うつ病の増強療法、結局どの薬がよいのか

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「抗うつ薬を飲んで、少しはよくなった。でも、そこから先がよくならない」
「薬を替えるより、何か追加したほうがよいのでしょうか?」
「エビリファイとレキサルティ、結局どちらを使うのでしょうか?」
うつ病の治療では、抗うつ薬だけで十分な改善が得られないことがあります。そのとき、別の薬を追加して効果を補う方法が「増強療法」です。
最初に結論を述べると、日本で成人の単極性うつ病に対する増強療法を考える場合、アリピプラゾール〈エビリファイ〉とブレクスピプラゾール〈レキサルティ〉が有力な候補になります。どちらも、既存治療で十分な効果が得られないうつ病・うつ状態への追加使用が承認されています。海外のCANMATガイドラインでも、両剤は増強薬の第一選択に位置づけられています。pmda.go.jp
ただし、誰にでも同じ薬を追加すればよいわけではありません。
今の抗うつ薬がどの程度効いているか、どの副作用を避けたいか、長期的に続ける負担はどの程度か。さらに、「薬を足す前に見直すことはないか」まで含めて考える必要があります。
この記事では、主に成人の単極性うつ病について、増強療法の研究結果と実際の選び方を解説します。国内の承認状況と資料は、2026年10月18日時点で確認した内容です。
増強療法とは、抗うつ薬を2種類飲むことなのか?
厳密には、少し違います。
もともと使っている抗うつ薬に、リチウムや一部の抗精神病薬など、抗うつ薬とは異なる種類の薬を追加する方法を「増強療法」と呼びます。一方、抗うつ薬に別の抗うつ薬を追加する方法は、「抗うつ薬の併用療法」と区別されることがあります。
もっとも、研究やガイドラインでは、両者をまとめて「追加治療」と扱う場合もあります。
患者さんにとって大切なのは呼び方よりも、「何を改善するために追加するのか」です。
落ち込みを改善したいのか、楽しめない状態を改善したいのか、それとも睡眠を整えたいのか。薬を追加する目的を明確にしておくと、あとで効果を判断しやすくなります。
薬を替えるのと、追加するのは、どちらがよいのか?
一つの目安は、現在の抗うつ薬に「部分的な効果があるか」です。
ある程度よくなっていて、副作用も大きくなければ、その効果を残しながら別の薬を追加する考え方があります。反対に、ほとんど改善していない、あるいは副作用がつらい場合は、まず抗うつ薬そのものの変更を検討しやすくなります。
これは絶対的なルールではありませんが、治療を組み立てるうえで役立つ判断軸です。doi.org
実際に、薬の変更と追加を比較した研究もあります。
2017年のVAST-D試験では、抗うつ薬で十分に改善しなかった1,522人を対象に、ブプロピオンへの変更、ブプロピオンの追加、アリピプラゾールの追加を比較しました。
12週間後の寛解率は、変更群22.3%、ブプロピオン追加群26.9%、アリピプラゾール追加群28.9%でした。アリピプラゾール追加は変更より有意に良好でしたが、その差は6.6ポイントでした。追加群では、アカシジア、眠気、体重増加も多く認められました。PubMed
つまり、「追加したほうが圧倒的に治る」という話ではありません。期待できる上乗せ効果と、副作用の負担を一緒に評価する必要があります。
なお、この試験は男性の退役軍人が中心であり、比較薬のブプロピオンは日本でうつ病治療薬として承認されていません。結果を日本の患者さん全員にそのまま当てはめることはできません。
主な増強薬・追加薬には、どんな違いがあるのか?
