ブプロピオンが日本で一般的に使われない理由


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

海外のうつ病治療について調べていると、「ブプロピオン」という薬を見かけることがあります。

「眠気や性機能への影響が比較的少ない」
「体重が増えにくい」
「セロトニン以外に働きかける抗うつ薬」

このような特徴を知ると、「それなら、なぜ日本ではあまり使わないのだろう」と疑問に思うかもしれません。

最初に結論を述べると、ブプロピオンは日本で承認されておらず、通常の保険診療で処方できる抗うつ薬ではないためです。2026年10月18日時点で確認した国内資料でも、国内未承認とされています。

ただし、「危険なので日本だけで禁止された」「日本人には効かないと証明された」という説明では、実際の経緯を正確に捉えられません。

日本人を含む臨床試験の結果、海外で評価される長所、注意すべき副作用を分けて見ていくと、この薬の位置づけが理解しやすくなります。

ブプロピオンは、どのような抗うつ薬なのか?

ブプロピオンは、一般にノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害薬、略してNDRIに分類されます。

日本でよく使われるSSRIが主にセロトニンの再取り込みを阻害するのに対し、ブプロピオンはノルアドレナリンやドパミンに関わる作用を持ち、セロトニン再取り込みへの直接作用は弱い薬です。

米国では、Wellbutrinなどの商品名でうつ病治療に用いられています。Wellbutrin XLには季節性感情障害の発症予防という適応もあります。

また、ブプロピオンは海外で禁煙治療にも用いられる薬です。ただし、同じ成分でも製品・剤形によって承認された用途は異なります。

ここで注意したいのは、「ドパミンに作用する」という言葉から、すぐに元気になる薬や、意欲を直接補充する薬を想像しないことです。

作用機序は薬の特徴を理解する手がかりですが、それだけで実際の効果を予測できるわけではありません。

最大の理由は「国内未承認」であること

日本で一般的に使われない直接の理由は、国内で承認・販売されている抗うつ薬ではないことです。

海外で承認されていても、その承認がそのまま日本に適用されるわけではありません。日本で通常の診療に導入するには、国内の承認手続きが必要です。

また、国内で承認された薬を別の病気に使用する「適応外使用」と、薬そのものが国内で承認されていない「未承認薬の使用」は異なります。

ブプロピオンは後者です。日本で承認されているSSRIやSNRIと同じように、通常の保険診療で選べる薬ではありません。

では、なぜ承認に至っていないのでしょうか。

その背景を考えるうえで重要なのが、日本人を含めて実施された臨床試験です。

日本でも試験は行われたが、プラセボとの差が示されなかった

ブプロピオンは、日本で全く研究されなかった薬ではありません。

2013年に公表された試験では、日本人454人、韓国人115人の計569人が治療段階に入りました。ブプロピオンSRの150mg/日、300mg/日、プラセボの3群で、8週間の治療を比較しています。

主要評価項目は、うつ症状を測定するMADRSという尺度の合計点の変化でした。

結果として、いずれの用量もプラセボに対する統計学的な優越性を示せませんでした。副次評価項目や追加の解析でも、全体として同様の結果でした。

これは、国内導入を考えるうえで重要な結果です。少なくとも、この試験から「日本人を含む対象集団で有効性が確認できた」と結論づけることはできません。

ただし、この試験結果と、企業が開発継続をどう判断したかは別の問題です。公表論文だけから、未承認に至る企業・規制上の意思決定の全過程まで断定することはできません。

「この試験で有効性を示せなかったことは重要な背景だが、未承認の理由をそれ一つで説明しきることはできない」という整理が適切です。

「日本人には効かない」と結論づけてよいのか?

ここには、臨床試験の読み方に関する大切な論点があります。

プラセボとの有意差がなかったことは、「両者の効果が同じだと証明された」ことではありません。

差を検出できなかった理由には、実際の薬効が小さいことに加え、プラセボ群の改善が大きかったことや、試験の条件などが関係する可能性があります。この試験でも、著者らは高いプラセボ反応を指摘しています。

ただし、「プラセボ反応が高かったから、本当は効いていた」と読み替えるのも行き過ぎです。

正確には、この条件下では上乗せ効果を示せなかった、という結果です。

一方、海外の研究を含めた2018年の大規模なネットワークメタ解析では、ブプロピオンを含む21種類の抗うつ薬すべてが、成人の大うつ病の急性期治療でプラセボより高い有効性を示しました。

