なぜ人は悪いニュースばかり見てしまうのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「事件や災害のニュースを見ると気分が落ち込むのに、つい続きを読んでしまう」
「寝る前に少しだけ見るつもりが、気づけば暗いニュースを1時間も追っていた」
「世の中がどんどん悪くなっているように感じる」

このような経験はないでしょうか。

悪いニュースに目が向くのは、必ずしも悲観的な性格だからではありません。人には危険に関する情報を優先して処理する傾向があり、そこに「不安を解消したい」という気持ちや、次々に情報が表示されるネット環境が重なることで、閲覧が止まりにくくなります。

今回は、悪いニュースに引きつけられる心理と、ニュースとの付き合い方について解説します。

悪い情報が気になるのは、脳の「危険を見逃したくない」という性質

人は、良い情報と悪い情報を、いつも同じ重みで受け取っているわけではありません。

危険や損失、失敗といった情報に、より強く注意が向くことがあります。心理学では、このような傾向を「ネガティビティ・バイアス」と呼びます。

例えば、「近所においしいパン屋ができた」という情報と、「近所で強盗事件があった」という情報では、後者の方が気になりやすいでしょう。

進化的な説明としては、良い機会を一度逃すことよりも、重大な危険を一度見逃すことの方が、生存に大きく影響した可能性が考えられます。ただし、これは背景を理解するための仮説であり、現在のニュース閲覧行動がすべて進化だけで説明できるわけではありません。

実際、2019年に発表された17か国・1,156人を対象とする研究では、ニュース映像を見ているときの皮膚電気活動や心拍などが測定され、平均的には肯定的なニュースよりも否定的なニュースで強い生理反応が認められました。一方で個人差も大きく、誰もが同じように反応するわけではありません。PMC

つまり、悪いニュースが気になってしまうこと自体は、特別な異常ではありません。問題になるのは、その後も見続けることで苦痛が増え、生活に影響している場合です。

「読みたい」と「読んでよかった」は別のこと

興味深いのは、クリックしたくなる記事が、読んだ後に満足できる記事とは限らないことです。

2023年の『Nature Human Behaviour』に掲載された研究では、ニュースサイトの見出しを変えて表示する約2万3千件のランダム化実験が解析されました。対象は約10万5千種類の見出しで、表示回数は3億7千万回以上にのぼります。

その結果、平均的な長さの英語の見出しでは、否定的な単語が一つ増えると、クリック率が相対的に約2.3%高くなりました。これは「クリック率が2.3ポイント上がる」という意味ではありません。また、一つの英語ニュースサイトでの結果であり、日本語の記事やすべてのSNSに同じ数字を当てはめることもできません。nature.com

それでも、「人を不安にさせる表現は注意を引きやすい」という点は示唆的です。

私たちは、必ずしも「自分の気分がよくなる情報」を選んでいるわけではありません。「見逃すと困りそう」「何が起きたのか確かめたい」という感覚で、記事を開くこともあるのです。

そのため、閲覧数やクリック数が多いことは、その情報が読者の幸福に役立っていることと同じではありません。

安心したくて調べているのに、なぜ不安が増えるのか

悪いニュースを見続ける行動は、「ドゥームスクローリング」と呼ばれます。

「doom」は破滅や不吉な運命、「scrolling」は画面をスクロールすることです。一般には、否定的なニュースを次々に読み進め、やめにくくなる行動を指します。この言葉だけで、特定の精神疾患を診断するものではありません。

ここで大切なのは、本人が「怖い思いをしたい」と考えているとは限らないことです。

むしろ、次のような気持ちから始まることがあります。

「もう少し調べれば、どのくらい危険なのかわかるはず」
「最新情報を確認すれば、安心できるかもしれない」
「大事な情報を見逃してはいけない」

ところが、戦争、感染症、経済、災害などの話題では、どれだけ調べても不確実性をゼロにはできません。

一つ確認すると、新しい疑問や別の危険が見つかる。すると、さらに調べたくなる。このように、安心を求める行動が、かえって不安を維持することがあります。

臨床的には、この繰り返しを「確認によって一時的に不安が下がり、そのため次も確認したくなる」という学習の仕組みで捉えることがあります。不快な状態が減ることで行動が強まるため、行動科学では「負の強化」と呼ばれます。「悪いことをして叱られる」という意味ではありません。

ただし、すべてのニュース閲覧がこの仕組みで起きているわけではありません。習慣、退屈、好奇心、仕事上の必要性なども関わります。

気分が悪いから暗い情報を見るのか、暗い情報を見るから気分が悪くなるのか

この問いの答えは、「両方の方向があり得る」です。

2025年の『Nature Human Behaviour』に掲載されたKellyとSharotの研究では、閲覧したウェブページの文章を自然言語処理で分析し、その内容の感情的な傾向と、気分・メンタルヘルスとの関係が調べられました。

否定的な情報を多く閲覧する人ほど、気分やメンタルヘルスの状態が悪いという関連が認められたほか、実験では、閲覧内容が気分に影響する方向と、気分が情報の選び方に影響する方向の両方が示されました。Nature Human Behaviour

ここからわかるのは、ネット閲覧が心の状態を「映す」だけでなく、心の状態を「変える」可能性もあるということです。ただし、短期的な気分変化の実験から、ニュース閲覧だけがうつ病を発症させると結論づけることはできません。