主な候補を整理すると、次のようになります。
表には、増強療法に加えて、抗うつ薬の併用療法や研究段階の選択肢も含めています。海外で有効性が報告されていることと、日本でその使い方が承認されていることは別です。
| 薬剤 | 治療上の位置づけ | 主に確認したい点 | 日本の単極性うつ病での位置づけ |
|---|---|---|---|
| アリピプラゾール〈エビリファイ〉 | 増強療法の有力候補。比較試験の蓄積がある | アカシジア、眠気、不眠、体重増加など | 既存治療で効果不十分な場合の追加使用が承認 |
| ブレクスピプラゾール〈レキサルティ〉 | 増強療法の有力候補。国内試験では1mgと2mgの違いが重要 | アカシジア、体重増加、眠気など | 既存治療で効果不十分な場合の追加使用が承認 |
| 炭酸リチウム〈リーマス〉 | 長年研究されている増強薬 | 血中濃度、腎機能、甲状腺機能、脱水、相互作用 | 単極性うつ病の増強療法は適応外 |
| クエチアピン | 海外で増強療法の有効性が示されている | 鎮静、体重増加、代謝への影響 | 単極性うつ病の増強療法は適応外 |
| ミルタザピン〈リフレックス・レメロン〉 | 別の抗うつ薬を追加する併用療法 | 眠気、食欲増加、体重増加。効果の研究結果は一様ではない | うつ病・うつ状態の適応があるが、併用の妥当性は個別に判断 |
| スルピリド〈ドグマチールなど〉 | 国内でうつ病に使用されてきた薬 | 高プロラクチン血症、月経・性機能への影響、錐体外路症状 | うつ病・うつ状態の適応あり |
| プラミペキソール〈ビ・シフロールなど〉 | 新しい比較試験で注目される追加治療 | 悪心、眠気、突発的睡眠、衝動制御障害など | うつ病に対しては適応外 |
国内添付文書、ガイドライン、比較試験をもとにした整理です。スルピリドにうつ病の適応があることは、現在の抗うつ薬に追加した場合の効果が、エビリファイやレキサルティと同程度に検証されていることを意味しません。pmda.go.jp
エビリファイは、量を増やすほどよく効くのか?
必ずしも、そうではありません。
アリピプラゾールは、増強療法の研究が比較的豊富な薬です。ただし、「効果が足りないから、どんどん増量する」という使い方には慎重さが必要です。
国内の比較試験では、3mg固定群と3~15mgの可変用量群の両方で、プラセボへの上乗せ効果が認められました。一方、アカシジアの副作用報告は、3mg群で14.2%、3~15mg群で36.6%でした。
この試験から3mgのほうが高用量より優れていると断定することはできませんが、増量すれば必ず利益が増えるわけではないことは分かります。pmda.go.jp
用量反応を検討したメタ解析でも、効果はおおむね2~5mg付近まで増え、その先は明確に上乗せされにくい傾向が示されました。ただし、研究数やバイアスの問題があり、最適用量を確定した結果ではありません。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
日本の添付文書上、うつ病への通常量は1日3mgで、年齢・症状に応じた増減が認められています。海外研究の用量と国内の承認用法は区別して考えます。
増強療法で大切なのは、最大量を目指すことより、効果と副作用が釣り合う用量を見つけることです。
レキサルティの1mgと2mgは、何が違うのか?
ブレクスピプラゾールでは、国内試験の結果が処方判断に直結しています。
国内のうつ病試験では、1mg群と2mg群の両方がプラセボに対して有効性を示しました。しかし、平均的な改善は同程度で、アカシジアの副作用報告は1mg群6.0%、2mg群23.6%でした。
そのため添付文書では、通常1日1mgを使用し、2mgへの増量は1mg開始後6週間を目処に必要性を検討するよう求めています。2mgへ増量後も、期待する効果が得られなければ漫然と継続しないことが明記されています。pmda.go.jp
「1mgより2mgのほうが強いはず」と単純にはいえないところが、この薬の興味深い点です。
また、レキサルティは、うつ病ではSSRI、SNRIまたはミルタザピンとの併用が指定されています。抗うつ薬なら何とでも、同じ条件で追加できるわけではありません。
エビリファイとレキサルティ、結局どちらを選ぶのか?
両剤を比較すると、「エビリファイは活性化寄り、レキサルティは穏やか」と説明されることがあります。
薬理学的な違いを理解する入口にはなりますが、それだけで個々の患者さんへの効果を予測することはできません。
「意欲が低いから必ずエビリファイ」「不安が強いから必ずレキサルティ」という使い分けを、確立した比較優位として扱うのは慎重であるべきです。残っている症状に合わせて追加薬を選ぶ方法は広く行われていますが、それを直接裏づける研究は限られています。doi.org
実際の診療では、過去の反応、副作用歴、併用薬、費用、患者さんの希望を合わせて判断します。
特に、過去にアカシジアが出た方では、その経験が重要な情報になります。レキサルティでもアカシジアは起こり、エビリファイでも眠気は起こります。「こちらなら、その副作用は出ない」とは説明できません。pmda.go.jp
また、両剤は通常、候補から一剤を選んで効果を評価します。効き目が不十分だからと、似た作用の抗精神病薬を次々に重ねる前に、追加する意味を再検討する必要があります。
追加後の「不安の悪化」が、実は副作用のことがある
増強療法で見逃したくないのが、アカシジアです。
アカシジアは、「落ち着かない」「じっとしていられない」「身体の内側がむずむずする」といった、強い苦痛を伴う副作用です。エビリファイ、レキサルティのどちらでも起こります。pmda.go.jp
患者さんは、これを必ずしも「足がそわそわする」と表現しません。
「不安が急にひどくなった」
「家の中を歩き回ってしまう」
「理由は分からないけれど、とにかくつらい」
この訴えを、うつ病や不安症の悪化と取り違えると、さらに薬を追加する方向へ進んでしまう可能性があります。
薬を追加・増量してから始まった症状なのか。座っていると悪化し、動くと少し楽になるのか。こうした時間関係と身体感覚の確認が、治療方針を変えることがあります。
リチウムは、古いから選ばれなくなったのか?