一つの試験で差が出なかったことと、複数の研究全体で有効性が支持されることは、両立します。

したがって、「日本人には効かない薬」とも、「海外で効いているのだから日本の試験は無視してよい」ともいえません。

海外で評価される理由① 性機能への影響が比較的少ない

ブプロピオンの特徴として、比較的明確な比較試験があるのが性機能への影響です。

SSRIでは、性欲低下、オルガズムに達しにくい、射精しにくいといった症状が問題になることがあります。うつ症状が改善しても、この副作用がつらくて服薬を続けにくい方もいます。

ブプロピオンXLとエスシタロプラムを比較した二つの無作為化比較試験の統合データでは、8週時点のオルガズム障害の割合は、ブプロピオン15%、エスシタロプラム30%、プラセボ9%でした。対象は治療前の性機能が正常な成人のうつ病患者さんです。

この数字を、すべての患者さんにそのまま当てはめることはできません。しかし、抗うつ薬によって性機能への影響が異なることを示す具体的なデータです。

ここで区別したいのは、「性機能障害を起こしにくいこと」と、「他の薬で生じた性機能障害を追加投与で改善できること」です。

後者については、ブプロピオンSRを150mg/日追加しても、プラセボとの差を示せなかった小規模試験があります。薬そのものの副作用の少なさが、追加治療としての有効性を自動的に保証するわけではありません。

海外で評価される理由② 体重増加が比較的少ない

体重への影響も、ブプロピオンが注目される理由です。

2024年には、米国の183,118人の診療データを用いて、8種類の抗うつ薬による体重変化を比較した研究が発表されました。

治療開始6か月後の推定体重変化は、セルトラリンと比較して、ブプロピオンでは0.22kg少ないという結果でした。比較した薬の中で、ブプロピオンは体重増加が少ない傾向を示しました。

ただし、これは「飲めば0.22kgやせる」という意味ではありません。セルトラリンを開始した場合との平均的な差です。

また、無作為化比較試験ではなく観察研究であり、薬の選ばれ方、服薬継続、体重測定の欠損などの影響を完全には取り除けません。

体重増加を避けたい方にとって魅力のある特徴ですが、ブプロピオン単剤を「やせ薬」として捉えるのは適切ではありません。

海外で評価される理由③ 眠気や疲労への影響

うつ病では、気分の落ち込みが改善しても、眠気や疲労が残ることがあります。

ブプロピオンとSSRIを比較した6試験のデータを用いた解析では、ブプロピオン群で眠気や疲労の改善が大きいという結果が報告されています。また、寛解した患者さんに限った事後解析でも、残る眠気や疲労に差が示されました。

これは、「うつ症状の合計点が改善したか」だけでなく、「改善後に何が残っているか」を考える材料になります。

ただし、事後解析には限界があり、「疲れている人には必ずブプロピオンが最適」と結論づけることはできません。

疲労に見える症状にも、うつ病の残存症状、不眠、睡眠時無呼吸、身体疾患、他の薬による眠気などが重なり得ます。症状の名前だけで薬を選ぶことはできません。

注意すべき弱点は、けいれんリスク

ブプロピオンの安全性で特に重要なのは、用量に関連したけいれんリスクです。

米国のWellbutrin SRの添付文書では、300mg/日までのけいれん発現率は約0.1%、400mg/日では約0.4%とされています。これはSR製剤のデータであり、異なる剤形や用量に一律に当てはめる数字ではありません。

また、けいれん性疾患がある方、神経性やせ症・神経性過食症の現在または過去の診断がある方、アルコールやベンゾジアゼピンなどを急に中止している方は禁忌とされています。

ここでの「摂食障害」は、食欲が落ちている人全般を意味するわけではありません。添付文書で指定された診断と、その既往を確認する必要があります。

「体重が増えにくいから、摂食障害のある方にも使いやすい」とは考えられないのです。

ただし、このリスクだけを根拠に「だから日本で承認されなかった」と断定することもできません。日本人を含む前述の試験では、新たな安全性上の懸念は認められなかったと報告されています。

「不安を必ず悪化させる薬」なのか?

