精神科の薬を飲むと性格が変わるのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「薬を飲むと、自分ではなくなってしまうのではないか」
「以前ほど悩まなくなったけれど、これは性格が変わったのでしょうか」
「落ち込みは軽くなりましたが、うれしいことにも感動しなくなりました」

精神科の薬を使うとき、「自分らしさが変わってしまうのではないか」という不安を感じる方がいらっしゃいます。

最初に結論を述べると、精神科の薬によって、感情の動き方、物事の受け止め方、行動の傾向が変化することはあります。しかし、それをすべて「性格が変わった」とまとめると、症状の改善と、困った副作用を区別できなくなってしまいます。

一方で、「薬は症状にしか作用しないので、性格には一切影響しません」と断言するのも、研究結果を踏まえると正確ではありません。

この記事では、抗うつ薬を中心に、薬と性格の関係を考えてみます。

そもそも「性格」と「そのときの状態」は分けられるのか

日常生活で使う「性格」という言葉には、さまざまなものが含まれています。

心配しやすい、人付き合いが好き、几帳面、怒りっぽい、といった比較的持続する傾向もあれば、疲れていて無口になっている、眠れていなくてイライラする、といった一時的な状態もあります。

精神医学や心理学では、比較的安定した傾向を「特性」、その時点の心身のあり方を「状態」として区別します。ただし、実際の診療で両者をきれいに分けるのは簡単ではありません。

例えば、長く不安に悩んできた方が「私はもともと心配性です」と話されることがあります。確かに以前からの傾向かもしれませんが、治療できる不安症状まで「生まれつきの性格」として受け止めている可能性もあります。

反対に、治療によって人と話せるようになったからといって、内向的な性格が別の性格に入れ替わったと考える必要もありません。人と話したい気持ちは以前からあったものの、不安が強くて行動できなかった、という場合もあるからです。

「昔からそうだった」ということと、「治療しても変化しない」ということは、同じではありません。

抗うつ薬で「性格特性」が変化したという研究がある

この疑問を直接検討した研究もあります。

2009年に発表された比較試験では、中等症から重症のうつ病の成人240人を、パロキセチン、プラセボ、認知療法の群に分け、抑うつ症状と性格特性の変化を調べました。

パロキセチン群では、プラセボ群よりも「神経症傾向」の低下と「外向性」の上昇が大きく、抑うつ症状の改善を統計的に調整しても差が残りました。神経症傾向とは、不安や落ち込みなどの否定的な感情を経験しやすい傾向を指す心理学用語です。

つまり、この研究は「気分がよくなったので、性格の質問にも明るく答えるようになっただけ」では説明しきれない可能性を示しました。

ただし、特定の薬と患者集団における自己記入式尺度の結果です。価値観や人格全体が変わること、すべての抗うつ薬に同じ作用があること、変化が生涯続くことまで示した研究ではありません。

薬が「人間そのものを別人にする」という話と、薬によって「ストレスへの反応の仕方が変わり、それが性格尺度にも表れる」という話は、分けて考える必要があります。

気分がよくなる前に、「受け取り方」が変わるのかもしれない

抗うつ薬の作用を考えるうえで、興味深いのが「感情情報処理」という視点です。

例えば、相手の表情が少し曖昧だったときに、「怒っているのではないか」と受け取るか、「疲れているのかもしれない」と受け取るかで、その後の気持ちや行動は変わります。

うつ病では、こうした情報の処理が否定的な方向に偏ることがあります。そして抗うつ薬は、本人が「気分がよくなった」と感じるより前に、この偏りに影響する可能性が研究されています。

2016年の研究では、うつ病の患者さん35人にエスシタロプラムを投与し、開始7日後の感情的な表情に対する脳反応の変化が、6週間後の治療反応と関連していました。ただし、プラセボ群のない小規模研究であり、これだけで作用機序が確定したわけではありません。

この仮説に沿って考えると、薬によって最初に変わるのは「性格」というより、日々の出来事を受け止める際の偏りなのかもしれません。

以前ほど相手の反応を怖がらなくなれば、人と話す機会が増える。話してみて大丈夫だったという経験が重なれば、次の行動も変わる。その積み重ねが、本人や周囲には「性格が明るくなった」と感じられる可能性があります。

これは研究から考えられる説明の一つであり、すべての方の回復過程が同じという意味ではありません。

「つらくなくなった」と「何も感じなくなった」は違う

治療中に大切なのが、この区別です。

「以前ほど不安に振り回されなくなった」
「嫌なことがあっても、必要以上に引きずらなくなった」

このような変化を、本人が助かると感じることはあります。

一方で、

「悲しくないけれど、楽しくもない」
「好きだった音楽を聴いても心が動かない」
「家族のことは大切なはずなのに、気持ちが遠く感じる」

という変化は、別に評価する必要があります。

抗うつ薬、とくにSSRIの服用中には、肯定的な感情も否定的な感情も弱く感じる「感情鈍麻」が問題になることがあります。

2023年の研究では、健康な成人66人にエスシタロプラムまたはプラセボを少なくとも21日間投与しました。その結果、エスシタロプラム群では、行動の結果として得られる報酬や罰が、その後の選択に及ぼす影響を表す「強化感受性」が低下しました。