リチウムは、現在も増強療法の重要な選択肢です。
ただし、日本の承認適応は躁病および躁うつ病の躁状態であり、単極性うつ病への増強療法は適応外です。また、血中濃度を測定しながら使う必要があり、腎機能や甲状腺機能、脱水、併用薬への注意が欠かせません。pmda.go.jp
英国NICEガイドラインでは、うつ病への増強療法において、一般に血中濃度0.4mmol/L以上を目安とし、1.0mmol/Lを超えないよう示しています。これは海外ガイドラインの目安であり、その濃度を全員の目標にするという意味ではありません。NICE
特に重要なのは、同じ量を飲んでいても、脱水や腎機能の変化で中毒が起こり得ることです。発熱、下痢、食事・水分摂取の低下、NSAIDsなどの併用は、処方時だけでなく治療中にも確認します。pmda.go.jp
リチウムについては、自殺予防への期待もよく語られます。ただし、近年の無作為化試験には、自殺関連事象の減少を示せなかったものもあります。「希死念慮があるからリチウムを足せば安全」とは考えられません。Stanford Profiles
クエチアピンは、「眠れるようにする薬」として足せばよいのか?
クエチアピンには、海外でうつ病の増強療法としての研究があります。
2025年に報告されたLQD試験では、治療抵抗性うつ病の212人を、クエチアピン追加とリチウム追加に割り付けました。52週間を通した抑うつ症状の負担は、クエチアピン群でより小さくなりました。ただし、非盲検試験であり、この一試験だけで全患者にクエチアピンを優先するとはいえません。ScienceDirect
ここで区別したいのは、「眠れるようになる効果」と「うつ病全体への増強効果」です。
少量で眠気が出たからといって、その量で抗うつ効果まで十分に検証されているとは限りません。鎮静が役立つ場面があっても、日中の眠気や代謝への負担も評価する必要があります。
また、日本のビプレッソ徐放錠の適応は、双極性障害におけるうつ症状の改善です。単極性うつ病への増強療法とは、対象疾患も承認上の位置づけも異なります。pmda.go.jp
ミルタザピンを足す「ロケット燃料」は、本当に強力なのか?
SNRIとミルタザピンの組み合わせは、「カリフォルニア・ロケット・フューエル」という印象的な名前で知られています。
作用機序の異なる抗うつ薬を組み合わせるため、理屈としては強い効果を期待したくなります。しかし、その呼び名の勢いと、臨床試験の結果は分けて考える必要があります。
480人を対象としたMIR試験では、SSRIまたはSNRIにミルタザピンを追加しても、12週間後の抑うつ症状に臨床的に重要な改善を示す、十分な根拠は得られませんでした。副作用による服薬中止も追加群で多くなりました。The BMJ
一方、併用療法全体の研究を統合すると、ミルタザピンなどの追加に有効性を認める結果もあります。日本うつ病学会の2025年ガイドラインでも、追加する抗うつ薬の組み合わせは結論づけられないとしつつ、ミルタザピンやミアンセリンの研究が中心であることに言及しています。secretariat.ne.jp
したがって、「併用しても意味がない」でも、「足せば強力になる」でもありません。
不眠や食欲低下への利益、眠気や体重増加の負担、抑うつ症状そのものへの効果を、それぞれ確認することが大切です。
新しい研究では、プラミペキソールも注目されている
医療者にとって興味深いのが、ドパミン受容体作動薬のプラミペキソールです。
2025年に報告されたPAX-D試験では、治療抵抗性の単極性うつ病に対して、抗うつ薬への追加効果が検討されました。解析対象150人において、12週間後の抑うつ症状はプラセボより改善しました。
ただし、有害事象による治療中止はプラミペキソール群20%、プラセボ群5%で、悪心、頭痛、睡眠障害や眠気などが問題になりました。既存の増強薬との直接比較も、今後の課題です。kclpure.kcl.ac.uk
この研究は、増強療法の選択肢が、抗精神病薬やリチウムだけに限られない可能性を示しています。
一方、日本ではうつ病に対する適応はなく、ドパミン作動薬特有の衝動制御障害や突発的睡眠にも注意が必要です。「意欲が出ないなら、ドパミンを刺激すればよい」と単純化できる治療ではありません。pmda.go.jp
薬を足す前に、見直しておきたいこと
増強療法が必要に見えても、実際には治療の前提を調整したほうがよい場合があります。
例えば、次のような点です。
- 抗うつ薬を、十分な量・期間で使用できているか
- 飲み忘れや、副作用による実質的な服薬量の低下がないか
- 双極性障害の可能性を見落としていないか
