夢を毎晩見るのは睡眠の質が悪いからなのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「毎晩のように夢を見るので、眠りが浅いのではと心配になる」
「夢の中でも仕事をしていて、朝から疲れている」
「睡眠薬を飲み始めてから、夢が妙にリアルになった」

毎晩夢を覚えているからといって、それだけで睡眠の質が悪いとは限りません。夢は健康な睡眠でも生じますし、夢を体験することと、起きてから覚えていることは別だからです。

ただし、悪夢で何度も目が覚める、眠るのが怖い、日中の眠気が強いといった場合には、背景にある問題を確認する必要があります。

この記事では、夢と睡眠の関係を、夢の記憶、脳の活動、薬の影響、治療の考え方まで含めて解説します。

夢を見ることと、夢を覚えていることは違う

「昨日は夢を見なかった」という言葉は、多くの場合、「夢を覚えていない」という意味です。起床後の記憶がないことだけでは、睡眠中に夢を体験していなかったとは判断できません。

夢の研究にも、ここに難しさがあります。研究者は睡眠中の脳活動を調べられますが、夢の体験については、基本的に目を覚ました本人の報告を手がかりにします。その報告には、夢が生じたかどうかだけでなく、記憶できたか、言葉にできたかという過程も関わります。

そのため、「毎晩夢を見るようになった」という変化にも、夢そのものの変化と、夢を思い出しやすくなった変化の両方が考えられます。PMC

夢をよく覚えている人は、何が違うのか

健康な人を対象とした研究では、夢をよく覚えている人は、あまり覚えていない人に比べ、睡眠中の覚醒や外からの音に対する脳の反応に違いがあることが報告されています。

短い覚醒が、夢の内容を記憶に残す機会になっているという考え方があります。PMC

ただし、ここから「夢を覚えている人は全員、不眠症である」とは言えません。健康な人にも睡眠中の短い覚醒はあり、覚醒の長さや、眠り直しやすさ、日中への影響はそれぞれ異なります。

診療では、「夢を何回見たか」だけでなく、「目が覚めてから長く眠れないのか」「翌日の生活に支障があるのか」まで確認することが大切です。

レム睡眠は「質の悪い眠り」ではない

睡眠には、ノンレム睡眠とレム睡眠があります。ノンレム睡眠には浅い段階から深い段階までがあり、レム睡眠では、急速な眼球運動や特徴的な脳活動がみられます。

レム睡眠は、鮮明な夢と結びつきやすい睡眠です。しかし、脳活動が覚醒時に似た特徴を持つからといって、休めていないわけではありません。正常な睡眠を構成する一部分です。

また、レム睡眠は夜の後半ほど長くなる傾向があります。朝方の夢が印象に残ることも、「一晩中、深く眠れていなかった」という証拠にはなりません。ninds.nih.gov

睡眠の状態は、深いノンレム睡眠の量や、レム睡眠の割合など、一つの指標だけでは評価できません。

夢はノンレム睡眠でも生じる

「夢を見るのはレム睡眠だけ」という説明も、正確ではありません。

2017年の研究では、高密度脳波を記録しながら参加者を起こして体験を尋ね、ノンレム睡眠中にも夢の報告が得られました。夢を報告したときには、脳の後方の領域で、低周波の活動が少ないという関連が認められています。PMC

興味深いのは、睡眠全体がどの段階かという分類だけでは、夢の有無を説明しきれない点です。脳全体の睡眠段階と、ある領域の活動状態は、必ずしも一対一には対応しません。

ただし、これは研究上の知見です。家庭用の機器で夢の回数や内容を正確に測定できる、という意味ではありません。

夢は、記憶の整理を反映しているのでしょうか

夢には、その日に経験したことや、以前の記憶の一部が混ざって現れることがあります。

仮想の迷路を学習する実験では、睡眠中に迷路に関係する夢を報告した参加者で、その後の成績改善が大きかったという結果が報告されています。夜間睡眠を使った追試でも、同様の関連が示されました。pmc.ncbi.nlm.nih.gov

こうした研究は、夢が睡眠中の記憶処理を反映する可能性を支持します。ただし、関連する夢を報告した人が少ない研究もあり、別の課題では同じ関連が得られないこともあります。「夢を見たから成績がよくなった」という因果関係までは証明されていません。PMC

夢を覚えているほど記憶力がよい、夢を覚えていないと記憶が整理されていない、という判断もできません。

夢の役割には、記憶や感情の処理など、さまざまな仮説があります。現時点では、すべての夢に共通する役割が解明されたわけではありません。

「夢で疲れる」という感覚は、どう考えるのか

仕事で失敗する夢や、誰かに追いかけられる夢を見たあとに、疲れや不快感が残ることはあります。

このとき、夢の内容による心理的な負担と、睡眠が途切れたことによる影響を分けて考えると、状況を整理しやすくなります。

嫌な夢を見ても、そのまま眠り続けられて、日中も普段どおり過ごせる場合があります。一方、悪夢で何度も目が覚め、動悸や不安で眠り直せなくなる場合には、睡眠の維持そのものが妨げられています。PMC

