レクサプロとジェイゾロフトはどちらがよいのか


札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「レクサプロとジェイゾロフトは、どちらがよく効くのでしょうか?」
「同じSSRIなのに、なぜこちらの薬が選ばれたのでしょうか?」

どちらも、うつ病の治療でよく使われる抗うつ薬です。レクサプロの一般名はエスシタロプラム、ジェイゾロフトの一般名はセルトラリンです。

最初に結論を述べると、うつ病に対して、どちらか一方がすべての人に優れているとはいえません。社会不安障害を伴うならレクサプロ、パニック障害やPTSDを伴うならジェイゾロフトというように、国内の承認適応が選択の手がかりになります。さらに、胃腸症状、体重、心臓の状態、併用薬によっても優先順位が変わります。

この記事では、主に成人の単極性うつ病を想定し、比較研究と日常診療をつなげて考えます。

まず、2つの薬は何が違うのか

どちらもSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に分類されます。セロトニンの回収を担うトランスポーターの働きを抑えることが、主な作用です。

ただし、同じ分類だからといって、適応、用量、代謝、副作用まで同じではありません。

比較項目レクサプロジェイゾロフト
一般名エスシタロプラムセルトラリン
分類SSRISSRI
国内の承認適応うつ病・うつ状態、社会不安障害うつ病・うつ状態、パニック障害、外傷後ストレス障害(PTSD)
国内の成人用法・用量通常10mgを1日1回夕食後。最高20mg/日25mg/日から開始し、必要に応じて漸増。最高100mg/日、1日1回
胃腸症状吐き気などに注意吐き気、下痢・軟便などに注意
体重への影響セルトラリンより平均的な増加がやや大きいとする観察研究がある比較上は体重増加がやや少ないが、増えないとはいえない
心臓に関する論点QT延長に注意。既にQT延長のある患者には禁忌心筋梗塞後などで安全性を検討した試験がある。ただしQT延長のリスクがないわけではない
代謝の個人差CYP2C19の影響が重要CYP2C19に加え、CYP2B6の影響も考慮される
両剤に共通する注意性機能障害、開始・増量時の焦燥や不眠、中止時の症状など同左

用量は成人の電子添文に基づく概要です。年齢、肝機能、代謝能力、副作用によって調整します。例えばレクサプロでは、高齢者、肝機能障害患者、CYP2C19の活性欠損が判明している患者について、10mg/日を上限とすることが望ましいとされています。pmda.go.jp

うつ病への効果は、直接比較するとどうなのか

2剤を直接比較した研究として、2007年の8週間の二重盲検試験があります。

この試験では、エスシタロプラム10mg/日の固定用量と、セルトラリン50~200mg/日の可変用量を比較しました。212人が試験薬を服用し、抗うつ効果に統計学的な有意差は認められませんでした。University of Arizona

ただし、「差が検出されなかった」と「完全に同じ効果だと証明された」は別です。対象人数、観察期間、評価方法によって、検出できる差には限界があります。

さらに、この試験のセルトラリンは、日本の承認上限である100mg/日を超える量まで使用可能でした。一方、エスシタロプラムは10mg/日に固定されています。

したがって、この結果を「日本で使う用量でも常に同等」「レクサプロ10mgはジェイゾロフト200mgと同じ強さ」と読み替えることはできません。

比較研究では、薬の名前だけでなく、実際にどの量を、どの期間、どのような患者さんに使ったかが重要です。

「不安にはレクサプロ」という使い分けは正しいのか

レクサプロは国内で社会不安障害の適応があります。一方、ジェイゾロフトにはパニック障害とPTSDの適応があります。pmda.go.jp

このため、人前での強い緊張や対人場面の回避が治療の中心となる場合にはレクサプロが、繰り返すパニック発作やPTSDが中心であればジェイゾロフトが候補になります。

ただし、これは「不安全般にはレクサプロが強い」という意味ではありません。不安という言葉には、社交場面の恐怖、発作への予期不安、トラウマに関連する過覚醒など、異なる状態が含まれます。

