悪夢は薬で治療できるのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「怖い夢で何度も目が覚める」
「同じような悪夢を繰り返して、眠るのが怖い」
「睡眠薬を飲んでいるのに、夢にうなされる」

悪夢は、目が覚めれば終わるとは限りません。起きたあとも恐怖や動悸が続いたり、夢の場面が日中まで頭から離れなかったりすることがあります。

先に結論を述べると、悪夢は薬で改善する場合があります。ただし、どの悪夢にも共通してよく効く薬が確立しているわけではありません。特に研究が進んでいるのは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に伴う悪夢です。

また、薬を追加するより、現在の薬を調整することや、悪夢に特化した心理療法が役立つ場合もあります。

この記事では、悪夢に使われる薬の研究と限界、睡眠薬との意外な関係、薬以外の治療について解説します。

悪夢は「気にしすぎ」ではなく、治療の対象になる

怖い夢をときどき見ること自体は、珍しいことではありません。

一方、苦痛の強い夢を繰り返し、そのために睡眠や日中の生活が妨げられる場合には、「悪夢障害」という睡眠障害を考えます。夢から目が覚めると比較的すぐにはっきりし、夢の内容をよく覚えていることが特徴です。

治療が必要かどうかは、回数だけでは決まりません。眠ることを避ける、翌日の集中力が落ちる、夢の恐怖が長く残る、といった影響も重要です。

「夢の話で受診してもよいのだろうか」と遠慮する必要はありません。診察で扱うのは、夢の意味を占うことではなく、睡眠と生活に生じている困りごとです。

悪夢の治療では、まず背景を見分ける

悪夢は一つの原因で起こるとは限りません。

つらい出来事に関連して始まる場合もあれば、薬の開始や変更をきっかけに増える場合もあります。また、「悪夢で暴れる」という訴えの中に、別の睡眠障害が隠れていることもあります。

診療では、次のように整理して考えます。

状況・手がかり確認したいこと治療を考える方向
事故や暴力などのあとから悪夢を繰り返すPTSDのほかの症状があるかPTSDの治療と、悪夢への治療を検討する
薬を始めた、増やした直後に悪夢が増えた薬との時間的な関係原因となり得る薬の調整を検討する
薬を減らした、飲み忘れたあとに夢が鮮明になった離脱症状や睡眠の変化減薬方法や服薬状況を見直す
夢に合わせて殴る、蹴る、飛び起きるレム睡眠行動障害などの可能性安全対策と睡眠専門診療を検討する
明らかなきっかけがなく、悪夢が繰り返される悪夢障害や併存する不眠など悪夢に特化した心理療法などを検討する

この区別によって、薬を使う目的も変わります。悪夢そのものを減らしたいのか、背景の病気を治療したいのか、睡眠中の危険な行動を抑えたいのかを明確にすることが大切です。

悪夢に「血圧の薬」が研究されている

悪夢に対する薬として、海外でよく研究されているのがプラゾシンです。

プラゾシンは、もともと高血圧などに使われるα1受容体遮断薬です。PTSDに伴う悪夢に対しては、ノルアドレナリンによる過剰な警戒・覚醒に関わる信号を弱めることが、効果につながると考えられています。

つまり、一般的な睡眠薬のように眠気を強めることだけを狙った治療ではありません。夜間にも続く「危険に備えた状態」に働きかけるという発想です。

米国VA/DoDの2023年ガイドラインでは、PTSDに伴う悪夢に対してプラゾシンの使用が提案されています。ただし、根拠の確実性は低く、すべての患者さんに効くと保証された薬ではありません。

有望な薬なのに、大規模試験では差が出なかった

プラゾシンの研究で興味深いのは、結果が一方向にはそろっていないことです。

小規模な比較試験では効果が報告されましたが、2018年にNew England Journal of Medicineに掲載された、慢性PTSDのある退役軍人304人を対象とした比較試験では、悪夢や睡眠の質についてプラセボを上回る改善が示されませんでした。

