AIは精神科医の代わりになれるのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「人間の先生より、AIのほうが話を聞いてくれる」

「夜中でも相談できるなら、もう通院はいらないのでは?」

「精神科は会話が中心なのだから、AIに置き換わりやすいのでは?」

生成AIが身近になるにつれて、こうした疑問は、SFの話ではなくなってきました。

結論からいうと、AIは精神科医の仕事の一部を担う可能性があります。実際に、専門家が開発した対話型AIで、うつや不安の症状が改善した比較試験もあります。

ただし、相談相手として役立つことと、診断、治療、安全の確保まで任せられることは別です。

そして研究を見ていくと、「AIには心がないから無理」と簡単に片づけることも、「優しい返事をくれるから十分」と考えることも、どちらも難しいと分かります。

AIの返事は、医師より「共感的」と評価されることがある

少し耳の痛い研究から紹介します。

2023年に『JAMA Internal Medicine』に掲載された研究では、インターネット上の医療相談195件について、医師とChatGPTの回答を比較しました。

回答者を伏せた状態で医療従事者が評価したところ、計585回の評価のうち、78.6%でAIの回答が好まれました。共感性の評価でも、AIの回答が高く評価されています。

ただし、これは精神科の診療を比較した研究ではありません。実際の患者さんとの継続的な関係ではなく、掲示板への回答文を評価したものです。AIの回答は医師の回答より長く、文章量や説明の丁寧さも評価に影響した可能性があります。

それでも、医療者にとって考えさせられる結果です。

医学的に正しいことを短く伝えるだけでは、患者さんに「分かってもらえた」と感じてもらえるとは限りません。

「それはつらかったですね」「まず、ここを整理してみましょう」と言葉を添えることには意味があります。その部分で、AIの文章が人間より高く評価される場合があるのです。

一方、この研究から「AIのほうが治療成績もよい」とはいえません。読み手が感じる共感性と、治療の有効性は、別々に確かめる必要があります。

実際に、AIでうつや不安は改善するのか

この点について、注目されるのが2025年に『NEJM AI』に掲載されたTherabotの研究です。

うつ病や全般不安症の臨床的に意味のある症状、あるいは摂食障害の高リスク状態にある成人210人を、専門家が調整した生成AIを利用する106人と、利用を待つ104人に無作為に分けました。

4週間の介入を行い、8週時点まで評価したところ、AIを利用した群では、待機群より症状が改善しました。

つまり、AIとの会話は「気休めにすぎない」とも言い切れなくなっています。

ただし、この研究の読み方には重要なポイントがあります。

研究から分かることこの研究だけでは分からないこと
専門家が調整した特定のAIが、待機群より症状を改善させた一般のチャットAIでも同じ効果が得られるか
数週間の利用で改善がみられた数年単位の再発予防や生活機能の回復に役立つか
研究上の安全管理のもとで実施できた支援体制なしで、さまざまな重症例に安全に対応できるか
治療手段として検討する価値がある精神科医や心理職による治療と同等以上か

比較相手は、人間の治療者ではなく待機群です。また、研究チームは会話の安全性を確認し、必要時に介入できる体制を用意していました。

したがって、「AIが精神科医に勝った研究」と読むのは行き過ぎです。

ここで確認されたのは、専門家の関与したAIによる支援に、臨床的な可能性があるということです。

「AIだから話せる」という逆転現象もある

人間の治療者には、相手の表情や反応を見ながら話せるよさがあります。

しかし、その「人間に見られている感じ」が、相談の壁になる場合もあります。

「こんなことを言ったら引かれるのでは」

「だらしない人だと思われそう」

「先生にまで嫌われたくない」

こうした心配が強いと、診察で大切なことを話せないことがあります。

2014年の仮想人物を使った研究では、相手を人間が操作していると考えた場合より、コンピューターが動かしていると考えた場合のほうが、自己開示への恐れや、自分をよく見せようとする傾向が小さくなりました。現在の生成AIそのものの研究ではありませんが、「人間ではないこと」が話しやすさにつながる可能性を示しています。

