季節の変わり目に気分が落ち込むのはなぜか

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「秋になると、急に何もしたくなくなる」
「春先は、周りが明るく見えるほど気持ちが沈む」
「毎年この時期になると、眠気やだるさが強くなる」
季節とともに、こころの調子が変わると感じる方は少なくありません。
最初に結論を述べると、季節に伴う気分の落ち込みには、日照時間の変化と体内時計、睡眠、活動量、生活上のストレスなどが関係します。ただし、季節の変わり目に起こる不調を、すべて同じ仕組みで説明できるわけではありません。
なかでも秋冬の落ち込みについては、「光が脳にどう届くか」「脳が夜の長さをどう受け取るか」という研究が進められてきました。
今回は、身近な季節の不調を入口に、その背景にある少し意外な精神医学の知見を紹介します。
季節の不調と「季節性うつ病」は同じなのか
寒くなって外出が減ることや、数日間なんとなく気分が沈むことだけで、うつ病と診断されるわけではありません。
一方、毎年ほぼ同じ季節に、気分の落ち込みや楽しめなさが現れ、仕事や日常生活に支障が出る場合には、季節性の気分障害を考えます。一般には「季節性うつ病」「季節性感情障害」、英語ではSADと呼ばれます。
診断では、うつ状態の強さに加え、過去の発症と回復の時期を確認します。少なくとも直近2年間の季節との対応や、季節に関連したエピソードが、それ以外の時期より優勢かどうかが重要です。National Institute of Mental Health (NIMH)
ここで区別したいのは、毎春の異動や、毎冬の繁忙期など、繰り返される生活上の負担です。同じ季節に調子を崩していても、日照の変化が中心なのか、仕事や家庭の負担が中心なのかで、必要な対応は変わります。
「いつもこの季節だから仕方がない」と片づける前に、何が繰り返されているのかを確認することが役立ちます。
目は「見る」だけでなく、脳に時刻を知らせている
光を浴びるというと、景色が明るく見えることや、皮膚に日光が当たることを想像するかもしれません。
しかし、体内時計にとって重要なのは、目から入る光です。
網膜には、色や形を見る働きに加えて、周囲の明るさを脳へ伝える特殊な神経節細胞があります。メラノプシンという光を受け取る物質を持つ、内因性光感受性網膜神経節細胞、ipRGCと呼ばれる細胞です。
この系統からの情報は、体内時計の中枢である視交叉上核などに届きます。光は、外の世界を見るための情報であると同時に、脳に「今は一日のどの時間帯か」を知らせる情報でもあるのです。pmc.ncbi.nlm.nih.gov
したがって、日中の光が乏しく、夜は明るい室内で過ごす生活では、時計の時刻と、脳が受け取る昼夜の手がかりが一致しにくくなります。
季節の変化は、その手がかり自体を変化させます。
冬の落ち込みは「体内時計の時差」で説明できるのか
冬は朝が暗く、日の出が遅くなります。
それでも、多くの人は夏と同じ時刻に起き、仕事や学校へ向かいます。生活の予定は変わらないのに、体内時計を調整する朝の光は遅れて届く。すると、一部の人では、睡眠と覚醒の予定に対して、体内時計のタイミングが後ろにずれる可能性があります。
冬季の季節性うつ病を説明する有力な考え方の一つが、この「位相のずれ」です。
興味深いのは、研究では就寝時刻だけでなく、暗い環境でメラトニンの分泌が増え始める時刻、DLMOなどを測ることです。何時に寝たかという行動の記録と、脳内の時計が何時を示しているかは、必ずしも同じではありません。
Lewyらの2006年の研究では、体内時計と睡眠の時間的な関係が、抑うつ症状の程度や治療による変化と関連しました。ただし、全員が同じ方向にずれているわけではなく、この研究だけで季節性うつ病の原因全体が説明されたわけでもありません。PMC
「長く眠ればよい」という話に収まらないところに、季節性うつ病の面白さと難しさがあります。
脳の中では「夜が長くなる」ことがある
メラトニンは、単に眠気を起こすホルモンとして知られています。しかし、夜がどれくらい続いているかを身体に伝える信号としても研究されています。
Wehrらは、季節性うつ病の患者55人と健康な対照者55人について、夏と冬のメラトニン分泌を比較しました。
| 対象 | 夏の夜間分泌時間 | 冬の夜間分泌時間 | 季節差 |
|---|---|---|---|
| 季節性うつ病の患者群 | 平均8.4時間 | 平均9.0時間 | 有意な延長あり |
| 健康な対照群 | 平均8.9時間 | 平均9.0時間 | 有意差なし |
この研究が示したのは、同じ季節の変化に対しても、身体が発する「夜の長さ」の信号が異なる可能性です。患者群の冬の値そのものが、対照群より長かったという結果ではありません。PubMed
また、分泌される時間が延びたことと、総分泌量が増えたことも区別する必要があります。
