病気不安症


札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。


「検査では異常がないと言われたけれど、重大な病気が隠れているのではないか」
「身体の小さな変化が気になり、何時間もインターネットで調べてしまう」
「診察を受けると少し安心するのに、しばらくするとまた不安になる」

健康を心配することは、誰にでもあります。しかし、病気への不安が頭から離れず、確認や検索に多くの時間を費やし、仕事や日常生活に支障が出ている場合には、病気不安症の可能性があります。

この記事では、病気不安症の特徴や診断、治療について、研究報告も交えながら解説します。

病気不安症の概要

病気不安症を一行で表すと、「重い病気にかかっている、あるいは今後かかるのではないかという不安に強くとらわれ、生活に支障が生じる疾患」です。

英語ではIllness Anxiety Disorderと呼ばれます。

特徴は、身体症状そのものがないか比較的軽い一方で、その症状が意味するかもしれない病気への不安が大きいことです。

例えば、日常的に起こり得る身体の感覚や変化に対して、「重大な病気の初期症状ではないか」と考え、その可能性を確かめずにはいられなくなります。実際に身体疾患がある方でも、医学的な状況からみて不安が著しく過剰な場合には、病気不安症が併存することがあります。

「心気症」との関係

以前は、病気への強いとらわれを「心気症」と呼ぶことがありました。

DSM-5では、従来の心気症に相当する状態が、主に「病気不安症」と「身体症状症」に整理されています。両者を考える際には、身体症状の程度や、不安・苦痛の中心がどこにあるかを確認します。

そのため、病気不安症は心気症と関連する診断ですが、単純に名前だけが変わったものではありません。

このような困りごとはあるか

病気への不安は、次のような行動として現れることがあります。

行動・状態具体例
身体を繰り返し確認するしこりがないか触る、皮膚や舌を何度も見る、脈拍などを頻繁に測る
病気について調べ続ける症状を検索し、珍しい病気の情報まで読み続ける
安心を何度も求める家族や医療者に「本当に大丈夫か」と繰り返し確認する
検査後も不安が戻る「検査が早すぎた」「別の検査なら見つかるかもしれない」と考える
病気に関する情報を避ける医療番組や病気の話題を避ける
診察や検査を避ける病気が見つかることが怖く、必要な受診もできなくなる

病気不安症というと受診を繰り返す状態が想像されやすいのですが、反対に、怖くて医療機関に近づけなくなる方もいます。

「気にしすぎ」と言われても解決しない理由

ご本人も「心配しすぎかもしれない」と感じていることがあります。それでも、不安を簡単に止められるわけではありません。

安心するために身体を確認したり検索したりすると、一時的には気持ちが落ち着きます。しかし、次に不安が生じたときにも同じ確認が必要になり、生活の中で確認に使う時間が増えていくことがあります。

治療では、不安を否定するのではなく、何が不安を生み、どのような対応がその不安を長引かせているかを一緒に整理していきます。

病気不安症の診断

診断では、病気への不安の内容や持続期間、確認・回避行動、生活への影響を確認します。

DSM-5系の診断基準では、主に以下の点が重視されます。

  • 重い病気にかかっている、またはかかるという考えにとらわれている。
  • 身体症状がないか、あっても比較的軽い。
  • 健康への不安が強く、身体の変化に容易に警戒してしまう。
  • 過剰な健康確認を行う、または受診などを不適切に避ける。
  • 病気へのとらわれが少なくとも6か月続いている。心配する病気の種類は途中で変わることもある。
  • 別の精神疾患によって、より適切に説明されない。

これは診断基準の要約であり、自己判断のためのチェックリストではありません。また、「6か月」という基準は、6か月間受診を待つという意味ではありません。苦痛や生活への支障があれば、期間が短くても相談して構いません。

「検査で異常がない」だけでは診断しない

検査で異常が見つからなかったことだけを理由に、病気不安症と判断することはありません。

まずは、症状の経過、既往歴、診察所見、これまでの検査結果などから、身体疾患について必要な評価を行います。そのうえで、病気への不安や確認行動自体が、どの程度の苦痛や支障を生んでいるかを検討します。

