精神科の病気は昔と比べて増えているのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「最近、うつ病や発達障害という言葉を聞くことが増えた」
「昔は、こんなに精神科に通う人はいなかった気がする」
「現代人は、昔の人より心が弱くなったのでしょうか」

精神科の病気が増えていると感じる方は、多いと思います。

結論からいうと、医療につながる患者さんは長期的に増えており、うつ病や不安症などでは、実際の有病率の上昇を示す研究もあります。ただし、「受診する人が増えたこと」と「病気になる人が増えたこと」は、分けて考える必要があります。

そこには、病気への理解、受診のしやすさ、診断基準、人口構成、さらには統計の計算方法まで関係しています。

今回は、「精神疾患は増えたのか」という問いを、数字の読み方も含めて掘り下げます。

日本では、精神疾患の患者数はどのくらい増えている?

厚生労働省が患者調査をもとにまとめた資料では、精神疾患を有する総患者数は次のように推移しています。

調査年総患者数
2002年約258.4万人
2017年約419.3万人
2020年約614.8万人
2023年約603.0万人

2023年の内訳は、入院が約26.6万人、外来が約576.4万人です。長期的には、入院患者数が減る一方、外来で治療を受ける患者数が増えています。

ただし、この数字は医療機関で継続的に治療を受けている患者さんの推計であり、未受診の人も含めた「日本にいる精神疾患のある人全員」を数えたものではありません。mhlw.go.jp

もう一つ、見逃せない点があります。

2020年から、外来患者数の推計に用いる平均診療間隔の計算方法が変わりました。それまでは前回受診から31日以上の人を計算対象から除いていましたが、2020年以降は99日以上を除く方法になっています。

したがって、2017年から2020年の急増を、そのまま「3年間で病気が急増した」と読むことはできません。2023年は2020年より総患者数が少なく、毎回一方向に増え続けているわけでもありません。mhlw.go.jp

患者数のグラフを読むときには、線の傾きだけでなく、脚注も重要なのです。

「増えた」には、少なくとも3つの意味がある

精神疾患が増えたかどうかを考えるときには、何を数えているかを確認する必要があります。

指標何を表しているか解釈するときのポイント
受療者数医療機関で治療を受けている人の数受診のしやすさや治療継続の影響を受ける
有病率ある時点・期間に病気がある人の割合新しく発症する人だけでなく、病気の持続期間にも左右される
発症率一定期間に新しく病気を発症する頻度「新たに病気になる人が増えたか」に近い指標

たとえば、これまで受診せずに悩んでいた人が医療につながれば、病気の発症が増えていなくても受療者数は増えます。

また、新しく発症する人の数が変わらなくても、症状が長く続く人が増えれば、ある時点で病気を抱えている人の割合は高くなります。

疫学では、一定の条件のもとで「有病率は、発症率と病気の持続期間の積におおむね対応する」と考えます。精神疾患のように再発と寛解がある病気では単純な計算にはなりませんが、「患者数が増えた=発症が増えた」とは限らないことを理解するうえで役立ちます。

日本の大規模調査では、受診の増加と苦痛の増加は一致していない

この違いを示す、日本の興味深い研究があります。

Nishiらは、2007年から2016年の国民生活基礎調査を用い、延べ約216万人の成人について、心理的苦痛と精神保健医療サービスの利用を調べました。

重い心理的苦痛のある人の割合は、4.01%から4.15%へわずかに増加しました。一方、中等度の心理的苦痛は24.61%から24.69%で、大きく変わっていませんでした。医療サービスの利用は増えていましたが、苦痛を抱える人の割合が同じ勢いで増えていたわけではなかったのです。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ここで使われた心理尺度は、精神疾患そのものを確定診断する検査ではありません。また、この結果は2016年までのもので、現在の状況をそのまま示すわけでもありません。

それでも、「精神科に通う人が増えた」という事実だけから、「社会全体の心の状態が同じ割合で悪化した」と結論づけられないことが分かります。

最新の世界的な研究では、実際の増加も示されている

では、受診や診断が増えただけなのでしょうか。

それだけでも説明できません。

2026年に公表されたGBD 2023の研究は、204の国・地域について、1990年から2023年までの精神疾患の有病率や健康への影響を推計しています。

この研究では、世界で精神疾患を抱える人は2023年に約11.7億人と推計され、1990年から約95.5%増加していました。さらに、年齢構成の違いを調整した有病率も約24.2%上昇していました。pure-oai.bham.ac.uk

人数の増加には世界人口の増加なども関係します。しかし、年齢構成をそろえても有病率が上がっているのであれば、人口の変化だけでは説明できません。

増加は特に不安症や大うつ病性障害で目立ち、2019年以降のコロナ禍の時期が重要でした。一方、すべての精神疾患が同じ傾向を示したわけではありません。pure-oai.bham.ac.uk

なお、これは各国の調査データを統合したモデル推計です。診断方法や調査の不足による不確実性があり、世界全体の結果を、そのまま日本の増加率として使うこともできません。

「精神疾患は昔から一定だった」と一括りにする説明も、最新の知見を踏まえると見直す必要があります。

コロナ禍は、心の病気を本当に増やしたのか

実際の増加を考えるうえで、コロナ禍は重要な出来事でした。

2021年に発表された研究では、パンデミックがなかった場合の推計と比べて、2020年の世界の大うつ病性障害は約27.6%、不安症は約25.6%増加したと推計されました。これは「人口の約4人に1人が新しく発症した」という意味ではなく、患者数の相対的な増加です。thelancet.com

感染への恐怖、大切な人との死別、収入の減少、学校生活の中断、人との接触の制限。

コロナ禍では、複数の負担が同時に起こりました。精神疾患の頻度は、個人の性格だけでなく、社会の大きな変化にも影響されることが分かります。

ただし、これらの数字は2020年についての推計です。「その後も毎年25%ずつ増えている」「日本でも同じ増加率だった」という意味ではありません。

発達障害の診断が増えたことは、何を意味する?

