情報です。しかし、効いた薬だけから病名を逆算することはできません。
例えば、抗うつ薬は、うつ病以外にも、不安症や強迫症などの治療に使われます。抗精神病薬も、統合失調症だけでなく、双極性障害や、薬剤によってはうつ病の増強療法などに用いられます。www.nimh.nih.gov
そのため、「抗うつ薬で楽になったから、うつ病に違いない」「抗精神病薬を出されたから、統合失調症なのだ」とは言えません。
反対に、抗うつ薬が効かなかったからといって、それだけでうつ病を否定することもできません。使用量や期間、服用状況、副作用、併存疾患、生活上の負担などを確認する必要があります。
薬の効果は診断を考える材料になりますが、病名を確定する検査そのものではないのです。
医師の経験や思い込みが影響することはあるのか
あります。
医師によって、よく診てきた疾患、得意とする領域、面接で詳しく確認する点は異なります。また、最初に考えた診断に引っ張られて、その後の情報を解釈してしまうこともあります。
最初の判断に固着することは「アンカリング」、自分の考えに合う情報を重視することは「確証バイアス」と呼ばれます。これらは、精神科に限らず医療全般で問題になる判断の偏りです。psnet.ahrq.gov
以前の診断名を参考にすることは大切ですが、それだけで現在の状態を決めつければ、別の問題を見落とす可能性があります。逆に、前医の診断を十分に検討せず、すぐに別の病名へ置き換えることにも問題があります。
ただし、診断が違うという事実だけで、どちらかの医師にこうした偏りがあったと断定することもできません。
診断の難しさを認めることと、診断の根拠を丁寧に確かめることは、両立します。
「診断が一致すること」と「病気の本質を捉えていること」は違う
少し専門的になりますが、診断には「信頼性」と「妥当性」という別の問いがあります。
| 概念 | 確認していること |
|---|---|
| 信頼性 | 別の医師が評価しても、同じような判断になるか |
| 妥当性 | その診断が、病気の仕組みや経過などを適切に捉えているか |
同じ基準を使って全員が同じ病名をつけたとしても、それだけで、共通の生物学的原因を持つ一つの病気だと証明されたわけではありません。
こうした課題を背景に、米国国立精神衛生研究所は、RDoCという研究の枠組みを進めています。既存の病名だけで区切らず、恐怖への反応、報酬への反応、認知機能などの働きから、行動や脳の仕組みを調べる考え方です。
ただし、RDoCは日常診療でDSMやICDに置き換えて使う診断マニュアルではありません。www.nimh.nih.gov
現時点の診断分類を治療や情報共有に役立てながら、その限界も研究している。精神医学は、その両方を進めています。
診断を見直すことは、よい診療なのか、悪い診療なのか
見直したという事実だけでは、判断できません。
新しい症状や生活歴が分かり、以前の診断では説明しきれない点を整理して、治療方針を修正する。これは、必要な診療の一部です。
一方、新しい情報の説明がないまま病名だけが変わり続けたり、治療がうまくいかない理由を十分に検討せず別の病気と決めつけたりする場合には、根拠を確認する必要があります。
診断が変わったときに確認したいのは、「以前から何が分かったのか」「以前の説明のどこを修正したのか」「薬や生活上の対応はどう変わるのか」です。
また、診断が完全に確定するまで、何もできないわけではありません。不眠、強い不安、食事が取れない状態、安全に過ごせない状態などには、評価と並行して対応できます。
病名の確かさと、今必要な支援は、分けて考えることができます。
診断名に迷ったとき、診察で何を聞けばよいのか
次のように尋ねていただいて構いません。
「前の病院では○○と言われました。今回の診断とは、どういう関係がありますか」
「今の診断は、どのくらい確かですか。まだ検討している別の病気はありますか」
「私のどの症状や経過が、診断の根拠になっていますか」
「診断が変わることで、治療や薬の使い方は変わりますか」
「今後、どのような変化があれば、診断を見直しますか」
受診時には、症状が始まった時期、調子がよかった時期との違い、過去の似たエピソード、薬の効果と副作用などを、時系列で短くまとめると役立ちます。お薬手帳や、可能であれば紹介状も判断材料になります。
ご家族からの情報が役立つ場合もありますが、話したくない事情を無理に話したり、ご家族の同席を一律に求めたりするものではありません。
説明を聞いても疑問が残る場合には、別の医師の意見を求める方法もあります。その際には、希望する病名に一致するかだけでなく、これまでの経過をどう説明できるか、治療の利益と負担をどう評価しているかに注目するとよいでしょう。
精神科の診断名は、治療や支援の方針を考えるための大切な情報です。ただし、その一語で、その人の状態や人生のすべてが説明されるわけではありません。
診断名が違って戸惑ったときには、その違いそのものを、診察で相談して構いません。病名だけを受け取るのではなく、判断の根拠や今後の見通しも共有することが、納得して治療を進める助けになります。
参考文献・資料
- WHO. Clinical descriptions and diagnostic requirements for ICD-11 mental, behavioural and neurodevelopmental disorders. 2024.
- NIMH. Depression.
- Chmielewski M, et al. Method matters: Understanding diagnostic reliability in DSM-IV and DSM-5. Journal of Abnormal Psychology. 2015;124(3):764–769.
- NICE. Bipolar disorder: assessment and management(CG185).
- Fried EI, Nesse RM. Depression is not a consistent syndrome: An investigation of unique symptom patterns in the STAR*D study. Journal of Affective Disorders. 2015;172:96–102.
- NICE. Attention deficit hyperactivity disorder: diagnosis and management(NG87).
- NIMH. Mental Health Medications.
- NIMH. RDoC Initiative: Development and Environment in RDoC Workshop — Proceedings and Thematic Summary.
- AHRQ. Diagnostic Errors/Anchoring Bias With Critical Implications.
情報確認日:2026年10月23日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)