月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)

札幌市西区の精神科・心療内科、ことのはメンタルクリニックです。
「生理が近づくと、普段なら気にならないことでイライラする」
「毎月、生理前だけ気分が落ち込み、人と会うのもつらくなる」
「生理が始まると落ち着くのに、その前の数日間で仕事や人間関係に支障が出る」
こうした症状が繰り返される場合、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)が関係している可能性があります。
毎月のことだからといって、我慢し続ける必要はありません。症状が出る時期や生活への影響を確認し、その方に合った治療を考えていきます。
月経前症候群・月経前不快気分障害とは
月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)は、月経前に心身の不調が現れ、月経が始まると軽くなったり、消えたりする状態です。
代表的な症状には、次のようなものがあります。
| 精神面の症状 | 身体面の症状 |
|---|---|
| イライラする、怒りっぽくなる | 乳房の張り・痛み |
| 気分が落ち込む、涙もろくなる | お腹の張り、むくみ |
| 不安や緊張が強くなる | 頭痛、筋肉痛・関節痛 |
| 集中しにくい、意欲が出ない | 疲れやすさ、だるさ |
| 食欲や睡眠の変化 | 体重の一時的な増加 |
一方、月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder:PMDD)は、気分の落ち込み、怒り、不安、感情の大きな変動などが目立ち、生活に明らかな支障が生じる病気です。
PMSの中でも精神症状が重い状態として説明されることが多いのですが、正式な診断には、症状の数や出現時期などの条件があります。イライラが強いというだけでPMDDと決まるわけではありません。
原因は「女性ホルモンが多すぎる・少なすぎる」こと?
PMDDでは、女性ホルモンの量そのものの異常というより、正常なホルモン変動に対する反応の違いが重要と考えられています。
米国国立精神衛生研究所などの研究では、PMDDのある方から得た細胞で、女性ホルモンへの反応に関わる仕組みの違いが報告されています。ただし、これは病態を理解するための研究で、一般診療でそのまま診断に使える検査ではありません。
「ホルモン検査が正常だったから、月経前のつらさは気のせい」ということにはならないのです。
診断では「いつ悪くなり、いつ楽になるか」を確認
診断で大切なのは、症状の種類に加えて、月経周期との関係です。
PMDDでは、月経前に症状が現れ、月経開始後に軽くなり、その後には症状がほとんどない時期があることを確認します。正式な診断では、複数の精神・身体症状、生活上の支障、ほかの病気や薬剤による影響の有無も評価します。
ここで区別したいのが、月経前増悪(premenstrual exacerbation:PME)です。
例えば、うつ病や不安症の症状が月経周期を通して存在し、月経前にさらに悪くなる場合があります。月経前に悪化する点は似ていても、PMDDとは治療の組み立て方が異なります。
「生理前につらいから、ほぼPMDD」と決めつけず、生理後の調子も含めて確認することが大切です。
症状日誌が役立つ
記憶を振り返るだけでは、つらかった時期の印象に左右されることがあります。
そこで、月経日と症状を毎日記録し、原則として少なくとも2周期にわたって確認します。DRSPという症状評価表が使われますが、まずは簡単な日誌でも構いません。
記録する項目は、イライラ、落ち込み、不安、睡眠、身体症状、仕事や人間関係への影響などです。症状のない日も記録すると、周期との関係が分かりやすくなります。
ただし、記録がそろうまで受診や治療を待つ必要はありません。 症状が強ければ、評価と並行して対応します。
月経前症候群・月経前不快気分障害の治療
治療は、症状の強さ、精神症状と身体症状のどちらが中心か、月経痛の有無、妊娠の希望などによって選びます。
薬物療法だけでなく、認知行動療法、運動、生活面の調整などを組み合わせることもあります。米国産科婦人科学会の2023年のガイドラインも、複数の方法を組み合わせた治療を重視しています。
1.SSRI:精神症状に対する中心的な治療
