カフェインは不安障害を悪化させるのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「コーヒーを飲むと、なんとなく落ち着かなくなる」

「眠気覚ましのつもりで飲んだら、動悸がして不安になった」

カフェインは、不安やパニック発作を悪化させることがあります。特に、一度に多く摂る場合や、もともとパニック障害がある場合には注意が必要です。

ただし、「不安障害がある人は全員、コーヒーを一滴も飲んではいけない」という話ではありません。高用量を使った実験の結果を、そのまま朝のコーヒー一杯に当てはめることもできません。

量、飲む時間、体質、睡眠、併用薬を分けて考えることが大切です。

カフェインは、脳の「眠気のブレーキ」を弱める

通常の摂取量におけるカフェインの主な作用は、アデノシン受容体への拮抗です。

アデノシンは睡眠圧や覚醒の調節に関わっています。カフェインはその作用を遮ることで、眠気を軽くします。単純に「疲れが取れた」というより、眠気を感じる仕組みに働きかけているわけです。efsa.europa.eu

ところが、覚醒が高まることと、気分が落ち着くことは同じではありません。

量や感受性によっては、そわそわする、手が震える、動悸がする、眠れない、といった反応が起こります。

パニック障害では、こうした身体感覚が「心臓に異常があるのでは」「また発作になるのでは」という解釈につながり、さらに不安を強める場合があります。

身体への刺激と、それをどう受け止めるかの両方が関係する、という考え方です。「気の持ちよう」だけでも、「身体の反応」だけでも説明しきれません。journals.sagepub.com

高用量では、パニック発作を誘発する研究がある

2022年の系統的レビュー・メタ解析では、カフェインを使ったプラセボ対照の負荷試験が検討されました。

発作を調べた9研究、パニック障害の患者237人では、カフェイン摂取後に51.1%でパニック発作が起こり、プラセボ後には認められませんでした。ScienceDirect

かなり印象的な数字ですが、ここには大切な条件があります。

使われたのは400〜750mgという高用量で、多くの試験では480mgでした。日常の少量摂取とは条件が異なります。

この研究からいえるのは、「パニック障害のある人は、高用量のカフェインに対して発作を起こしやすい」ということです。

「コーヒーを一杯飲むと、半分の人に発作が起きる」という意味ではありません。研究者自身も、少量の影響については十分に分かっていないと指摘しています。PubMed

また、単回の負荷で発作が起こることと、何年も飲むことで不安障害を新たに発症することは、別の問いです。

150mgでは、不安の自覚が増えなかった試験もある

この「日常に近い量ではどうなのか」という疑問に取り組んだ研究が、2025年に発表されています。

パニック障害の患者29人と健常者53人に、150mgのカフェインまたはプラセボを投与した無作為化二重盲検クロスオーバー試験です。対象は、普段のカフェイン摂取量が週300mg以下と少ない人たちでした。

この試験では、カフェインによる主観的な不安の有意な増加は認められませんでした。

一方、両群で皮膚電気反応が増し、実験課題では、報酬を犠牲にして不快な刺激を避ける行動も増えました。journals.sagepub.com

興味深いのは、「不安だと感じること」「身体の覚醒反応」「回避する行動」が、必ずしも同じように変化しない点です。

本人が「それほど不安ではない」と感じていても、別の指標には変化が現れることがあります。ただし、実験課題での変化が、そのまま日常生活の悪化を意味するわけでもありません。

小規模な短時間の実験であり、150mgなら全員に安全という証明ではありませんが、一律の完全中止より、量と個人の反応を評価する必要性を示す研究です。

「1日400mgまで」は、不安が出ない保証ではない

健康な成人について、海外機関の安全性評価では「1日400mg」が目安としてよく紹介されます。

しかし、これは不安障害の患者を対象に、「ここまでなら症状が悪化しない」と決めた数字ではありません。EFSAの評価も、一般の健康な集団を対象としています。Wiley Online Library

400mgを目指して飲む必要はありませんし、それ未満でも症状が出るなら、その人にとっては見直す理由になります。

また、1日を通して分けて飲むことと、一度にまとめて摂ることも同じではありません。

「上限らしき数字より少ないから関係ない」と切り捨てず、飲み方と症状の関係を確認することが大切です。

「コーヒー何杯」より、容量と表示を見る

コーヒーの「一杯」は、意外と曖昧です。

小さなカップと大きなマグでは量が違いますし、抽出方法や商品によってもカフェイン濃度は変わります。

以下は、食品安全委員会の資料に示された濃度から計算した例です。実際の商品では表示を優先してください。食品安全委員会 – 食の安全、を科学する

飲み物容量の例カフェイン量の概算
コーヒー150mL約90mg
コーヒー300mL約180mg
紅茶200mL約60mg
せん茶500mL約100mg
ウーロン茶500mL約100mg
玉露60mL約96mg
エナジードリンク・眠気覚まし飲料製品による商品表示で確認