また、承認適応がないことと、臨床的な効果がないことは同義ではありません。逆に、承認適応があることだけで、他剤への優越性が証明されるわけでもありません。

まず不安の中身を整理し、その診断、国内の適応、過去の治療反応を合わせて考えます。

吐き気や下痢が心配なら、どちらを選ぶのか

両剤とも、開始後に吐き気などの胃腸症状が生じることがあります。その中でも、ジェイゾロフトでは下痢・軟便が処方を続けるうえで問題になることがあります。

2022年のネットワークメタ解析では、30件の無作為化比較試験、5,004人を統合し、SSRIによる消化器系の副作用を比較しました。エスシタロプラムはセルトラリンより、消化器系副作用が少ないという推定結果でした(オッズ比0.56、95%信頼区間0.32~0.99)。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ただし、これは吐き気や下痢などを含む消化器系副作用全体の比較です。「下痢だけが半分になる」「レクサプロなら胃腸症状が出ない」という意味ではありません。

もともと下痢を起こしやすい方や、通勤中にトイレへ行きにくい方では、こうした違いが選択材料になります。

一方、うつ病や不安によって胃腸症状が悪化している場合には、治療とともにお腹の調子が改善することもあります。服薬前からあった症状か、開始・増量に合わせて出現した症状かを分けて確認する必要があります。

太りにくいのは、ジェイゾロフトなのか

体重については、ジェイゾロフトがやや有利と考える材料があります。

2024年に発表された、米国の183,118人の診療データを用いた研究では、開始6か月後の体重変化は、エスシタロプラムのほうがセルトラリンより平均0.41kg大きいという結果でした。また、開始時の体重から5%以上増加する相対リスクは、エスシタロプラムで約15%高くなっていました。PMC

ここで0.41kgは、レクサプロを飲んだ人の体重増加量そのものではなく、ジェイゾロフトとの差です。また、「相対リスクが15%高い」は「100人中15人多く太る」という意味ではありません。

この研究は無作為化試験ではなく、診療データを用いた観察研究です。服薬継続率の低さや体重測定の欠損など、解釈上の限界もあります。

平均差は小さいものの、体重増加が治療中断につながりやすい方には参考になります。ただし、ジェイゾロフトなら太らないとはいえず、実際の体重、食欲、活動量の変化を確認することが大切です。

心臓の病気がある場合、選び方は変わるのか

レクサプロでは、心電図のQT間隔延長が重要な注意点です。QT延長のある患者さんには禁忌であり、徐脈、低カリウム血症、心不全、QT延長を起こす併用薬なども確認します。pmda.go.jp

一方、セルトラリンには、急性心筋梗塞または不安定狭心症の後にうつ病を伴った369人を対象とするSADHART試験があります。

この試験では、24週間の治療で、左室駆出率や評価された心電図指標などについて、プラセボと比べた明確な悪化は認められませんでした。JAMA Network

これは、虚血性心疾患を伴う患者さんでセルトラリンを検討する根拠の一つです。ただし、レクサプロとの直接比較ではなく、あらゆる心疾患に対する安全性や死亡率低下を証明した試験でもありません。

また、ジェイゾロフトにもQT延長への注意があります。「心臓に安全な薬」と一括りにせず、心疾患の種類、電解質、併用薬まで含めて判断します。

同じ量なのに、効き方や副作用が大きく違うのはなぜか

ここで重要なのが、薬を分解する酵素の個人差です。

エスシタロプラムではCYP2C19が、セルトラリンではCYP2C19に加えてCYP2B6が、血中濃度に影響します。2023年のCPICガイドラインでは、これらの代謝能力に応じた処方調整が示されています。files.cpicpgx.org

例えば代謝が遅い場合、同じ量でも血中濃度が高くなり、副作用が出やすくなる可能性があります。

これは、少量で副作用が出た方を、単に「薬に敏感」「不安が強い」と片づけないためにも重要です。遺伝的な違いのほか、年齢、肝機能、併用薬などが影響している可能性があります。

ただし、このガイドラインは、遺伝子型が分かっている場合にどう活用するかを示すものです。全員に検査が必要という意味でも、遺伝子だけで最適な抗うつ薬が決まるという意味でもありません。

「胃薬を飲んでいるだけ」でも相互作用がある

レクサプロの電子添文には、オメプラゾールやランソプラゾールなどによる血中濃度上昇への注意が記載されています。CYP2C19の阻害により、エスシタロプラムの代謝が抑えられるためと考えられています。pmda.go.jp

精神科の薬を変更していなくても、他科で胃薬が追加された後に、薬への曝露が変化する可能性があるということです。

「同じ薬を同じ量で飲んでいるから、薬の影響は変わらない」とは限りません。

処方薬だけでなく、市販薬やサプリメントも含めて確認することが、効果と副作用の判断につながります。

ジェイゾロフトは、100mgまで増やさないと効かないのか

国内では25mg/日から開始し、症状と副作用を見ながら調整します。ただし、「少量は慣らすためだけ」「100mgに達しないと治療にならない」と一律に考えることはできません。