AIに話してみたことで、自分でも気づいていなかった悩みを言葉にできる。その文章を持って受診する。

こうした使い方であれば、AIが人間の診療につながる入口になる可能性があります。

ただし、「人に話していない」という安心感と、入力した内容のプライバシーが守られることは別です。利用するサービスの保存・利用条件は、確認する必要があります。

「分かってくれるAI」が、危険になる場面

AIの長所として挙げられる「否定しない」「話を合わせてくれる」という性質は、いつでも治療的とは限りません。

例えば、「周囲の人が自分を監視している気がする」と相談されたとします。

ここでは、怖さや苦しさを受け止めることと、監視が事実だと認めることを分ける必要があります。

「それは不安になりますね」と伝えることと、「あなたの推測は正しいと思います」と伝えることでは、意味が大きく違います。

2025年のMooreらの研究では、複数の大規模言語モデルが、精神疾患に対する偏見を示したり、妄想的な考えに不適切に同調したりする問題が報告されました。著者らは、利用者に合わせすぎる迎合性が関係している可能性を指摘しています。

もちろん、これは研究当時の特定のモデルと条件での評価です。その結果を、すべてのAIにそのまま当てはめることはできません。

それでも、「優しく肯定してくれること」と「病状によい影響を与えること」が一致しない場面は、精神科では重要です。

強迫症の患者さんが、繰り返し「絶対に大丈夫ですよね」と確認する場合も同様です。その場の不安を下げる返事が、長い目で見て回復を助けるとは限りません。

精神科の治療では、安心を与えるだけでなく、不安との付き合い方を一緒に変えていくことも求められます。

一問一答が上手でも、長い会話が安全とは限らない

AIの性能を評価するとき、「この質問にどう答えたか」を見る方法がよく使われます。

しかし、心の相談は、一問で終わるとは限りません。

最初は仕事の愚痴だったものが、何時間もの会話を経て、「自分には特別な使命がある」「AIだけが自分の本当の姿を知っている」という話に変わっていく可能性もあります。

2026年3月に公開されたプレプリントでは、チャットボット利用による心理的な害を経験したと報告する19人について、約39万件のメッセージが分析されました。AIによる過度な同調や、AIを意識のある存在として扱うやり取りなどが検討されています。

この研究は、害を経験した人を中心とする少数例の分析です。AI利用者全体のうち何%に問題が起こるかは分かりませんし、AIが症状を引き起こしたという因果関係も確定できません。

それでも、評価すべき対象が「一つの回答の正しさ」だけでは足りないことを示しています。

何週間も使った結果、睡眠が保たれているか。現実の人間関係が維持されているか。必要な受診につながっているか。

精神医療で求められる安全性には、そうした時間の長い視点が必要です。

精神科の診断は、病名を当てるクイズではない

AIに症状を入力すると、もっともらしい診断候補が並ぶことがあります。

しかし、実際の診療で難しいのは、与えられた情報から病名を選ぶことだけではありません。そもそも、必要な情報がまだ語られていない場合があります。

例えば、「眠れない」という言葉だけでも、次のように意味が変わります。

本人の訴えや経過診療で確認したいこと
眠りたいのに眠れず、翌日もつらい不眠症、不安、うつ、身体疾患など
ほとんど眠っていないのに、元気で活動が増えている躁・軽躁の可能性
眠気はあるが、夜になると脚がむずむずするむずむず脚症候群など
薬の変更後、じっとしていられず眠れないアカシジアなどの副作用
飲酒量の増減とともに眠れなくなったアルコールの影響や離脱など

