強迫性障害


強迫性障害

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

「何度手を洗っても、汚れが落ちた気がしない」
「鍵を閉めたことは分かっているのに、何度も確認してしまう」
「考えたくないことが頭に浮かび、それを打ち消すために時間を使ってしまう」

こうした症状によって生活に支障が生じる病気が、強迫性障害です。現在は「強迫症」という名称も使われています。

単なる心配性や几帳面な性格として片付けられがちですが、本人にとっては、やめたくてもやめられない苦痛を伴います。治療には薬物療法と認知行動療法があり、症状の改善を目指すことができます。

強迫性障害の概要

強迫性障害の中心となる症状は「強迫観念」と「強迫行為」です。

強迫観念とは、自分の意思に反して繰り返し浮かんでくる、不安や不快感を伴う考え・イメージ・衝動のことです。

一方、強迫行為とは、その不安や不快感を和らげたり、恐れている出来事を防いだりするために、繰り返さずにはいられない行動や頭の中の行為をいいます。

代表的な例を挙げます。

症状の例強迫観念強迫行為
汚染への恐怖菌や汚れが付いているのではないか手洗い、入浴、洗濯、消毒を繰り返す
確認火事や盗難につながる見落としがあるのではないか火元や戸締まりを何度も確認する
加害への恐怖気付かないうちに誰かを傷つけたのではないか通った道に戻る、ニュースを調べる、人に確認する
対称性・不完全感配置や手順がしっくりこない物を並べ直す、納得するまで動作をやり直す
望まない思考不謹慎なことや恐ろしいことを考えてしまった頭の中で言葉を唱える、記憶を繰り返し確認する

強迫行為は、外から見える行動だけではありません。

頭の中で数を数える、過去の出来事を何度も検証する、嫌な考えを別の考えで打ち消す、といったことも強迫行為になり得ます。そのため、周囲からは症状が分かりにくい場合があります。

なぜ、確認すると余計にやめられなくなるのか?

例えば「鍵を閉め忘れたかもしれない」と不安になり、確認すると、一時的には安心できます。

しかし、その安心を得るために確認を繰り返していると、次に不安が出たときにも確認が必要になります。確認の回数や手順が増え、次第に生活が圧迫されていくことがあります。

治療では、この「不安が出る→強迫行為で安心する」という循環を変えていきます。

強迫性障害の診断

診断では、症状の内容に加えて、どれくらい時間を使っているか、どれくらい苦痛があるか、生活にどんな影響があるかを確認します。

例えば、確認や手洗いなどに1日1時間を超えて費やすことは、診断上の目安の一つです。ただし、1時間未満であっても、強い苦痛や生活上の支障があれば、治療が必要な場合があります。

また、うつ病に伴う反芻、全般的な心配、精神病性の症状などとの区別も必要です。診断や重症度の評価には、Y-BOCSという評価尺度が使われることがあります。

「おかしいと分かっていること」が必須なのか?

多くの方は「ここまで確認する必要はない」「洗い過ぎている」と感じています。しかし、その理解の程度には個人差があり、恐れていることが本当に起きると強く確信している場合もあります。

そのため、「本人が不合理だと分かっていないから、強迫性障害ではない」とは限りません。症状全体をみて判断します。

強迫性障害の治療

治療の中心は、SSRIなどによる薬物療法と、曝露反応妨害法を含む認知行動療法です。

国内の診療ガイドラインでも、これらの治療が提案されています。どの治療から始めるかは、重症度、本人の希望、副作用、治療を受けられる環境などを踏まえて相談します。

曝露反応妨害法とは?

曝露反応妨害法は、英語ではExposure and Response Preventionといい、ERPと略されます。

名前が少し難しいですが、基本は以下の二つです。

  • 不安や不快感が生じる状況に、段階的に向き合う。
  • その際、いつもの強迫行為をせずに過ごす練習をする。

例えば、必要以上に手洗いを繰り返してしまう場合、通常の日常生活で触れる物に触れた後、追加の手洗いをせずに過ごす、といった課題を設定します。

これは、危険な物に触れたり、必要な衛生管理をやめたりする治療ではありません。現実の危険と、強迫症による過剰な対処を区別したうえで進めます。

また、いきなり最も怖い課題に取り組む必要もありません。本人と治療者で相談し、取り組める難しさから始めます。

治療の目標は、「絶対に大丈夫」と確信できるまで考えることではありません。

多少の不確かさが残っていても、強迫行為に頼らず生活できるようになることを目指します。

薬物療法

薬物療法では、セロトニンの働きを調整するSSRIが主な選択肢です。国内で強迫性障害への保険適用があるSSRIとして、フルボキサミンとパロキセチンがあります。

SSRIは抗うつ薬に分類されますが、うつ病を合併していなくても、強迫症状に対して使用します。

強迫性障害では、効果の判断に時間がかかることがあります。数日から1~2週間で効かないと判断せず、用量や副作用を確認しながら、一般に8~12週間程度を見据えて評価します。

吐き気、睡眠の変化、性機能への影響などに加え、開始時や増量時には、落ち着かなさや不安の増加に注意します。強い焦燥感や自殺を考える気持ちが新たに出た場合は、早めに処方医へ連絡してください。自己判断での増量や急な中止は避けましょう。

治療に関する研究紹介

薬だけで十分に改善しない場合、ERPの追加は有効なのか?