月経前の強いイライラ、落ち込み、不安などに対して、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、有効性を支持する研究が充実した薬です。
2024年のコクランレビューでは、34件のランダム化比較試験、計4,563人のデータを検討し、SSRIはプラセボと比較してPMS・PMDDの症状を軽減すると結論づけています。
一方で、吐き気、眠気、だるさなどの副作用は増えます。「効果がある薬」であることと、「誰にでも負担なく使える薬」であることは別です。
SSRIは抗うつ薬の一種ですが、PMDDに用いる際には、うつ病とは異なる投与方法を選べる場合があります。
| 投与方法 | 飲み方 |
|---|---|
| 連続投与 | 月経周期を通して毎日服用する |
| 黄体期投与 | 月経前の一定期間に毎日服用する |
| 症状出現時からの投与 | 症状が始まった日から月経開始後の一定時期まで毎日服用する |
2024年のレビューでは、連続投与の方が効果が大きい可能性が示されています。ただし、これは主に異なる試験間の比較による結果で、すべての方に連続投与が優れると断定するものではありません。
また、「症状が出てから飲む方法」にも研究があります。
Yonkersらの2015年の研究では、PMDDのある252人を対象に、症状出現時からセルトラリンまたはプラセボを服用する方法を比較しました。治療反応率はセルトラリン群67.0%、プラセボ群52.4%で、怒り・イライラなどの改善が認められました。
ただし、主要評価項目では通常の統計学的有意差に達しておらず、すべての評価で明確な有効性が示されたわけではありません。
この研究は短期間の連日投与を検討したもので、つらい瞬間に1錠だけ飲む、という意味の頓服とは区別が必要です。
服用開始後に強い焦燥感や落ち着かなさ、衝動性の高まりが出た場合には、早めの相談が必要です。特に若年者では、自傷・自殺関連の変化にも注意します。
なお、SNRIにも有効性の報告はありますが、SSRIと同じだけの研究が蓄積されているわけではありません。「SSRIでもSNRIでも同等」とは考えず、根拠や副作用を踏まえて選びます。
2.低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬:婦人科で相談する治療
いわゆる低用量ピルに関連するホルモン療法も、重要な選択肢です。
特に、ドロスピレノンとエチニルエストラジオールの配合薬には、PMDDを中心に有効性を検討した研究があります。
2023年のコクランレビューでは、5件の試験、計858人を検討し、症状全般と生活への支障を改善する可能性が示されました。ただし、エビデンスの確実性には限界があり、副作用による中止も増えていました。長期的な効果や、ほかの配合薬より優れるかどうかは、十分には分かっていません。
したがって、「ピルは効かない」とも、「PMSならまず全員ピル」とも言えません。月経痛などの併存症状や本人の希望を含め、婦人科で適応を判断します。
また、製剤や服用方法が違えば、研究結果をそのまま当てはめられるとは限りません。
エストロゲンを含む配合薬では血栓症への注意が必要です。服用中に突然の息切れ・胸痛、片脚の痛みや腫れなどが出た場合は、直ちに服用を中止し、救急受診してください。
3.認知行動療法と生活面の調整
認知行動療法では、症状が強い時期の考え方や行動、ストレスへの対処を整理し、生活への影響を減らしていきます。
例えば、体調が悪い時期に予定を詰め込みすぎない、人間関係で衝突しそうな場面でいったん距離を置く、休息を取りやすい方法を考える、といった工夫も含まれます。
これは「考え方が悪いから症状が出る」という意味ではありません。症状に振り回される場面を減らすための治療です。
運動や睡眠の調整も取り入れられます。ただし、生活習慣を整えても症状が強い場合には、薬物療法などを追加してよいのです。生活改善だけで乗り切る必要はありません。
4.漢方薬・鎮痛薬・抗不安薬など
漢方薬は、身体症状や体質を考慮して用いることがあります。痛みには鎮痛薬などの対症療法を組み合わせます。
ただし、漢方薬にはSSRIほど十分な比較試験があるわけではなく、複数の処方を組み合わせれば必ずよくなるとも言えません。生薬の重複や、甘草による低カリウム血症・むくみ・血圧上昇などにも注意が必要です。
抗不安薬についても、PMS・PMDDの基本治療として漫然と使うことは避けます。とくにベンゾジアゼピン系薬剤では、眠気や依存のリスクを考える必要があります。
5.サプリメントは効くのか?