病気不安症と診断された後も、新しい症状や明らかな症状の変化があれば、その内容に応じた身体診察が必要です。身体の問題と不安の問題は、どちらか一方しか存在しないわけではありません。

ほかの疾患との違い

健康について強く心配する状態は、病気不安症以外でもみられます。

疾患・状態主に確認する特徴
病気不安症身体症状はないか軽く、重い病気にかかっている・かかるという不安が中心になる
身体症状症苦痛を伴う身体症状があり、その症状に関連する過剰な思考・不安・行動がみられる
全般性不安障害健康だけでなく、仕事、お金、家族など幅広い事柄への心配が続く
強迫症病気や感染についての望まない考えと、それを打ち消す確認・洗浄などが目立つことがある
パニック障害急激な動悸や息苦しさなどの発作と、その再発への恐れが中心になる
うつ病気分の落ち込みや興味の低下に、健康への悲観的な考えが伴うことがある

身体症状症は、「身体に病気がない」という意味ではありません。身体疾患と併存する場合もあります。

また、病気不安症と強迫症などは症状が重なることもあり、心配している病名だけで区別することはできません。症状全体の経過を踏まえて判断します。

病気不安症の治療

治療の目標は、病気の可能性を完全にゼロにすることではありません。

医学的に必要な健康管理を続けながら、不安や確認に占められる時間を減らし、日常生活を取り戻すことを目指します。

継続して相談できる医療者と方針を共有する

不安が強くなるたびに別々の医療機関を受診すると、検査や説明が重複し、かえって判断が難しくなることがあります。

可能であれば、継続して相談できる医療者と、これまでの検査結果や症状の経過を共有します。そのうえで、次のような点を相談します。

  • 現在、どのような身体評価が必要か。
  • どのような症状の変化があれば、予定を待たずに受診するか。
  • 症状が変わらない場合、いつ経過を確認するか。
  • 不安が強まったとき、検査以外にどのような対応を取るか。

検査を追加する場合にも、その目的や、結果によって治療方針が変わるかを確認することが大切です。

認知行動療法

認知行動療法(CBT)は、病気への強い不安に対して研究が進んでいる心理療法です。

「心配しないようにしましょう」と励ますだけではなく、身体の感覚の受け止め方と、不安に対して取る行動の両方に取り組みます。

例えば、身体の違和感があるときに、すぐに重い病気と結びつけていないかを検討します。同時に、繰り返す検索や身体確認が、一時的な安心と引き換えに、不安を長引かせていないかを振り返ります。

そのうえで、必要以上の確認を段階的に減らし、不確実さが残っていても予定していた活動を続ける練習などを行います。医師から指示された測定や必要な受診まで中止するものではなく、身体の安全を確認したうえで進めます。

研究紹介:身体科の患者さんにも効果があるのか

Tyrerらが2014年に発表したCHAMP試験では、身体科の外来を受診している、健康への不安が強い成人444人を対象に、病気不安に合わせた認知行動療法と通常診療が比較されました。

1年後には、認知行動療法を受けた群で健康不安の改善が大きく、健康不安が正常範囲になった割合は13.9%、通常診療群では7.3%でした。

この結果は、身体科の診療を受けている方でも、不安の維持に関わる考え方や行動への治療が役立つことを示しています。一方で、治療を受けた全員の不安がなくなったわけではありません。改善の程度には個人差があります。

研究紹介:インターネットを使った治療は有効か

Axelssonらが2020年に発表した研究では、健康への強い不安がある成人204人を対象に、12週間の対面の認知行動療法と、治療者の支援を伴うインターネット認知行動療法が比較されました。

主な評価では、インターネットを用いた治療が、あらかじめ設定した範囲で対面治療に劣らないことが示されました。

ただし、これは治療者が関わる体系的なプログラムの研究です。一般的な健康情報を検索したり、自己流で不安を解消しようとしたりすることと、同じではありません。

なお、これらの研究には、従来の「心気症」や、病気不安症・身体症状症を含む幅広い健康不安を対象としたものがあります。現在の病気不安症だけに限定した結果ではない点には、注意が必要です。