玉露は資料に記載された抽出条件での値です。家庭のお茶や、市販のペットボトル飲料すべてに、そのまま当てはまるわけではありません。

上記の条件で計算すると、コーヒー300mLを2杯で約360mg、せん茶500mLを加えると約460mgになります。

「コーヒーは2杯だけ」でも、ほかの飲み物を合わせると摂取量は増えます。

眠気覚ましの錠剤や、一部の市販鎮痛薬に含まれるカフェインも合計に入れます。「飲み物だけ」を数えていると、見落とすことがあります。

夜に眠れなくなることで、翌日の不安に響く

摂取直後に不安を感じなくても、睡眠への影響は見逃せません。

成人男性23人を対象とした無作為化クロスオーバー試験では、100mgと400mgを、就寝の4・8・12時間前に摂る条件を比較しました。

400mgは就寝12時間前でも、睡眠に悪影響が認められました。一方、100mgでは、調べた条件で有意な影響は認められませんでした。PMC

ただし、小規模な男性対象の試験なので、「誰でも就寝4時間前まで100mgなら大丈夫」とは断言できません。

臨床では、寝不足をカフェインで補い、そのために夜の睡眠が崩れ、翌日またカフェインが必要になる循環を考えます。

不安と不眠が重なる場合は、まず午後以降の摂取を見直す方法があります。これは一律の安全時刻を決める話ではなく、自分の睡眠との関係を確かめるための工夫です。

コーヒーに弱いのは「気持ちの問題」だけではない

カフェインへの反応には、分解の速さに加えて、脳側の感受性も関わります。

アデノシンA2A受容体の遺伝子ADORA2Aなどの多型と、カフェインによる不安の出やすさとの関連を調べた研究があります。150mgという量でも、遺伝的な違いと不安反応の関連が報告されています。PubMed

「同じ量を飲んだ家族は平気なのに、自分だけ動悸がする」という違いには、生物学的な背景もあり得ます。

ただし、遺伝子だけで反応が決まるわけではありません。日常診療でカフェイン量を決めるための遺伝子検査が、標準になっているわけでもありません。

まず役立つのは、飲んだ量や時刻と、実際の症状を照らし合わせることです。

フルボキサミン服用中は、いつもの量でも影響が変わる

精神科の診療で特に押さえたいのが、フルボキサミンとの相互作用です。

カフェインは主にCYP1A2で代謝されます。フルボキサミンはこの酵素を阻害するため、カフェインが体から抜けるまでの時間が長くなることがあります。

健常者8人を対象とした薬物動態試験では、フルボキサミン併用時に、カフェインの半減期の中央値が5時間から31時間へ延長しました。PubMed

これは特定の投与条件で得られた値で、全員に同じ延長が起こるという意味ではありません。

ただ、「薬を始めてから、いつものコーヒーで眠れなくなった」という場合には、薬そのものの副作用に加えて、カフェインとの相互作用も検討する余地があります。

飲む量が変わっていなくても、体内での処理が変われば、影響は変わり得るわけです。

自己判断で処方薬を中断せず、飲料や市販薬も含めて相談してください。

急にやめると、頭痛やだるさが出ることがある

習慣的に摂っていたカフェインを急に減らすと、頭痛、眠気、疲労感、集中しにくさ、気分の変化などの離脱症状が出る場合があります。

レビューでは、典型的には中断12〜24時間後に始まり、20〜51時間ごろに強くなり、2〜9日続くとされています。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

そのため、中止翌日の不調だけで「自分にはカフェインが絶対に必要」と判断しないことが大切です。

また、飲むと元気になる感覚の一部が、離脱症状の軽減で説明される場合もあります。これは、カフェインの覚醒作用そのものを否定する話ではありません。習慣的な使用では、「飲んで得られる効果」と「飲まなかったことで生じた不調の改善」が重なることがある、ということです。PubMed

減らすなら、生活の中で試せる形にする

不安や動悸、不眠との関連が気になる場合には、次のような進め方が考えられます。

  1. 数日間、飲み物や市販薬の量と時刻を記録する。
  2. 遅い時間の一杯をデカフェへ替える、容器を小さくするなど、調整しやすいところから始める。
  3. 毎日多く摂っている場合は、急な中止を避けて段階的に減らす。
  4. 離脱が落ち着く期間も含めて、不安、睡眠、動悸、発作の頻度を振り返る。

減らし方の一例として、数日おきに全体の4分の1程度ずつ減らし、頭痛や眠気が強ければペースを緩める方法があります。

これは実践上の例であり、不安障害に対する確立した減量処方ではありません。摂取量や仕事への影響によって調整します。

減量後は、1〜2週間程度の経過を振り返ると相談に役立ちます。毎時症状を監視する必要はなく、1日1回の簡単な記録で十分です。

改善しても、不安障害の治療がすべて不要になるとは限りません。逆に、改善しなくても本人の努力不足ではなく、ほかの要因への対応が必要だと考えます。

全員が一生やめる必要はない

高用量でのパニック発作誘発については比較的はっきりした研究がありますが、少量摂取の影響や、長期の減量によって不安障害がどの程度改善するかには、まだ分からない点があります。

特に、パニック障害の負荷試験の結果を、そのまま全般性不安障害や社交不安障害の全員へ当てはめることはできません。

飲んだ後に症状が繰り返す、不眠がある、一度に多く摂っている、相互作用のある薬を使っている。こうした場合は、見直す意義があります。

一方、少量で症状との関連がなく、睡眠も保たれている人まで、一律に完全中止とする根拠は十分ではありません。PubMed

なお、初めての強い胸痛、失神、強い息苦しさなどは、カフェインや不安のせいと決めつけず、身体疾患の評価が必要です。

診察では、「コーヒーは飲みますか」だけでなく、何を、どのくらい、何時に飲み、その後どうなるかまで共有すると、治療を考える材料になります。

参考文献・資料

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  3. 食品安全委員会. 生活の中の食品安全―カフェインについて―その2 Q&A. 2018.
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  8. EFSA NDA Panel. Scientific Opinion on the safety of caffeine. EFSA Journal. 2015;13(5):4102.

情報確認日:2026年10月18日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)