「夢の中で働いていたから、脳が一晩中休んでいない」とまでは言えませんが、本人が感じている負担は、相談してよい症状です。

睡眠薬や抗うつ薬で、夢が変わることもある

薬を開始したとき、量を変えたとき、あるいは減量・中止したときに、夢の印象が変化することがあります。

例えば、デエビゴなどのオレキシン受容体拮抗薬では、悪夢や異常な夢が報告されています。眠れるようになった一方で、夢が鮮明になって負担を感じる場合もあります。pmda.go.jp

抗うつ薬について興味深いのは、夢を覚えている頻度と、夢の強烈さが、同じ方向に変化するとは限らない点です。

健康な成人14人を対象とした小規模研究では、パロキセチンまたはフルボキサミンの服用中に、夢を思い出す頻度は減った一方、主観的な夢の強さは増しました。また、中止後にも夢の変化が認められました。PubMed

夢の鮮明さ、夢を覚えている頻度、レム睡眠の量は、それぞれ異なる指標です。「リアルな夢を見るようになったから薬が合わない」「夢を覚えなくなったから睡眠が改善した」と、一つの変化だけで決めることはできません。

薬との関連が気になるときは、開始・増量・減量の時期と、夢が変化した時期を診察で伝えてください。自己判断で急に中止すると、別の睡眠の乱れや中止後の症状につながることがあります。

相談したほうがよいのは、どのような場合か

毎晩夢を覚えていても、苦痛がなく、日中も支障なく過ごせるのであれば、夢の頻度だけを理由に治療が必要とは限りません。一方、次のような場合には、夢以外の症状も含めて確認します。

  • 悪夢で繰り返し目が覚め、眠り直せない
  • また嫌な夢を見るのではと、眠ること自体が怖くなる
  • つらい体験に関係する悪夢や、日中の強い不安が続いている
  • 大きないびき、呼吸が止まるという指摘、強い日中の眠気がある
  • 睡眠中に叫ぶ、殴る、蹴る、ベッドから落ちるといった行動がある
  • 薬の変更後から、夢や睡眠の状態が大きく変わった

いびきや無呼吸、日中の眠気があれば、睡眠時無呼吸症候群などを検討します。夢を覚えているかどうかとは別に評価すべき症状です。NHLBI, NIH

また、夢に合わせるように手足が動き、自分や隣で寝ている人がけがをする場合は、レム睡眠行動障害などの可能性があります。怖い夢を覚えていることと、睡眠中に実際の行動が出ることは区別して考えます。必要に応じて、専門医療機関で睡眠検査を行います。aasm.org

悪夢には、夢を直接対象にした治療もある

悪夢が続く場合、背景にある不眠、不安、トラウマ関連症状、薬の影響などを評価します。そのうえで、悪夢自体に焦点を当てる治療が選択肢になることもあります。

代表的なものが、イメージ・リハーサル療法(IRT)です。起きている間に、繰り返す悪夢の展開を苦痛の少ない内容へ書き換え、そのイメージを練習します。

米国睡眠医学会の2018年のポジションペーパーでは、悪夢障害とPTSDに関連する悪夢への治療として推奨されています。PMC

これは夢の象徴を解読する治療ではなく、苦痛を生むイメージに働きかける方法です。ただし、つらい体験に関連する内容を無理に詳しく思い出す必要はなく、症状や負担に合わせて専門家と進めます。実施できる医療機関は限られます。

夢の回数より、眠りと日中の状態を見ていく

夢が気になるときは、夢を減らすことだけを目標にするよりも、起床時刻を大きくずらさない、睡眠時間を確保する、寝酒に頼らないなど、睡眠全体を整えることが基本になります。

診察のために記録するなら、夢の細かな内容よりも、就寝・起床時刻、夜中に起きていたおおよその時間、悪夢による苦痛、翌日の眠気、薬や飲酒との関係が役立ちます。夜中に何度も時計を確認して、正確に記録しようとする必要はありません。

夢を覚えていること自体は、異常とは限りません。大切なのは、夢がつらいのか、睡眠が妨げられているのか、日中の生活に影響しているのかです。

「夢ばかり見て疲れる」という相談でも構いません。夢の頻度だけで判断せず、睡眠全体と、こころや体の状態を一緒に確認していきます。

参考文献・資料

  1. Vallat R, et al. Increased Evoked Potentials to Arousing Auditory Stimuli during Sleep: Implication for the Understanding of Dream Recall. 2017.
  2. NINDS. Understanding Sleep.
  3. Siclari F, et al. The neural correlates of dreaming. 2017.
  4. Wamsley EJ, et al. 夢と記憶固定に関する研究(2010)、夜間睡眠での追試(2019)。
  5. PMDA. デエビゴ錠:適正使用ガイド.
  6. Pace-Schott EF, et al. SSRI treatment suppresses dream recall frequency but increases subjective dream intensity in normal subjects. 2001.
  7. NHLBI. Sleep Apnea Symptoms.
  8. AASM. REM Sleep Behavior Disorder as a Prodrome of Neurodegenerative Disorders.
  9. Morgenthaler TI, et al. Position Paper for the Treatment of Nightmare Disorder in Adults. 2018.

情報確認日:2026年10月23日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)