「冬はメラトニンが増えるから眠くなる」という一文では、この研究の肝心な部分が抜け落ちます。季節への反応を、量だけでなく時間で捉える視点が重要なのです。
「日光不足でセロトニン不足になる」だけでは説明しきれない
季節性うつ病についても、セロトニンとの関係が研究されています。
2016年に公表されたPET研究では、季節性うつ病の患者と対照者を夏と冬に調べ、セロトニンを神経細胞内へ回収する「セロトニントランスポーター」の結合を評価しました。
患者群では、その季節による変化と、抑うつ症状の変化との間に関連が認められました。PubMed
ただし、この検査は脳内のセロトニン濃度を直接測っているわけではありません。結合の変化から、「冬には誰でもセロトニンが一定量減る」「それだけが落ち込みの原因」と結論することはできません。
むしろ、季節の変化に対して、神経伝達の仕組みがどのように調整されるのか、その調整に個人差があるのか、という問いにつながる研究です。
光の作用、体内時計、睡眠、神経伝達は、互いに関係しながら研究されています。
光は、体内時計を介さずに気分へ作用するのか
もう一つ興味深いのが、光の情報が気分に届く経路です。
2018年のCell誌の研究では、マウスを用いて、網膜から入る光の情報が、学習と気分に関わる行動へ、それぞれ異なる神経回路を通じて影響することが示されました。
気分に関わる行動への作用には、体内時計の中枢である視交叉上核を介さず、視床の手綱周囲核、PHbを通る経路が関与していました。PubMed
つまり、光の影響をすべて「体内時計がずれるから」と説明する必要はないかもしれない、ということです。
もちろん、マウスの行動を、人が感じる落ち込みとそのまま同一視することはできません。この神経回路が、ヒトの季節性うつ病をどこまで説明するかは、別の検証が必要です。
それでも、光が脳に与える作用を、睡眠の調整だけに限定せず考えるきっかけになる研究です。
冬のうつ病なのに、よく眠り、食欲も増えることがある
うつ病というと、「眠れない」「食欲がなくなる」というイメージがあるかもしれません。
ところが、冬季の季節性うつ病では、過眠、食欲増加、炭水化物への欲求、体重増加などがみられることがあります。人と会うのがおっくうになり、家にこもりがちになることもあります。medlineplus.gov
そのため、「食べられているから、うつ病ではない」「これだけ眠っているなら休養は十分なはず」とは判断できません。
睡眠時間が長いことと、回復感があることは別です。また、食欲があることと、物事を楽しめることも別です。
診察では、睡眠や食欲の増減に加え、以前できていたことができるか、楽しさや関心が保たれているかを確認します。
春や夏の落ち込みも、同じ仕組みなのか
季節性の落ち込みは、冬に限りません。春から夏にうつ状態が現れるパターンもあります。
夏季のパターンでは、冬季にみられる過眠や食欲増加より、不眠、食欲低下、落ち着かなさなどが目立つことがあります。ただし、夏季の季節性うつ病は、冬季に比べて研究が少なく、仕組みも十分に解明されていません。National Institute of Mental Health (NIMH)
春の不調には、進学、就職、異動、転居などの変化が重なることもあります。この場合には、新しい環境への負担や睡眠不足を具体的に検討する必要があります。
気温や気圧の変化で頭痛やだるさを感じ、その影響で気分も落ち込む方はいます。しかし、季節の不調を一律に「寒暖差による自律神経の乱れ」と呼ぶだけでは、何を治療するのかが曖昧になります。
いつから、どんな症状が、何とともに変化したか。その経過をたどることが大切です。
治療では「光の強さ」と「光を浴びる時刻」が重要になる
冬季の季節性うつ病では、高照度光療法が治療の選択肢になります。
代表的な方法は、専用の機器で10,000ルクスの光を、朝に約30分浴びるものです。照度と時間、実施する時刻、機器との距離を調整して行います。PMC
光なら何でもよいわけではありません。スマートフォンの画面や、普通の室内照明を明るくすることを、そのまま同じ治療とは扱えません。
また、治療で狙うのは紫外線ではありません。光療法では、紫外線を除去した機器が使われます。National Institute of Mental Health (NIMH)
眼の病気や光への感受性を高める薬がある場合には、事前の確認が必要です。まれに躁状態が生じることもあり、双極性障害が疑われる場合は、気分の上がりすぎにも注意します。medlineplus.gov
日常生活では、無理のない範囲で起床時刻を整え、朝から日中に明るい場所で過ごし、活動する機会を保つことが出発点になります。ただし、強い不調を抱えた人に、生活習慣だけでの改善を求めるものではありません。
翌冬の再発に、認知行動療法が役立つ可能性がある
季節性うつ病では、光や薬に加え、季節性の症状に合わせた認知行動療法、CBT-SADも研究されています。
これは、冬についての否定的な予測を検討したり、活動が減って気分がさらに落ち込む循環に対応したりする治療です。
