レム睡眠行動障害


レム睡眠行動障害

札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。


レム睡眠行動障害の概要

寝ている間に大声を出す。何かと戦っているように手足を振り回す。夢の中で逃げようとして、実際にベッドから落ちてしまう。

このように、夢の内容に対応するような発声や動作が睡眠中に繰り返し現れる病気を、レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder:RBD)と呼びます。レム睡眠行動異常症とも呼ばれます。

通常、レム睡眠中は、夢を見ていても手足の筋肉の活動が抑えられているため、夢と同じ動作を実際に行うことはありません。RBDでは、この筋肉の活動を抑える仕組みが十分に働かなくなります。

「追いかけられて逃げる」「誰かに襲われて反撃する」といった夢に伴って、叫ぶ、殴る、蹴るなどの行動が出ることがあります。ただし、ご本人が夢や行動を覚えているとは限りません。

単に寝言があるだけで、RBDと診断されるわけではありません。 睡眠中の行動の特徴や検査結果を合わせて判断します。

レム睡眠行動障害の診断

ご本人だけでなく、ご家族からの情報も大切です

ご本人は眠っているため、隣で寝ている方から指摘されて初めて気づくことがあります。

診察では、次のような点を確認します。

確認すること具体的な内容
睡眠中の行動叫ぶ、手を振る、殴る、蹴る、起き上がるなど
起こる時間帯寝入り直後か、明け方に多いか
夢との関係行動に対応する夢を覚えているか
けがの有無転落、打撲、一緒に寝ている方へのけがなど
呼吸の状態大きないびき、無呼吸の指摘など
服薬と経過薬の開始・増量と症状の出現に関係があるか

安全に撮影できた動画があれば、診断の参考になります。ただし、撮影のために近づいたり、危険な行動をそのまま見守ったりする必要はありません。

確定診断には睡眠中の検査が必要

RBDの確定診断では、ビデオを併用した終夜睡眠ポリグラフ検査(ビデオPSG)が重要です。

脳波、眼球運動、筋肉の活動、呼吸などを記録し、レム睡眠中に本来みられる筋活動の抑制が失われていないかを調べます。国際的な診断・検査指針でも、この検査が重視されています。

問診や質問票で「RBDが疑わしい」と判断することはできますが、それだけで確定診断と同じ扱いにはできません。(国際RBD研究グループの検査指針)

似た症状を起こす病気との区別

睡眠中に大きく動く原因は、RBDだけではありません。

睡眠時無呼吸症候群に伴う覚醒時の動き、夢遊病などのノンレム睡眠からの覚醒障害、睡眠関連てんかんなどでも、似た症状がみられます。

また、抗うつ薬などが症状の出現や悪化に関係することもあります。薬を飲んでいる方では、服薬歴の確認も必要です。

レム睡眠行動障害の治療

まずは、寝室の安全を確保する

RBDで最初に取り組むべきことは、ご本人と一緒に寝ている方のけがを防ぐことです。

薬で症状が軽くなっても、危険な動作が完全になくなるとは限りません。米国睡眠医学会(AASM)のガイドラインでも、睡眠環境の安全対策が基本として示されています。

  • ベッドの周囲から、刃物、ガラス製品、重い物などを取り除く
  • 家具の角やヘッドボードなど、ぶつかりやすい場所を保護する
  • ベッドを低くし、周囲の床にマットなどを敷く
  • 激しい動作がある間は、別の寝床や別室で寝ることを検討する

「最近はけがをしていないから大丈夫」とは限りません。症状が時々しか起こらない場合も、環境を整えておくことが大切です。

クロナゼパム

クロナゼパム(商品名リボトリール、ランドセン)は、RBDで長く使用されてきた薬です。AASMの2023年ガイドラインでも、治療の選択肢として条件付きで推奨されています。

一方、眠気、ふらつき、認知機能への影響、睡眠時無呼吸の悪化などに注意が必要です。特に高齢の方では、夜間の転倒リスクも含めて判断します。

ここで、研究結果も紹介します。

Shinらは、パーキンソン病があり、RBDが疑われる患者40人を対象に、クロナゼパム0.5mgとプラセボを4週間比較しました。両群で改善傾向はみられましたが、主要評価項目では統計学的な有意差を認めませんでした。(Shin et al., 2019)

ただし、小規模・短期間の試験であり、睡眠検査で確定したRBDだけを対象にした研究でもありません。この結果だけで「クロナゼパムは効かない」と結論づけることもできません。

