レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)


レストレスレッグス症候群

札幌市の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。

レストレスレッグス症候群の概要


安静時の特に夜間に、下肢の深部に耐えがたい異常感覚が起こるものを指します。
足を動かすと改善するために下肢の落ち着きのない運動が生じ、入眠が障害されます。

個々人で感じ方や表現が結構異なります。その名の通り「むずむずする」や「虫が這うような感じがする」や「火照ったような感じがする」や「かゆい感じがする」などです。

むずむず脚症候群やウィリス・エクボム病(エクボム症候群)とも称されます。

一般的に女性に多いとされています。男性の約2倍と推定されています。

年齢とともに発症率が高くなるとされており(アジア人を除く)、世界的には一般人口の5-10%がレストレスレッグス症候群の症状を経験しているとされています。(Comella,2002)

ときに脚ではなく腕にも生じえます。

後述しますが、ドパミン作動薬という薬が奏功することから、ドパミンという脳内の神経伝達物質の不足が原因として考えられています。

レストレスレッグス症候群は、軽く見られがちな疾患ですが、少なくとも他の一般的な慢性疾患と同じくらい深刻な生活の質に影響を与えます。

特に不眠症、不安、うつ病を引き起こし得ます。疫学的に心血管疾患との関連も示唆されています。(Earley et al., 2010)

レストレスレッグス症候群の診断


DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)では以下のように定義されています。

A.脚を動かしたいという強い欲求は、通常、落ち着かない不快な下肢の感覚を伴い、またはそれに反応しており、以下の特徴のすべてを有している。
①脚を動かしたいという強い欲求は、安静時または低活動時に始まるか、増悪する。
②脚を動かしたいという強い欲求は、運動することで、部分的または完全に改善する。
③脚を動かしたいという強い欲求は、日中より夕方または夜間に増悪するか、または夕方または夜間にしか生じない。

B.基準Aの症状は週3回以上生じ、その状態が3ヵ月以上続いている。

C.基準Aの症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、教育的、学業的、行動的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

D.基準Aの症状は、他の精神疾患または他の医学的疾患によるものではなく、行動的障害(姿勢による不快感や貧乏ゆすりなど)では説明できない。

E.その症状は、乱用薬物または医薬品の生理学的影響(例えばアカシジア)によるものではない。

「夕方や夜間に発生する足のむずむず感があり、他の疾患や行動もしくは薬物等の原因が除外されたもの」であれば概ねレストレスレッグス症候群と診断して差し支えないと考えています。

併存しやすい鉄欠乏や腎疾患の可能性も念頭におきます

レストレスレッグス症候群の治療


2023年現在において日本でレストレスレッグス症候群への適応が通っている薬としてガバペンチン エナカルビル(商品名レグナイト)があります

メンタルクリニックを訪れる方が有している疾患の中では治しやすいものの筆頭と言えるのではないかと思います(私個人の感想です)。

治療方針としては3つが挙げられます
①原因疾患の治療(鉄不足が頻度としては多く感じます。腎疾患もです。エビデンス多数)
②生活習慣の改善、例えばカフェイン摂取制限など
③薬物療法

軽症例であればベンゾジアゼピン系のクロナゼパム(商品名リボトリール、ランドセン)を投与すればほとんどが改善します
別にクロナゼパムでなくてもブロマゼパム(商品名レキソタン)等の他のものでも改善します。

※ちなみにベンゾジアゼピン系の薬剤は症状への直接的な効果ではなく、睡眠の質改善による効果を期待して投与されます。ドパミン系への作用は期待できません

※レストレスレッグス症候群に合併しやすい周期性四肢運動障害を減少させる働きがあります。

※ちなみに周期性四肢運動障害とは、睡眠中に起こる一種の運動障害です。この障害はふくらはぎや太ももなどの四肢が周期的に動くといった特徴を有します。
これらの動きはしばしば睡眠の質を低下させ、睡眠不足や日中の眠気、注意力不足などの症状を引き起こします。
原因はレストレスレッグス症候群と同様なのではないかと考えられています。
特定の治療法が存在しませんがレストレスレッグス症候群に準じた治療が行われます。