「昔は発達障害という言葉をほとんど聞かなかった」という方もいると思います。

ここでも、診断された人数と、その特性を持つ人の数を分ける必要があります。

デンマークの出生集団を調べたHansenらの研究では、登録上の自閉スペクトラム症の増加の約60%が、診断基準の変更と、外来患者を登録対象に加えたことによって説明されました。JAMA Network

この結果は、「自閉スペクトラム症は増えていない」と証明したものではありません。特定の国・世代・制度変更についての結果であり、日本にそのまま当てはめることもできません。

また、残りの約40%がすべて生物学的な増加だった、と解釈することもできません。認知度の変化など、この研究で十分に捉えられていない要因が残るからです。

それでも、病名が広く知られ、診断や記録の仕組みが変わるだけで、統計上の人数が大きく変わり得ることを示しています。

以前は「人付き合いが苦手」「落ち着きがない」とだけ理解されていた困りごとが、医療や支援につながるようになった側面もあるのです。

「昔の人は強かった」とは、数字からいえない

「昔はみんな我慢していた」
「今は少しつらいだけで病名がつく」

こうした意見を耳にすることがあります。

しかし、昔の受診者数が少なかったとしても、それだけでは、苦しんでいる人自体が少なかったのか、苦しんでいても受診できなかったのかを区別できません。

歴史をさかのぼるほど、現在と同じ診断基準、同じ質問、同じ調査方法で比較できるデータは乏しくなります。

さらに、「昔の人は平気そうだった」という印象には、当時の苦痛が記録されていないことや、周囲に知られていなかったことも影響し得ます。人前で訴えなかったことは、症状がなかった証拠にはなりません。

もちろん、日常の悲しみや一時的な不安を、すべて病気として扱うことも適切ではありません。

必要なのは、「何でも病気にする」ことでも「昔は我慢していたから大丈夫」とすることでもなく、症状の持続、強さ、生活への支障、経過を丁寧に見ることです。

医学的に面白い点――治療が増えても、有病率がすぐには下がらない理由

治療を受ける人が増えているのに、病気を抱える人の割合が減らない。そう聞くと、「治療は役に立っていないのでは」と感じるかもしれません。

しかし、社会全体の有病率だけで、治療の有効性を判定することはできません。

たとえば、治療によって症状が改善する人が増えていても、同時に新しく発症する人が増えていれば、有病率は下がらない可能性があります。また、受診していても、十分な治療を受けられているとは限りません。

WHOも、精神疾患を抱える人の多くが、適切なケアを十分に受けられていないと指摘しています。医療機関につながることと、必要な支援を必要なだけ受けられることには、まだ隔たりがあります。who.int

個人への治療効果と、社会全体で病気がどれだけ減ったかは、異なる問いなのです。

自分のつらさは、「昔との比較」で判断しなくてよい

精神疾患の増加には、実際の病気の増加、これまで見過ごされていた困りごとの発見、受診や診断の変化、統計上の変化が重なっています。その割合は、病気や国、年代によって違います。

だからこそ、「最近の人は弱くなった」「診断が増えただけだ」という一つの説明では、捉えきれません。

そして、個人が受診を考えるときに、昔の人と比べて自分が強いか弱いかを判定する必要はありません。

眠れない、楽しめない、不安が続く、仕事や日常生活に支障が出ている。その状態を具体的に確かめ、必要な対応を考えることが大切です。

ことのはメンタルクリニックでは、病名だけでなく、症状の経過や生活上の困りごとも含めてお話をうかがいます。「病気なのか分からない」という段階でも、ご相談ください。

参考文献

  1. 厚生労働省.中央社会保険医療協議会 総会(第633回)資料「個別事項について(その13)精神医療②」.2025年12月5日.資料PDF
  2. Nishi D, et al. Trends in the prevalence of psychological distress and the use of mental health services from 2007 to 2016 in Japan. Journal of Affective Disorders. 2018;239:208–213. 論文
  3. GBD 2023 Mental Disorder Collaborators. Updated trends in the global prevalence and burden of mental disorders, 1990–2023: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2023. The Lancet. 2026;407:2040–2064. 論文
  4. COVID-19 Mental Disorders Collaborators. Global prevalence and burden of depressive and anxiety disorders in 204 countries and territories in 2020 due to the COVID-19 pandemic. The Lancet. 2021;398:1700–1712. 論文
  5. Hansen SN, Schendel DE, Parner ET. Explaining the increase in the prevalence of autism spectrum disorders: the proportion attributable to changes in reporting practices. JAMA Pediatrics. 2015;169:56–62. 論文
  6. World Health Organization. WHO releases new reports and estimates highlighting urgent gaps in mental health. 2025年9月2日.WHO公式発表

情報確認日:2026年10月23日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)