薬物療法

不安が強い場合や、うつ病・ほかの不安症などを伴う場合には、薬物療法を検討することがあります。

薬を選ぶ際には、病気への不安だけでなく、併存疾患、睡眠、これまでの治療歴、副作用への懸念なども確認します。

研究紹介:抗うつ薬の効果は分かっているのか

Fallonらが2017年に発表したランダム化比較試験では、従来の診断基準による心気症に対して、SSRIのフルオキセチン、認知行動療法、両者の併用、プラセボが比較されました。

この研究では、フルオキセチンの有効性を支持する結果が得られています。ただし、この結果から、すべてのSSRIが同じように有効であることや、すべての患者さんで併用療法が最善であることまでは言えません。

また、海外の研究で有効性が示されていることと、日本でその疾患に対して薬剤が承認されていることは別です。実際の処方では、国内の承認適応や併存疾患を踏まえた判断が必要です。

治療効果をどう評価するか

治療の経過を見る際には、不安の強さだけでなく、生活の変化も確認します。

例えば、「不安はまだあるが、検索に使う時間が減った」「身体を確認せずに仕事を続けられた」「避けていた外出ができた」といった変化も大切です。

不安を感じる日があることだけで、治療が失敗しているとは限りません。不安に振り回される程度が減っているかを、ご本人と医療者で確認していきます。

病気不安症のその他の補足事項

日常生活でできる工夫

まずは、身体確認や検索、安心を求める質問を、どのくらい繰り返しているか振り返ってみましょう。

一度にすべてやめようとするより、検索する時間を区切る、同じ部位を何度も確認する回数を少し減らすなど、取り組める範囲から始めます。また、不安のために避けていた趣味や人付き合いを、少しずつ再開することも役立ちます。

記録をつける場合は、身体の変化を細かく監視するためではなく、「何が不安のきっかけになり、どう対応したか」を振り返る目的で使います。記録自体が新たな確認行動になっている場合には、方法を見直します。

ご家族や周囲の方へ

「気にしすぎ」「またその話?」と言われると、本人は苦痛を理解してもらえないと感じることがあります。

一方、病気ではないことを毎回長時間説明し続けても、その安心が長続きしない場合があります。

「不安でつらいんだね」と気持ちを受け止めたうえで、受診や確認については、あらかじめ医療者と相談した方針に沿って対応するとよいでしょう。

確認を減らす取り組みも、突然突き放す形ではなく、ご本人と相談しながら進めることが大切です。

早めに相談していただきたい状態

以下のような場合には、精神科・心療内科への相談を検討してください。

  • 病気の心配で眠れない、仕事や家事に集中できない。
  • 検索や身体確認に多くの時間を使ってしまう。
  • 検査を受けても安心が続かず、受診を繰り返している。
  • 病気が見つかることが怖く、必要な受診を避けている。
  • 不安のために外出や運動、人付き合いが制限されている。

なお、急な強い胸痛、強い呼吸困難、突然の麻痺や意識障害などがある場合には、不安による症状と自己判断せず、救急受診が必要です。

病気への心配があること自体は、恥ずかしいことではありません。身体について必要な確認を行いながら、不安が生活を占めすぎている状態についても相談することができます。

参考文献・資料

  1. SAMHSA. DSM-IV to DSM-5 Illness Anxiety Disorder Comparison.
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK519704/table/ch3.t32/
  2. Tyrer P, et al. Clinical and cost-effectiveness of cognitive behaviour therapy for health anxiety in medical patients: a multicentre randomised controlled trial. Lancet. 2014;383:219–225.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24139977/
  3. Axelsson E, et al. Effect of Internet vs Face-to-Face Cognitive Behavior Therapy for Health Anxiety: A Randomized Noninferiority Clinical Trial. JAMA Psychiatry. 2020;77:915–924.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32401286/
  4. Fallon BA, et al. A Randomized Controlled Trial of Medication and Cognitive-Behavioral Therapy for Hypochondriasis. Am J Psychiatry. 2017;174:756–764.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28659038/
  5. NHS. Health anxiety.
    https://www.nhs.uk/mental-health/conditions/health-anxiety/

情報確認日:2026年10月17日

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)