精神科の診療でも、「スマホを何時間使っていますか」だけでは見えないことがあります。

同じ1時間でも、友人とやり取りする、趣味の動画を見る、悲惨な事件の映像を見続ける、という行動では、内容も受ける影響も異なります。

利用時間に加えて、「何を見ているか」「どのような気分のときに見るか」「見た後にどうなるか」を確認することには意味があります。

数分の閲覧でも、気分に影響することがある

「何時間も見ていないから大丈夫」とも限りません。

2021年の研究では、COVID-19に関する情報をTwitterのフィードやYouTube動画で2~4分間見るだけでも、情報を見ない群と比べて、直後のポジティブな感情の低下などが認められました。一方、同じパンデミックに関連する内容でも、人の親切な行動を扱う情報では、同じような悪影響は認められませんでした。PLOS One

これは「ニュースを数分見たら心の病気になる」という意味ではありません。当時の感染症という特定の状況における、短期的な感情の変化を調べた研究です。

それでも、気分への影響を考えるときには、閲覧時間だけでなく内容が大切だとわかります。

また、米国の4,165人を追跡した3年間の縦断研究では、重大事件に関するメディア接触、その後の心的外傷後ストレス症状、将来への心配、次の事件に関するメディア接触が連鎖する関係が示されました。観察研究なので因果関係の断定はできませんが、「不安が情報収集を増やし、その情報収集がさらに苦痛と結びつく」という循環を考えるうえで参考になります。PMC

なお、報道を見て強い苦痛を感じることと、PTSDという診断が成立することは別です。苦痛の有無と、診断基準に合うかどうかは分けて考える必要があります。

ニュースとの距離をどう調整すればよいか

大切なのは、ニュースを完全に断つことではなく、自分に必要な情報を得ながら、苦痛を増やす繰り返しを減らすことです。

以下は、取り入れやすい工夫の例です。ドゥームスクローリングに対する標準治療として、すべての方法の効果が確立しているわけではありませんが、自分の閲覧習慣を調整する際の手がかりになります。

1.開く前に「何を確認するか」を決める

「避難情報を確認する」「交通機関の運行状況を見る」など、目的を具体的にします。

目的がはっきりしていると、情報を得たところで終わりやすくなります。「不安が完全になくなるまで」を終了条件にすると、終わりが来ないことがあります。

2.見る時間と、情報源を絞る

例えば、決めた時間に信頼できる報道機関や公的機関の情報を確認する方法があります。

災害時などは必要な緊急情報を確保しつつ、同じ内容を複数の媒体で何度も確認していないかを振り返ってみましょう。

3.「新しい情報」と「同じ刺激の繰り返し」を区別する

同じ事件の映像を何度も再生したり、似た意見のコメント欄を読み続けたりしても、判断に役立つ情報が増えるとは限りません。

「今、知識が増えているのか。それとも、不安だけが増えているのか」と一度立ち止まることが役立ちます。

4.意志の強さだけでなく、画面の環境を変える

不要な通知を切る、自動再生を止める、就寝前はスマートフォンを手元に置かないなど、閲覧を始めるきっかけを減らします。

一度開くと止めにくい場合は、「開いてから我慢する」だけでなく、開きやすさそのものを調整する方法もあります。

5.知ったことを、小さな行動につなげる

災害が心配なら備蓄を点検する、健康が心配なら必要な受診をするなど、自分が取れる行動を一つ決めてみます。

その後は、散歩、食事、入浴、誰かとの会話など、目の前の生活に戻る時間を設けましょう。ニュースから離れて過ごす時間も、生活の一部です。

受診を考えてよいのは、どのようなときか

悪いニュースが気になるだけで、精神科の病気とは限りません。

ただし、閲覧をやめたくてもやめられない、寝不足が続く、仕事や家事に集中できない、ニュースを見ていない時間まで不安が続く場合は、相談して構いません。

その背景に、不安症、うつ病、強迫症などが関係していることもあります。診察では、ニュースを見る量だけでなく、確認する目的、確認した直後の変化、睡眠や日常生活への影響を一緒に整理します。

悪いニュースに目が向くのは、人が危険を見逃さないようにする性質とも関係しています。しかし、情報を増やすことが、いつも安心を増やすとは限りません。

「もう十分に必要なことは確認できたか」を区切りにして、画面から離れる。その練習が、不安との付き合い方を変える一歩になることがあります。

参考文献

  1. Soroka S, Fournier P, Nir L. Cross-national evidence of a negativity bias in psychophysiological reactions to news. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2019;116(38):18888–18892.
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  4. Buchanan K, Aknin LB, Lotun S, Sandstrom GM. Brief exposure to social media during the COVID-19 pandemic: Doom-scrolling has negative emotional consequences, but kindness-scrolling does not. PLOS ONE. 2021;16(10):e0257728.
    https://doi.org/10.1371/journal.pone.0257728
  5. Thompson RR, Jones NM, Holman EA, Silver RC. Media exposure to mass violence events can fuel a cycle of distress. Science Advances. 2019;5(4):eaav3502.
    https://doi.org/10.1126/sciadv.aav3502

情報確認日:2026年10月23日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)