一方、その試験を含めて複数の研究を統合したメタ解析では、悪夢への改善効果が認められています。

この食い違いから分かるのは、「効く薬」「効かない薬」という二択では整理しきれないということです。

対象となる患者さんの特徴、併用薬、評価方法、プラセボ群の改善の大きさなどによって、結果が変わる可能性があります。どのような患者さんが特に反応しやすいかは、まだ十分には確立していません。

研究を読むときには、一つの成功例だけで万能と考えず、一つの否定的な試験だけで可能性を切り捨てない姿勢が必要です。

「悪夢が減る」と「PTSD全体がよくなる」は別の評価

プラゾシンについて、もう一つ重要な点があります。

2023年のVA/DoDガイドラインでは、PTSDに伴う悪夢への使用は提案される一方、PTSD全体の症状を治療する目的での使用は勧めない方向になっています。

同じ薬でも、何を改善するために使うかで評価が異なるのです。

たとえば、悪夢が減って眠りやすくなっても、日中のフラッシュバックや回避、強い警戒心が十分に改善したとは限りません。

反対に、PTSD全体の治療で日中は楽になっても、悪夢が残ることがあります。背景の病気への治療と、残っている睡眠症状への治療を、それぞれ評価する必要があります。

日本では悪夢への承認はなく、血圧低下にも注意が必要

日本のプラゾシンの承認効能は、高血圧症と前立腺肥大症に伴う排尿障害です。悪夢やPTSDに対する使用は適応外になります。

また、起立性低血圧、めまい、失神などが問題になることがあります。特に投与初期や急な増量時には注意が必要です。

夜間にトイレへ起きる方、もともと血圧が低い方、ほかの降圧薬を使っている方などでは、効果だけでなく転倒の危険も考えます。

海外の研究に登場する薬や投与量を、そのまま自己判断で取り入れることはできません。適応外使用であること、期待する効果、副作用を確認したうえで、個別に判断する治療です。

同じ系統のドキサゾシンにも研究がある

プラゾシンと同じα1受容体遮断薬のドキサゾシンも研究されています。

2025年に発表された65人のランダム化比較試験では、面接や質問票による主要評価項目では、プラセボとの有意差が認められませんでした。

一方、毎日の睡眠日誌では、最もつらい夢の重症度や睡眠維持に改善が認められました。研究者らは、その効果を臨床的には控えめなものと評価しています。

ここにも、悪夢の研究の難しさがあります。

「この1週間を振り返ってどうだったか」という評価と、毎朝記録した評価では、同じ結果にならないことがあります。ただし、一部の指標で改善したからといって、主要評価項目で差が出なかった点を無視してよいわけではありません。

現時点では、標準的な悪夢治療として広く使えると結論づけるには、研究の積み重ねが必要です。

睡眠薬を飲むと、かえって悪夢が増えることもある

眠れないために薬を使ったのに、夢が怖くなる。矛盾しているようですが、実際に起こり得ます。

たとえば、オレキシン受容体拮抗薬の一つであるスボレキサント(ベルソムラ)の添付文書には、副作用として悪夢が記載されています。

薬を飲み始めてから悪夢が増えた場合、「病気が悪くなったから、もっと眠剤が必要」と判断する前に、薬との関係を確認する必要があります。

また、薬の減量・中止に伴い、レム睡眠や夢の体験が変化する場合もあります。夢が鮮明になったことだけから、元の病気が悪化したとは決められません。

診察では、薬を始めた日、増量した日、悪夢が増えた時期、飲み忘れの有無などが役立ちます。自己判断で急に中止するのではなく、経過を伝えて調整を相談してください。

リボトリールが効く「うなされ」と、通常の悪夢は同じではない

「夢で暴れるときに、リボトリールが使われると聞いた」という方もいるかもしれません。

ここで区別したいのが、レム睡眠行動障害(RBD)です。

通常、レム睡眠中は骨格筋の活動が強く抑えられています。RBDではこの仕組みがうまく働かず、夢に対応するように殴る、蹴る、叫ぶなどの行動が現れます。本人や隣で寝ている人がけがをすることもあります。