ブプロピオンには、不眠、不安、焦燥、動悸などが生じることがあります。血圧上昇や躁・軽躁への移行にも注意が必要です。

そのため、「もともと不安がある人には全く向かない薬」と思われることがあります。

しかし、うつ病に伴う不安症状については、もう少し複雑です。

10件の二重盲検無作為化比較試験の個人データを統合した解析では、ブプロピオンとSSRIによる不安症状の改善は、おおむね同程度でした。一方、不安の強い患者群に注目した別の統合解析では、SSRIに小さな優位性が示されています。

つまり、不安を副作用として起こすことがある一方で、うつ病に伴う不安が治療とともに改善することもあります。

なお、これらは主に「うつ病に伴う不安」の研究です。パニック障害や全般不安症などに対して、SSRIと同じ位置づけで使えることを示した研究ではありません。

医学的に面白い点① 「ドパミンの薬」という説明は、かなり単純化されている

ブプロピオンはNDRIと呼ばれますが、その臨床作用を「脳内のドパミンを強く増やす」とだけ説明するのは不十分です。

治療中の患者さんを調べた小規模なPET研究では、ドパミントランスポーターの占有率は約14%と報告されました。薬の分類名から想像するよりも低い数字です。

もちろん、占有率が低いから効果がないという意味ではありません。この研究だけで、作用機序の全体を説明することもできません。

ブプロピオンには活性代謝物があり、親薬物だけを見ても作用を捉えきれません。米国の添付文書では、活性代謝物ヒドロキシブプロピオンの定常状態のAUCは、親薬物の約13倍とされています。

血中濃度の高さがそのまま作用の強さになるわけではありませんが、「元の薬がどのトランスポーターを阻害するか」だけでは理解できない薬であることが分かります。

セロトニンは不安、ノルアドレナリンは意欲、ドパミンは喜び――このような説明は入口として便利でも、実際の処方判断には粗すぎるのです。

医学的に面白い点② 代謝される酵素と、阻害する酵素が違う

ブプロピオンは、主にCYP2B6によってヒドロキシブプロピオンへ代謝されます。

一方、ブプロピオンとその代謝物はCYP2D6を阻害し、CYP2D6で代謝される薬の血中濃度を上げる可能性があります。

米国の添付文書では、ベンラファキシンなどの抗うつ薬、リスペリドンなどの抗精神病薬、メトプロロールなどとの相互作用に注意が示されています。

「自分がどの酵素で代謝されるか」と「併用薬の代謝をどの酵素で妨げるか」は、別々に確認する必要があります。

セロトニンへの直接作用が弱いからといって、他の向精神薬と気軽に組み合わせられるわけではありません。

SSRIに追加すると、効果が強くなるのか?

海外では、SSRIで十分に改善しない場合に、ブプロピオンを追加する治療も行われています。

よく知られているのがSTAR*D研究です。

シタロプラムで寛解しなかった患者さんに、ブプロピオンSRまたはブスピロンを追加しました。主要評価尺度による寛解率は、それぞれ29.7%と30.1%で、明確な差はありませんでした。一方、一部の症状評価や忍容性では、ブプロピオン追加に利点が示されました。

ただし、この試験は「追加せずにシタロプラムだけを続ける群」や「プラセボを追加する群」と比較した研究ではありません。

したがって、約3割が寛解したという数字を、そのまま「ブプロピオンを追加したことによる上乗せ効果」と読むことはできません。

作用の違う薬を組み合わせる理論的な魅力と、比較試験からどこまで分かるかは、分けて考える必要があります。

日本にない薬のほうが、優れているのか?

国内未承認薬について調べると、長所が目に入りやすくなります。

ブプロピオンにも、日本の治療選択肢には少ない特徴があります。性機能、体重、眠気や疲労などの問題に対して、海外で選択肢の一つになっていることには意味があります。

一方で、けいれんリスク、禁忌、不眠や焦燥、相互作用といった負担もあります。「日本で使えない薬だから、今の薬より優れている」とは限りません。

また、国内未承認という事実を、そのまま薬の価値が低いことの証明にするのも適切ではありません。

薬を評価するには、次の三つを分ける必要があります。

  • 臨床研究として、有効性や安全性がどこまで分かっているか
  • その国で、どの用途に承認されているか
  • 目の前の患者さんにとって、利益が負担を上回るか

ブプロピオンは、この三つが必ずしも一致しないことを示す薬です。

現在の治療で体重増加、性機能への影響、眠気などに困っている場合には、その困りごとを具体的に主治医へ伝えることが大切です。海外の薬の名前を探すことに加えて、「何を改善したいのか」を整理することが、治療を見直す手がかりになります。

参考文献・資料

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    WELLBUTRIN XL
    WELLBUTRIN SR

情報確認日:2026年10月18日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)