抗うつ薬で太る?体重が増えにくい薬はあるか

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「抗うつ薬を飲み始めてから、体重が増えた気がします」
「太るのが心配で、薬を飲むことをためらっています」
「体重が増えにくい薬に替えることはできますか?」
最初に結論を述べると、抗うつ薬によって体重が増えることはあります。ただし、その起こりやすさは薬によって異なり、体重への影響を考慮して薬を選ぶこともできます。
ミルタザピンやアミトリプチリンなどは体重増加に注意が必要です。一方、セルトラリンやボルチオキセチンなどは、体重増加を避けたいときに検討しやすい候補になります。ただし、「誰が飲んでも太らない薬」があるわけではありません。
また、体重が増えた理由をすべて薬の副作用と考えることも、すべて「うつ病がよくなって食べられるようになったから」と説明することも適切ではありません。
この記事では、主に成人のうつ病治療を念頭に、薬ごとの違い、短期と長期で異なる研究結果、体重が増えたときの考え方を紹介します。
抗うつ薬で体重が増えるのは、なぜ?
体重変化には、いくつかの経路が重なります。
一つは、薬によって空腹感が強くなったり、食欲が増したりすることです。ミルタザピンなどでは、ヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2C受容体への拮抗作用が、食欲や体重への影響に関与すると考えられています。眠気が強く、日中の活動量が減ることも影響し得ます。pmda.go.jp
もう一つは、うつ病そのものの変化です。治療前に食欲が落ちて体重が減っていた方では、回復とともに元の体重へ戻ることがあります。反対に、うつ病に伴う過食や活動量低下が、体重増加に関係している場合もあります。insight.jci.org
そのため、診察では「服薬後に何kg増えたか」だけでなく、発症前の体重、食欲の変化、眠気、生活リズムを合わせて確認します。
例えば、発症前60kgだった方が55kgまで減り、治療後に59kgへ戻った場合と、60kgから65kgへ増え続けている場合では、同じ体重増加でも意味が異なります。
「食べすぎたから」だけでは説明できない知見もある
興味深いのが、うつ病ではない健康な男性10人に、ミルタザピン30mgを7日間投与した研究です。
食事量、睡眠、身体活動を管理した条件でも、空腹感や甘いものへの欲求が増え、満腹感が低下しました。明らかな体重増加や安静時エネルギー消費量の変化は認められませんでしたが、標準化した食事に対するインスリンとCペプチドの分泌は増えていました。insight.jci.org
これは、「うつ病が改善したので食べられるようになった」という説明だけでは捉えられない、薬自体の作用を示唆します。
ただし、10人・7日間の非盲検研究です。この結果だけで、長期的な肥満や糖尿病の発症を予測したり、「ミルタザピンは基礎代謝を下げる」と断定したりはできません。
薬の影響を考えるうえでは、体重、食欲、糖代謝を、それぞれ別の指標として見る必要があります。
体重への影響は、どの薬で大きいのか?