Rohanらは、成人177人を、6週間のCBT-SADと光療法に割り付け、その後の冬まで追跡しました。
| 治療 | 2回目の冬の再発率 |
|---|---|
| CBT-SAD | 27.3% |
| 光療法 | 45.6% |
最初の冬の追跡では群間差が認められませんでしたが、2回目の冬には、CBT-SAD群で再発が少ない結果でした。PubMed
この結果は、急性期の治療後、生活の中で使える対処法を身につけることが、長期的な経過に役立つ可能性を示しています。
ただし、光療法を適切に継続しても必ずCBT-SADに劣る、と証明した研究ではありません。追跡期間の治療の続け方も、結果に関わります。
生物学的な要因がある病気でも、考え方や行動への治療が役立つ。この点も、精神医学の興味深いところです。
ビタミンDを飲めばよいのか
日照が減る季節というと、ビタミンDを思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし、ビタミンDを補充すれば季節性うつ病が改善するかについては、研究結果が一致していません。National Institute of Mental Health (NIMH)
欠乏への対応と、うつ病の治療効果が確立しているかどうかは別の問題です。「冬に落ち込むから」と自己判断で大量のサプリメントを飲むより、症状と必要性を確認する方がよいでしょう。
季節のせいにせず、相談した方がよいのはどんなときか
気分の落ち込みや楽しめなさが2週間ほど続く、仕事や家事に支障がある、睡眠や食欲が大きく変わった。こうした場合は、季節との関係も含めて相談してください。症状が強い場合は、2週間を待つ必要はありません。
また、「冬は落ち込むが、春には眠らなくても平気になり、活動や買い物が急に増える」という経過がある場合には、その時期の様子も重要です。春に調子が戻ったのか、軽躁状態があったのかで、治療方針が変わることがあります。National Institute of Mental Health (NIMH)
必要に応じて、身体の病気や薬の影響など、似た症状を起こす原因も確認します。medlineplus.gov
受診前には、落ち込み始めた月、回復した月、睡眠時間、生活上の出来事を簡単に記録しておくと役立ちます。毎年の経過がわかれば、不調が強くなる前に対応を相談しやすくなります。
自分を傷つけたい気持ちがある場合は、季節が変わるまで待たず、速やかに医療機関へ相談してください。
「毎年こうなる」という経験は、諦める理由だけでなく、対策を立てるための手がかりにもなります。ことのはメンタルクリニックでは、今の症状に加え、季節ごとの経過や生活への影響を確認しながら、対応を考えます。
参考文献・資料
- NIMH. Seasonal Affective Disorder
- Fernandez DC, et al. Light Affects Mood and Learning through Distinct Retina-Brain Pathways. Cell. 2018.
- Lewy AJ, et al. The circadian basis of winter depression. PNAS. 2006.
- Wehr TA, et al. A circadian signal of change of season in patients with seasonal affective disorder. Archives of General Psychiatry. 2001.
- Mc Mahon B, et al. Seasonal difference in brain serotonin transporter binding predicts symptom severity in patients with seasonal affective disorder. Brain. 2016.
- MedlinePlus. Seasonal Affective Disorder
- CANMAT 2016 Clinical Guidelines: Complementary and Alternative Medicine Treatments
- MedlinePlus Medical Encyclopedia. Seasonal affective disorder
- Rohan KJ, et al. Outcomes One and Two Winters Following Cognitive-Behavioral Therapy or Light Therapy for Seasonal Affective Disorder. American Journal of Psychiatry. 2016.
情報確認日:2026年10月23日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)