- 甲状腺疾患、貧血、睡眠時無呼吸などが残る症状に関係していないか
- 薬による眠気や感情の鈍さを、うつ病の残存症状と捉えていないか
- 過重労働や対人関係など、回復を妨げる負担が続いていないか
こうした要因を確認することは、「薬が効かない理由」を考える基本です。doi.org
薬の追加以外にも、認知行動療法などの精神療法、環境調整、病状に応じたrTMSや電気けいれん療法という選択肢があります。特に、重症で早急な改善が必要な場合には、内服薬の追加だけを順番に続けることが適切とは限りません。NICE
増強療法で大切なのは、追加したあとの評価
増強薬を処方するときには、「何がよくなれば続けるのか」を決めておくことが役立ちます。
気分の落ち込み、楽しめる感覚、外出できる日数、家事や仕事への取りかかりやすさ。患者さんが困っていることを、できるだけ具体的に確認します。
一方で、体重、眠気、そわそわ感、振戦、生活上の支障も同時に見ます。
「何となく調子がよい」という感覚は大切ですが、睡眠が改善した一方で日中の活動が減っているなら、治療全体としての利益は再評価が必要です。
日本うつ病学会の2025年ガイドラインは、初期治療で効果不十分な場合の抗精神病薬追加を「弱く推奨する」としています。追加は有力な選択肢である一方、全員に一律に行う治療ではない、という理解が適切です。secretariat.ne.jp
効果が確認できない薬を残したまま次の薬を重ねると、どの薬が役立ち、どの薬が副作用を起こしているのか分かりにくくなります。増強療法では、足す判断と同じくらい、整理する判断も重要です。
結局、うつ病の増強療法には何がよいのか?
日本での承認状況と研究の蓄積を踏まえると、まず検討しやすいのはエビリファイとレキサルティです。
ただし、エビリファイを増量すれば必ず効果が増すわけではなく、レキサルティも2mgが1mgより一律に優れるわけではありません。リチウムやクエチアピンなどにも研究上の根拠がありますが、国内での適応や管理上の負担が異なります。
良い増強療法とは、薬を追加した結果、患者さんの暮らしが実際によくなる治療です。
症状の点数だけでなく、「朝起きられる」「食事を楽しめる」「人と話せる」「無理のない範囲で活動できる」。その変化と副作用を一緒に確かめながら、治療を選んでいきます。
薬の追加・増量・中止は、現在の処方と病状に合わせて主治医と相談してください。
参考文献・資料
- 日本うつ病学会.うつ病診療ガイドライン2025
- Lam RW, et al. CANMAT 2023 Update on Clinical Guidelines for Management of Major Depressive Disorder in Adults. 2024.
- Mohamed S, et al. VAST-D Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017.
- Furukawa Y, et al. Optimal dose of aripiprazole for augmentation therapy of antidepressant-refractory depression. Br J Psychiatry. 2022.
- Kessler DS, et al. Mirtazapine added to SSRIs or SNRIs for treatment resistant depression: MIR trial. BMJ. 2018.
- Cleare AJ, et al. Lithium versus quetiapine augmentation for treatment-resistant depression: LQD trial. Lancet Psychiatry. 2025.
- Browning M, et al. Pramipexole augmentation for treatment-resistant, unipolar depression: PAX-D trial. Lancet Psychiatry. 2025.
- NICE. Depression in adults: treatment and management〈NG222〉
- PMDA.エビリファイ、レキサルティ、リーマス、ビプレッソ、ドグマチール各電子添文・関連資料。
情報確認日:2026年10月18日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)