漢方薬はうつ病に効くのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「うつ病の治療を受けたいけれど、できれば漢方薬から始めたい」
「抗うつ薬を飲んでいるが、不眠や身体の不調が残っている」
「漢方薬なら、副作用をあまり気にせず使えるのでは?」

精神科でも漢方薬を使うことはあります。ただし、うつ病そのものを治す効果については、抗うつ薬や認知行動療法と同じ水準で確立しているわけではありません。

一方で、不安、不眠、喉のつかえ、更年期に伴う不調など、症状や体質に応じて治療の選択肢になる場合があります。

大切なのは、「うつ病に効く」という言葉の中身を分けることです。気分の落ち込みが改善するのか、身体の不調が和らぐのか、再発まで予防できるのか。それぞれ、必要な研究は異なります。

「うつ状態」と「うつ病」は同じではない

気分が落ち込んでいる状態を、広い意味で「うつ状態」と呼ぶことがあります。

しかし、その背景には、うつ病だけでなく、適応障害、不安症、更年期の不調、身体疾患、双極性障害など、さまざまな可能性があります。

そのため、「漢方薬で気分が楽になった」という経験があっても、それだけで「うつ病全般に対する治療効果が証明された」とはいえません。

例えば、更年期に伴うイライラや睡眠の乱れが軽くなった結果、気持ちにも余裕が生まれることは考えられます。しかし、更年期症状を対象とした研究と、大うつ病性障害を対象とした研究は、区別して読む必要があります。

漢方薬の研究を理解するときには、薬の名前だけでなく、「どのような人を対象に、何が改善したのか」を見ることが大切です。

漢方薬は、うつ病治療のどこに位置づけられるのか

うつ病の治療では、重症度、生活への支障、これまでの経過、本人の希望を踏まえて、心理療法、薬物療法、生活や環境への働きかけを組み合わせます。

なお、「うつ病なら全員、最初から抗うつ薬が必要」というわけでもありません。英国NICEのガイドラインでは、軽症側のうつ病に対して、抗うつ薬を一律に第一選択とせず、本人の希望を含めて治療を選ぶよう勧めています。認知行動療法や行動活性化なども選択肢です。NICE

ここで注意したいのは、「抗うつ薬を使わない選択肢がある」ことと、「漢方薬が同等の代替治療として証明されている」ことは、別だという点です。

漢方薬を検討する場合も、病状を評価したうえで、どの症状を治療するのか、改善しなければどうするのかを決めておく必要があります。

精神科で使われる漢方薬には、どのようなものがあるのか

代表例として、次のような処方があります。

下表は、添付文書に基づく特徴を整理したものです。うつ病に対する効果の強さや、おすすめ順位を示したものではありません。

漢方薬添付文書に基づく主な特徴・対象うつ病との関係での注意点
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)気分のふさぎ、喉や食道の異物感、ときに動悸・めまい・吐き気などを伴う状態喉のつかえなどへの使用と、うつ病全体への治療効果は分けて考える
加味逍遙散(かみしょうようさん)疲れやすさ、精神不安、ときに便秘傾向がある人の更年期障害、月経関連の不調など更年期症状の研究結果を、そのままうつ病へ当てはめることはできない
加味帰脾湯(かみきひとう)虚弱体質で血色の悪い人の不眠症、精神不安、神経症など基礎研究はあるが、人のうつ病に対する有効性が十分確立しているわけではない

同じ処方名でも、製品によって効能・効果などの記載が異なる場合があります。実際の使用では、それぞれの製剤の添付文書を確認します。独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

また、喉のつかえや動悸があるからといって、最初からストレスによる症状と決めつけるわけではありません。身体疾患の評価が必要な場合もあります。

加味逍遙散の研究は、期待と限界の両方を教えてくれる

漢方薬の臨床研究として興味深いのが、更年期症状に対する加味逍遙散のKOSMOS試験です。

この研究では、まず4週間プラセボを服用し、それで十分に改善しなかった人を、加味逍遙散群とプラセボ群へ無作為に割り付けました。比較対象は各群20人です。

最初からプラセボで改善する人を分けておくことで、薬そのものの効果を捉えやすくしようとした設計です。

それでも、主要評価項目である興奮・イライラのスコアの変化には、両群間で統計学的に有意な差が認められませんでした。一方、一定以上改善した人の割合など、一部の解析では加味逍遙散に有利な結果が報告されました。PubMed

こうした結果は、「完全に無効」と切り捨てるのも、「効果が証明された」と言い切るのも適切ではありません。

主要評価項目の結果を中心に据えながら、ほかの解析で見られた改善の兆候を、次の研究につなげて考えます。

さらに、この試験は更年期障害の研究です。大うつ病性障害に対する抗うつ効果を検証した試験ではない、という前提も外せません。

「飲んでよくなった」と「薬の効果が証明された」は、なぜ違うのか

薬を飲んで症状が改善したとき、本人にとってその改善は大切なものです。

ただし、研究では、改善のうちどこまでが薬そのものによるものなのかを検討します。

症状の自然な変動、休養、環境の変化、診察での支援、治療への期待などが重なるためです。

特に見落としやすいのが、「症状がつらい時期に治療を始めやすい」という点です。その後、自然に普段の状態へ近づくだけでも、治療によって大きく改善したように見えることがあります。統計学では「平均への回帰」と呼ばれる現象です。