代表的な薬を整理すると、次のようになります。研究の期間や方法が異なるため、この表は厳密な順位表ではありません。pmda.go.jp
| 一般名・主な商品名 | 体重についての考え方 | 解釈するときの注意点 |
|---|---|---|
| ミルタザピン/リフレックス・レメロン | 食欲増加・体重増加に注意が必要 | 食欲低下や体重減少が強い方では、この特徴が治療上の利益になる場合もある |
| アミトリプチリン/トリプタノール | 体重増加が問題になりやすい薬の一つ | 眠気や抗コリン作用なども合わせて評価する |
| パロキセチン/パキシル | SSRIの中でも体重増加に注意したい | 急な減量・中止に伴う症状にも配慮が必要 |
| エスシタロプラム/レクサプロ | 体重増加は起こり得る | 大規模観察研究では、6か月時点でセルトラリンより平均増加量が大きかった |
| デュロキセチン/サインバルタ | 短期に体重が減ることがあっても、長期に増えないとは限らない | 「SNRIだから太らない」とはいえない |
| ベンラファキシン/イフェクサーSR | 体重への影響は比較的小さい研究もあるが、増加は起こり得る | 体重だけでなく血圧や中止時の症状も考慮する |
| セルトラリン/ジェイゾロフト | 体重増加を避けたいときの候補の一つ | 長期的な体重増加がないという意味ではない |
| ボルチオキセチン/トリンテリックス | 短期試験では平均的な体重への影響が小さい | 長期に体重が増える方もおり、他剤より必ず優れるとはいえない |
「SSRI」「SNRI」といった分類が同じでも、体重への影響は一律ではありません。また、少量なら体重増加が起こらないとも言い切れません。
18万人の研究で分かった、よく使う薬の違い
2024年には、米国の183,118人の診療データから、8種類の抗うつ薬を比較した研究が発表されました。
開始6か月後の推定体重変化は、セルトラリンと比べて、エスシタロプラムで0.41kg、パロキセチンで0.37kg、デュロキセチンで0.34kg大きい結果でした。これらの薬では、開始時の体重から5%以上増えるリスクも、セルトラリンより相対的に10~15%高くなっていました。PubMed
ここでの0.41kgは、「レクサプロを飲むと平均0.41kg太る」という意味ではなく、セルトラリンとの差です。また、相対リスクが15%高いことと、100人中15人多く太ることは異なります。
この研究は無作為化試験ではなく、診療データを使って試験を模倣する「ターゲットトライアル・エミュレーション」という方法です。処方情報と実際の服薬は一致せず、6か月時点の服薬継続率は28~41%でした。体重測定の欠損もあり、薬を継続して飲んだ場合の影響を完全に表した数値ではありません。PubMed
平均差が小さくても、個人の体重変化まで小さいとは限らないことにも注意が必要です。
「飲み始めは痩せた」のに、後から太ることがある
抗うつ薬の体重への影響では、観察期間が重要です。
2025年のネットワークメタ解析は、151件の試験と17件の米国FDA資料、計58,534人のデータから、30種類の抗うつ薬の身体的影響を比較しました。治療期間の中央値は8週間でした。PubMed
この解析では、パロキセチンやデュロキセチンなどで、短期的には体重減少が示されています。一方、先ほどの6か月の観察研究では、セルトラリンより体重増加が大きい結果でした。PubMed
対象も比較方法も異なるため、両者をそのままつなげることはできません。それでも、「8週間の結果を、そのまま半年後や数年後に当てはめてはいけない」ことは分かります。
英国の長期観察研究でも、抗うつ薬の処方と5%以上の体重増加との関連は、治療開始2~3年目に強く、少なくとも6年間は認められました。ただし、うつ病や生活習慣などの影響を完全に除いた因果関係の証明ではありません。The BMJ
体重の確認は、飲み始めの数週間だけで終わらせないことが大切です。
体重が変わらなければ、代謝への影響もない?
必ずしもそうとはいえません。
2025年の解析では、パロキセチンや一部のSNRIで、体重が減っていても総コレステロールが上昇し、デュロキセチンでは血糖の上昇も認められました。また、研究単位の解析では、抑うつ症状の改善と代謝指標の変化に明確な関連は認められませんでした。PubMed
これは、気分が改善したことだけで代謝の変化を説明できるわけではないこと、体重だけでは身体への影響を捉えきれないことを示しています。
ただし、短期間の検査値の変化が、そのまま糖尿病や心血管疾患の発症増加を意味するわけではありません。研究単位の関連がないことも、個々の患者さんで回復に伴う体重変化がないという証明ではありません。
もともと肥満、糖尿病、脂質異常症がある方では、体重に加え、必要に応じて血糖・HbA1cや脂質も確認する、という診療上の判断につながります。
トリンテリックスなら、体重は増えないのか?