日本のSUN☺D試験では、2,011人を対象に、開始後3週までのセルトラリン目標量を50mg/日とする方針と、100mg/日とする方針を比較しました。9週時点の主要な抑うつ症状評価では、両方針に明確な差は認められませんでした。Springer Nature Link

これは、100mgが役立つ患者さんはいないという意味ではありません。全員を早期に100mgへ増量する方針が、平均的に優れているとは示されなかったという結果です。

また、この研究から25mgで誰にでも十分だと結論づけることもできません。

レクサプロについても、10mgで十分な効果が得られる方に、必ず20mgが必要というわけではありません。目標は上限まで増やすことではなく、生活の回復に必要な効果を、許容できる副作用で得ることです。

性機能への影響や「感情が平らになる感じ」はどう考えるのか

両剤とも、性欲低下、射精の遅れ、オルガズムに達しにくいなどの性機能障害が問題になることがあります。pmda.go.jp

一方、「感情が平らになった」という訴えは、それだけで原因を決められません。薬による影響なのか、うつ病の喜びを感じにくい症状が残っているのか、眠気や疲労が関係するのかを整理する必要があります。

治療前からあったのか、気分の落ち込みは改善したのに新たに出てきたのか、増量後に強くなったのか。時間的な関係を確認すると、判断の手がかりになります。

どちらか一方ならこれらの問題を確実に避けられるとはいえません。症状の改善と生活の質を、両方確認することが大切です。

合わなかったら、もう片方へ替える意味はあるのか

同じSSRIでも、副作用の出方や治療反応が変わる可能性があるため、切り替えを検討する余地はあります。

ただし、「効かなかった」と「副作用で続けられなかった」は分けて考えます。

例えば、ジェイゾロフトで気分は改善したものの下痢が続いた場合には、消化器系の忍容性を考えてレクサプロを検討する理由があります。一方、十分な量・期間で効果が乏しかった場合には、もう一方のSSRIに替えることに加え、診断、服薬状況、他の薬剤や心理療法も見直します。

開始・増量後に強い焦燥、不眠、落ち着かなさが出た場合には、単なる「効き始め」として我慢させないことも重要です。軽躁・躁状態の既往や、治療中の気分高揚も確認します。

また、両剤とも急な中止でめまい、不安、感覚異常などが出ることがあるため、切り替えは自己判断で行わず、減量や導入の方法を主治医と相談します。pmda.go.jp

結局、どちらを選ぶのか

社会不安障害が治療の中心ならレクサプロ、パニック障害やPTSDが中心ならジェイゾロフトという、国内の適応から考えるのが一つの出発点です。

うつ病の治療では、胃腸症状が大きな心配ならレクサプロを、体重や虚血性心疾患に関するデータを重視するならジェイゾロフトを検討する理由があります。ただし、これらは処方の手がかりであり、一律の優劣ではありません。

過去に十分な効果があり、無理なく続けられた薬の情報も大切です。すでに安定している場合、比較記事の順位だけを理由に替える必要はありません。

薬を選んだ後は、落ち込み、不安、睡眠だけでなく、仕事や家事がどこまで戻ったか、副作用が生活を妨げていないかを確認します。自分に合う薬かどうかは、その経過まで含めて判断するものです。

参考文献・資料

  1. PMDA:レクサプロ錠10mg/20mg 電子添文(2025年4月改訂)。
  2. PMDA:ジェイゾロフト錠/OD錠 電子添文(2024年7月改訂)。
  3. Ventura D, et al. Escitalopram versus sertraline in the treatment of major depressive disorder: a randomized clinical trial. Current Medical Research and Opinion. 2007;23:245–250.
  4. Risks of Digestive System Side-Effects of Selective Serotonin Reuptake Inhibitors in Patients with Depression: A Network Meta-Analysis. Therapeutics and Clinical Risk Management. 2022.
  5. Petimar J, et al. Medication-Induced Weight Change Across Common Antidepressant Treatments: A Target Trial Emulation Study. Annals of Internal Medicine. 2024.
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  8. Kato T, et al. Optimising first- and second-line treatment strategies for untreated major depressive disorder—the SUN☺D study. BMC Medicine. 2018;16:103.

情報確認日:2026年10月18日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)