だからこそ、比較する相手が必要になります。

これは漢方薬だけの問題ではありません。抗うつ薬にも心理療法にも、同じように当てはまります。

診療で感じる手応えを大切にしつつ、比較試験で確かめられた効果と区別することが、過大評価も過小評価も避けるために役立ちます。

加味帰脾湯と「海馬の神経新生」の研究

加味帰脾湯には、慢性的な拘束ストレスを与えたラットを用いた研究があります。

この研究では、加味帰脾湯によって、ストレスに伴ううつ様行動や、海馬の神経新生の低下が改善したことが報告されています。海馬は記憶やストレス反応などに関わる領域で、神経新生は新しい神経細胞が生まれる過程です。PMC

こうした知見は、「漢方薬にも、生物学的に検討できる作用がある」ことを考えるうえで興味深いものです。

ただし、動物のうつ様行動と、人のうつ病は同じではありません。

動物実験で行動や細胞の指標が改善したことから、人でも十分な抗うつ効果が得られる、抗うつ薬より優れている、再発を予防できる、とまではいえません。

基礎研究は、治療の可能性や作用の仕組みを探るための研究です。実際の患者さんへの効果や安全性は、臨床研究で別に確かめる必要があります。

「脳に作用する可能性がある」と「治療として有効性が確立している」の間には、まだ検証すべき段階があるわけです。

漢方医学の「証」は、研究とどう結びつくのか

漢方では、病名だけでなく、体力、冷え、胃腸の状態などを含めた「証」を考慮して処方します。

実際、加味帰脾湯の添付文書にも、患者の証、つまり体質・症状を考慮するよう記載されています。pmda.go.jp

ここから、「証が合う人だけを対象にすれば、効果がはっきりするのでは」という研究上の問いが生まれます。

日本の漢方薬の無作為化比較試験378件を調べた研究では、無作為化前に漢方診断を用いていたのは27件、7.1%でした。研究での処方の選び方が、日常の漢方診療と必ずしも一致していないことを示す結果です。PubMed

ただし、「証が合っていなかったから、この研究では効かなかったはず」と後から説明するだけでは、有効性の証明にはなりません。

どの証の人に、どの薬が、どの程度効くのか。あらかじめ条件を決めたうえで比較する研究が必要です。

個別化するという発想と、その個別化が実際に治療成績を改善するという証拠は、分けて考える必要があります。

「漢方薬だから副作用が少ない」とは限らない

漢方薬も、作用を持つ医薬品です。植物由来であることは、副作用がないことを意味しません。

例えば、加味逍遙散や加味帰脾湯に含まれる甘草では、偽アルドステロン症に注意が必要です。低カリウム血症、血圧上昇、むくみ、体重増加などが生じ、筋力低下を伴うこともあります。

別の目的で処方された漢方薬や市販薬に甘草が含まれていれば、成分が重複する可能性もあります。処方名が違っていても、中の生薬は重なることがあるのです。pmda.go.jp

また、加味逍遙散や加味帰脾湯に含まれる山梔子では、長期服用に関連した腸間膜静脈硬化症が知られています。腹痛、下痢、便秘、腹部膨満などを繰り返す場合には、評価が必要です。添付文書では、長期投与する場合の検査についても注意が示されています。pmda.go.jp

「漢方だから、とりあえず何年も続ける」という使い方は適切ではありません。

効果があるか、副作用が出ていないか、今も必要かを、定期的に見直します。

抗うつ薬と併用すれば、効果は上乗せされるのか

ここでも、「何への効果か」を分ける必要があります。

例えば、抗うつ薬を使っている人の喉のつかえに対して漢方薬を検討することと、うつ病の寛解率を高める目的で追加することは、異なる治療です。

身体症状が和らいだとしても、それだけで「うつ病に対する増強療法として有効」と証明されたわけではありません。

漢方薬を追加するときは、「気分も睡眠も身体症状も、何となく全部よくなること」を期待するより、まず標的症状を決めておくと評価しやすくなります。

例えば、「喉のつかえで食事がつらい」「夜中に何度も目が覚める」といった困りごとを共有し、その変化と、うつ病全体の経過を分けて確認します。

併用する場合も、漢方薬を含めた処方全体を把握することが必要です。自己判断で抗うつ薬を中断したり、市販の漢方薬を重ねたりせず、医師・薬剤師へ相談してください。

「効くまで待つ」にも、見直しのタイミングが必要

漢方薬については、「体質改善だから、長く飲まないと分からない」と説明されることがあります。

しかし、それを理由に、効果が分からない薬を無期限に続けることは勧められません。加味帰脾湯の添付文書にも、改善が認められない場合には継続投与を避けるよう記載されています。pmda.go.jp

診療では、何を改善させたいのか、いつ経過を確認するのか、改善が乏しい場合に何を変更するのかを相談します。

特に、食事や水分が十分に取れない、生活がほとんど成り立たない、死にたい気持ちが強いといった場合には、漢方薬の効果を待つより、安全の確保と速やかな治療の見直しが優先されます。

漢方薬への希望は、遠慮せず伝えて構いません。そのうえで、病状に見合った治療を一緒に選んでいくことが大切です。

参考文献・資料

  1. NICE. Depression in adults: treatment and management. NG222.
  2. Takamatsu K, et al. A Multicenter, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial to Investigate the Effects of Kamishoyosan, a Traditional Japanese Medicine, on Menopausal Symptoms: The KOSMOS Study. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2021;2021:8856149.
  3. Kamikihito rescued depressive-like behaviors and hippocampus neurogenesis in chronic restraint stress rats. Journal of Traditional and Complementary Medicine. 2022;12(2):172–179. DOI: 10.1016/j.jtcme.2021.08.001.
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  5. PMDA. ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用)医薬品情報。
  6. PMDA. ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)電子添文。
  7. PMDA. ツムラ加味帰脾湯エキス顆粒(医療用)電子添文。

情報確認日:2026年10月18日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)