ボルチオキセチンは、体重への影響を重視する場合に検討しやすい薬です。
臨床試験の統合解析では、6~8週間の短期治療で、体重に対する明確なプラセボとの差は認められませんでした。一方、最長52週間の長期試験では、平均0.7~0.8kgの増加が報告されています。PubMed
ここで大切なのは、長期試験が非盲検の延長試験だったことです。治療を継続できた方が中心となるため、開始した全員の経過を表しているわけではありません。また、長期のプラセボ比較から得られた数値でもありません。
「平均的には体重への影響が小さい」という評価には根拠があります。しかし、「絶対に太らない」「他の薬から替えれば必ず痩せる」という意味ではありません。
海外で「太りにくい薬」といわれるブプロピオンは?
先ほどの米国の研究では、ブプロピオンはセルトラリンより体重増加が少ない結果でした。PubMed
ただし、ブプロピオンは日本では未承認で、通常の保険診療で選べる抗うつ薬ではありません。海外の薬のランキングを、そのまま日本の処方選択に使うことはできません。ことのはメンタルクリニック
国内で使える薬についても、「体重の増えにくさ」に加え、うつ症状への効果、不安や不眠、ほかの副作用、過去の治療反応を考えて選びます。
関連コラム:ブプロピオンが日本で一般的に使われない理由
体重が増えたとき、まず何を確認する?
まず、服薬開始や増量の時期と、体重の変化を照らし合わせます。食欲が強くなったのか、眠気で動けなくなったのか、発症前の体重に戻っているのかによって、対応は変わります。
抗うつ薬以外に追加された薬、飲酒、睡眠、身体疾患なども確認します。数日で急に増え、むくみを伴う場合などは、脂肪が増えたと決めつけず、別の原因を考える必要があります。
研究でよく使われる「5%以上の増加」は、一つの参考になります。60kgなら3kg、80kgなら4kgです。ただし、その値まで相談を待つ必要はありません。
実際には、治療前の体重を記録し、例えば週1回程度、同じ条件で測って推移を見る方法が役立ちます。毎日の細かな増減より、「数週間から数か月で増え続けているか」を確認します。
薬が原因と考えられ、負担が大きければ、処方の見直しを相談できます。薬の変更により改善する可能性はありますが、必ず体重が戻るとは限りません。
また、自己判断で急に中止すると、中止に伴う症状やうつ病の再燃が問題になることがあります。変更する場合も、効果と副作用を確認しながら進めます。NICE
「太りたくない」は、薬を選ぶ十分な理由になる
体重増加は、見た目だけの問題ではありません。身体の健康、自分の体への感じ方、治療を続ける気持ちにも関わります。
NICEのうつ病診療ガイドラインでも、抗うつ薬を選ぶ際には、体重増加、眠気、性機能への影響など、ご本人が特に避けたい副作用を話し合うことが推奨されています。NICE
一方、よく効いている薬を変更することには、症状が不安定になる可能性もあります。反対に、体重増加がつらく、服薬を続けられなくなっているなら、その負担を軽くすることが治療を支えます。
「気分はよくなったけれど、体重が増えてつらい」という状態も、診察で扱うべき治療上の課題です。
体重への影響を小さくしながら、必要な治療効果を保つにはどうするか。薬の種類だけでなく、服用後の変化まで確認しながら、一緒に考えていくことが大切です。
参考文献・資料
- PMDA. レメロン錠15mg・30mg 審査報告書. 2009.
- Hennings JM, et al. Effect of mirtazapine on metabolism and energy substrate partitioning in healthy men. JCI Insight. 2019;4(2):e123786.
- Petimar J, et al. Medication-Induced Weight Change Across Common Antidepressant Treatments: A Target Trial Emulation Study. Ann Intern Med. 2024;177(8):993–1003.
- Pillinger T, et al. The effects of antidepressants on cardiometabolic and other physiological parameters: a systematic review and network meta-analysis. Lancet. 2025;406(10515):2063–2077.
- Gafoor R, et al. Antidepressant utilisation and incidence of weight gain during 10 years’ follow-up: population based cohort study. BMJ. 2018;361:k1951.
- Baldwin DS, et al. The safety and tolerability of vortioxetine: Analysis of data from randomized placebo-controlled trials and open-label extension studies. J Psychopharmacol. 2016;30(3):242–252.
- NICE. Depression in adults: treatment and management. NG222.
情報確認日:2026年10月23日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)