うつ病のない人でも変化が認められた点は興味深く、薬自体が感情鈍麻に関係する可能性を考える手がかりになります。ただし、実験課題での変化が、そのまま日常の感情鈍麻と一致するわけではありません。

「落ち込みが減ったのだから、感動しなくても仕方がない」と我慢する必要はありません。治療では、苦痛が減っているかだけでなく、喜びや関心、自分らしい実感が保たれているかも確認します。

感情が乏しいのは、薬の副作用なのか、うつ病の症状なのか

ここは、実際の診療でも判断が難しいところです。

うつ病そのものにも、喜びを感じにくい、関心が湧かない、意欲が出ないといった症状があります。そのため、服薬中に感情が乏しいからといって、すぐに薬の副作用とは断定できません。

診察では、例えば次のような点を整理します。

確認すること判断の手がかり
飲み始める前はどうだったか以前からある症状か、新たに現れた変化か
開始・増量と時期が重なるか薬との時間的な関係があるか
どの感情が弱くなったか喜びだけか、悲しみや不安も含めて全体が平坦か
眠気や頭の働きにくさがあるか鎮静などの影響が重なっていないか
抑うつ症状はどの程度残っているか回復が不十分な可能性はないか
本人はどう感じているか助かっている変化か、困っている変化か

これらは診断を自動的に決める基準ではありません。経過と生活への影響を組み合わせて判断するための手がかりです。

「何となく自分らしくない」という訴えも、治療を考えるうえで大切な情報です。うまく説明できなくても、その言葉のまま相談していただいて構いません。

急に活動的になったときは、単純に「元気になった」とは限らない

薬を飲んで行動が変わる場合には、早めの対応が必要なものもあります。

例えば、睡眠時間が大幅に減っても平気になった、話し続ける、予定を詰め込みすぎる、普段とは違う高額な買い物をする、といった変化です。

抗うつ薬の治療中に躁状態や軽躁状態が現れた場合は、双極症の可能性や薬との関連を含めた再評価が必要です。「明るい性格になった」と受け止めるだけでは、見逃してしまうことがあります。

また、強い落ち着かなさ、不眠、焦りが出たときも、回復の兆しとは限りません。抗うつ薬を始めた時期には、不安や焦燥が強まることがあるため、程度や経過を確認します。

本人が変化を心地よく感じていても、家族から見ると「いつもと明らかに違う」という場合があります。睡眠や金銭管理、対人関係に大きな変化があれば、その具体的な様子を主治医に伝えてください。

抗うつ薬以外でも、「性格が変わった」と見える副作用がある

精神科の薬を、すべて同じものとして扱うことはできません。

例えば、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬などでは、不安を和らげる作用とは逆に、興奮や脱抑制が現れる「奇異反応」が報告されています。脱抑制とは、普段なら抑えられている言動が出やすくなることです。

また、アリピプラゾールでは、ギャンブル、買い物、過食、性的行動などへの衝動を抑えにくくなることが報告されており、米国FDAも注意を呼びかけています。

こうした変化を、「もともとだらしない人だった」「隠していた本性が出た」と解釈してしまうと、薬との関連を見落とす可能性があります。

もちろん、行動の変化がすべて薬によるわけではありません。しかし、薬を始めたり増量したりした後に、普段とは異なる衝動や言動が現れた場合は、本人の性格の問題と決めつけず、処方との関係を確認することが大切です。

「自分らしさ」を守るために、診察で伝えてほしいこと

薬の治療では、症状の点数が下がれば、それだけで十分というわけではありません。

不安が軽くなっても、大切なことへの関心まで失われていれば、治療の見直しを考える必要があります。反対に、以前より落ち着いて考えられるようになり、本人が過ごしやすくなっているのであれば、その変化には意味があります。

診察では、次のように具体的に伝えると、状況を共有しやすくなります。

「心配する時間は減りましたが、趣味も楽しくなくなりました」
「増量してから、眠くて人と話す気になれません」
「最近は3時間しか寝ていないのに平気で、買い物が増えています」
「以前より言いたいことを言えるようになり、生活は楽になりました」

大切なのは、「変わったか、変わっていないか」だけでなく、何が変わり、それによって本人の生活がどうなったかです。

なお、自分らしくないと感じても、自己判断で急に中止することは避けてください。抗うつ薬の急な中止や減量によって、不安、イライラ、不眠、めまいなどの離脱症状が出ることがあります。減量・変更は、症状の再燃と離脱の両方を考慮しながら進めます。

最後に

精神科の薬は、感情や行動、物事の受け止め方に作用します。その変化が、本人や周囲には「性格が変わった」と感じられることもあります。

ただし、その中には、不安や抑うつからの回復、感情の平坦化や眠気などの副作用、躁・軽躁状態など、異なる現象が含まれています。

治療で目指すのは、周囲にとって扱いやすい人になることではありません。本人の苦痛が軽くなり、大切にしたいことを大切にしながら生活できることです。

「薬で別人になってしまうのが怖い」「楽にはなったけれど、何かが違う」。そのような感覚も、遠慮せずに主治医にお伝えください。

参考文献・資料

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    https://www.nice.org.uk/guidance/ng222

情報確認日:2026年10月23日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)