米国睡眠医学会の2023年ガイドラインでは、RBDに対してクロナゼパムなどが条件付きで推奨されています。

一方、通常の悪夢障害に対してクロナゼパムが同じように推奨されているわけではありません。米国睡眠医学会の2018年の悪夢に関する見解では、悪夢障害への使用は推奨されていません。

「怖い夢を見た」という体験と、「夢に合わせて体が動いた」という現象では、治療の狙いが違います。寝ている間の様子を同居者に指摘された場合は、その情報も診察で伝えてください。

薬以外では「夢の続きを書き換える」治療がある

悪夢に特化した治療として、イメージ・リハーサル療法(IRT)があります。

大まかには、繰り返す悪夢をもとに、恐怖や苦痛が少ない筋書きを作り、起きている時間にそのイメージを練習する方法です。

たとえば、追いかけられて逃げ場を失う夢なら、「安全な場所にたどり着く」「助けが来る」といった展開に変更します。単に夢を忘れようとする方法ではなく、夢に結びついた反応に働きかけます。

米国睡眠医学会の2018年の見解では、PTSDに伴う悪夢と悪夢障害に対して推奨されています。

ただし、つらい体験を無理に細部まで思い出す必要はありません。特にトラウマに関係する夢では、苦痛の強さに応じて、治療者と相談しながら進めます。

睡眠中に音を流して、悪夢治療を強める研究もある

少し意外な研究として、イメージ・リハーサル療法と「標的記憶再活性化」を組み合わせる方法があります。

起きている間に、書き換えた夢のイメージと特定の音を結びつけ、その音を睡眠中に再び提示するという方法です。

2022年の研究では、通常のイメージ・リハーサル療法に比べ、この方法を組み合わせた群で悪夢の頻度が少なくなり、夢の感情もより肯定的になりました。悪夢の減少は3か月後にも認められました。

ただし、これは睡眠状態に合わせて音を提示する研究です。「好きな音楽を一晩中流せば同じ効果が得られる」という意味ではなく、現時点で一般的な治療として確立した方法でもありません。

それでも、悪夢の治療が、脳を鎮静することだけでなく、睡眠中の記憶の働きに介入する方向へ広がっている点は興味深いところです。

診察では、夢の内容より「眠りへの影響」から話してもよい

悪夢について相談するとき、夢の細部を最初からすべて説明する必要はありません。

まずは、次のようなことを伝えていただけると、治療を考えやすくなります。

  • いつから、週に何晩くらい起こっているか
  • 同じ夢を繰り返すのか、内容は毎回違うのか
  • 目が覚めたあと、どれくらい眠れなくなるか
  • 眠ることが怖くなっているか
  • 薬の開始・変更との関係があるか
  • 叫ぶ、殴る、蹴る、ベッドから落ちることがあるか
  • 翌日の気分や仕事にどのくらい影響しているか

悪夢の治療で目指すのは、「夢を一切見なくすること」ではありません。恐怖で眠れなくなる夜を減らし、安心して眠り、日中を過ごせる状態に近づけることです。

眠ることが怖い、翌日までつらさが残る、睡眠中にけがをする。そうした困りごとがある場合は、「ただの夢」と我慢せず、ご相談ください。

参考文献・資料

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    論文を読む
  2. VA National Center for PTSD. Clinician’s Guide to Medications for PTSD.
    2023年VA/DoDガイドラインに基づく薬物療法の解説
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  7. Enhancing imagery rehearsal therapy for nightmares with targeted memory reactivation. Current Biology. 2022.
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  8. PMDA.ミニプレス錠、ベルソムラ錠 電子添文.
    ミニプレスの医薬品情報 / ベルソムラの医薬品情報

情報確認日:2026年10月23日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)