Simpsonらが2013年に発表したランダム化比較試験では、セロトニン再取り込み阻害薬による治療を受けても症状が残っている成人100人について、追加治療を比較しています。

8週間の治療で、Y-BOCSが25%以上低下した人の割合は以下のとおりでした。

追加した治療対象人数治療反応が得られた割合
ERP40人80%
リスペリドン40人22.5%
プラセボ(偽薬)20人15%

この試験では、リスペリドンの追加よりも、ERPの追加で良好な結果が得られています。

ただし、これは専門施設で集中的なERPを行った研究であり、一般の外来で短時間の助言を受ける場合と同じ条件ではありません。また、80%は「治った人の割合」ではなく、研究で定めた改善基準を満たした人の割合です。

それでも、薬の効果が不十分なときに、薬の追加だけでなく、ERPを十分に受けられているかを検討する意義を示す研究といえます。

薬と心理療法は、必ず併用した方がよいのか?

Foaらが2005年に発表した試験では、成人の強迫性障害に対し、ERP、クロミプラミン、両者の併用、プラセボを比較しました。

12週間後には、いずれの実治療もプラセボより有効でした。また、ERPと併用療法はクロミプラミン単独より良好でしたが、ERP単独と併用療法の間には有意差が認められませんでした。

つまり、この研究は「必ず薬とERPを併用すれば、ERP単独よりよく効く」と示したものではありません。集中的なERPを行った研究であり、比較した薬もクロミプラミンであるため、すべての薬や診療環境にそのまま当てはめることもできません。

国内の診療ガイドラインでも、単独療法と比べて併用療法を一律に勧めるかどうかについては、推奨を示していません。これは併用を否定する意味ではなく、症状や治療への反応に応じて選ぶ必要がある、ということです。

増強療法について

十分な量・期間のSSRI治療でも改善が不十分な場合、別の薬を追加して効果を高める「増強療法」が検討されます。

国内のガイドラインでは、リスペリドンやアリピプラゾールの追加が提案されています。ただし、推奨は弱く、エビデンスの確実性も低いと評価されています。強迫性障害に対するこれらの薬の使用は、国内では適応外です。

薬を追加する前には、診断、服薬状況、SSRIの用量と治療期間、ERPの実施状況などを見直します。追加する場合も、副作用と改善の程度を評価し、効果が乏しいまま漫然と続けないことが大切です。

ご家族の対応について

強迫性障害では、ご家族が確認や儀式に巻き込まれることがあります。

例えば、「本当に鍵が閉まっている?」「汚れていない?」という質問に何度も答えることや、本人の代わりに洗浄・確認を行うことです。

その場では安心につながっても、長期的には強迫行為を支える形になることがあります。治療では、本人を責めずに、こうした関わりを少しずつ減らす方法を相談します。

ただし、突然すべてを拒否したり、強迫行為を力ずくで止めたりするのは避けてください。本人・家族・治療者で方針を共有し、段階的に進めることが大切です。

強迫性障害のその他の補足事項

怖い考えが浮かぶことと、それを望んでいることは別

強迫観念には、人を傷つけることや、性的・宗教的に受け入れがたい内容が含まれる場合があります。

考えが浮かんだというだけで、それを望んでいると判断することはできません。

診察では、望まない考えへの恐怖なのか、実際に行動したい気持ちや計画があるのかを区別します。話しにくい内容でも、診断や治療を考えるうえで大切な情報です。

薬はいつやめられるのか?

症状が改善しても、すぐに薬を中止するとは限りません。NICEのガイドラインでは、成人でSSRIが有効だった場合、再発予防とさらなる改善のため、少なくとも12か月の継続を勧めています。

その後は、症状の残り方、これまでの再発、生活状況などを踏まえて継続や減量を相談します。減らす場合も、急に中止せず段階的に行います。

受診を考える目安

確認や手洗いで遅刻する、外出できない、家族との関係に影響している、頭の中の確認で仕事に集中できない。こうした状態は、受診を考える目安になります。

強い落ち込みや「死にたい」という気持ちがある場合は、強迫症状だけでなく、安全面を含めた早めの評価が必要です。

「こんなことを相談してよいのだろうか」と感じる内容でも構いません。症状にどのように時間を奪われ、何に困っているかをお伝えください。

参考文献

  1. 日本不安症学会・日本神経精神薬理学会.強迫症の診療ガイドライン 第1.1版.2026年8月1日.
  2. Simpson HB, et al. Cognitive-Behavioral Therapy vs Risperidone for Augmenting Serotonin Reuptake Inhibitors in Obsessive-Compulsive Disorder: A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry. 2013;70(11):1190–1199.
  3. Foa EB, et al. Randomized, placebo-controlled trial of exposure and ritual prevention, clomipramine, and their combination in the treatment of obsessive-compulsive disorder. Am J Psychiatry. 2005;162(1):151–161.
  4. NICE. Obsessive-compulsive disorder and body dysmorphic disorder: treatment(CG31).
  5. National Institute of Mental Health. Obsessive-Compulsive Disorder: When Unwanted Thoughts or Repetitive Behaviors Take Over.

執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)