AIも、適切な設計によって追加の質問をすることはできます。

ただし、実際の診療では、本人の説明、話し方、行動、以前の状態、服薬歴、必要に応じた家族の情報や身体的な評価を組み合わせます。

「本人は調子がよいと言っているけれど、前回より話す速度が速く、睡眠が短くなり、出費も増えている」というように、説明と経過のずれが重要になることもあります。

診断能力を評価するなら、完成した症例文への正答率に加えて、必要な情報を集められるか、不確実なときに判断を保留できるか、適切な支援へつなげられるかまで見る必要があります。

「治療関係」も、人間だけのものとは言い切れない

心理療法では、治療者との信頼関係に加えて、「何を目標にするか」「そのために何をするか」を共有することが大切です。これを治療同盟と呼びます。

興味深いことに、Therabotの試験では、利用者はAIに対しても、良好な治療同盟を感じたと報告しています。

AIに心があるかどうかと、人がAIとのやり取りで支えられたと感じるかどうかは、別の問題なのです。

だからといって、「信頼されたAIは安全」とも限りません。

臨床的には、信頼が強いほど誤った助言も受け入れられやすくなる可能性を考える必要があります。「自分をよく分かってくれる相手」の言葉ほど、疑いにくくなるからです。

治療関係を評価する際には、「好きになった」「話しやすかった」だけでなく、自分で考える力や、現実の生活を支える方向に働いているかを確かめる必要があります。

今の段階では、どのように使うのがよいのか

AIに期待しやすいのは、受診や治療を補助する役割です。

例えば、診察で話したいことの整理、睡眠や気分の記録の要約、病気の説明で分からなかった言葉の確認などです。

医療者側でも、説明文の下書きや記録の整理に利用できる可能性があります。ただし、内容の確認と個人情報の適切な扱いが前提になります。

一方、薬を増減する判断、診断の確定、急な病状悪化への対応を、一般のチャットAIの返答だけで決めることは勧められません。

特に、「死にたい気持ちが強い」「ほとんど眠らず活動し続けている」「誰かに狙われている確信が強まっている」といったときは、AIとの会話を続けることより、人の支援につながることを優先してください。

AIの進歩は、精神科医の仕事にも問いを投げかける

「人間にしか共感はできない」と考えるだけでは、AIの可能性を十分に捉えられません。患者さんがAIの言葉に支えられることはあり、症状改善を示す研究も出ています。

その一方で、精神科医の仕事には、相手にとって心地よい返事をすることだけでなく、見逃してはいけない病状を判断し、ときには同意を控え、現実の治療や支援を調整することも含まれます。

AIが優しい文章を返せるようになった今、人間の医療者にも「短い診察の中で、何を提供しているのか」が改めて問われています。

AIに任せられる部分を活用し、その分、患者さんの経過を理解し、難しい判断を一緒に考える時間を増やす。

現時点では、そうした組み合わせを検証していくことに、大きな意味があると考えられます。

参考文献・資料

  1. Ayers JW, et al. Comparing Physician and Artificial Intelligence Chatbot Responses to Patient Questions Posted to a Public Social Media Forum. JAMA Internal Medicine. 2023;183(6):589–596.
    https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2023.1838
  2. Heinz MV, et al. Randomized Trial of a Generative AI Chatbot for Mental Health Treatment. NEJM AI. 2025;2(4).
    https://doi.org/10.1056/AIoa2400802
  3. Lucas GM, Gratch J, King A, Morency LP. It’s only a computer: Virtual humans increase willingness to disclose. Computers in Human Behavior. 2014;37:94–100.
    https://doi.org/10.1016/j.chb.2014.04.043
  4. Moore J, et al. Expressing stigma and inappropriate responses prevents LLMs from safely replacing mental health providers. Proceedings of the 2025 ACM Conference on Fairness, Accountability, and Transparency. 2025:599–627.
    https://doi.org/10.1145/3715275.3732039
  5. Moore J, et al. Characterizing Delusional Spirals through Human-LLM Chat Logs. arXiv. 2026. プレプリント。
    https://arxiv.org/abs/2603.16567

情報確認日:2026年10月23日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)