クロナゼパムの投与で改善しない場合、中等症から重症と考えドパミン受容体作動薬の投与を考慮します。
ドパミン受容体作動薬は70%以上のレストレスレッグス症候群の方に改善をもたらします。
原則として非麦角系であるプラミペキソール(商品名ビ・シフロール)、ロピニロール(商品名レキップ)から投与します。

プラミペキソールは腎排泄であるため、腎機能に不安がある場合はロピニロールを選択します。

※ブロモクリプチン(商品名パーロデル)、ペルゴリド(商品名ペルマックス)、カベルゴリン(商品名カバサール)といった麦角アルカロイド誘導体は心臓弁膜症、心肺後腹膜繊維症、胸膜肺繊維症といった重篤な副作用があることから、非麦角アルカロイド誘導体のドパミン受容体作動薬をまずは使用するべきと考えられています。(葛原,2007)

※ドパミン受容体作動薬が使われる以前はレボドパが用いられていたそうです。夜間における症状発現や夕方の内服前の症状の増悪といった副作用がネックとなっていたようです。(Comella,2002)

※ドパミン受容体作動薬の副作用にはオーグメンテーション(症状の増悪)というものが知られています。一時的に症状が軽快するが、その後増悪するといった厄介な副作用です。
プラミペキソールよりロピニロールの方が起きづらい可能性が示唆されていますがエビデンスは弱いです。
また起きた際はトラマドールといったオピオイド系を追加することで改善を目指します。

近年の研究では「α2δリガンド(カルシウムチャネルの一種であるα2δ サブユニットに作用する薬剤)であるガバペンチン(商品名ガバペン)やエナカルビル(商品名レグナイト)を第一選択とすべき」という指摘があります。(Gonzalez-Latapi &Malkani, 2019)
冒頭で述べた通り、日本での保険適応が通っています。前述のオーグメンテーションの兼ね合いから、クロナゼパム投与で問題のない軽症以外は今後はレグナイトが使われる場面が増えてくると思われます。
※腎排泄なので腎機能が低下している場合は要注意です

<レストレスレッグス症候群その他の補足事項>
誘発因子としてカフェインが知られています。夕方以降のお茶、コーヒー、エナジードリンク等の摂取を控えると効果的です。

カフェイン以外にもアルコールやニコチンなども原因として知られています。これらは交感神経を亢進させ、筋骨格に生じる異常感覚を増悪させるとされています。

鉄はドパミン合成に促進的に働きます。
逆に鉄欠乏だとそれが起こりにくいので、体内の鉄貯蔵量を反映する血中フェリチン値を検査します。
50ng/mlであれば低フェリチンです。若年女性ですと血中フェリチン値50ng/ml以下の方はその辺にゴロゴロいらっしゃいます

ヨーロッパや北アメリカでは加齢と共に頻度は上昇しますが、アジア人には当てはまらないようです。(Ohayon et al.,2011)

遺伝的要因や環境要因、併存疾患が原因で発症する複雑な状態であり、特に鉄欠乏症や腎臓病などの他の疾患と併存しやすいことが知られています。(Manconi et al., 2011)(Trenkwalder et al., 2016)

参考


DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き
原著 American Psychiatric Association
日本語版用語監修 日本精神神経学会
監訳 高橋 三郎/大野 裕
訳 染矢 俊幸/神庭 重信/尾崎 紀夫/三村 將/村井 俊哉
184p

井上雄一:睡眠障害の対応と治療ガイドライン. 第2版. 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会,編. じほう, 2012, p223-7.

レストレスレッグズ(むずむず脚)症候群
http://www.doyaku.or.jp/guidance/data/H21-9.pdf

Restless legs syndrome Treatment with dopaminergic agents
https://n.neurology.org/content/58/suppl_1/S87.short

葛原茂樹:ドパミンアゴニスト使用上の注意.臨床神経 47 :
687-688, 2007

Epidemiology of restless legs syndrome: A synthesis of the literature
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1087079211000578

Restless legs syndrome
https://www.nature.com/articles/s41572-021-00311-z

Restless legs syndrome
https://www.bmj.com/content/344/bmj.e3056.full

Restless legs syndrome: Understanding its consequences and the need for better treatment
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S138994571000290X

Restless legs syndrome associated with major diseases
A systematic review and new concept
https://n.neurology.org/content/86/14/1336.short

Update on Restless Legs Syndrome: from Mechanisms to Treatment
https://link.springer.com/article/10.1007/s11910-019-0965-4