サプリメントについては、研究があることと、十分に有効性が確立していることを分けて考える必要があります。
例えば、「ある栄養素を多く摂っている人はPMSが少なかった」という観察研究だけでは、そのサプリメントを飲めば症状が改善するとは断定できません。
特にビタミンB6は、高用量を気軽に勧めにくい成分です。サプリメントによる末梢神経障害が報告されており、1日50mg未満でも生じる可能性があります。複数の商品を併用すると、気づかないうちに摂取量が増えることもあります。
「ビタミンだから多く飲んでも安全」とは限りません。 手足のしびれや感覚の異常が出た場合は、使用を中止し、受診してください。
6.通常の治療で改善しない場合
効果が乏しい場合には、薬を追加する前に、診断や服用方法、ほかの病気の併存を見直します。
難治例では、婦人科の専門診療でGnRHアナログによる排卵抑制などを検討することがあります。低エストロゲン状態による副作用や骨への影響があるため、専門的な管理が必要な治療です。一律に「使うべきではない」とするものではありません。
精神科と婦人科、どちらに相談すればよいか?
落ち込み、不安、怒り、自分を責める気持ちなどが中心であれば、精神科・心療内科で相談できます。
月経痛、月経不順、不正出血などがある場合や、ホルモン療法を希望する場合は、婦人科への相談が適しています。両方の診療科が連携した方がよい場合もあります。
PMS・PMDDをどちらか一方の診療科だけで扱う病気と考えず、困っている症状に合わせて相談先を選んでください。
なお、日本では、PMS・PMDDに有効性が示されている治療でも、その病名に対して保険適用が認められていないものがあります。治療の根拠と国内の承認・保険適用は別の問題であり、使用前に確認と説明が必要です。
早めに相談してほしい症状
毎月、仕事や学校を休む、対人関係のトラブルを繰り返す、気分の落ち込みが強い、といった場合は受診を勧めます。
特に、「消えてしまいたい」「自分を傷つけたい」と感じる場合は、月経が始まるまで待たずに相談してください。
自分を傷つけそう、すでに大量に薬を飲んだなど、安全を保てない状況では、一人にならず、119や救急医療につながってください。
月経に伴って繰り返す症状でも、その時の危険を軽く考えないことが大切です。
参考文献・資料
- 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会『月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針』
- ACOG. Management of Premenstrual Disorders: Clinical Practice Guideline No. 7. Obstet Gynecol. 2023;142:1516–1533.
- Jespersen C, et al. Selective serotonin reuptake inhibitors for premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder. Cochrane Database Syst Rev. 2024;8:CD001396.
- Yonkers KA, et al. Symptom-Onset Dosing of Sertraline for the Treatment of Premenstrual Dysphoric Disorder: A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry. 2015;72:1037–1044.
- Ma S, Song SJ. Oral contraceptives containing drospirenone for premenstrual syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2023;6:CD006586.
- Dubey N, et al. The ESC/E(Z) complex, an effector of response to ovarian steroids, manifests an intrinsic difference in cells from women with premenstrual dysphoric disorder. Mol Psychiatry. 2017;22:1172–1184.
- Therapeutic Goods Administration. Health supplements containing vitamin B6 can cause peripheral neuropathy.
情報確認日:2026年10月17日
執筆及び医学監修:高橋 和政(ことのはメンタルクリニック院長)