臨床で使われてきた経験は多いものの、質の高い比較試験による裏づけには限界がある、という理解が適切だと思われます。

なお、日本では添付文書上の承認効能と保険診療上の取扱いを分けて考える必要があります。クロナゼパムのRBDへの使用は、審査情報提供事例で原則として認める取扱いが示されています。単純に「適応外なので保険では使えない」という説明にはなりません。

メラトニン

AASMのガイドラインでは、即放性メラトニンも条件付きで推奨されています。ただし、製剤の違いを無視して、すべてのメラトニン製品に同じ効果があると考えることはできません。

日本で承認されているメラトニン製剤の効能は、小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善です。成人のRBDに対する承認とは異なります。また、メラトニン受容体作動薬のラメルテオンも、同じ薬として扱うことはできません。

関係する薬や併存疾患の見直し

抗うつ薬などとの関連が疑われる場合は、薬の必要性、変更による影響、症状の危険性を合わせて検討します。

ただし、自己判断で急に中止すると、離脱症状や、もとのうつ病・不安症の悪化につながることがあります。処方医と相談しながら調整します。

睡眠時無呼吸症候群などが併存している場合には、その治療も重要です。RBDの治療は、単に寝る前の薬を追加すればよい、というものではありません。

レム睡眠行動障害のその他の補足事項

パーキンソン病やレビー小体型認知症との関連

RBDには、パーキンソン病やレビー小体型認知症などとの関連が知られています。これらの病気が明らかになる前から、RBDが現れる場合があります。

Postumaらは、診断時点でパーキンソン病や認知症などがない、孤立性・特発性RBDの患者1,280人を追跡しました。その結果、明らかな神経変性疾患への移行率は年間約6.3%、12年時点の累積推定値は73.5%でした。(Postuma et al., 2019)

ただし、これは専門施設で診断された特定の患者集団の結果です。「寝言がある人の約7割が認知症になる」という意味ではありません。 また、12年という数字は、全員を12年間追跡して単純に割合を求めたものではなく、追跡データからの推定値です。

年齢や症状、原因となり得る薬などによって状況は異なり、この数字をそのまま個人の将来の確率として使うことはできません。

症状が治まっても、経過をみる意味がある

RBDの治療には、現在の異常行動とけがを減らす目的があります。一方、症状を抑える薬が、将来の神経変性疾患を予防することまで証明されているわけではありません。

そのため、症状が軽くなったあとも、必要に応じて運動機能や認知機能などの変化を確認していきます。将来のリスクについては、ご本人がどの程度知りたいかにも配慮しながら説明することが推奨されています。

受診を考えていただきたい症状

寝ている間に殴る・蹴る動作がある、ベッドから転落した、ご本人やご家族がけがをした、といった場合は、早めに医療機関へご相談ください。

受診時には、ご家族から聞いた様子、症状が始まった時期、服用している薬の一覧が参考になります。睡眠中の異常行動については、必要に応じて睡眠専門医療機関や脳神経内科での評価につなげます。

頭を強く打ったあとに意識がおかしい、出血が止まらないなどの場合は、睡眠障害の相談よりも、けがに対する救急受診を優先してください。

参考文献

  1. Howell M, et al. Management of REM sleep behavior disorder: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2023;19(4):759–768.
    https://doi.org/10.5664/jcsm.10424
  2. Howell M, et al. Management of REM sleep behavior disorder: an American Academy of Sleep Medicine systematic review, meta-analysis, and GRADE assessment. J Clin Sleep Med. 2023;19(4):769–810.
    https://doi.org/10.5664/jcsm.10426
  3. Video-polysomnography procedures for diagnosis of rapid eye movement sleep behavior disorder (RBD) and the identification of its prodromal stages: guidelines from the International RBD Study Group.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34694408/
  4. Shin C, et al. Clonazepam for probable REM sleep behavior disorder in Parkinson’s disease: A randomized placebo-controlled trial. J Neurol Sci. 2019;401:81–86.
    https://doi.org/10.1016/j.jns.2019.04.029
  5. Postuma RB, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. Brain. 2019;142(3):744–759.
    https://doi.org/10.1093/brain/awz030
  6. 医療情報基盤・診療報酬審査支払機構.審査情報提供事例「159 クロナゼパム(神経4)」.
    https://www.hpdx.or.jp/shinryohoshu/sinsa_jirei/teikyojirei/yakuzai/no100/jirei159.html

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)